幕間

手紙 02

まきさんへ


 こんにちは。

 当時の連絡先を全部処分してしまったので、手紙を書いています。

 こんな話されたくないと思うけど、合唱部の中であのことを知っているのは、もうまきさんだけだと思うので。とにかくこんな話一人で抱えておけなくて、誰かに話したくて話したくて仕方ないんです。

 突然だけど、あさみさんのこと覚えてますよね。忘れたりしてないですよね。

 だってあの人特別でしたよね。特別いい人でした。いつもにこにこしていて、だれかが困ってたら絶対に手を差し伸べるし、それにすごく頭がよかった。

 覚えてます? あさみさん、ふつうわからないようなことまで言い当てたの。はーこが彼氏と別れたとか、上河先生の娘が妊娠したとか、木田ちゃんの親が離婚しそうだとか。後で聞いたらちゃんと根拠があるんですけど、なんかシャーロック・ホームズみたいじゃなかったですか? 喋り方がふわふわしてるから、探偵っていうか、むしろ予言者みたいだった気が私はしてたし、それは合ってたみたいなんですけど、とにかくあんな人、ほかにいなかったですよね。

 そんな人がなんで自殺なんかしたのか、結局はっきりとはわからないままでしたよね。遺書とかもなかったはず。でも「あさみさんがいい人すぎたからじゃないかな」って、みんな言ってましたよね。

 私もそう思います。あさみさん、いい人すぎて、生きてるのがしんどくなっちゃったんじゃないかなぁって。色々あっただろうけど、結局はそれじゃないかなって。

 だって生きてたら辛いことってたくさんあるし、それに、あさみさんはとにかく親切だったから。だから悩んでたり、何か問題を抱えてる子は、みんなあさみさんのとこに相談にいってたじゃないですか。そういう人生って、ふつうの人よりしんどいことが多い気がして。そういう世界でやっていくのが、急にいやになっちゃったのかなって。いやなことを頼まれるって、あさみさんも言ってたし。

 でもあさみさん、死んだ後も学校に来てたし、結局そういうのからあんまり解放されてない気がしましたよね。

 まきさん、やっぱり私たちが悪かったんですかね。ていうか、悪かったですよね。私もあの後親戚が亡くなったりして、あのときはなんてことをしてしまったんだろうって、後から気づきました。実感したんです。あんなことをして、あさみさんの遺族が知ったらどんなふうに思うか、それを想像したらわたし、怖くなりました。いくら十代の分別がきかない年頃だったからって、言い訳が許されると思いますか? 思えないですよね。だからああいうことになったんだと思います。

 とにかく墓穴ほったのは自分たちだって、私そう思うんです。はーこも木田ちゃんも死んじゃって、まきさんのところにもあれは来ますか? 来ますよね。

 まきさんだって、あさみさんにいろんなこと頼んでましたもんね。

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