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ニコニコしながら「前進した」なんて言うシロさんが、あまりにしたり顔をしているように見えたものだから、
「もしかしてシロさん、わかってて私に電話させたんですか?」
なんて、つい前のめりに聞いてしまった。
「いや、さすがに買いかぶりですよ」
シロさんはあっさりと否定した。「でも、神谷さんがお知り合いの方と連絡とってないっていうから、それはちょっと変だなと思いました。神谷さん、そういうことは早めに片付けたいタイプっぽいのになーと思って」
「そうですか?」
「ボクはそう思いますねぇ」
まぁ、当たっているとは思う。特に鷹島さんみたいな相手は、連絡するのを面倒がって後々にしてしまうと、もっと面倒くさくなってしまう。
「だから神谷さんに何かイレギュラーが起こって、その――鷹島さんか。その人に関する記憶が穴あきになっちゃってるのかなと思って」
シロさんはそう言ってから、「まぁそんなものにとり憑かれた時点で十分イレギュラーですけどね」と続けた。こちらを向いたまま小首を傾げるので、彼の閉じられたままの両目が、私の背後に何かを見ているような気がしてきてしまう。
急に背中が寒くなってきた。私は一体、何を背負ってしまったのだろう?
「これ、なんとか早めに外れないでしょうか……」
「いや~、どうかなぁ。あさみさん曰く、それって神谷さんが死んだら外れるんでしょ? 無理に引っぺがしたら神谷さん、最悪な事態になるかもしれませんよ」
「うわ」
最悪という言葉が、頭の中でぐるぐる駆け巡った。
「……じゃあ、シロさん的によむのはアウトってことですか?」
「どうしようかなぁ。なるべくやりたくないんですよねぇ」
シロさんも手をつけかねている様子だ。
加賀美さんもダメ、シロさんもダメということになったら、私はどうしたらいいのだろう? 他に霊能者の心当たりなんてないし(そもそも二人も心当たりがある時点で、結構多い方だと思う)、仮にあったとしても、その人が「そんなもの」を祓えるかどうかはまた別の話だ。
「めちゃくちゃ強い人が力技で引っ剥がしたらどうにかならんかなぁ。それか二年前のときみたいに、名前がわかったらいいかもしれないですけど」
シロさんが言った。
「そうなんですか? その――あのときみたいなものじゃなくても?」
「よみごのやり方で作られたものじゃなくても、名前というのは大事なもんです。知られると弱体化するっていうのはよくある話で」
じゃあ、私に憑いているものの名前を探せばいいのか? それって――
「もしかして『鷹島美冬』だったりします?」
試しにそう尋ねてみた。すると、
「もしかして鷹島美冬だったりします?」
シロさんが、急にそう繰り返した。その声はやけにくっきりと聞こえた。まるで急に目の前に刃物を突き出されたような気がして、私はぎょっとして立ちすくんだ。そのときどこか近くから、べき、という感じの音がした。
「ぐっ」
シロさんが唸った。ぎゅっと顔をしかめて、それから首を横に振った。
「違うみたいです」
「違うんですか?」
「そう簡単にはいかないみたいですねぇ。まずったなぁ、今の怒られるのか。どうしたもんかなぁ」
シロさんがため息をつく。私は駅舎に響くような悲鳴をあげてしまった。シロさんの左手の小指の爪が剥がれて、かろうじて指先からぶら下がっていた。
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