07
帰宅した私を、コウメはくるくる回って歓迎してくれた。毛並を撫でると、ひさしぶりに生きているものの体温に触れたような気がした。無条件に信用できる存在は助かる。
照明をつけっぱなしのリビングに戻って、ソファにぐったりと腰を下ろした。キッチンとの間にドアはなく、さっきまでえりかと囲んでいたダイニングテーブルが見える。
ついさっきまでえりかは普通の友人だったのに。ほんの数時間前にふたりで楽しく過ごしていたことが、急に悲しい思い出みたいに思えてきた。学生時代の思い出も、昨日コロッケをいっぱい買ってきてくれたのも、私の愚痴をきいてくれたのも、私が眠ってしまった後に一人でテーブルの上を片付けてくれたのも、本当にあったことのはずなのに、あさみさんの一件が何もかも塗りつぶしてしまったようだった。
(実咲は親が二人ともちゃんとしてて、普通に常識があるからわからないかもしれないけどね)
今思えば、そう口に出したえりかの顔が歪んでいたような気がするのだ。気のせいだろうか。それとも記憶違いなのか。私はえりかに愚痴をこぼすより、彼女の愚痴を聞いてあげるべきだったんじゃないか――なんて、色々考えてもらちが明かない。
とにかく、この一晩を無事に過ごさなければ。
無事に帰宅できたのはいいけれど、すべてが解決したわけじゃない。私はなんだかわからないものにとり憑かれたままのようだし、それは私が死ぬまで離れない。加賀美さんやシロさんならこいつを消し去ってくれるかもしれないけれど、今は二人ともここにいない。
もしもまたあの夢を見たら、開けないように耐えるしかない。できるだろうか? そもそも相手は部屋のドアを開けてきたというのに、どうやって対抗すればいいのだろう。また夢の中で追いつめられたとして、今度は都合よく目を覚ませるかわからない。
それに、あさみさんの言葉を信じるとしたら(私にはそれが「えりかの母親の言葉」だとは思えなかった)、私に憑いているものは、私が死んだ後、別の誰かにとり憑くという。それもわたしが「もっと一緒にいたい」と思うような、親しい人を巻き込んでしまうらしい。今夜この家に両親がいないことを、私は喜んだ方がいいようだ。万が一ここで命を落とすことがあったら、家族を巻き込んでしまう可能性がある。
「コウメは……どうなんだろうねぇ」
犬は対象外だといいな――そんなことを考えながら、ふたたびすり寄ってきた毛並みを撫でた。
(ていうか私、そんなものを誰からもらったんだろう? 何かあったとすれば、あの記憶がない時間帯しか考えられないんだけど)
そこに何かしらの手がかりがないだろうか――と考えてはみたが、何も思い出せそうにない。とにかく寝ないようにしなければと決め、何かしら音を流すべく、タブレットの電源を入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます