13

「……なんかすごい依存してくる子だったんだよ~」

 えりかが「近況をいくら愚痴ってもよいぞ」などと言うので、とりあえず会社を辞めた下りから始めることにした。

「わかるわかる。実咲ってそういう子に懐かれそう」

 なんて無責任な相槌をたたきながら、えりかはビールのプルトップを開けた。さっきコロッケと一緒に(さすがに別の袋に入っていたけれど)買ってきて、うちの冷蔵庫で冷やしておいたやつだ。私の前にも一缶置いて、「まぁまぁ、よければどうぞ」なんて言うものだから、もらうことにした。とっくに食事を終えたコウメはダイニングテーブルの足元に寝そべり、平和な顔をして眠っている。

「大体さ、入って半年の私がなんで新入社員の教育係みたいなことをやらされたのかって、そこからおかしいと思うんだけど」

 実際、爆弾ゲームの爆弾みたいだ、とずっと思っていた。誰だって自分のところで爆発させたくない。だからきっと鷹島さんは、一番立場が弱い、下っ端の私のところに回ってきたのだ。

「最初は素直でかわいい子だなと思ってたんだけどね。仕事の説明なんか一所懸命聞いててくれるし、ランチとか誘うと嬉しそうについてきてくれるし」

「うんうん」

「でもひと月くらい経つと、なんかこの人やばいかもって覚えてきて……」

 まず、一向に仕事を覚える気配がない。教えた手順は一時的に覚えているようだが、ちょっと時間を置くと「神谷せんぱぁい、これってどうするんでしたっけぇ」と間延びした声で訊いてくる。「テメェさっき教えたばっかりだろ」などと怒鳴りたくなるのを我慢して、繰り返し仕事内容を説明したものだ。正直、短気な私にしては頑張ったと思う。

 鷹島さんの質問のせいで自分の仕事が何度も中断され、私は勤務時間内に担当業務を終わらせることができなくなった。鷹島さんとふたりぼっちで残業する羽目になったこともある。とてもストレスフルだったので、あまり思い出したくない。

「――そしたら同じ部署の先輩がさ、鷹島さんはわざと仕事が覚えられないフリしてるんだよって、こっそり教えてくれたわけ。神谷さんに話しかける口実がほしくて、何度も同じこと聞いてくるんだと思うよって」

「うわ、迷惑だね」

「そうだよ~、おかげでこっちの仕事、ぜんぜん進まないんだもん。で、そのときその先輩が、何かあったら手伝うから言ってねって言ってくれたんだけど、そしたら鷹島さん、急にその先輩からパワハラ受けたって言いだしてさ」

「うわ〜、それ本当?」

「いやいや、真っ赤な嘘。だって二人がしゃべってるとこすら見たことないのに……まぁ、さすがに皆が『それは嘘でしょ』って思ったんだよね、それで先輩が処分受けるとかはなかったんだけど、それ以降先輩も他のひとも、あんまりこっちに関わってくれなくなったわけ。気持ちはわかるけどさ、私ひとりでこのモンスターをどうしろと?」

「うんうん」

 ――などということがあって仕事は遅れ、いらいらしている間にも鷹島さんがしょっちゅう声をかけてくる。で、とうとう私の堪忍袋の緒がぶつんと切れてしまったというわけ……退職に至る経緯は、大体そんなところだ。

 それに加えて鷹島さん自身、ちょっと変わったところ――というか、正直気味が悪いと思うようなところがあった。そういうところに真面目にとりあってしまったことも、私にべったりになる一因だったのかもしれない。

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