02
「ちゃんとしとるかなぁ……ていうか神谷さん、電話で色々仰ってましたけど……」
と言いながら、シロさんはうっかりナメクジでも踏んづけたような顔をした。「えーと、なんでしたっけ。この二年間に二回仕事を辞めるはめになって、親しい親戚が病気になって、婚約寸前だった彼氏とも別れて、面倒くさい人とモメて〜とかでしたっけ? それはボクに相談されてもなぁ」
「いやそう、それはそうですけども」
その辺は依頼じゃなくて、つい色々愚痴ってしまった辺りだ。ひさしぶりにシロさんの声を聞いたら妙に緊張してしまって、「最近どうです?」と聞かれたのをきっかけに、ついベラベラと喋ってしまった――しかしまぁ、こうやって他人の口から改めて聞くと、色々あったものだと思う。私自身ずいぶんウンザリしている。特に「面倒くさい人とのモメごと」に関しては、本当に、本当に参った。いや、それはともかく。
「本題はそれじゃないじゃですか」
シロさんはさっきの表情のまま、首を傾げて「うーん」と唸る。
「神谷さんの、元職場の方に頼まれたことがあったんですよね? 辞めたにも関わらず……でもなぁ」
「だめですか?」
「いや、手がかりがなくて……前みたいに持ち物とか持ってきてくださればよかったんですが」
「すみません、ですよね……」
なんだかシロさんは、魔法みたいにその辺りをクリアしてしまうような気もしていたけれど、やっぱり手がかりは必要なのだった。以前私が、甥の遺品を持ち込んだときのように。
「でも、その人の持ち物とか預かってないんですよね。とにかくすごく困ってるとしか……」
「でしたら、そのお知り合いの方と今、電話とかつながります?」
「あ、それなら……」
そう言いながら、私はスマートフォンを取り出し、目当ての相手にかけてみる。でも、応答はない。応答がないことに、少しホッとしてしまう。正直嫌いな相手なのだ。
「出ないですね……」
「じゃあちょっとなぁ。残念ですが改めていただいて……」
「そうなっちゃいますかぁ」
「そうなっちゃいますねぇ」
まぁ、シロさんが困るだろうというのはわかる。ここで食い下がっても無駄か……立ち上がりかけたとき、
「それか、試しによんでみます?」
とシロさんが言った。
「といっても神谷さんを、ですけど。知人の方とコンタクトをとった時点で一応薄~い手がかりではありますし、それで神谷さんに何か影響が出てないかわかりますし、あとほら、『一応見てもらったよ』っていう言い訳ができるでしょ」
「まぁ……そうですね」
「お金はその、知人の方に請求したらいいじゃないですか。どうせ請求書とかは、そっちに回すはずだったんでしょ?」
「まぁ、はい」
正直、彼女と極力コンタクトはとりたくないのだが……とはいえ、「何かしてもらった」という事実は必要かもしれない。それで彼女の気が済むのなら、それでいい。
じゃあ、と返事をして、シロさんは巻物を広げ始めた。
やっぱりこれも前と同じだ。何も書かれていない真っ白な紙が、するするとテーブルの上に伸びていく。
少し緊張する。何か大事なことが告げられるんじゃないか――そういうことをつい考えてしまう。
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