02
「そうは言っても神谷さん、電話で色々仰ってましたけど……」
と言いながら、シロさんはうっかりナメクジでも踏んづけたような顔をした。「えーと、なんでしたっけ。この二年間に二回仕事を辞めるはめになって、婚約寸前だった彼氏とも別れて、あとお友達とも仲たがいして~、とかでしたっけ?」
「そうです」
私はうなずいた。
こうやって他人の口から改めて聞くと、色々あったものだと思う。不自然なほど色々ありすぎて、私自身ずいぶんウンザリしている。特に職場の方は参った――
シロさんはさっきの表情のまま、首を傾げて「うーん」と唸る。
「これ単にボクの感想なんですけど、たぶんそれ別になにか憑いてるとかじゃなくて、神谷さんが元々人間関係でモメやすいだけ……」
「えっ、いやいやいや!」
私は思わず立ち上がりかけた。
「確かに私、後先を考えるのが苦手で、トラブルを起こしやすいか起こしにくいかで言ったら、やっぱり起こしやすい方だとは思うんですけど……」
「自覚あるんじゃないですか!」
「でもここ二年は異常なんですよ!」
「たまたまでしょ、たまたま」と、シロさんはつれない。「ていうか神谷さんねぇ、厄払いだったら、神社とかに行かれた方がよくないですか?」
「効かなかったらイヤじゃないですか。少なくともシロさんは本物でしょ?」
「神社を信じましょうよ……ボクが何とかできるようなものは、今の神谷さんにはついてないと思うんですがねぇ」
まだよんでもいないのに、シロさんはそんなことを言う。
私は急に気持ちがしぼんでいくのを感じる。思いつくままに電話してやって来たけど、シロさんがそう言うなら、もしかしたらそうなのかもしれない。こんなにも短期間に、色々なよくないことが起きたのは、何か悪いものが憑いているせいじゃなくて、単に私の性格の問題なのかもしれない――厭だな。何かしら人智を超えたもののせいだと言われる方が、まだマシだ。
「まぁ、オバケみたいなもののせいで人間がおかしくなるところ、見ちゃいましたからねぇ。神谷さんは……」
シロさんがそう呟いた。まるで私の心を読んで、ちょっとだけフォローを入れてくれたみたいだった。
「シロさん、本当にいませんか? 貧乏神みたいなのとか」
「おらんて……」
私が「そんなイヤそうな顔しないでください」と言う前に、思わずという感じで黒木さんが、
「志朗さん、さっきから顔に出てます」
と口を挟んだ。
「ほんまに? ……すみません」と、シロさんは黒木さんに対しては素直だ。「まぁその、とりあえず神谷さんはお客さんでいらしてますから、ボクも一応ちゃんとよみますけども……よんだらお金かかりますよ? いいんですか?」
そう言いながら、シロさんはテーブルの上に例の巻物を取り出した。これも二年前と同じだ。
少しだけ迷って、私は「お願いします」と答えた。何かあるにせよないにせよ、じゃあいいです、なんて言って帰ってしまったら、何をしにわざわざここまで来たのか、わからなくなってしまう。
「……神谷さん、今無職ですよね?」
「無職ですけど! 貯金はあるので!」
はぁ、じゃあ。という煮えきらない返事をして、シロさんは巻物を広げ始めた。
やっぱりこれも前と同じだ。何も書かれていない真っ白な紙が、するするとテーブルの上に伸びていく。
少し緊張する。何か大事なことが告げられるんじゃないか――そういうことをつい考えてしまう。
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