第0012話
少女の言葉に、悠樹は感動した。一方で、萌花は相当に驚いた。
「令狐さんは一人っ子ですか?」
「はい、そうです」
「じゃあ、今は一人で住んで、一人でお店を開いているんですか?」
萌花の質問に、悠樹も「あっ」と言って気付いた。
「はい、そうなんです」
「そんなのダメだよっ! こんなに小さい子が一人で住んで一人でお店を開くなんて! すごく危険だよ!」
萌花はテーブルをパッと叩いて立ち上がり、少女を再び驚かせた。
この部屋は木造で、窓は木板で開閉するもの、ドアの鍵は木製の栓。この部屋は薬品の調合や食事をする場所のようだ。家のドアはすこしマシかもしれないが、少女が話していた世界観から察するに、安全性はそれほど高くないだろう。
そのため、萌花は非常に心配している。日本でも中学生が一人で住むことは稀にあるが、ここでは治安状況が違うので。
「え? で…ですが……こ…今年で私も成人しまして……」
萌花の心配に対し、少女はそう答えた。この答えに、萌花と悠樹は非常に聳動した。
「ええっ!?」「なっ……」
「……? あっ、すみません。お二人の世界とは違うかもしれませんが、この世界では基本的に15歳で成人ですよ」
「ああ――」
二人はなるほどと思って納得した。萌花が合法なんとかを言い出すところだった。
「まあ……おれたちの世界では国によって成人年齢は違うけど、おれたちの国は18歳です」
「そうなのですね。私が知っているところはみんな15歳です」
「こ…この世界で15歳が成人でも、詩織ちゃんはまだ大人じゃないから、一人で住むのは危険だよ!」
悠樹も萌花と同じ意見だ。成人したのなら、自分のことと自分が決めた事に責任を持たなければならないとはいえ、彼女はまだ15歳で、体力も精神もまだ十分に成長していない。一人で店を管理し、一人で生活するのは実に安心できないのだ。
そして、今日会ったばかりの人にこんなにも心配され、説教される少女はすこし困った様子だった。
「そんなことなら、詩織ちゃんの手伝いをさせて。重要なのは詩織ちゃんを一人にさせないこと。危ないから! どれくらい詩織ちゃんの家にお世話になるか分からないけど、その間は店のこととか、生活のこととか手伝わせて!」
萌花は笑顔で真剣に言った。
「そ…そんなことしなくても……」
「それにおれたちはタダ飯食いの居候になるわけにはいかないですからね」
「そうだそうだ!」
二人の様子を見て、今日会ったばかりであっても、少女は彼らの意図を理解し、微笑んで肯定の言葉を口にした。
「分かりました! ではよろしくお願いします」
「うん! よろしくね!」「よろしくお願いします」
三人は顔を見合わせて笑った。
「これが父さんの言ってたことだね」
「うん、きっとそう!」
こうして、二人は基本的な生活と一時的な拠点を確保し、ここで帰る方法を探す活動を始めることができた。
ぐぅぅうううう~
悠樹が次のステップを考え始めた時、隣から変な音が聞こえた。萌花のお腹だった。
「うわあ――! うわあぁ――! わあああぁぁ――――っ!」
萌花は顔を赤くして叫び、両腕を振り回して悠樹と少女の視線を遮ろうとする。
「違うよ! 違うからー!」
悠樹と少女はまた顔を見合わせて笑った。
「あれぇ~ここに来る前にコロッケを食べてたなのにぃ~」
悠樹はさっき萌花が自分をからかった時と同じようにし返した。
「もー悠樹のバカーっ! お腹空いてないのにどうしてぇ……」
「ははははは!」
「ふふふっ」
「詩織ちゃんまで……うぅ……悠樹のバカぁ……」
少女は棚の上のゼンマイ式時計を見た。
「その……まだ少し早いですが、もしよければ、今から食事に行きませんか」
時計は10時31分を示していた。悠樹はスマホを取り出し、スマホの時間は12時43分。ここは日本と少し時差があるようで、この時間にお腹が空くのも無理はない。
「そうですね、じゃあ先に食事に行きましょう。食べ終わったら次に何をするかを考えます」
「……う……私、はらぺこキャラじゃないよぉ……」
三人が席を立ち、出かける準備をしていた時、少女が提案する。
「あ、そうでした。あの、もしよければ、まずお着替えしませんか? お二人の服装は少し目立つかもしれません……もしお嫌でなければ、母と父の服をお貸します」
実は悠樹もそのことに気付いていたが、自分からは言い出せなかった。
悠樹は白いTシャツに黒い長ズボン、カジュアルシューズを履いていた。萌花はピンク地に白いフリルのトップス、ライトブラウンのチェック柄スカート、いわゆる<量産型女の子>の典型的な服装だった。
これらの服は日本の街中ではよく見かけるが、この世界では非常に目立つ。対照的に、少女の服装は二人とは全く違っていた。
「よく考えてくれましたね。じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」
「これは私がすべきことです」
そして三人は階段を上がり、二階の少女の両親の部屋に入ってクローゼットを開けた。少女の両親はスカーベンジャーで、クローゼットには革製の防具などが入っていた。
少女は最初、きれいな服を勧めたが、悠樹と萌花が汚したり傷めたりしたらよくないからと思い、あまり柄などのない素朴な服にした。それはアニメやゲームの中で見れば村人だと分かる服で、その慣れていない肌触りは、彼らにとってすこし新鮮だった。
「はっ!」
「!?」
着替えを終えて、三人が2階から1階へ下りているところ。悠樹が急に大声を出して、少女と萌花はビックリした。
「今気づいたんだけど、おれたちがここに来てから、令狐さんはずっとおれたちに付き合ってくれてたんですよね……その……お店の営業を邪魔してしまって、すみません……」
「そうだった! 詩織ちゃん、ごめんね!」
「あ、いえ、そんなことありません。今日は休みなんです」
「おお、それなら良かったです」
少女の言葉に、二人は安心した。
礼儀正しし、親切だし、異世界に来て最初に出会った人が彼女で本当に良かったね!
と、悠樹と萌花は互いに目を合わせ、こころの中でそう思った。
そして、三人は食堂へ向かった。
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