第0008話


 「は…はい。どうぞ」


 「魔法の定義はなんですか?」


 少女が最初にここは彼女の家の”魔法薬のアトリエ”だと言っていた。悠樹はここにあるガラスの瓶や化学実験器具はそれっぽく見えてはいるけど、それはせいぜい”アトリエ”の部分で、肝心なの”魔法”の部分だと思っている。


 「えと……魔法の定義てすか?」


 少女令狐詩織はすこし頭を傾げ、そして萌花を嬉しくてたまらなくさせる世界観を語った。


 「『魔法』は『魔法使い』が体内の『魔力』を、『詠唱』などの『自己暗示』の方法で、『魔法回路』を通じて大気や大地、森、川などの自然物に存在する『魔素』と共鳴させ起こす現象です」


 萌花がパッと立ち上がり、「出たー! 出たー!! 悠樹! 出たよぉーっ!!!」と叫びながら悠樹の肩を掴んで激しく揺らす。


 「……ウソダロウ……」と、揺らされる悠樹はすこし脱力気味になった。


 「!?」


 少女は萌花にビックリさせられたが、悠樹はそんな彼女に構う余裕もなく続けて言う。


 「まだだ! 厨二病少女の可能性もある! ほら見た目はちょうどそれくらいの歳だろう……」


 「もうぉ~諦めて現実を受け入れようよ悠樹!」


 少女は全く理解できていない顔をして、両手で白い棒を握り、ビックリさせられて丸くなった目で彼らを見ていた。


 「……あの……令狐さんは……魔法を使えますか?」


 悠樹はもし少女が”使えない”と言うのなら、まだ決まっていないと考えていた。


 だけど少女はすぐ答えた。


 「はい、使えます」


 「わおおおー!! 見せて見せて!」「……ウソダロウ……」


 「は…はい……」


 少女は新しいガラスのコップを持ってきて、右手の人差し指をコップの上に置き、そして唱える:



 いと慈悲深き水の女神アクア様 どうか我に命の源を ——「水生成」



 言葉と共に、彼女の指先に青く光る小さい魔法陣が現れた。その魔法陣の中から水流が出て空気を帯びてガラスのコップの中へ落ち、じょぼじょぼと音を立たせる。気泡を交えた水はすぐさまコップを満たした。


 本物だった。


 少女は魔法で1杯の水を注いだ。


 悠樹と萌花は、魔法の存在するこの世界に、この異世界に飛ばされた。


 そしてこの少女は厨二病でもコスプレーヤーでもなく、本物の『魔法使い』だった。ならば彼女が手に握っている水晶玉が嵌め込まれた白い棒も道具ではなく、本物の魔法の杖である。


 悠樹がより深く顔を覆った。


 「ギャアーーー!! 悠樹ぃ!!!」


 萌花は狂喜し、悠樹を揺らす力はさらに強くなった。


 「えっと……お二人は魔法を見たのははじめてですか」


 「そうそうっ! 実際に見たのはじめて!!」


 「……ええ、なにせおれたち、この世界の人間じゃないですからね……」


 「……エっ?」


 少女はこの男女の話を理解できないようだ。


 悠樹が1回深呼吸する。


 「萌花」


 彼は特に萌花になにかを要求したわけではないが、萌花はなにをすればいいのかは分かる。彼女は大人しくなり、話が進める。


 そして悠樹は真剣な顔で少女に言う:


 「おれたちがここに現れた原因は教えてもいいのですが、おれたちの許可を得ていない状態で、決して他の人におれたちのことを言及しないことを約束してもらえますか?」


 「…………分かりました」


 彼につられて少女も真剣な顔になり、頷いてその条件を承諾した。


 たとえこの承諾はただの口約束でなんの保障にもならないとしても、今重要なのは情報収集のため、悠樹はそれしかできない。


 萌花が椅子に戻り、悠樹と一緒に自分たちがこの世界に飛ばされた大まかな経緯を少女に話した。あと自分たちの名前も苗字が前にあることも。


 少女は最初半信半疑だったが、二人がスマホのカメラ機能や音楽再生機能などの現代地球技術で証拠づけて、少女はやっと彼らの話を信じた。


 その後、彼らも少女の説明からこの世界の大概を知る。


 この世界の文明レベルはファンタジー作品の王道の中世紀くらいで、電気やガスなどの科学技術は発見されていない。それに取って代わるのは『魔素』と呼ばれた物質と何種類の『魔法』。


 魔素は『四大属性』に別れている:『地属性』、『水属性』、『風属性』、『火属性』。


 各属性にはそれを象徴する色がある。地属性が褐色、水属性が青、風属性が緑、火属性が赤。


 1本の『魔法回路』は1つの属性。魔法が発動する時に現れる『魔法陣』はその属性に応じた色で光る。


 色以外にも各自の特性がある。その属性に応じた物質を生成し操る、またはその属性に関連する効果を発動する:地属性は土や鉱石などを、水属性は水気や治癒などを、風属性は気体や気流などを、火属性は燃焼や灼熱などを。


 人間の中で魔法回路を有するのは女性のみで、約5人に1人である。故に魔法使いは『魔女』とも呼ばれていて、社会的地位も比較的に高い。


 基本、1名の魔法使いには魔法回路が1本しかなく、左右の腕の中のどちらかに存在する。両腕とも魔法回路が存在する『双回路魔法使い』は極めて希少で貴重な存在。


 魔法以外に、この世界には『猛獣』と呼ばれる獰猛な野獣がいて、極一部だが魔法をも使える種もいる。猛獣は農地を荒らし他の動物を捕食する。その捕食される動物の中には人間も含まれていた。


 野外は猛獣の領分で、世界のあらゆる土地で人類と猛獣の生存競争が行われている。猛獣は数と種類が多い。その中に人類に馴らされて、生産力や戦力になる種もいる。


 市民を守るために、国や都市の中には猛獣に対抗する『スカーベンジャーギルド』という専門の組織が設けられており、そこに属する人は『スカーベンジャー』と呼ばれる。


 スカーベンジャーギルドは傭兵制度で、旅の護衛から大規模の猛獣殲滅行動まで金銭で動かす。都市と都市の間は定期的に掃蕩大隊を送り出し、道中の掃蕩を行う。


 悠樹と萌花はただ椅子に座り、少女からこのファンタジーな世界のことを聞かされていた。


 「そんな……本当に異世界に召喚されたなんて……」


 「夕べの話題が現実になったね!」


 「……そうだね……本当に来てしまったね。でも萌花、おれたちはゲームやアニメの中の主人公じゃないんだよ? こんなことになって本当によかったの?」


 「え?」


 「おれたちはただの、普通の高校生だ」


 「ふ…普通の高校生こそが最強じゃない……? ほ…ほら! 異世界召喚ってタダで最強のチート能力とかもらえるでしょ?」


 萌花は目を泳がせ自信なさげに返した。


 「……」


 しかし悠樹もすぐには萌花の話を否定しなかった。理性的な彼はそれはありえないとは思っているが、16歳の高校生オタクとして、<普通の高校生が召喚されたり転生したりすると規格外の能力を得る>という展開が自分たちの身にも起こることを期待する彼もいる。


 もし本当にあるなら?


 と、いうのが今の二人がこの異世界に対する最大の期待だから、検証しようかと思った。


 「……令狐さん、この世界で魔法の才能を測定する方法はありますか?」


 「あります。初潮後の女性は皆魔法回路の鑑定をします。初潮が来たら魔法回路が繋がるので、手を魔法回路の反応水晶に置けば、腕に回路が存在するかどうかが分かります。もし存在するのなら属性も分かります」


 「しょ……うぅん……」


 「おおー~」


 他の女の子の口からデリケートな単語を聞いた悠樹が恥ずかしがるが、萌花はファンタジーなことを聞いてテンションが上がった。そして少女が提案する。


 「あの、うちにも反応水晶がありますが、お二人、もしよかったら鑑定しますか?」


 「するっ!!」


 萌花はまたパッと椅子から跳び上がり、目を輝かせた。悠樹も頷いて同意する。


 元の世界に帰る方法を見つけるのが一番の重要事項のはずだが、こころが魔法への期待と好奇にいっぱいにされて、もう鑑定の後にするしかないと思う二人だった。



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