第9話 決着

ーーー


一方、敵方の騎兵隊を率いていたのは伯爵の下へ軍使としてやってきたロッテ卿だった。


彼は騎士団長から、陽が落ちてから大きく迂回軌道をして

敵の後方から騎兵突撃を掛けろ、と命じられていた。


この川では騎兵は使いづらかろうという判断だったが

実際それは正しかった。


伯爵軍は川の南岸に到達こそすれ、陽が沈んだ今でも橋頭保を確保できていない。

その膠着状態を突き崩すのに、騎兵突撃は持って来いだ。



「第一波は敵の後衛を突破し、伯爵軍の背後に回り込んだようです。

我々も敵の陣地を突破して、渡河行動中の敵後方を攻撃しましょう」

と幕僚の一人はロッテに進言した。

それを彼も了承し

「第一波と間隔をあけてはならない。第二波はすぐに集結し、後衛部隊を蹴散らせ」

と力強く命令した。


間もなく、突撃を合図するラッパの音色が響く。

教会の騎士と馬たちは、今か今かと待ちわびていた命令を聞き、我先にと走り出した。


「先陣は私が行きます」

と幕僚の一人が馬に合図してロッテ卿の傍から

進んだ。


「おい、勝手に持ち場を離れるな」

と他の騎士がなだめるがロッテは気分が良かったので

「良い。マリーも作戦ばかり立てていても武功が上がらんだろう。

先陣の指揮を執れ」

とその若い騎士の事を先鋒に任じた。


彼女はそれに感謝しつつ、旗手を連れて

早速第二陣の先頭へと目を輝かせながら走った。


「さぁ、続け勇士たちよ。まつろわぬ罰当たりな

田舎貴族どもを蹴散らしてやれ」


若い騎士は第二陣の騎兵200名の前に躍り出ると

部下に旗を振らせながら演説風に訓示した。


これに騎士たちは大変活気づき、彼女の軍旗の下に集った。


「前進せよ!」

彼女は腕を掲げてラッパ手に命じる。

それを受けて楽器を持つ近習が全体へ前進命令の低音を鳴らした。


間もなく、第二派200騎は敵の残存部隊が集結する丘を目視した。


「敵の残兵です。奴らを撃破すれば、敵主力の後方を強襲できます!」

と旗手が指をさす。


指揮官であるマリーはそれを見て、戦果を挙げるチャンスだと思い顔をほころばせた。


「よし!全軍襲歩よ!!総突撃!!」

と彼女は大声で命じる。


騎士団は馬に鞭打ち、最大速度まで一気に加速する。

そして敵の顔が見えるほどの距離になってランスを水平に持ち替えて、いよいよ敵に突入する・・・!というその瞬間に

騎士たちは突然勢いを失った。


先頭を走った数十騎が突如減速し、転倒・落馬し始めた。

指揮官のマリーはこれに狼狽えて

「一体何事!!?こ、これは!!」

と半狂乱で叫んだが、勢いづいた騎兵集団は止められずそのまま前方の混乱へ飲み込まれた。


混乱の原因は陣地の外郭に掘られた空堀だった。

これに、先陣を争った騎士たちは次々にはまり転倒していったのだ。第一波の時は敵がまばらで、騎士団は空堀や鉄鎖などを避けることができたが、第二波は敵が一か所に集まっていたのでいやおうなく、敵の懐に飛び込まざるを得なかったのだ。


もっとも、これは彼らの油断が招いた結果でもあった。


ーーー


俺は陣地で槍を握りながら、どさどさと穴に落ちて行く敵の騎士を眺めて居た。この穴は、工兵が掘っていたあの巨大な堀だった。


先鋒の30騎ほどは暗闇に視界を奪われていたため、回避する術なくそのまま穴に転落・落馬してしまった。

そしてその後続も、減速しようとしたものの後方からなだれ込んでくる味方に押される形で穴へ押し出されてしまった。


「槍兵前へ!!穴に落ち、落馬した騎士を突き刺せ!!」

教官が剣を掲げて我々に命じる。


俺はその号令を聞き、もう無我夢中に穴へ向かって槍の穂先を何度も何度も突き刺した。


「ぎゃあああ!!」

「痛い!!」

「ああああぁ」


穂先に手ごたえがあったかと思うと、次の瞬間暗闇から悲痛な叫び声が聞こえた。


こちらから穴の中は未だ良く見えない。人の背丈ほどもあるこの

大穴は人馬と武具によって埋め立てられつつあったというのに。


「来るぞ!!後続組は剣とメイスに持ち替えろ!」

とクリストフが俺の背後で叫んだ。

彼は穴から這い上がってくる敵に対して対応するために後続の兵士30名と共に敵の頭を叩いたり、石で殴りつけたりした。


俺は自分が持っている槍が折れてしまったので、腰の直剣に手を掛けた。剣の柄を握る手は震えている。

しかし、この闇がその恐怖を少しは和らげてくれた。


戦場は混乱を極めていた。

穴にはまった騎兵は三分の一ほどであったが、

そこには旗手と指揮官、ラッパ手が含まれていたため

騎士団は一気に指揮系統を失ってしまった。


彼らは何とか這い上がろうとしたが、後ろから倒れて来た味方に押しつぶされて圧死したり、熱湯をかけられてりして完全に穴へ封じ込められた。


もはや第二波は壊滅した。

「がんばれ、あと一息だ。もうすぐ増援がやってくる!」


「マリー様はどこだ?!指揮官が居ないぞ!!」


「腕がぁあ!!」


俺は教官に率いられて、敗残兵狩りに出た。

阿鼻叫喚の怒号や悲鳴を聞きながら、俺はひたすらに彼女の背を追った。


「逃がすな!雑兵は良い。だが、騎士は一人でも多く仕留めろ。もうすぐ増援がやってくる」

と教官は後に続く兵士に訓示した。


「増援?敵の第三波よりも早くですか?」

と兵士の一人が質問すると

教官は無言で川の方を指さした。


俺は彼女の指さした方を向いた。

川の方角、つまりは南側から数十騎ではあったが友軍の騎兵が現れた。


彼らは軽騎兵で、逃げる騎士団の行く手を塞ぐように展開した。


俺はその増援に胸をなでおろし

「彼らは、どこの騎士ですか?」

と声を弾ませた。


「伯爵の直轄騎士だそうだ。本来なら、伯爵の身辺を守っているのだがこちらの様子を聞きつけて救援に駆けつけてきたのだろう。何にせよ好機だ」

と教官は小走りのまま言う。


兵士たちはそれを聞いて少し華やいだようだった。

このまま、敵の騎士になぶり殺しにされる必要はなさそうだと安心したのもあったし、なにより騎士という心強い味方が

現れたことが嬉しかった。


俺もそんな仲間の気分に少し感化されて緊張を緩めた。

がその瞬間、教官が凄まじい音量で「散開しろ!!」

と叫んだ。


俺は声を聞いてすぐに右へ体を転げた。

刹那、ドドド!という馬の足音と共にトラックのごとき大きな塊が俺たちの列を通り抜けていった。


「今のは敗残の騎士だ!!ここで仕留めるぞ!!」

と教官は振り返りながら宣言する。


相手の騎士は我々の姿を認めると、踵を返して再び突撃してきた。

騎士の得物はグレイブだ。リーチでは向こうが有利だ。

だがしかし、俺たちは8人もいる。数では圧倒している。


まもなく、騎士が加速してわれわれに襲い掛かる。

教官が投げナイフで敵をけん制し、そのうちの一本が相手の肩に刺さったが全く速度は緩まない。


俺はそれを見て”まずい”と直感し、攻撃をあきらめて回避した。

騎士はそのまま我々のところまで来るとぶん、と得物を2度振り回して突っ立っていた兵士二人を斬り殺した。


俺は怯えて見ていたが、教官はそれに一歩も引かずあえて相手の目の前に躍り出た。


騎士が馬の頭をそちらへ向ける。

がしかし教官は何もしようとはしない。


間もなく、騎士は速度を上げ先ほどと同じようにグレイブで薙ぎ払おうとした。

教官はそのすれ違いざまに、鎖でつながれた鉄製の爪の様なものを取り出しすと、カウボーイのように振り回して馬上の騎士に引っかけた。


グレイブの攻撃は教官に当たらず、騎士と彼女はそのまますれ違った。

そして、馬がそのまま走ると鎖が急に弦を張った糸のごとく伸びて騎士を後ろへと落馬させた。

その鎖の先はあらかじめ地面に重りと共に打ち付けていたのだ。


「掛かれ!!敵の騎士の首を取れ!」

と教官が合図する。

それを聞いた他の兵士たちは仇と言わんばかりに

倒れた騎士に向かって、剣やメイスを突き立てた。


俺は唖然としてその様子を遠くから見ているしかなかった。


教官が息を切らしながら俺の傍まで寄る。

「はぁ・・・今回は、鞍と鎧を固定していないタイプの騎士で助かった・・・がしかし、本来であればほとんど勝ち目はない」

と彼女は遠い目をしながら言う。


「しかし、現に勝てたじゃないですか!教官、流石です!」

と俺は尊敬の眼差しで言ったが


「もう何度もしたくはない。これも運さ」

と教官はどこか達観した様子で告げた。


その数分後、増援の騎士の一人が我々を見つけて駆け寄って来た。

最初は敵かと身構えたが、騎士が手を振り速度を落としたので味方だと判った。


騎士はそのまま馬をゆっくりと減速させ、教官の脇に停止した。

「メンアットアームズの教官殿ですね?急報を受けて、助太刀に参りました」

騎士は馬上から我々を見下ろしながらそう言った。

声はやや甲高く、透き通った女性の物だった。


「助かった。君は誰だ?」

と教官が聞く。


それに騎士はバシネットの兜の面を上げて、

「伯爵様の従騎士である、エレオノーラでございます」

と名乗った。


聞き覚えのある声だと思ったらなんだ、エレオノーラか。

俺はやつれた顔で彼女の方を見た。


「ハヤト。あんた、戦果は挙げられたでしょうね?」

と彼女は俺の方を向いて挑発的に言った。


それどころか、エレオノーラの眼はこれ以上ないほどに

ぎらついて、凶器の様な鋭さを孕んでいた。


俺はその目を見て少し背筋が凍った。



「騎兵隊は、このまま敵を左翼から押し出してくれ!逃げる敵をこちらへ追い込んでくれれば、罠で仕留める」

と教官はエレオノーラへと要請する。


彼女はそれに頷くと兜の面を下ろし、馬と共に駆けだす。


それを見送ると、教官は残った兵士に鉄鎖と杭を配った。

「これを、その小道に張り巡らせろ」

と彼女は草原の中にある獣道を指さして言った。


俺らはそれを言われるがまま、草で隠しながら敷設して

道の両脇に伏せて待った。


まもなく遠くで、戦闘の音が聞こえた。

恐らく、エレオノーラたちの騎兵が敵の敗兵を追い立てているのだろう。


間もなく、数騎の騎士が遠くから駆けて来た。

その後ろには、追撃をおこなう友軍の騎兵も居る。


こちらへ逃げてくる騎兵は、どうやら指揮官とその従者のようだ。

三騎のうち、最後尾を進む騎兵は大きな軍旗を掲げていた。


「あれは旗手だ。きっと指揮官も一緒に居る。絶対に逃がすな」

と教官は伏せの状態で兵士たちに耳打ちした。


間もなく敵の騎士たちが獣道へ差し掛かる。

その瞬間に我々伏兵は一気に両脇から立ち上がり、大声で威嚇した。


これに驚いた馬が進路を小道の方へと向けた。

そして、それによって騎兵は鎖に引っかかり、人馬ともに空中で一回転した。


敵の騎兵の三人のうち、一人は落馬した時に馬の下敷きになって死んだ。

残りの二人は吹き飛ばされるだけで済んだ。

その二人はどうやら位の高い騎士の様で、豪華な鎧とマントまで羽織っていた。


旗を持っていた方はすぐさま立ち上がり、軍旗を振り回して戦った。

しかし負傷が激しく、また落馬の衝撃で鎧の一部が変形して体に突き刺さっておりひどく出血していた。


結局彼はそのまま教官に一発殴られただけで動かなくなってしまった。


俺はもう一人の騎士を仕留めるべく、直剣を抜刀し斬りかかった。

幸い相手は、落下の衝撃で兜を失っている。

俺は蹲っている相手の背後から近づき、首を斬り落とすべく近づいた。


だが、俺は刃を突き立てようと相手と向き合ったときに思わず立ち止まった。

そこに居たのは、容顔まことに美麗な女騎士で俺と歳のそう変わらない、それどころか年下の17ぐらいの少女だった。


俺は思わず、振り上げた剣を頭上で止めてしまった。


「お、おい!少女兵だぞ!?どうする!?」

と俺は動揺し叫んだ。


しかし、相手は教会の騎士。

若いとはいえ十分な訓練経験を積んでいた彼女はすぐさま袖の下に隠していたナイフを取り出すと俺の喉めがけて突きを放った。


俺は何もできず、ナイフを見た時には腰が抜けてしまった。


死ぬ。一瞬の判断ミスで、死ぬ。

俺は何と馬鹿なんだ。


グシャッと肉がえぐれる音がした。俺は思わず目を瞑り、手で顔を覆った。


しかし、殺されたのは俺ではない。


首を裂かれたのは少女騎士の方であった。

彼女は俺に向かってナイフを突き立てようとしたが、一歩速く背後に迫っていたエレオノーラの剣によって首を撥ねられた。


結び止めを失って、ほどけた長い髪が噴き出した血潮と共に平原へ転がる。


頭を失った女騎士の体はだらりと四肢を投げ出し、そのまま夜の平原の草木の間に沈んだ。


俺は腰を抜かしてしまって、撥ねられた彼女の首を無意識に眺めていた。


「なんで躊躇したの!?死ぬ気だったの!?」

俺が気を取り戻したのは、エレオノーラに頬を叩かれた時だった。


「でも、相手は俺らよりも年下の・・・・それにこんな少女だぞ・・!?」


「はぁ・・・?」

「あんた、まだ舐めてんの?いい、これは戦争なのよ!!分からないなら教えてあげる・・!こいつはあんたの喉にナイフを突き立てようとしてたのよ!?」


「だからって・・・!」


「あんたはいつまで”転生者”のつもりでいるのよ!!?あんたは、今!ここで私たちと同じように生きてるのよ!!いい加減、覚悟を決めなさいよ!!」


エレオノーラは目を真っ赤にして俺の事をもう一発叩いた。


俺はその声と様子に圧倒されて何も言い返せなかった。


「俺は・・・人を簡単に殺せるほど、まだこの世界に慣れちゃいない!」


「あたしだって・・・」

「あたしだって、好きで殺してるんじゃない!!!」


エレオノーラは再び叫ぶと俺を突き倒し、馬に跨って逃げるように去って行った。


俺はまたしりもちをついて、頭を抱えた。


それらのやり取りの一部始終を見ていた教官は

「お前の言いたいことも分かるが、彼女の事も慮ってやれ。あの娘も癒えぬ事情があるんだろうさ」

と言いながら俺の肩を抱き起してくれた。


「教官・・・・俺は、どうやったら」


「その先は、聞くな。まずは生き残る事に集中しろ。今をあきらめた奴は必ず死ぬ」


教官は吐き捨てるように言うと、再び厳しい顔に戻って

敗残兵狩りを終わりにすると宣言して陣地へ戻るように命令した。



死んだあの女騎士の、髪の毛から微かなピンクの香水が草のにおいに混じって俺の鼻を突いた。

そしてそれは、あまりに生活感に溢れていて俺は思わず嘔吐しかけた。


ーーー



「ロッテ卿!!第二波はすでに半壊し、右往左往しています」

騎士団の伝令はロッテ卿に向けて叫ぶ。


ロッテはその報告に冷や汗をかいた。

「馬鹿な。マリーを呼び出せ。第二波が壊滅しては第一波との連携が取れん!」


「それが・・・第二波の騎士たちはことごとく捕まるか殺害されたようです。マリー様も・・・」


ロッテは眉を潜めた。

マリーは教皇の姪だ。あの若さで、将校としてこの騎士団に参加していたのはそのコネのおかげだ。

そんな彼女を失っては、ロッテも騎士団も面目丸つぶれだ。


いいや、それどころではない。

このままでは、大敗する可能性すらある。


「たがだか数百人の重装歩兵ごときに何をしてるか!!それでも栄えあるヴァレッタ騎士団員か!!」

と幕僚は伝令に怒号を放つが、

そんな事をしたってどうしようもない。


ロッテはすぐに馬の頭の向きを変えて、来た道を戻る様に命令した。


「すでに突入した仲間を見捨てるのですか・・・!?」

と幕僚は抗議するも

「こうなった以上、このまま突撃しては我々までもが壊滅する可能性すらある。すぐに川を渡り友軍陣地まで後退せよ」

とロッテ卿は冷静にそれを退けた。


その命令に、第三波として控えていた騎士たちは不満げながら味方を置いて敗走した。


がしかし、その決断はすでに遅かった。


彼ら300騎が森を迂回して再び川を渡河しようとした先には

伯爵の手配した重弓兵とパイクを持った歩兵隊が待ち構えていた。


「・・・・運も尽きたか」

とロッテ卿は呟くと暫し十字架に祈りを捧げた。

そしてもはやこれまで、と覚悟を決めて強行突破するべく敵へ向かって突っ込んだ。


だが川の中では馬の脚がもつれて、上手く加速できなかった。

足の遅い騎兵は、大きいだけの的だ。


彼らは川の中ほでに到達するまでにほとんどが重弓兵に射殺された。

それでも、頑強な一部の騎士は盾を前にして強引に渡河した。

そうなればいくらか勝負にはなったが、如何せん数を減らしすぎた。

彼らは川のほとりで、歩兵隊に集られて各個撃破されつつあった。


ロッテは幕僚と、護衛の4名と共に何とかその包囲を突破したがその先で敵の軽騎兵に補足された。


彼らは最後まで軍旗を放そうとしなかったので見つかったのだ。

彼らは重騎兵だったので、多少の攻撃を受けても突破することができても流石に人馬ともに摩耗し、脱落していった。


そしてついには、ロッテと旗手の二人だけになった。

正面に新たな騎兵の集団が現れる。


見たところ、それは伯爵の護衛隊のようだ。


「わざわざ、伯爵が出てくるとはな・・・」

とロッテ卿。

彼は少し笑って、旗手から槍を受け取ると大声で名乗った。


「我は、聖ヴァレッタ騎士団副総長ロッテ・デ・ネッシだ。

相手は誰だ!!かかってこい」


これに、前を塞いだ騎士たちの中から一人の貴族が躍り出た。

「私が自ら相手してやろう!!神聖皇帝が義弟。ヘルムート・フォン・ローテンベルクである」

と伯爵は自分の名を堂々と名乗った。


そして両者は互いの名前を確かめると、ゆっくりと加速しだし相手へ向けて馬の頭を向けた。


間もなく二人の騎士は、最大速度まで増速してランスを攻撃態勢に変える。


そしていよいよ衝突のその瞬間。

すれ違いざまに伯爵は自分のランスで相手のランスを弾いて

攻撃を躱し、すぐさま腰から直剣を引き抜いてロッテ卿の頭めがけて振り下ろした。


ロッテ卿は首にその剣が直撃し、一撃で絶命した。

彼はそのままだらりと四肢を投げ出して馬から落馬する。


それを背中で見届けた伯爵は、握っていた剣を地面に突き刺して

「約束は果たしたぞ、ロッテ卿。敵ながら天晴な最期」と

武人らしく笑い勝ち誇った。


その剣は、開戦の際にロッテ卿が伯爵に挑発として贈った

あの直剣であった。

よもや、彼とてその剣で自らの首を砕かれるとは思っても居なかったであろう。


ーーー

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