第24話 左手を奪還、魔法の試用
アスターを仰向けに寝かせて、エトナが【魔法解除】を使う。
このおっさんが起きる前に、俺の体を返してもらおう。
全身がうっすらとした発光した後、左腕に感覚が戻ってくる。
-----------------------
レン
レベル:77
体力:1500
魔力:1600
攻撃:1700
防御:1500
敏捷:1400
魔法:鑑定・攻撃強化Lv.8・防御強化Lv.7・爆閃Lv.4・暴風Lv.2・魔法盾Lv.2・凍結Lv.1・回復Lv.1
-----------------------
「あ、【回復】も覚えたのね。あとは【凍結】か。順調に強くなってるわね、あんた」
【鑑定】の結果をのぞき込みながらエトナが言う。
最初は地味な魔法ばっかりだったけど、派手なのも増えてきたな。
生身の部分が増えてきた俺にとって、回復魔法はありがたい。
【凍結】も足止めに使えそうだ。
俺は戻ってきた左手を握ったり開いたりした。
魔法で制御した鎧の体にも慣れてきてはいたが、やっぱり自分の体が一番だ。
両手、両足はほぼ遅れなく動く。
後は胴体だけだ。
全身がそろうのもそう遠くないぞ。
「ぐぬう……やられちまったか」
アスターが頭を振りながら起き上がった。
俺はその広い背中に手を当てて【回復】を使う。
「なんのつもりだ、貴様」
「左腕は返してもらったからな。もうおっさんは敵じゃないだろ」
「ふん。情など受けん――と言いたいところだが正直助かるな」
「覚えたてだから使ってみたかったんだよ、回復魔法」
アスターの全身にあった小さな傷がふさがっていく。
目一杯殴ったあごの傷も治ったようだ。
自分でも回復魔法は使えるだろうけど、あれだけ【光弾】を撃ちまくっていたら、魔力もそんなに残ってないだろう。
俺はこのおっさんのこと嫌いじゃないし、治しておくことにした。
ノーサイドの精神ってやつだな。
「貴様ら魔王を倒す、というのは本気なんだな?」
「そのつもりよ。その前にゼハインを倒さないといけないけど」
「ヤツは強いぞ。このワシよりも格段にな」
「戦闘はコイツに任せるわ。体を取り戻して、順調に強くなってるし」
エトナは俺を指差しながら言った。
左腕が戻ったことで、全身に力がみなぎっている。
今なら誰にも負けない気がする。
「ふん。確かに強さは認めるが、無鉄砲なところがある。エトナ、これで手助けしてやれ」
アスターがアズトラの宝杖を差し出す。
エトナは全くためらわずに受け取った。
「いいの? もらっちゃって。まあ最初からあんたの物じゃないけど」
「かまわん。魔王討伐は貴様らに託そう。その杖の追尾効果があれば、後衛からのサポートもしやすくなるだろう」
アスターは立ち上がり、服についたホコリを払った。
「おっさんはこれからどうするんだ?」
「故郷に戻る。力で世界を変えるのは無理なようだ。だが、ワシにできることをやるつもりだ」
「そう。魔王はそのうちブッ殺すから。安心して隠居しててね」
アスターは無言のままニヤリと笑い、歩き出した。
レベルは多少下がったとしても、あの腕っぷしと魔法があれば故郷を守るぐらいのことはできるだろう。
俺は左手を見つめた。
あとひとつ。
頭だけ、という最低なスタートをきった俺の冒険を、やっと仕切り直せるんだ。
「うわ~ウッザ! カッチカチじゃない。動けないわね」
俺が試しに使った【凍結】の効果で、エトナの足元が凍っている。
宿に戻る前に新しく習得した魔法を試してみたかった俺は、ダンジョン前の広場に立ち寄った。
【凍結】は自分が食らったことがあるから、その厄介さがよくわかる。
戦闘時に機動力を下げられるのは命取りになるからな。
エトナは魔力を込めた短剣で氷を砕いていた。
「じゃあ、今度はこっちの番ね。【電撃】っと」
アズトラの宝杖から放たれた電撃が、弧を描いて俺に飛んでくる。
試しに横に跳んでみたが、電撃が即座に軌道を変えた。
術者が設定した対象に向かって、自動的に飛んでくるらしい。
便利だなぁ。
俺は退魔のローブで電撃を受け止める。
軽減されているとはいえ、十分痛い。
全身が小刻みに痙攣する。
「うおおお、効く! 不意をつかれたらやばいなコレ」
「ふ~ん。今のあんたにも効果があるなら、牽制としては上出来ね。後方支援にはピッタリな武器だわ」
俺が体を取り戻したことで、エトナとのレベルにも差がついてきた。
最初は『俺がスキを作ってエトナが仕留める』という戦い方だったんだけど、今は逆だな。
前線で戦うのは俺、後方からエトナが支援する形がいい。
「あとはあんたが自分で攻撃・防御・魔法防御を強化して、私が【敏捷強化】を使えば万全でしょ」
「そうだな。全部の強化魔法のレベルを10まで上げられたら、瞬間的に2倍の能力で戦えるってわけだ」
もちろん使いっぱなしというわけにはいかないが、魔力も上がってきたので15分ぐらいは強化魔法をかけ続けることができる。
「魔法のレベルも上げなきゃな。なんかいい方法ないかな」
「だったら、魔力が尽きるまでずっと使っていればいいんじゃない? 使わないことにはレベルは上がらないわよ」
それもそうだな。
攻撃魔法は敵に当てなくてもいいし、強化魔法もかけっぱなしで生活しておけばいい。
対ゼハイン戦に向けて戦力強化も総仕上げだ。
もし勝てたら全身を取り戻して、より強くなれる。
そうなったら魔王もボコボコにできるに違いない。
俺は森の中での戦いを思い返していた。
黒い兜の中で光る、赤い目。
エトナや俺のことをなんとも思っていない様子だった。
今ならヤツの魔法も防げる。
思い出したら腹が立ってきたな。
「ある程度魔法のレベルが上がったら、北に向かいましょう。今のあんたならきっとゼハインにも勝てるわ」
「フフフ、やっぱり? 俺もそんな気がしてたんだよね」
エトナにもすっかり実力を認めてもらえるようになった。
頼りにされるのが何より嬉しい。
だが、エトナはジト目で俺を見ている。
調子に乗らないで、とでも言いたげな目だ。
よし、あまりイキらないようにしておこう。
俺はせき払いをしつつ、広場にある大きめの岩に腰かけた。
「いよいよ最後のひとりだな。ゼハインについて知ってることを教えてくれないか」
「私も詳しくは知らないけど。ずっと西にある竜の国リガレアの第2皇子らしいわ」
「皇子? ははあ。で、武者修行でもしてるってわけか」
「リガレアの王位は常に一番強い者に継承されるそうよ。優秀な兄より自分が上だって認めさせる必要があるのね」
なるほどね。
盗賊たちにも強くなりたい理由があるんだな。
だからといって、人の胴体を勝手に吸収するのはどうかと思うが。
「竜騎士って言うぐらいだから竜に乗ってるんだよな。武器や魔法は?」
「中型の竜に乗って、上空から攻めるタイプね。武器はリガレアに伝わる魔法の槍を持ってたわ。魔法もひと通り習得してるけど、使ってるのは見たことない」
「なんで? 魔力が少ないとか?」
「魔法を使わなくても敵を倒せるからよ。大抵は竜のブレスと槍での攻撃で決着がつく。むしろ、魔力は魔法使いのフロックスより多かったぐらいよ」
空を飛べて竜のブレスや噛みつき、爪、尻尾による攻撃ができる。
おまけに本体のゼハインは魔法の槍を使い、魔法まで充実している、と。
なんだよそれ、スキがないじゃないか。
「聞けば聞くほどヤバイ相手だな~。なんか弱点はない?」
「ないわね。正面からねじ伏せるしかない。それができなきゃ、魔王と戦っても返り討ちにされるだけだし、ね。」
エトナは腕組をして俺を見つめた。
珍しく神妙な面持ちだ。
きっと期待してくれているのだろう。
なんとかその想いに応えたい。
ただ、俺には空中戦に対する備えがないんだよな。
やはり【暴風】で体勢を崩させて、地上戦に持ち込むべきか。
「2、3日は休みましょう。で、その後は魔法の練習もかねてダンジョン攻略。急がなくてもゼハインはしばらく動かないわ」
「そういえば、魔王軍と戦ってるって話だっけ」
「盗賊ギルドの情報では、ルピナスの少し南にあるリカステの街で用心棒みたいなことやってるみたいよ。魔王軍の南下をせき止めてるとか」
街の人々を守っているのか。
俺は竜騎士が不死者の軍団を蹴散らしている姿を想像した。
カッコイイじゃねえか!
なんだか戦いにくいな。
思えば今までに戦った盗賊たちも、そんなに悪いヤツらばかりでもなかった。
決心が鈍りそうになるが、俺には体を取り戻すという目標がある。
俺たちは宿に向かって歩き出した。
明日からは戦力増強の総仕上げが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます