第13話 レベルアップと新魔法のお試し
「お、私もレベルが上がってる。あの大男、結構強かったもんね」
エトナが空中に浮かぶ文字を見つめている。
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エトナ
レベル:51
体力:900
魔力:1100
攻撃:1000
防御:800
敏捷:1300
魔法:鑑定・吸収・回復Lv.3、敏捷強化Lv.6・魔法解除Lv.3・制御Lv.5・電撃Lv.7
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相変わらず敏捷の数値が高いな。
あれだけ素早く動けたら、防御力もたいして必要にならないのかも。
回復魔法も使えるから致命傷をくらわない限り戦い続けられる。
【敏捷強化】のレベルも上がっているから、攻撃が通る相手ならまず負けることはなさそうだ。
能力値にも個性が出るもんだなぁ。
「ちょっとエトナ。早く治してよ」
「はいはい」
エトナが回復魔法をかけると、ジェキルの折れた手首がみるみる治っていく。
腫れもすっかりひいていた。
ジェキルは確かめるように手をぶらぶらとさせる。
「それにしても女の腕を折るとか、最低ねあんた」
ウッ!!!
なんで味方のエトナがそんなこと言うんだよ。
気にしてるのに。
俺は岩に腰掛けて罪悪感と戦っていた。
決着がつけばエトナの回復魔法で治せる、というのをあてにしていたのもある。
それにしたって激痛だろう。
ただ、ジェキルは俺よりはるか格上。
負けたら取り込まれるんだぞ。
そもそも頭ごと取り込まれたら、俺の意識はどうなるんだ?
意識がないまま、ジェキルの一部となって生きるのかもしれない。
そしていつかジェキルが寿命で死んだ時に、俺も一緒にこの世を去る、と。
じゃあやっぱりさっきの戦いは命がけだったんじゃないか。
「もういいよ。アタシらが仕掛けたんだから。気が変わらないウチにさっさと【魔法解除】を使いな」
ジェキルは岩の上であぐらをかき、頬杖をついた。
姉御肌というか、さっぱりした性格なんだな。
エトナがジェキルの背中に手を当てる。
【魔法解除】によって、失われた右腕の感覚が戻ってきた。
おおお……!
俺は小手の下に戻ってきた右手を開いたり閉じたりした。
手のひらに閉じた感触がしっかりとある。
足が戻ってきた時よりも感動が大きい。
脳につながっている神経細胞が多いから、『手は第二の脳』って言ったりするんだっけ。
そしてお楽しみに鑑定タイムだ!
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レン
レベル:48
体力:1000
魔力:1200
攻撃:1000
防御:1100
敏捷:500
魔法:鑑定・攻撃強化Lv.5・防御強化Lv.4・爆閃Lv.1
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ついにレベルが50近くまで上がったぞ。
体を取り戻したのもあるけど、ここまでに戦闘経験を積んできたからな。
もう少しでエトナに追いつけるじゃないか。
相変わらず敏捷値が低いのが弱点だが、体そのものが重たい全身鎧なので仕方ない。
その分、防御力は高いわけだからな。
きっと胴体と両足が戻ればスピードも改善されるに違いない。
【攻撃強化】もレベルが上がっている。
試しに使ってみたら攻撃の数値が1500に変化した。
やはりレベルが上がるたびに10%ずつ効果がアップしていくらしい。
【防御強化】の効果も40%アップになっているのだから、短期間なら格上とも渡り合えるだろう。
そして!
俺が何より気になったのがこの【爆閃】という魔法だ。
これは言葉の意味からして、念願の攻撃魔法ってやつだろう。
炎系の魔法って主人公感あるし。
投石の他には白兵戦しかないという泥くさい戦い方に、やっと華を添えられるぞ。
「なあ、ちょっと試していい!? ちょうど周りは岩山ばっかりだしさ」
興奮気味にエトナたちに伝える。
叔父さんと御者にも話して、俺はみんなと距離を取った。
30メートルぐらいは距離がある。
どんな魔法かわからんが、これなら大丈夫だろう。
俺は岩壁の前に立ち、深呼吸をする。
戻ってきたばかりの右手を前にかざした。
【爆閃】
俺が魔法を発動した瞬間、あたりが閃光に照らされる。
かざした手の平に光の魔法陣が浮かび上がり、直径3メートルほどの光の玉が現れた。
そして、爆発音。
砂煙が舞った。
「うわ、えっぐ……」
俺は自分の力にドン引きしてしまった。
岩壁には人が通れるほどの穴がぽっかりと開いている。
レベル1でこの威力か。
待てよ。
「もう一発いきまーす!」
俺はこちらに歩いてくるエトナとジェキルを手で制した。
さらに離れた岩壁に向かって【攻撃強化】と【爆閃】を同時に使う。
攻撃力50%増しだ!
街道にさっきよりも大きな爆発音が鳴り響いた。
風に吹かれて砂煙が消えていく。
岩壁がくり抜かれ、軽自動車なら通れそうな大穴が開いていた。
どうやら爆発する光球を生み出す魔法らしい。
射程距離は長くはなく、5メートルほど。
威力は申し分ない。
ただ、疲労感が大きい。
消費する魔力も多いようだ。
連発はできないな。
さらに左手でも試したが、うまく撃てなかった。
小手では、手のひらから魔力を放出するイメージができない。
本物の自分の体からじゃないと放てない魔法らしい。
「うわ~自然にもやさしくないわね、あんた」
くり抜かれた大穴を眺めながらエトナがつぶやく。
驚くというより呆れている様子だ。
おいおい、そんな口をきいていいのか?
俺は『爆炎を操りし勇者』だぞ。
「これが本来の勇者の力か。たいしたもんだな」
そうそう!
そういうのを待ってたんですよ。
爆炎の勇者が放った攻撃魔法は、ジェキルから見ても十分すぎる威力のようだ。
うーん、今の俺ならダンジョンごと爆破してしまうかもしれない。
「で、これからどうするのよ」
「どうって言われてもな。まずは手下を起こしてここを離れる。レベルも下がったし、しばらくは大人しくするつもりだ」
ジェキルは腰に手を当てて、気絶している手下たちを見る。
その横顔は少しだけ寂しげだった。
「さっきも聞いたけどさ。なんで山賊なんてやってるんだ? 真っ当な職につけないなら、冒険者としてダンジョンに潜るとか。他に稼ぐ方法はあるだろ」
「手下どもとダンジョンでちまちま魔石拾いをしろって? 冗談じゃない。アタシの性分に合わないよ」
「じゃあ、ずっと山賊を続けるつもりだったの?」
エトナの質問に、ジェキルは答えなかった。
街道の向こうに目をやりながら、小さくため息をつく。
「荷物を売りさばいて、まとまったカネを作ったら大陸を離れるつもりだったのさ。魔王軍が南下していることはお前たちも知ってるだろ」
「何よそれ。逃げるつもりだったの?」
「ダークエルフの里も魔王軍に焼かれた。アタシたちは生き残りなんだよ。平和な土地を探して、新たな故郷を作りたかった」
今度はエトナが黙ってしまった。
はるか北にあるエトナの故郷だけでなく、ダークエルフたちの里も壊滅させられたのか。
「かといって、復讐するつもりもない。魔王の強さはエトナもよく知ってるよな」
「やってみなきゃわからないわ、そんなの」
エトナが反射的に返事をした。
だが自信なさげだ。
俺から見ればふたりは相当な手練れなんだがな。
魔王ってのは戦う気すら起こらないほど強いようだ。
「安心しなよ。俺がブッ飛ばしてやるからさ。そうすれば、平和な土地だって探さなくていい」
俺はニヤリと笑った。
腕を組もうと思ったが、左腕部分は地面に落ちたままだ。
「あっははは! 面白いね。ちょっと強くなったからって調子に乗り過ぎだよ。あれは人がかなう相手じゃない」
「おっと、今の俺は頭と腕、足だけなんだぜ。全身を取り戻せばこの岩山ごと吹っ飛ばせるはずだ」
くり抜いた岩壁の奥にある岩山。
それを指さしながら俺は言った。
「ふん。好きにやんな。アタシも魔王には恨みがあるからね。ほら、お前ら起きな。まったく情けない」
ジェキルは手下たちを起こし始めた。
俺たちは馬車の荷台に乗り込み、御者に声をかける。
長い足止めからの再出発だ。
木製の車輪が石畳の上で回りだす。
街道の脇に止めていた馬車が、ゆっくりと動きだした。
俺は荷台から空を見ていた。
日が落ちかけている。
左足に続いて、右腕が戻った。
強力な攻撃魔法も習得できた。
全身を取り戻す日もそう遠くはないはずだ。
遠景の中でジェキルが振り返った。
「必ず魔王を倒せよ! アタシに勝ったんだからな」
俺は右手の拳を握りしめて、空に掲げた。
故郷を追われ、差別されながら盗賊として生きていく。
恨みだけでなく、やりきれない想いや悔しさもあるだろう。
そんなジェキルの気持ちも背負って、俺は前に進まなくてはならない。
これは、体を取り戻すための旅。
でも、取り戻して終わりってわけじゃなくなったんだ。
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