第42話

3-16

●惑星エイメーヤの拠点と家庭菜園


『そうか。何処かでお会いした事があるような気がしていたが、2ヶ月位前に会ったインダストリーコーポレーションの技術者か。』

『はい。・・・。』

聞けば、2ヶ月位前に会社の上司と一緒に提督に再考のお願いをしに来ていたらしい。

『あの後、会社に帰って直ぐに解雇を告げられました。他に働く場所も探したのですが見つからず、滞在費も底をついてしまい公園に居たところをたまたま通りかかったユースケさんに雇ってもらいました。』

『なるほどな。』

俺はサミリーがPAM-12ASの設計者であったことは、ここで初めて知ったんだがこんな偶然が有って良いのだろうか。

『サミリーがあれの設計者だって事は初めて知ったんだが、あれって改造出来るかな。』

『はい。限度はあるでしょうが出来ますよ。どんな改造をしたいんですか?』

『あれの機動性を15%上げたい。』

『なんだ。それでしたらまったく問題ないです。設計時には今の50%増しの性能で設計しましたから。操縦者の負担とかコストの問題とかいろいろあって現状の性能になってますけど・・。そうだ、スラスターを少し大きな物にしないといけないのでちょっと不格好になりますけどいいですか?』

『そうなんだ。今のスラスターの大きさだとどの位まで性能アップ出来るんだ。』

『そうですね。ちゃんと計算しないと正確には分かりませんが、スラスター自体の性能が今のままでしたら10%?いや8%位でしょうか?特注の高性能スラスターを使えば多分35%位はアップできそうですが、価格的に高いですよ。』

『んー。特注は厳しいな。汎用品で高性能なスラスターを付けたらどんな感じ?』

『汎用品ですか。型が合えば25%位は行けると思いますが。』

そこで、傍で聞いていた提督が口を挟んできた。

『おいおい。ちょっと待て、PAM-12ASの現状から25%も機動力が上がったら、最新の現行機より性能が良いじゃないか。』

『はぁ?会社では軍の予算の問題で入札で購入してもらうには、性能はそこそこで製造コストを抑えて低価格を実現しないといけないと言われましたので、設計時よりは大分性能を落としてますよ。』

『ん?入札?軍の兵器に関しては入札はしてないはずだが。性能の評価とその価格が妥当かを検討して購入しているはずなんだがな。それにPAM-12ASに関してはマルチロール機と言うパワーアーマーでは珍しい機体だったから、通常のパワーアーマーより高く購入していたと思っていたんだがな。』

それを聞いた俺はなんとなく嫌な感じがしたんで話題を変えて、とっととパワーアーマーを買い取りに行くことにした。

『・・・。まぁ。それは提督の方で確認をお願いします。俺達はパワーアーマーを買い取りに行きますね。』

『ユースケ君は協力してくれないのか。』

『いやですよぅ。現状でも危なそうなのに、うちの従業員であるサミリーに何かあったら保証してくれます?最悪、軍の内部の人間も関わってますからね。酷いと始末されかねません。』

『そっ。そうか。分かった。』


俺達はやばそうな案件から逃げるべく、そそくさと提督の執務室を後にし、廃棄業者にパワーアーマーを買い取りに行き、既に話が通っていたのですんなりパワーアーマーを3体買い取ることが出来た。

ついでに廃棄業者の廃棄物置き場に転がっていたジャンクのロボット兵も5体引き取って来た。

此奴らは俺の研究と言う名のおもちゃにしようと思って、構造とかソフトウェアの解析とかやってみるつもりだ。

ゆくゆくはジーコ男爵の所のロボット兵みたいに拠点の防衛と畑の世話が出来る屯田兵ロボにしたい。

パワーアーマーの搬入については、業者が大型トラックを貸してくれたので、すんなりウラスに搬入することが出来た。

ただ、トラックへの積み込みと積み下ろしは1台ずつパワーアーマーに乗り込んで動かして行ったので最初はもたついたよ。

その後は、サミリーの拠点の部屋に入れる家具等を購入し、惑星エイメーヤの拠点に急いで戻ってきた。


現在の拠点は滞在するための大きな屋敷と、拠点に物資を転送するシステムの建物は立てたが、研究棟はまだ立ててない。

元々、パブラス金属の採掘を行う工夫達が住んでいた家々を撤去し、村ほどの敷地に屋敷を建てたので、結構な余裕があるのは確かなんだけど、ちゃんと配置を考えていなかったので、いまさら後悔している。

立地的には元々有った宇宙港が海沿いの開けた場所にあり、そこから少し離れて内陸側の奥にあった工夫達の家々のあったところに屋敷を建てている。

しかも、屋敷の後ろは少し空間はあるけど山裾になっているから、こちら側には研究棟を建てられないし、屋敷の表側に建ててしまうと屋敷からの景観が悪くなる。

屋敷に向かって右側は物資を転送するシステムの建物があるし、屋敷に向かって左側は開いているけど、こちら側にはプールを作りたいんだよね。

なぜなら、ここって宇宙港の向こう側に海はあるんだけど、岩がごつごつとむき出しでとても海水浴を楽しめるような感じじゃないんだよ。

それに、一様ここ子爵家の別荘を兼ねて作ってるから、プール位あった方が良いよね。

あとは近くに温泉でも湧いてくれたら嬉しいんだけど、そんな都合よくは行かないだろうなぁ。

とりあえず、夕食が終わった時に皆に相談してみるか。


俺は夕食が済んで、リビングでお茶を飲んでいる時に皆に相談を持ち掛けた。

『ちょっと相談と言うか意見が聞きたいんだけど良いかな。』

皆が此方を向いたので、話を始める。

『前にも話してると思うけど、この拠点に研究棟を作ろうと思ってるんですが、何処に作ったら良いと思う?この屋敷の前に作ちゃうと一階から外を見た時に研究棟しか見えなくなっちゃうし、裏手は山裾でしょう。屋敷に向かって右側、ここからだと左側には物資の転送システムの建物があるじゃない。開いてるのはこちらから見て右側しかないんだけど、ここは遊戯施設を作りたくって開けて置きたいんだよね。そうなると他にどう作ればいいか悩む所なんだよ。まぁ。研究棟は俺とトァカミさんとサミリー位しか使わないとおもうから、この3人は特に意見を出してくれると嬉しいです。』

すると一番にサミリーが手を上げた。

『はい。サミリーどうぞ。』

『私の研究棟は大きな音も出ると思うんで出来れば、この屋敷から離れていた方が良いと思います。それとパワーアーマーのメンテナンスがあるんですよね。そうしたら、宇宙港に近い方がメンテナンスもやり易いと思います。』

『なるほど、そうだね。メンテナンスでパワーアーマーをウラスから出したり、入れたりするのは近い方がいいか。』

『私も皆に危険が及ばないように屋敷からある程度離れた場所に作りたい。』

トァカミさんも離れた場所がいいと言う。

『俺は屋敷からあまり離れてない方が良いな。プログラミングが主な研究対象だし・・。ただ、ロボット兵とか航宙船シュミレーターとかサーバーとかも複数台入れる予定なんで、ある程度広さが欲しいな。』


そこで、ここの管理をしてもらっているシュバルツさんも意見と言うか要望を言ってきた。

『旦那方、研究棟とは違うんだが、パブラス金属とサファイヤだっけ?宝石でいいか。あれらを入れてある倉庫がよ、もういっぱいなんだよ。もうちっと広く出来ねえか。それともうちっと丈夫な鍵が掛かる場所だと嬉しいんだが。まぁ、こんなとこ誰も来ねえとは思うが物が物だけにちと心配でよ。』

『そうですか。今って坑道の中の倉庫でしたっけ?』

『そうだぞ。坑道の中の昔からパブラス金属を保管してた場所なんだが、今みてえに大量に保管してたわけじゃないからな。それにあの宝石が場所食っててよ。何とかしてくれ。』

『そうですか。じゃぁ一緒に考えた方が良いかもしれませんね。』

『あとよ。鍛冶場作ってくれねえか。どうも、岩とか鉄とかいじってねえと落ち着かなくてよ。』

『あ。分かります。私もずっと鉄を叩いてないんで、なんかムズムズすると言うか、落ち着かないと言うか・・。これってドワーフの性なんでしょうか。』

『お。嬢ちゃんもか。若いのに珍しいな。』

『えへへ。家は両親が厳しくて、子供の頃から教え込まれました。』

『ガハハ。いい親じゃねえか。近頃じゃとんといねえぞ。』

『へー。シュバルツさんもサミリーも鍛冶仕事が出来るんだ。じゃぁ。サミリーの研究棟の近くに鍛冶小屋も作りましょう。』

『おう。いいのか。すまねえな。』

『ただ、俺は鍛冶小屋がどんなものか分からないので、設計はお任せしますよ。』

『おうよ。任せて置け。』


『じゃぁ。サミリーの研究棟は宇宙港の脇の林を抜けた山裾と言うか山をくり抜いて作った方がいいかな。となると研究棟は各自バラバラで作った方が良いか。』

『トァカミさんはどうします?』

『私は物流用の転送装置がある場所の向こう側にある林の中が良いと思う。あそこなら物流用の転送装置の調整や整備を行うのも楽だしな。』

『そっかー。俺はどうしようかな。』


結局、俺は屋敷の右側、屋敷に向かって左側の娯楽施設建設予定地の向こう側にある元鉱山入り口の横に山をくり抜いて作る事にした。

どうせ、娯楽施設にはプールの他にゲームセンターのような施設をゆくゆくは作りたいと思ってるんでこちら側の方が良いだろう。

そんなことを考えていると、エツコが手を上げて聞いてきた。


『旦那様。私の本体のサーバーはこの星にあるのですよね。』

『そうだね。今はこの屋敷の物置に置いてあるが、いずれ移動しないとな。』

『旦那様、エツコは可愛いお部屋が良いです。』

『あん?可愛いお部屋って、サーバー置く場所だぞ。』

『エツコは知っているのです。サーバーは綺麗な場所に置いておかないと故障の原因になると説明書に書いてありました。』

『まっ。まぁそうだけど・・。』

『だから、エツコも可愛いくて綺麗な部屋が欲しいです。』

『・・・。』

確かにサーバーはクリーンルームに置いておいた方が良いのは分かっているけど、どっから「可愛い」が出て来たんだ?

『あと、エツコも同族のお友達がほしいです。皆さまが同族同士で楽しくお話しているのは羨ましいです。』

うん。確かに話相手が居ないのは可哀そうか?いやいやいや。エツコはアンドロイドだぞ。羨ましいってなんだ。

それを聞いていたアニエルが口を開いた。

『そうですよ。エツコにもお友達がいた方が良いんじゃありませんか。それにこの屋敷の手入れをシュバルツさんお一人で行うのは無理があると思いますよ。』

『アニエルもそう思うのか・・。ただなぁ。エツコって特注で作ってもらったんで同じ物を作るにしても結構お金かかるよ。』

『ガハハ。俺からも頼むは、正直この屋敷を掃除するだけでも1日じゃ終わらんからな。しかも、今は良いが子爵様がお見えになった時、俺一人じゃどうにもならないぞ。貴族をもてなすような事はしたこと無いしな。』


やばっ。俺そんな事、考えてなかった・・。

『分かった。2~3体で良いかな?ただ、生体アンドロイドを作る事にはするけど、エツコより性能が落ちるダウングレード版で勘弁してください。』



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