第36話

3-10

●青い惑星とアンモニア


俺は気が乗らなかったが女性陣の求めに従って青い星に向かってウラスを走らせた。

青い星に近づくにつれて、星のあちこちで青い光が反射されキラキラ光ってとても美しい。


アニエル少佐とクラーサ少尉はうっとり青い星を眺めている。

子供達は『きれいなお星さまだねー。』『キラキラして宝石みたい!』っと燥いでいる。

いや、実際宝石なんだが・・。

佐井田さんも興味はあるみたいだけど、今にも走り周りそうな子供達の世話でそれ何処ではなさそうだ。

エツコは何のことか分からないようで、首を傾げて皆を見ている。

以外だったのは、普段あまり燥がないカムミムさんが、トァカミさんの袖を引っ張って物欲しそうにしている。

アマンダ機の乗員だったミリアとロッテは『すっごいね。あの星全体がサファイヤだって。』『あたしも貰えたら自分でカットとかして指輪とか作ってみたい。』とか言っている。

アマンダなんかはニヨニヨしながら口を開けて食べ物でもないのに涎が垂れそうだ。


俺はそんな事を気にしないようにしながらスペクトル分析で大気の構成を確認した。

しばらくして結果が出たが、ダメだここ酸素がほぼ無い、一番多いのがアンモニア、次いでヘリウム、メタン、水素だ。

これ大気の中に船で入ったら大気が爆発するんじゃない。

酸素が少ないからしないか?

と言うか、薄く地表?を覆っているあの水って、アンモニア水な気がする。アンモニアって水に溶けやすいからな。

あと、酸素があって外に出られたとしてもアンモニアの刺激臭で卒倒しそうだ。


『あー。皆さん、残念なお知らせです。あそこの星には酸素がほぼありません。アンモニアが充満していて死ぬほど臭い星になってます。』


するといつの間にか佐井田さんが近寄っていて俺の頭をスパーンとして言った。

『雄介。言い方があるでしょ。あなたは興味がなくても私達は興味があるの。私達は興味を持ったらダメなの?雄介が興味のある事を否定されたらあなたはどう思う?』

うっ。確かに・・。俺だって好きなゲームの事を否定されたらいやな気持になる。

『ごめん。言い方が悪かった。』

『いいわ。謝罪はあの星のサファイヤで婚約指輪を作ってくれたら許してあげる。』

え?婚約指輪?俺って何時婚約したの?プロポーズした記憶がないんだけど・・。

『あ、3人分よ。忘れないでね。』

『ちょっと待って、俺って『わ・す・れ・な・い・で・ね!』・・・。はい。』

はぁ。佐井田さんには勝てない。俺は肩を落とし、トァカミさんに採取のお願いをするのであった。

『トァカミさん。すいません。サンプルで少し格納庫方に転送してもらって良いですか。』

『分かった。』

『俺、格納庫の入り口辺りに行ってますんで、宜しくお願いします。』


俺が格納庫の入り口に移動しようとコックピットを出ると女性陣が皆付いてきた。

やっぱり、女性は宝石とか好きなんだな。俺からすれば売ればお金になるけど、食べられないし大体の宝石は役に立たないし。

まぁ、水晶とかだったら電気を発生させられるるんだが、パソコンに付いてる動作クロックの大元の信号作ってるやつだな、ダイヤモンドなんかは物を削るのに役に立つ物もあるけど、やっぱり大部分の宝石は綺麗・希少性がある位しか良い所がない、無用の長物なんだけどね。


しばらく皆で待っているとコロンコロンコロン、パシャっと、サファイヤと少量のアンモニア水が転送されて来た。


どんなもんかと近づくと、皆も俺に付いて来て覗き込もうとした瞬間、くっさ!俺は慌てて飛びのいた。

皆も俺が飛びのいたのにびっくりしたのもつかの間、鼻を抑えて逃げ出している。

『少佐、水、バケツで水持ってきて!少尉はガラスのボールに水・・、いや、クエン酸・・、レモン水溜めて来て!』


やばっ!床から煙が上がって来た。

床材の鉄成分とアンモニア水が反応している。

水はまだかな。俺が行った方が早かっただろうか?


少し待つとアニエル少佐が水の入ったバケツを、んしょ んしょと運んできた。

俺の近くにバケツを置くとささっと格納庫の入り口付近に走り去り『お待たせしました。』って、なんで逃げてから言うの・・。


俺は息を止めてアンモニア水に近づいて、最初はバケツの水を少しづつ掛けていき、最後にドバッっとぶっ掛けダッシュで出入り口まで走り『ぶはー!』と息を吐いた。

床からの煙はとりあえず出無くなった。良かった。『ふう。』俺はため息を吐いて額の汗をぬぐった。


そこにクラーザ少佐がガラスのボールにレモン水を入れて持って来てくれたんだが、どうやってサファイヤをこの中に入れよう。

サファイヤを掴む方法まで考えてなかった。

木の棒とかあれば良いんだけど、今この艦にないよなぁ。んー。キッチンに菜箸はあるけど、この世界に木製の菜箸がなかったから特注で作ってもらって結構高かったから使いたくないし・・。

そうだ。整備用の革の手袋があった。あれ何組かあったから、1つダメにしてしまっても何とかなるだろ。


早速格納庫内に置いてある工具ラックの引き出しを開けて、革製の手袋を取り出した。この手袋は溶接なんかにも使えるやつだから革が厚くてごわごわだ。


俺はその手袋を付けて、レモン水が入ったガラスの器をもって、息を止めてから再度アンモニア水があったところに戻った。

サファイヤを掴みカラスの器に入れると、まだ多少気泡が上がって見た目は気の抜けたレモンソーダだ。

拾ったサファイヤはピンポン玉位の物が3個、それより1周り大きい物が1個、量子転送の境界で半分位に切られてしまっている物が7個、計11個を拾ってガラスの器に入れ、クラーザ少佐に手渡した。


慌てていて放置していたが、格納庫の床が水浸しになってる事に気が付いた。

これ、この艦のバキューム機能で吸ってしまっても大丈夫だろうか。


大概の戦闘艦の格納庫には液体のバキューム機能が付いている。

格納した戦闘艇が発火した時など消火剤を撒いて消化した後、このバキューム機能で消火剤を吸い込んで分解し廃棄する。

それと、大量のオイルが漏れてしまった時にも使われる。

ただ、匂いは吸い込めないし分解してくれない。


んー。バケツであと2・3杯水を掛けて希釈してから、吸い込めば何とかなるだろう。このまま吸い込んで壊してしまうのもいやだしな。

あと、この匂いはどうにもならないだろうな。

地上に降りた時に格納庫開けて、またデッキブラシ擦るしかないか。


格納庫にも掃除用の蛇口がある。アニエル少佐は慌てたのか中に入るのが嫌だったのか別の所から水を汲んできていた。

俺は格納庫内にある蛇口をひねりバケツに水を汲んで格納庫の床にまき、アンモニア水を希釈し、バキューム機能を動作させた。


水気が無くなって、アンモニア水があった床を確認して見ると、床材が変色していた。大丈夫だろうかと、手袋越しに触ってみたら、周りの床と比べてざらざらしている。強度が落ちて後で床が抜けるなんてことにならないよな。

俺は手袋を脱いで、直に床を触ってみた感じ、表面がざらざらしているのはそのまんまなんだが微妙に凹んでいて、すごく心配になって来た。

これ後で床材を交換した方が良いかもしれない・・。

しかし、戦闘艦の床材の交換ってどの位費用が掛かるんだろう。

この一部だけ交換とか出来るんだろうか。

後で、この戦闘艦のメーカーの人にでも聞いてみるか。

ただ、資金的に幾らかかるか分からないから、このサファイヤを売って補填しておいた方が良いような気がする。


俺は、トァカミさんにお願いするべくコックピットに向かった。

『トァカミさん。格納庫の床が一部ダメになってしまいました。』

『ん。どうしたんだ。』

『サファイヤと一緒に濃アンモニア水が付いてきてしまって、床を溶かしてしまいました。』

『むむ。それはすまない事をした。』

『それで帝都に帰ったら床材を交換してもらおうと思うんですけど、今回の件は我々の私欲で起きてしまった事なので軍にお願いするのは申し訳なくてですね。そのぅ、ここのサファイヤを売って資金に出来ないかと・・。』

『分かった。どの位持って行く?』

『正直、床材交換の費用が分からないんですよねぇ。ただ、戦闘艦の床材なんで結構な値段すると思います。それとこの宝石の原石の売る伝手が無いのと、こんなの売るとどこで入手したかしつこく聞かれそうで怖いんですが・・。誰か秘匿してくれる方に伝手はないですかね。』

『そうだなぁ。家の親に相談したら、また母上が騒ぎそうで秘匿どころではない気がするし、ただ贈らないで後で知られた時には怒られそうなんだよな。』

2人で、『うーん。』と悩んでいると、突然背後からアニエル少佐が声を掛けてきてびっくりした。

『それは陛下と家の実家に相談頂ければ問題ないですよ。』

なんでかアニエル少佐が胸を張って言ってくるんですが・・。

『まず、陛下に献上するのに1つ送ってもらって、後は私の実家に送って販売と加工をお願いすれば大丈夫です。家の事業の系列に宝石商もいますから、情報の秘匿も問題ないです。』

なるほど、確かに情報の秘匿に関しては問題ないか。

『分かった。この後陛下に相談してみよう。その後会議モードでアニエル少佐のお父上、クランド公爵も交えて話をしてみよう。あと自分たち分はどうするか、渡さないといけない方は何人いるのか話し合おう。それを元にどの位採取すればいいか決めよう。』


俺達は皆でダイニングに集まり、誰がどの位ほしいのかリストを作成し、次に誰に送るかを決めていく事にした。

『じゃぁ。俺から、アニエル少佐とクラーサ少尉と佐井田さんに送る指輪の宝石と、この船の格納庫の床材がアンモニア水でさっきダメになったからその資金にするための分が欲しい。』

次にアニエル少佐の番で『私は指輪とネックレス、イヤリングの3点セット分が欲しいです。』

クラーサ少尉と佐井田さんも同じ3点セット分が欲しいと言う。

子供達も手を上げて『わたしもゆびわがほしい』と言う。

カムミムさんはアニエル少佐を同じように3点セットが良いと言った。

トァカミさんは『俺はいらん。』でおしまい。

アマンダ、ミリア、ロッテの3人組はそれぞれに10cm角の立方体を貰えればいいと言う。

売るなり、加工するなりは自分達でするそうだ。


次に送りたい人を聞いて行った。

俺は『陛下には献上しないとまずいよな。だた宝石にの良しあしなんて鑑定しないと分からないからどうしたもんか・・。』

アニエル少佐は『実家に送って、3点セットの加工の代金にします。』

クラーサ少尉は『実家の復興の足しに弟に送って上げたいです。』

佐井田さんは『私は送るところがないわ。』

子供達は『ママに上げたい。』

トァカミさんは『母上には送らないと後が怖い。兄たちの嫁にはどうしようか。』

カムミムさんは『お母さんと姉妹に送って上げたい。』

アマンダ、ミリア、ロッテの3人組は『あたしらも親兄弟も居ないし、送るところがないね。』


俺はまずアニエル少佐に加工費にするのにどれ位いるか聞いてみたが、アニエル少佐も分からないみたいだ。

クラーサ少尉には、復興の足しにどの位送るが聞いたけど、貰えるだけ送って上げたいと言っているが、情報の秘匿は出来るんだろうか。

それと、トァカミさんに妹のシアーナさんは良いのか聞いてみたら、忘れていたそうだ。

シアーナさんの存在って・・。


まぁ。やっぱり、一度陛下とアニエルの父上のクランド公爵と宝石の鑑定人に聞いてみるしかないか。



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