第33話
3-7
●商隊護衛とラプター146-9c_2
20日が過ぎ、この旅最大の危険地点である小惑星帯の脇を通過する航路の手前まで来た。
ここは小惑星帯の岩石が突然航路上に飛んでくる事があるため、ワープ航法ではなく通常航行でやり過ごさなければならない。
俺達も例外なく、小惑星帯の手前でワープアウトし通常航行で小惑星帯を突っ切ろうしているところだ。
あれからエツコは事ある毎に俺の脇腹を抓ってくるようになった。
『なんで抓ってくるんだよ。痛いからやめてくれ。』
俺が注意するとしばらくは抓らなくなるが、またそのうちまたやりだす。
あんまりしつこいんで俺は怒った。堪忍袋の緒が切れたってやつだ。
『いい加減いしろ、なんで抓るんだ。今度やったらもうお前は初期化するからな。』
エツコはしょんぼりしながら、食堂を出て行った。
そうそう、食堂と言っているけど改装して綺麗なったんで、どちらかと言うとダイニングって感じだけどな。
で、隣にあった娯楽室はリビング的な感じになっている。
俺とアニエル少佐はダイニングの方でお茶を飲みながら休憩しているところだ。
『アニエル少佐も。エツコの前で変な行動をしない。少佐も陛下に言って引き取ってもらうからな。』
アニエル少佐は頬をぷくっと膨らませて、そっぽ向いている。
『言っておくが、冗談じゃないぞ。本気だからな。』
その時、警報音と共にコックピット居るクラーサ少尉から艦内放送が入った。
『海賊と思われる船発見。至急ブリッジへ来てください。海賊と思われる船発見。皆さんブリッジへ来てください。』
俺とアニエル少佐は一旦顔を見合わせてからダイニングから出てコックピットへ走った。
コックピットに着くと俺はメインパイロット席に着きながら、クラーサ少尉に状況を確認する。
ちなみにクラーザ少尉はサブパイロット席に座っていたがアニエル少佐と交代し、オペレーター席に移動している。
『進行方向、右30度の浮遊岩石の裏に5機張り付いています。ポンダー確認できません。最接近まで8分。』
『僚艦への報告は。』
『すいません。まだです。』
『直ぐに報告しろ。』
『はい。』
『トァカミさん。他にも居るかもしれないので、全天捜索をお願いします。』
『アニエル少佐。広域通信をパッシブで起動。僚艦とはこのまま暗号化通信で通話。それと少佐は上部レーザー砲を担当。』
『了解。』
『クラーザ少尉、通信終わったか。』
『お、終わりました。商隊は全艦停止行動を取っています。』
『少尉はオペレーターとして僚艦へ情報発信。余裕があれば、翼下パルスレーザー砲も担当しろ。味方に当てないように。』
『りょ、了解です。』
クラーサ少尉は初めての実戦か。なんかプルプルしてるけど大丈夫か?
『た、大佐、ジャックさんから通信。スピーカーに繋ぎます。』
『俺達は3機で迫撃に行く、ウラスはそのまま商隊の護衛をたのむ。』
『了解。ただ、こちらの方が射程が長い。相手が出てきたら牽制も兼ねて最初に1回だけレーザー砲を撃つので射線に入らないでくれ。』
『おいおい。当たるのか。まあ良い、最初だけ射線を開けておいてやる。』
『最接近まで5分。』
『俺達は迫撃に出る。後は頼んだぞ。』
『了解。』
ジャック、テッド、アマンダの3機は、海賊が潜んでいる岩石に向けて加速して行った。
商隊は停止行動をしているが、特に大型船は慣性が大きく後1分位は完全停止出来ないだろう。
『アニエル少佐。上部レーザー砲スタンバイ。俺も前方レーザー砲で同時に1回だけ発射する。』
『最接近まで4分。敵海賊船に動き有り、出てきます。』
クラーサ少尉の報告と同時に、海賊船が次々と岩石の裏側から飛び出してくる。
『俺は先頭を狙う、アニエル少佐はそれ以降の射線が確保できる機体を狙え。』
『了解。』
『大型輸送船、完全停止を確認。』
『了解。射撃用意。』
クラーサ少尉の報告返事をし、俺は機体を微妙にコントロールしながら命令を発した。
それにアニエル少佐が返答してくる。
『射撃用意宜し。』
『放て!』
ウラスから発射されたレーザーは俺が先頭の海賊船をアニエル少佐は3番目の海賊船を貫いた。
『ヒュー。やるねー。ユースケちゃん。』
何だこれ。テッドからの通信か?戦闘中なのに気が抜ける・・。
『ユースケ君。後方30度、上角3度に高速で接近する船がある。8機だ。ワープ航法で接近して来ているんだと思う。』
『少尉!僚艦に連絡!』
クラーサ少尉からの連絡にジャックが驚愕し、返信をよこした。
『ほんとか。テッド、援護に行けるか?』
『むりっす。いまケツに付かれて回避中っす。』
『アマンダは?』
『アタイ達も、いまドックファイト中だよ。』
『ユースケ。商隊の船に近づけるのはまずい。先行して迫撃に向かってくれ。』
『了解。』
『あ。敵艦ワープアウト。1機小惑星に激突した模様。後方30度、敵機7機。』
クラーサ少尉の報告に俺は発進することを告げる。
『了解。発進する。戦闘機動になるから、口を開けてると舌噛むぞ。』
見ると子供達が口を手で押さえていた。ほっこりするなぁ。
いや、エツコは抑えなくても・・。噛んでも部品交換で済むし・・。
俺は、自動姿勢制御を切り、最大船速で敵艦に向かった。
『クラーサ少尉。余裕がない。ナビゲートは一旦やめて、翼下パルスレーザー砲で敵艦を迎撃しろ。』
『りょりょ、了解でしゅ。』
あ、噛んだ。大丈夫か?
広域通信から海賊達の会話が聞こえてくる。
『ボス。なんですかあの船?あんな速度で向かってくる船見た事ないですぜ。それにあれ帝国軍の駆逐艦じゃねえですかい。』
『ごちゃごちゃ言ってねえで攻撃しろ!』
『へーい。でもよボス、まだ射程に入ってないですぜ。』
『うっせ。良いからやれ。』
『あっ。ボス。2機やられましたぜ。』
『くそー!卑怯者がこっちの射程外から撃ちやがって。散会しろ。』
『ボス。射程に入りましたぜ。あ、また1機やられた。』
『分かってる!お前は黙ってろ!』
『ボス。傭兵の船がもう1機こちらに来ますぜ。』
『なんだと。・・そいつを盾にして回避するぞ。逃げながら時間を稼いでそいつを巻き込め。』
まったくセコイ作戦だな。
あ、海賊達が散会して逃げていく。
て言うか、テッド?アマンダ?どっちが来たんだ。
俺はレーダーに映った青い味方機表示の上に書かれたポンダー情報を確認してアマンダ機である事が分かった。
『アマンダ。そちらに海賊が行った。アマンダ機でウラスの射線を切るつもりらしい。』
『なんだい。アタイ等の船を盾にしようってのかい。』
『最初の攻撃でウラスの射程が長いのを学習したからな。こいつら戦い慣れしてる。注意しろ。』
『ハン!海賊共め。アタイら何年傭兵やってると思ってるんだい。舐めた真似しないでほしいね。』
『そうか。じゃぁ、先に言っておく。アマンダ機を掠めるようにこちらからレーザーを撃つかもしれないが許してくれ。』
『分かった。ただ、当てるんじゃないよ。弁償させるからな。』
『了解。』
俺達はアマンダ機を挟んで海賊達と戦闘を行っているが、アマンダ機も海賊達に攻撃や回避をするために行動しており、なかなかレーザー砲を撃たせてもらいない。
ただ、俺達がウラスで海賊船のどれか1機を追いかけていくと、後の3機がアマンダ機に向かうだろう。
海賊船はヒット・アンド・ウェイで攻撃後の離脱にアマンダ機の進行方向に逃げて行くため、本当にイライラする。
これだったらウラスだけで戦った方がよっぽど早く討伐出来たと思うが、ジャックの指示でわざわざ応援に来てもらったのに『邪魔だ』とも言えないし。
そんな事考えながら、イライラしているとアマンダ機がメインスラスターを敵に打ち抜かれた。
アマンダ機はその反動とメインスラスターの損傷で予期しない方向に回転しながら飛んで行った。
『少佐いまだ!俺は下、少佐は上。』
俺と少佐は同時にレーザーを発射し、2機の海賊船を撃破した。
忘れていたが、序にクラーザ少尉がパルスレーザーで1機撃墜して『やったー!』と燥いでいる。
海賊船は残り1機だ。
俺達がこの残り1機を追いかけてもアマンダ機に迫る物はないので、全速で最後の海賊船を追いかけた。
回り込まれてアマンダ機の方に行かれると厄介なので俺達はアマンダ機を常に背中にしながら追いかけたがな。
幸い海賊は小惑星帯の方には逃げずワープポイント方面へ逃走したため、ウラスで余裕で追いつき撃破した。
フハハハ。見たか!ウラスがリミッターを切って飛んだら民間機の3倍速いのだよ。民間機とは違うのだよ。民間機とは!
フハハハ。今回の追跡で自動姿勢制御もリミッターも外してないけどな。
アマンダ機の所まで戻ってみると、どうやら回転は止められたみたいだ。
『ユースケ。あんたの船で、この船曳航出来るかい。メインスラスターが完全にお釈迦だ。』
『出来るとは思うがやった事ないんだよ。』
『まじか・・。曳航船頼むとかなり金が掛かるんだよな。何とかならないかい。』
『ん-。ウラスの格納庫にぎりぎり入るかな?アニエル少佐どお思う。』
『そうですね。入ると思いますよ。ただ、外部に変な改造して出っ張りが無ければですが。』
『だそうだ。アマンダさんの船って改造したりしてますか?』
『改造してるのは武器とジェネレータの出力系統だな。後はなにかあったか?』
アマンダと船の乗組員が後ろで話しているがよく聞こえん。
『後、外部アンテナを改造して長くなってるが、折りたためるので問題ないんじゃないかってことだ。』
『分かった。ただ格納庫に入れるのは良いんだが、その機体から降りてこっちの機体に来るとなると問題がある。』
『なんだい。降りられないのかい。』
『いや。一様この艦も帝国軍の物で軍事機密があるからな。そしてこの船は実験船でもあるから、最新技術の秘匿物が置いてある。これらの事を他に漏らされると大変な事になるので、降りるなら守秘義務契約を結んでもらう。』
『いいよ。結んでやる。』
『なんか軽く考えてると嫌だから言っとくけど、この艦には重要な秘匿情報がある。守秘義務契約を破ったら帝国軍に追われる事になるからな。捕まったら一生刑務所暮らしか死刑なんでよろしくな。』
『あんたも重い話を軽く言うな。分かった。外に漏らさなければ良いんだろ。あんた達も良いかい。』
アマンダが船の乗組員にも了承を取っている。
『それと、この船には幼児がいるから、変な事するなよ。子供達が真似すると困る。』
『なんだよ。その艦には幼児が乗ってるのかい。それは困ったね。アタイ達はスラムの出だから、礼儀作法なんて知ら良いよ。』
『そんなに、きっちりした正義作法を求めている訳ではないが、とりあえずビキニトップとホットパンツはやめてくれ。』
『それは無理だよ。これしか持ってないもの。』
『あー。メイド服なら貸せるぞ。』
『メイドも居るのかよ。』
『あぁ。いるぞ。子供達の護衛も兼ねた生体アンドロイドだけどな。』
『メイドが居るなんて、あんた貴族なのか。』
『いや。俺は貴族ではない。ただ陛下の従妹の娘さんで公爵令嬢ならいるぞ。』
『・・・。』
『どうする。降りるのやめるか?』
『いいよ。降りるよ。何も見なかった事にすればいいだけだ。それと服も貸してくれ。』
『了解。後部ハッチを開けて、トラクタービームを照射する。』
アマンダとの通信を終えて、俺は操縦席のタッチパネルを操作して格納庫の空気を抜いた後、後部ハッチを開けた。
『クラーザ少尉。トラクタービームは扱えるか?』
『軍に入った時の講習でやり方を教えてもらいましたけど、実際にはやったことはありません。』
『アニエル少佐は?』
『私も同じです。ただトラクタービームを使う時はこちらの艦の自動姿勢制御が生きてないとダメだったはずです。トラクタービーム使用中に切ったらだめですよ。』
戦闘中でもないのにそんな事しないし。
『俺は講習も受けてないんで、クラーザ少尉頼めるか。アニエル少佐もサポートしてくれ。俺は隣で見て覚える。』
『了解しました。』
俺とアニエル少佐はパイロット席を立ち、クラーザ少尉のオペレーター席の両脇に立った。
クラーザ少尉はたどたどしくタッチパネルで操作を始めた。
『えーと。確か最初にハッチを開ける。あ。開いてるんでした。格納庫の仮想重力装置Off。』
あれ、格納庫に置いてある物って全部固定してたっけ?
『次にレーダーで相手艦を指定して姿勢同期開始。相手艦がディスプレイの枠内に入ったら同期ロック。牽引用トラクタービームを・・』
『ちょっと待って、そっちじゃなくて、格納用トラクタービームじゃない。』
『あ。そうでした。格納用トラクタービームを照射。』
おっ。アマンダ機が近づいてきた。ん?ウラスの方が近づいてるのか?よく分からん。
『相手の機体が完全に入ったかチェック。・・・OK。大佐。アマンダさんにランディングギアを下すように言ってください。』
『了解。』
俺はパイロット席に戻ってアマンダにランディングギアを下すように伝えた。
クラーザ少尉の隣に戻ってきても少尉の操作は続いている。アマンダ機のランディングギアは下りているようだ。
『格納庫の仮想重力装置ON。着地動作ON。』
ん?ウラスの方が動いて床面に相手機を付けてるのか?
『ランディングギア、ロック。』
格納庫の床にあんなロック用の爪が出るとこあったっけ?
『後部ハッチ閉鎖。・・・。閉鎖OK。エア注入。・・・・・・。気密チェック。OK。大佐。終わりました。』
『有難う、頑張ったな。』
俺は、クラーザ少尉の頭をポンポンと軽く叩いてやった。
あれ?クラーザ少尉は嬉しそうだけど・・。アニエル少佐の目が座ってる。
仕方ない。アニエル少佐もポンポンしとこ。後が怖いから・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます