第29話
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●クランドルン大学と惑星情報_2
俺とトァカミさんはクランドルン大学の学長室に来ている。
学長は今日の朝は教員会議があるそうで面会の約束自体が11時からだったのだが、今は11時を少し過ぎたところだ。
学長はまだ会議が長引いているようで戻ってきていないので、俺とトァカミさんは学長室の応接セットに座って雑談をしながら、学長が戻ってくるのを待っている状態だ。
しばらくすると学長室のドアが開き、学長が戻ってきた。
『いやー。会議が長引いてな、遅くなってしまった。お待たせして申し訳ない。』
『いえ。学長ご無沙汰しております。これお土産です。お菓子なんですが、甘い物は大丈夫でしたか。』
俺は学長へ挨拶し、作ってきたフルーツタルトを渡した。
『いや。すまんな。有難う。もう年だから、あまり甘すぎるとキツイがの。まぁその時はカミさんが食べるだろう。』
『そうですか。生ものなので早いうちに食べちゃってくださいね。』
『そうか。分かった。』
学長はお土産を学長室に置いてある冷蔵庫にしまい、応接セットのソファーに戻ってくる前にお茶を入れてくれて、俺達の前にあるローテーブルにお茶をカップを置いた。
『今日はトァカミ君の研究報告書と相談という事だったの。』
『はい。私の相談は後でいいので、先にトァカミさんの報告を終わらせて頂いて良いですか。』
『うむ。儂は問題ないがの。』
『それでは私の報告を先にさせ頂きます。では学長こちらが研究の報告書になります。』
トァカミさんは自分の鞄の中から簡易的に表装した紙束を机の上にだした。
なにこれ、7、8cmの厚さがあるんだけど・・。羊皮紙じゃないよね。紙だよね。
大学の助教授ってこんな報告書を書かないといけないんだ。
ごめんよ。昨日買い物に行くの逃げたと思ってごめん。
『それと、こちらが元の文書と検証データが入ったデータチップになります。』
『うむ。では説明を頼む。』
『はい。概要になりますが、ご説明させて頂きます。』
俺が説明聞いてもほとんど分からないんだろうなぁ。
ここは大人しくお茶飲んで終わるまで聞き流しとこう。
『まずは、アイーン・ダ・フンダー氏とバッカー・トーノ氏が共同で提唱された相対性理論と量子の同期通信における相違について』
『ブッフーーー!ゲホッ、ゴホッゴホッ。すっ、すいません。気管にお茶が・・。』
やば。危うく学長にかけちゃう所だった。
俺は、ポケットからティッシュを取り出して、噴き出してお茶がかかってしまったテーブルとか、ソファーとかを拭いた。
いや、ツボって頬がピクピクしてるのが分かるよ。
ただなぁ、こっちの世界では『志村さんかよ!』って突っ込んでも誰も笑ってくれないだろうな。
俺、その後はもう頭の中でアイーン・ダ・フンダー氏とバッカー・トーノ氏が踊り狂っていて、トァカミさんの言ってることが全く入ってこなかったよ。
まぁ。真面目に聞いていても知らない単語ばっかりで、意味は分からなかったと思うが・・。
その後は念仏の如く聞き流しながら、時折湧いてくる思い出し笑いを堪え、時間が過ぎるのを待った。
『これで、ご説明を終わらせて頂きます。』
トァカミさんが終了を宣言して、俺もホッと息をついた。
学長も『ご苦労様でした。』と言って、トァカミさんが渡した報告書の表紙に日付とサインを書いて自分の執務机に置いた。
『それで、ユースケ君の相談とは何かの。』
『はい。ご存じの通り俺は故郷を探していんですが、何分その辺の知識がなさ過ぎて、まずは大まかにでも目星を付けたいと思いまして、クランドルン大学の先生方に教えを乞えないかとご相談に上がりました。』
学長は『ムー。』と考え込んでしまった。
『学長。無理でしょうか。あ、授業料などが必要なら言ってください。』
『いや。無理ではない。ただの、あの事故から儂も調べてみたのだが、儂らが把握してるのは帝国の図版内の情報ばかりで、その外となると友好国であるイルミナ商政民主連合はまだ良いのだが、国交のないフュダ・カーム星系以降のフュダ王国や帝国辺境のゴラン星系の先にある星系群は敵国で情報さえない。後は観測データでの憶測で生物がいるのではないかと考えられている惑星になるが、その数はそこそこの数が見つかっているが距離があまりにも離れていたり、航行に難のある場所も多いと聞く。それと恒星と違い惑星はその存在自体を発見するのが難しいため、実際には見つかっていない惑星も多いのではないかという事での。授業をするにしても複数の学科から部分的に切り取って混合で行わねばならぬからの。悩ましい限りだの。』
『学長。俺は目星が付けられればいい程度に考えてますので、帝国の図版外で、現在、生物の生息できる可能性がある惑星が何という名前で見つかっていて何処にあるのかが知りたいだけです。』
『なるほど。それでは宇宙形成学のギュンター君に頼もうかの。いや、やっぱり、宇宙生物学のクラリッサ君にも頼んだ方が良いように思えるの。』
なんか、学長がまだゴニョゴニョ言ってるが、そんなに一遍に教えてもらっても頭に入らなぞ。
『とりあえず、そのお二人にお願い出来ますか。また、情報が足りないと思ったらご相談させてください。』
『そうかぁ。ではそうするかの。』
『それで、費用なんですが、お幾ら位掛かりますか?』
『いや。費用は必要ない。今回は特別講習と言う形で学生達も受講させてしまおうと思っている。ん。学生達と一緒では嫌か?』
『いえ、全然大丈夫です。それに有難う御座います。』
『分かった。ただの。特別講習は告知等もあるから2週間くらい後になってしまうが、それでも宜しいかの。』
『はい。大丈夫です。』
『では、開催の日程が決まったら連絡するからの。』
『よろしくお願い致します。あ、すいません。もう一つ相談と言うか確認と言うかあるんですけど良いでしょうか。』
『ほう。なんじゃろの。』
『大学を通してカジテ助教授に仕事の依頼をしても大丈夫な物でしょうか。』
『通常は問題ないのだがの。ただ、奴は今お主らの件で医療には関われないぞ。』
学長、渋い顔してるな。
『はい。分かっています。実は子供達の護衛のために護衛とメイドの兼用の生体アンドロイドが作れないかと思っていまして。俺も探しては見たんですが、護衛用のロボットはあるんです。メイド用の生体アンドロイドもあるんです。だけど護衛とメイド兼用の生体アンドロイドがないんですよ。』
『なるほど。ただ、それは当たり前だと思うがの。生体アンドロイドはロボットほどパワーが出せんでな。護衛には向かんと思うぞ。』
『はい。最悪子供達をシールドで囲って現場を脱出出来れば問題ないです。』
『分かった。検討して伝えておこう。』
『有難いです。それで報酬なんですが、成功報酬で1000万Gをお支払いいたします。ただ材料費は見積もりを頂いて性能と比較して検討させてください。実際にお願いする場合は別途材料費をお支払いします。』
『また、太っ腹だの。』
今度は驚いてる。まぁそうか。俺こちらに来て半年位しかたってないし、そんなにお金持ってるなんて驚くか。
『そうですね。でも彼のした事は倫理的に問題が有る事は確かですが、ただ技術者であれば誰もが夢見る事でもありますから分からないでもないんですよ。実際にやる人は稀だと思いますが・・。』
『そうだのぉ。しかし、ユースケ君は技術者だったのか?』
『そうですよ。情報端末で動作する娯楽用のアプリを作って販売してました。まぁ。販売自体は別の人がやってたんですが・・。』
『その娯楽用のアプリ?とはどんな物かの?』
『そうですよね。俺もこちらの世界に来てから一度も見た事ないですから分からないですよね。まぁ。娯楽用アプリは種類が沢山有ってはなかなか説明が難しいですが、一例を上げると情報端末上の通信機能を使いながら、こちらの航宙艇傭兵組合の仕事を仮想的に体験するような物がありましたね。その仕事と言うのが宇宙海賊の討伐だったり、宇宙怪獣の討伐だったり、荷物運びだったり多岐にわたってましたね。それでアプリ内の仮想の通貨を報酬に貰って、自分の武器を強化したりして、次にはもっと危険度が高く高報酬の依頼を受けるとか。ww。そのまんまこちらで現実の航宙艇傭兵組合員ですよね。ただまぁ、依頼に失敗してもアプリの中の仮想世界なので実際にやっている人は死にはしないですけどね。』
『なるほどの。疑似体験が出来ると言う訳か。』
『そうですね。その他にも遠隔地にいる人とカードゲームが出来るものや頭を使ってパズルを解くものや色々ありました。』
『なんと、それは良いの。実際に会っていない状態でカードゲームが出来るとは面白いの。』
『ww。なので今、娯楽用アプリを作るためにQuantum言語を勉強中です。』
『それは良いの。遠隔地とカードゲームが出来るものが出来たらぜひやってみたい。』
それから、学長と雑談をしていたら、すっかり昼の時間を過ぎてしまって、慌てて大学の学食で昼を食べてホテルに戻った。
次の日、前日遅くまでQuantum言語の勉強をしてしまって起きるのが遅くなってしまった。
手始めにカードゲームの作成を開始してみたものの、やっぱり、言語自体が難しいし、通信を疑似的に同じパソコン内でやってるから本当に合ってるか分からない。
やっぱり、サーバー代わりにもう一台パソコン買おうかな・・。
あぁ。今日は夕方から陛下と夕食か。
俺がベットの中でまどろんでいると、コンコンコンとドアをノックする音が聞こえる。
なんだろ。陛下の所に行くには早いよな。眠いし、無視したらダメかな。
ベットの中でうだうだして居たら、ドアがガチャりと開いてアニエル少佐とホテルの従業員が入ってきた。
俺がびっくりして目を丸くしていると、アニエル少佐が涙目で叫ぶように言う。
『なんで起きてこないんですか。情報端末で連絡しても反応が無いし、心配したんですからね。』
見ると俺の情報端末が不在着信表示になっていた。今何時なんだろう。
『すまん。昨日夜遅くて寝過ごした。』
アニエル少佐はホテルの従業員に謝って帰ってもらっていた。
と言うか、アニエル少佐は帰らないの。俺、布団の中にいるけど、今Tシャツとパンツなんだけど・・。
『心配させた罰です。今日は私に付き合ってもらいますからね。』
えー。俺、陛下の所に行く前までうだうだしたい。
『なんで、嫌な顔するんですか。皆とは買い物に行ったんですよね。私とだけ行ってくれないなんて泣きますよ。』
『分かった。行く。付き合うから。一旦部屋を出てくれない。俺今下着しか着てないから。』
『絶対ですよ。絶対ですからね。』と言いながらアニエル少佐は部屋から出て行った。
それから、行きましたよ。ショッピングモールへ。
で、5軒のお店に行ってそれぞれ試着して、1軒目のお店で買うのやめて・・。
女性用の下着店に俺を連れ込んでどっちが良いか聞かないで・・。超アウェーなんだから・・。
コスメ店・・。俺あそこのフードコートでアイス食べてたらダメ?
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