第25話

2-20

●惑星カレドナと定食屋


次の日、俺は朝から格納庫の掃除に勤しんでいる。

マスクと手袋に帽子を付けて、タオルを首にかけ、デッキブラシで格納庫の床を磨いている。

ゴーグルも欲しかったが、あいにく持っていないので付けていない。

まったく、小さな水たまり位しか漏れ出ていないのにすごい匂いだよ。

今は格納庫のハッチを開けて、大きな扇風機を回して換気もしているのに一向に匂いが薄れない。

床用の洗剤を撒いて、一生懸命デッキブラシで擦っているんだが・・。

あぁ、切実にファブ○ーズ的な匂い消しが欲しい。


ただまぁ、ジーコ男爵の依頼は完了となったし、海賊船4隻撃破したので、多少お金にはなったかな。


昼近くまで掃除を行い、だいぶ匂いも薄くなったと思う。

鼻が慣れてきたとは思いたくない・・。


こんな状況の艦内で俺は昼食を食べるのが嫌だったので外で外食する事にした。

田舎のこの星だが、一様宇宙港の周りにはお店やホテル等が立っている。

俺はアニエル少佐を誘って、乗艦のウラスを施錠し宇宙港の外に出た。


メイン道りをふらふらしながら、食事出来そうなところを探す。

お昼時という事もあり、食事処は何処もいっぱいだ。

と言うか絶対的に食事出来る店が少ない。


そんな中、メイン道りの端っこに一軒の食事処を発見した。なんか人が居ないな。

その食事処はお客が入ってないようなのだが、俺的には懐かしい匂いに引かれて中を覗いてみた。

やっぱり、閑散としている。店主も暇そうだ。

看板を見るとバナスと店名があってその下に「具とパスタ入りスープ」。なんじゃこりゃ、NIS○INのアメリカ販売戦略か?


アニエル少佐にここで良いかことわって、俺はその店に入った。

店主が『いらっしゃい。』と声を掛けてくる。

壁に貼られたメニューを見ると『具とパスタ入りスープ定食』『豚のニンニク生姜焼き定食』『牛の舌の網焼き定食』『エビ入り刻み野菜のトロトロ焼き定食』『鶏の生卵掛けライス定食』『生魚の切り身定食』と色々あるようだ。

始めはスープパスタ屋かと思ったが、定食屋のようだ。

色々あって、どれにしようか悩むな。

アニエル少佐はメニューを見て口の端がピクピクしてるが、なんだ、どれを注文するか悩んでいるのか?

あ、メニューの一覧の一番端に『単品も出来ます』って書いてあるじゃん。


アニエル少佐に頼むものが決まったか聞くと、『たっ大佐と同じもので・・。』と言うので、手を上げて店主を呼び注文をした。

『具とパスタ入りスープ定食を2つと単品で牛の舌の網焼き2つ』

店主は『あいよー。』と言って厨房に引っ込んでいった。なんか嬉しそうだ。


俺は鼻歌交じりに待っていたが、アニエル少佐は顔色が悪く、なんだか気分が悪いみたいだ。

いや、しかし、こんな所で醤油と米に出会えるとは、うれしい限りだ。

米はあるっぽい話を聞いていたが、醤油は皆無だったからな。


そうして待っていると店主が最初に『具とパスタ入りスープ定食』を持ってきた。

もう面倒だからラーメンでいいか。

お、スープが真っ黒だ。富山ブ○ックか?

上にネギとチャーシューではないな、豚肉を醤油ダレか何かに漬けたのを焼いたものだな。

しかし、ライスも付いて600Gは安い。


俺は真っ黒スープをスプーンですくって飲んでみる。

うん。やっぱり、富山○ラックだ。鳥ガラ醤油と魚介の味がマリアージュ。うまい。


俺が麺をすすろうとしていると、店主が『牛の舌の網焼き』を持ってきた。

店主は『お待ちどう』と言って、テーブルに置いて行った。

これも、醤油ダレで食べるのか。『牛の舌の網焼き』付いてきた小皿に黒い液体が入っている。

フォークにちょっと付けダレを付けて舐めてみた。これポン酢かな。柑橘系の味がする。


俺は牛舌をフォークで刺し、タレを付けて食べてみた。

なるほど、塩レモンも良いけど、これもなかなかいいな。


と言うか、アニエル少佐、全然食べてないんだけど。

なんか、料理と俺を交互に見てるんですが・・。

そんな見られても、俺こんな所で「あーん」しないからね。恥ずかしいし。


やっぱり俺は箸が欲しいな。ラーメンをフォークとスプーンで食べるの違和感がすごい。食べずらいし・・。


そういえば、佐井田さん達にこの話したら絶対連れてけって言われるだろうな。


俺はアニエル少佐があまりにも食べないでいるので『冷めちゃうと美味しくなくなるぞ。』と言って促した。

アニエル少佐はやっとスプーンを持ち上げてスープを掬い、恐る恐る口に運んでいる。

やっぱり、初めて真っ黒いスープ飲むとなるとこうなっちゃうのかね。

一口スープを飲んだアニエル少佐は目を見開き、ガンガンスープを飲んでるんですが・・。

いや、そんなにスープばっかり飲んだら麺が残っちゃうからね。


そのアニエル少佐と言えば、牛舌を繁々見つめた後、そっと俺の方に突き出してきた。

牛舌の形状がダメだったようだ。美味しいのに・・。


やっぱり、この店初心者には厳しいよな、見た目的にも初見じゃあれな物ばっかりだし。

地球でも日本人以外は難しい食べ物バッカだもんな。


食べ終わった俺は店主に『店主。お勘定。』と手を上げた。

店主は決済用の端末を持って厨房から出て来る。

食べ終わった俺たちの皿を見て満足そうだ。

俺は、情報端末を決済端末にかざしてピッとした。


店主は『まいど』と言って厨房に戻ろうとしたところに俺は声を掛けた。

『店主、このライスと黒い液体の元ってどこで売ってるんだ。』

店主は振り向いて、『ライスと豆醤のことか?』と聞いてくる。

俺が『そうだ。』と言うと、店主は『この星の総合市場で売ってるぞ。ただ誰も買うやつはいないがな。』と言う。

『この豆醤はうちの実家で作ってるんだがちっとも売れなくてな、少しでも使ってやろうとこの定食屋を開いたんだがこっちもさっぱりだ。俺はうまいと思うんだがなぁ。』

俺は『そうか。有難う。俺もうまいと思うよ。ただな、これは初心者には無理だろ。見た目がなぁ。俺は故郷に同じような料理があって食べなれてから良いんだが、彼女なんてスープ飲み始めるのに躊躇して何分も掛けて、やっとだぞ。飲み始めたらすごい勢いだったからうまかったんだろ。』

アニエル少佐は恥ずかしかったのか、頬を染めてそっぽ向いている。


『店主。ちょっと厨房借りていいか。』

『あ、あぁ。暇だし良いぞ。』


俺は、店主に豚のバラブロックとネギ、生姜、ニンニク、ニンジン、干しシイタケ、丸鶏を分けてもらい。

まず、フライパンで豚のバラブロックの表面をこんがり焼いて、店主の作ったラーメンスープを大き目の鍋に入れて焼いた豚のバラブロックを投入し落とし蓋をして自動調理器に投入した。

次に丸鶏が入る少し大きめの鍋に鶏を入れひたひたより多めに水を張り、洗ったネギ、ニンジン、干しシイタケを投入、生姜はスライスし、ニンニクはすり下ろして入れた。

干しシイタケはホントは水で戻さないといけないんだけど、耐熱の器に水を入れ自動調理器で煮立たせて戻したことにした。

丸鶏の鍋も自動調理器に入れて圧力をかけて加熱する。この自動調理器、圧力掛けた状態で灰汁取りが出来るモードある。どこのメーカーのだろ。


待つこと20分、次は豚のバラブロックを煮ていた鍋の方のお自動調理器で圧力を掛けながら常温まで冷ましていった。

圧力を掛けながら常温まで冷ますなんて普通は出来ないよね。手順間違えると圧力鍋の蓋が開かなくなるからね。

丸鶏の鍋は自動調理器から取り出して、コンロにとろ火でかけ放置する。


沸騰した湯にパスタを投入し茹で3分間まつ。

その間に、豚のバラブロックを煮て1/3位になった煮汁を、スプーンで5掬いラーメンの器に入れる。

丸鶏の鍋から大き目のお玉に煮た出汁具材が入らないように掬い、1杯分ラーメンの器に入れる。

パスタはほんの少し芯が残る位で上げて湯切りをし、ラーメンの器に入れる。


豚のバラブロックをスライスしてラーメンの器に盛り、ネギを刻んでトッピング。

うん。スープに入ってる麺も見えるし、こんなもんだろ。


3人前作ってテーブルに運び、店主と一緒に食べてみたが、まぁ、素人が作ったにしては良く出来たと思う。

店主が『お前、料理人だったのか?』と聞いてくるから、『いや、違う。ただの軍人?傭兵だ。』と答えた。

『俺の故郷ってさ、普通の人がこれ位の料理作っちゃう所だったんだよ。だから、料理人は物凄く大変でさ、もっとうまい料理を作れないと直ぐに潰れる所だったんだよ。簡単に言うと俺の故郷の主婦達って、沢山ある貴族領のご当地料理なんかも自動調理器も使わず複数領のご当地料理作れてたし。w』

『なんだよ。そこ料理人殺しの里か。ははは。』

なんか、アニエル少佐が冷や汗垂らしてるんだが、なんでだ?食べすぎ?

『んでよ。このパスタ入りスープ。この店で出して良いか?』

『いいぞ。あ、そうだ。一つ忠告。豆醤って煮こんでるだけなのに、どんどん黒くなっていくからな。あと一つ、このスープももっと研究すればもっといい物になるはずだから、美味しくなるように研究してみて。』


『分かった。有難う。また来いよ。それまでにもっとうまいスープ作っといてやる。はははは。』

『了解。楽しみにしているよ。ただ、俺はあっちこっち行ってるから、直ぐに来られるかは分からないけど必ず来るよ。』


『じゃあな。』と言って店を後にし、総合市場で豆醤と米を買って船に届けてもらう事にた。豆醤と米は明日届くそうだ。

そして、俺たちはウラスに戻ってきたが、まだ匂いが取れていなかった。臭い・・。












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