第22話

2-17

●謝罪と寿命


◆----------

提督との通信を終えリビングに戻ってくると、クラーサ少尉が俺に抱き着いてきた。

『あのお姉さんが意地悪を言うの。』

クラーサ少尉が指したのは、アニエル少佐だった。


アニエル少佐に話を聞くと、子供達が俺とお風呂に入ると言っていて、それを聞いてクラーサ少尉も『私もパパとお風呂入る。』と言い出したそうだ。

いや、それはまずいでしょ。

『あのお姉さんが、あの子たちは良いのに私はダメって言うの。』

あなた精神的に幼児化してるけど、体は大人だからね。

こんな時、なんて言ったらいいの。俺。

『こっ今度な。また今度。ほら、皆で一緒に入ったらお風呂がいっぱいになっちゃうだろ。順番。順番でな。』

アニエル少佐が呆れた顔してるが、呆れてるんだったら、正解の回答を教えてくれ。お願い。

『分かった。じゃあ、今日は一緒に寝て。』

『きょ今日か。今日はな。今日は・・。今日はこのお姉さんと寝るからダメ。』

アニエル少佐。なんで顔赤くしてモジモジしてるの。方便だからね。方便。嘘とも言う。

クラーサ少尉は『じゃあ。明日ね。約束だよ。』と言って、たたたー。と行ってしまった。

しっしまった。明日どうしよう・・。

俺は困って、アニエル少佐の方を見たら、まだモジモジしてるんだが、いや、今夜どうしよう・・。


◆----------

ジーコ男爵に夕食に呼ばれ、食堂で皆でそろって食べている。

男爵がお誕生席に座った貴族的なあれだ。

普段は人数が少ないのでこの食堂は使っておらず、従業員、まぁ。執事さんやメイドさん達と一緒にこじんまりした食堂を使っているそうだ。

それと、メイドさんはそのほとんどがアンドロイドだそうで食事はしないそうだ。

田舎なので雇える人がおらず、それと一度購入してしまえばメンテナンス費用の方が人に払う賃金より安く上がるらしい。

ただ、貴族としてはあまりいい顔はされないみたいだが。


凄いよな、最初、アンドロイドと人の見分けが付かなかったからな。

俺もアンドロイドのメイドさん1台買って、いろいろ調べてみたい。

・・言っておくが、Hな事しようとしてないからな。

どんなスペックしてるんだろう。プログラムの改造とか出来ないかな。

各部のパーツとか交換できるのだろうか。

俺の左腕みたいな機能が付いたパーツに交換して、護衛代わりに置いておきたい。

ほら、佐井田さんや子供たちの護衛を頼みたいし。

あと、惑星エイメーヤの拠点にも置いておきたい。

折角新しい屋敷を建てたのに放置して帰ってきたら埃と蜘蛛の巣だらけっていやじゃん。


しかし、このサラダの野菜うまいな。

やっぱり、自然に出来た野菜と人工的に似せて作った野菜は違うんだな。

味的には大きく違う訳でもないんだけど、やっぱりうまい。

何が違うのか聞かれると、分からないんだが・・。

収穫されたばかりだからか?

それともジーコ男爵の作った野菜が特に美味しいのだろうか。


頭を捻りながら、野菜を食べていた俺を見とがめたジーコ男爵が不安そうに聞いてくる。

『うまくなかったか。』

『いえ。逆です。なんでこんなに美味しいんだろう。何が違うんだろうって考えてしまって。すいません。』

『ワハハハ。なんだ、びっくりしたぞ。そりゃ、儂らが気合を入れて一生懸命つくったからな。』

ジーコ男爵は一転嬉しそうだ。

でも、気合では無い気がするんだが・・。

続けてジーコ男爵は言う。

『でもな、家の食事は天然物ばかりだから、こっちもちゃんと飲んで置きなさい。』

と言って、フルーツジュースの入ったコップを持ち上げた。


なんのこっちゃ?これタダのフルーツジュースじゃないってこと?

更に俺が頭を捻っていると、トァカミさんが椅子をぶった押しながら立ち上がった。

皆何事かと驚いてトァカミさんを見るが、なんか青い顔してるし。

ジーコ男爵も普段冷静なトァカミさんの奇行にびっくりして声を掛ける。

『どうしたんだ。君らしくないな何か有ったのか。』

『いえ。私たちは日常だったので、忘れてましたが。雄介君、すまん。』

トァカミさんが訳も分からず謝ってくる。

聞けば、フードカートリッジから自動調理器が作り出す人工的に作られた食事には添加物が入っており、病気の予防として注射?したナノマシンがその添加物を獲得すると人の細胞を改造して寿命を伸ばすのだそうだ。

改造と言うと響きが悪いが、要は細胞の再分裂カウンターであるテロメアの修復を行うという事らしい。

1、2回接種する分には影響はほとんどないため問題ないのだが、もう半年近く接種し続けている俺たちはほぼ細胞の改造が終わっているとの事だ。

外的要因によって細胞が死滅する事もあり、細胞自体も新たな細胞に入れ替わりがあるため、添加物を接種し続ける必要がある物の、理論的には永遠の命が得られたことになる。

ただ、実際には400年前後で老け始め、500年前後で亡くなるらしい。こちらの世界でもなぜそうなるかは、まだ研究中だそうだ。


なんか、佐井田さんは単純に嬉しそうにしているが、俺達が地球に戻れたら由々しき事態だ。

個人的には若いまま長生きできるので良いとは思うが、地球の、いや日本の平均寿命は80歳前後、周りの知り合いやその子供達、孫達が老化で亡くなっていくなか、老いもせず生きていく事が可能か。

いや、無理だ。

たとえ老いなくとも食べ物を食べる事はしなくてはならない。

そうなると仕事をし金銭を得るか自分で育てるかして食べ物を調達する必要がある。

しかも、自分ですべての食べ物を育る事は不可能だ。

それこそ、ここのように広大な土地かあり、農作業用のロボット等があれば出来るかもしれないが、今の日本にそんな物はない。

そうなると、どうしても他の人と関わらなければいけなくなる。

その人達が、何年たっても老いない俺達を見たら、多分、神様扱いか化け物扱いだろう。

神様扱いだったらまだしも、化け物扱いだったら最悪殺される。

研究のためとか言って、監禁されて実験動物として殺されるのは絶対にいやだ。

でもって、神様扱いなんてほぼ無いだろう。


佐井田さんは、きっと八尾比丘尼伝説なんて知らないんだろうな。


八尾比丘尼のお話って色々あるらしいが、共通点は人魚の肉を食べて不老不死を得ると言う物、最後は人の世が嫌になって洞窟に入り、今でも生きてるなんて話もある。

八尾比丘尼も2度結婚し子供を得ているが、一度目の夫も子供も年老いて亡くなって住む場所を変え、二番目の夫も子供も自分より早く老いて亡くなっていく様を悲しく思い尼になり、同時に周りの人間に気持ち悪く思われ、各地を転々としていたそうだ。


人間とは、人間に近い形を持ち自分と違う性質をもった物を嫌う傾向がある。


大雑把に言うと、地球世界では人型のロボットで人に近い皮膚感を再現しても違和感を感じる。

これが、こちらの世界のようによく観察しないとロボットであることが分からなくなればこの違和感もなくなるのだろう。

それとは反対に金属フレームで金属のボディで人と同じように動いていても、機械が仕事してる的な感覚で違和感を感じない。

まぁ。威圧感はあると思うけど、ほら、建設機械なんかが近くで動いてるとちょっと怖いあれ。


細かく言うと、人間同士でもある。

自分と違う特徴のあるマイノリティを嫌う。

特に悪い事をしている訳でもないのに・・。

不思議なもので、マジョリティだったら容認される。

道徳的に多少問題が有っても・・。


昔、日本でアニメ等の趣向を持った人をオタクと呼び始めたころ、馬鹿にされいじめられて自殺した子もいたそうだ。

今はかなり認められてきて、と言うか海外でアニメ等の趣向を持った人が増えたんで、そこまでではないけどな。


話変わるけど、日本人てなんで海外で認められた物に弱いんだろ・・。

地球温暖化なんて勘違いしてる人多いよね。大昔、九州あたりは亜熱帯だったて知ってた。

なんで青森あたりに古い遺跡が沢山あるか分かるよね。住みやすかったら。

まぁ。現代の人工物等、他の要因もあるとは思うが・・。


話を戻すと、俺達が今の状態で地球に戻ると確実に気味悪がられるってことだ。

今更、添加物の接種を止めても、多分200歳位までは死なないだろうし、元には戻せないのでもう仕方ないが・・。

それに俺は色々な事してみたいから、出来れば長生きしたいし。


地球に戻っても、俺は両親に生きてる事が報告できれば問題ないし、ただ、佐井田さんはどう考えているか分からない。

そう考えると、子供たちが一番かわいそうかもしれない。

後で、佐井田さんには説明しておかないとダメだな。今も嬉しそうにしてるし・・。


◆----------

次の日の夕方、俺が風呂に入って頭を洗っていると、急にドアが開きマッ裸のクラーサ少尉が飛び込んできて、『今日は私の番!』と宣言している。

俺はびっくりして立ち上がり、背中から壁に両手を広げて付いた。

続いて、アニエル少佐が大きなバスタオルをもって飛び込んできて、クラーサ少佐を取り押さえた。

アニエル少佐は般若の形相で俺に問う。

『見ましたか?』

いや、見ちゃったけど、見たって言えないよね。それ。

俺はフルフル頭を振ったら、目にシャンプーが入り、痛いって。

微かに見えるアニエル少佐は視線が下がり、顔を真っ赤にしている。いや、鼻血出てない?よく見えないけど・・。

アニエル少佐はクラーサ少尉をがっちり捕まえたまま、ふらふらしながら出て行った。


俺が髪の毛をお湯で流して脱衣所に出ると、バタバタ藻掻いているクラーサ少尉を縦四方固めで抑え込みながら、鼻血を出して倒れているアニエル少佐がいた。





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