第21話

2-16

●シュナジーコ星系とド・ジーコ男爵


◆----------

大佐がカムミムさんの話を駐留軍司令官と楽しそうにしている。

何だろう。またモヤモヤする。


私はあれから、大佐が他の女性と話していたり、他の女性の事を話していると、なんだかモヤモヤする様になってしまった。

そして、巨漢の男に捕まった私を助けてくれたあの時の事がフラッシュバックする。

厳しい目で敵に相対し、魔法のような技で倒すシーンが何度も思い出される。

この事はカムミムさんや佐井田さんは知らない。なんだか私達だけの秘密のようで少しうれしい。

私を胸に抱いて『アニエル少佐、大丈夫か。』って聞いてくれた時の事を思い出すと胸がドキドキして顔が熱くなる。


私を見ていてほしい。私の話題を話してほしい。

何だろうこれ・・。こんな思いは初めて・・。



◆----------

俺達は、武器の封印と地上への降下の申請が許可され、地上の宇宙港に降りてきた。


駐留軍司令官 カレド・クラナム大佐が地上に降りるなら載せていってほしいというもんだから、地上降下の同乗を許可した。

なんでも、カレド・クラナム大佐は今コロニー型宇宙港と地上の宇宙港を行ったり来たりして、今は両方の仕事を熟してるんだって。

定期便だと結構な時間待たないといけないらしく効率が悪いそうだ。

クラナム大佐、すげー。俺だったら、3回往復したら、後は嫌になって誰かに任せちゃうかもしれない。


地上の宇宙港で、ボーディングブリッジが掛けられ戦闘艦ウラスの扉が開くと、クラナム大佐は足早に下りて、小走りに走りながら『有難う』と手を振り去って行った。

なんか、仕事が出来る男って感じで恰好いい。ってあれ?俺ってこんな性格だったっけ?今まで仕事が出来る男が格好いいなんて思ったことなかったような・・。


少し待っていると、カムミムさんのお姉さんで次期当主の奥さんであるアムミムさんが迎えに来てくれた。

やっぱり、ここでも自動車っぽいワンボックスカーのような乗り物で迎えに来ている。

なんで俺がいつも「自動車っぽい」って言っているかというと、タイヤは付いてるんだけど、走り出してある程度スピードが出て来ると少し浮いてタイヤで走ってないんだよね。形的には自動車なんだけど・・。。


それと、迎えに来たのが次期当主の奥さんであるアムミムさんが来たのも驚いた。

普通は貴族の女性って家の中からあんまりでないで、外に出る場合でも大概は運転手に運転させる。

稀に旦那が運転して外出される方も居るらしいが、自分で乗り物の運転なんかはしない。

これも地方あるあるなのだろうか。


俺達はアムミムさんが運転する車に乗り込み、ジーコ男爵邸に向かった。



宇宙港の周りには家や商店などがあったが、車で走り出すと直ぐに家が無くなり、畑ばかりが続いている。

ここ一様領都だよね。

大学の夏休みに行った北海道の畑の中の一本道みたいにずっと畑だ。あ。牧場がある。


すると、まだ家についていないのに車が止まった。

アムミムさんは運転席から降りて、畑に向かって叫んでる。

『父さん。お客様が付いたわよ。』


すると、畑の中で作業していた麦わら帽子の男性が立ち上がり、『おう。今行く。』と言って、タオルで汗を拭きながら近寄ってきた。

『カムミムお帰り。皆もよく着たな。』と言って出迎え?てくれた。

アムミムさんが『父です』と紹介し、トァカミさんは『お久しぶりです。』挨拶していた。

ジーコ男爵は俺達と一緒に車に乗り込み、再度ジーコ男爵邸に向かって出発した。


だんだんと木々が固まって生えている場所に近づいて来た。

よく見ると、木々の間から家がちらちら見える。

ジーコ男爵邸は防風林に囲まれた家なのか。それにしても囲んでいる木々の数が多くかなり広いような気がする。


ジーコ男爵邸に付いた俺たちは車を降り、ジーコ男爵の家を改めてみた。

いや、でっかい家だなぁ。屋根は茅葺きか?茅かどうかは分からないが茅ポイ草を重ねた屋根だった。

なんか、実家を思い出す。実家は既に姉が継いでいるし、何年も帰ってなかったなぁ。

実家に帰ると親父に稽古させられるし・・。


アムミムさんの案内でジーコ男爵邸に入り、リビングに案内された。

あら、リビングは日本の田舎の屋敷のとは違い、こちらで一般的な部屋なのね。とは言っても家具や壁紙等は貴族ぽくはあるけど・・。

ただ、リビングから見る景色は、広い庭があり、その先はずっと向こうまで続く一面の畑、地平線を覆うように生える木々、うちの実家も田舎だったが山間部だから田んぼの向こうは山があって、地平線なんて見えなかったな。

なんか、長閑な風景を見てたら、田舎のお饅頭が食べたくなった。

ばあちゃんが生きてた頃は、重曹入れたクリーム色っぽいお饅頭をよく作ってくれたっけ。


俺たちは改めてジーコ男爵に挨拶し、家族を紹介された。

ジーコ男爵の奥さんのサリミムさんとアムミムさんの旦那さんでマスォンさんだけだが。

アムミムさんにはまだお子さんが居ないようだ。


俺たちは、一旦お借りした部屋に荷物を置きリビングに戻ってくると、ミナちゃんとあみちゃんが遊びたいと言ってきた。

『あたしお外であそびたい。』『あたしも。あたしも。』


ジーコ男爵が『子供はかわいいのぉ。早く孫の顔が見たいもんだ。』と言ってアムミムさん達にプレッシャーを掛けている。

それに対して、サリミムさんが『いいのよ。私達だって遅くなってから子供を授かったんだから。気にしないで。』と助け舟を出してる。ほっこりするなぁ。


ミナちゃんは『あたし雄介と遊びたい。』と言ってくるが、俺、お饅頭作りたいんだが・・。

『俺、お饅頭作りたいんだ。ごめんね。』

『やだ。雄介とお外で遊びたい。』

『ミナちゃんとあみちゃんはお饅頭食べたくないの。』

『食べる。でも遊びたい。』

見かねた佐井田さんが、子供たちを説得し、子供達と一緒に庭に出て行った。


さて、お饅頭作るかね。

ジーコ男爵に厨房を借りて、サツマイモっぽい芋を貰って、芋餡を作り、薄力粉と重曹、溶き卵、砂糖、水を混ぜて生地を作る。

生地で芋餡を包み、丸く形を整えた。

レシピはネットで落としてきたもので、ばあちゃんの物ではないので、昔食べた物とは少し違う。

ばあちゃんが亡くなる前に聞いておけばよかったと、今は後悔している。

清潔な布巾を水に濡らし硬く絞って薄い木の板に掛け、自動処理器のスチームオーブン機能で蒸しあげた。


◆----------

俺が出来立てのお饅頭をお皿に乗せてリビングに戻ってくると、なんだか知らないが子供達が『雄介。たべさせて。』『あたしも。』と言ってくる。

『何だよ。急に赤ちゃんになったのか?』

『いーの。わたしつかれてるの。』

・・どんな言い訳だよ。

でもなんだか怒ってる見たいだ。遊んでやらなかったからか?

皆なんだか他人事のように微笑ましい顔で見てくるんだが・・。仕方ない食べさせてやるか。

『はい。あーん。』と言いながら、ミナちゃんとあみちゃんに順番にお饅頭を食べさせてやった。


俺が子供達お饅頭を食べさせていると、クラーサさんがそれを静かに凝視していたが、突然『パパ。パパ。あたしにもあーんして。』とクラーサさんが言い出した。

『へっ?』

俺は突然の事に驚いて、他の皆の方を見てみたが、皆も驚いて小さくかぶりを振っている。

『パ~パ。あ・た・し・に・もあーん!』

『わ。分かった。ちょっと待ってね。』

俺はお饅頭を1/4に割って、待っていたクラーサさんに『あーん』と言いながら食べさせた。

クラーサさんは子供のように満面の笑顔を浮かべてお饅頭を食べている。

俺が『おいしいか?』と聞くと、『うん。おいしい。もっと頂戴。』と子供のように返してきた。

なんか、アニエル少佐が怒った顔して睨んでるけど、俺のせいなの・・。


この子、最初から少し様子がおかしかったが、やっぱりか。


アニエル少佐に俺の分のお饅頭を渡しながら、小声で『少佐。これをもって俺の部屋で待っていてくれ。あ。お茶もお願い・・。』と言って、少佐には先に俺の部屋に行ってもらった。


クラーサさんにお饅頭を食べさせ終えて、『お仕事の話しをしに行くから、ここで待っていなさい。』と言い、トァカミさんに何かあったら連絡してくださいと言い残して、借りている俺の部屋に向かった。


部屋に入ると、アニエル少佐がサイドテーブルにお饅頭とお茶を置き、そわそわ、もじもじしているんだがトイレか?早いとこ話を終わらせよう。

アニエル少佐に椅子をすすめ、俺はベットに腰かけた。

『アニエル少佐も気付いたと思うが、クラーサさんは精神的におかしくなっている。』

アニエル少佐が『はい』と首を縦に動かし同意した。ただ、残念な顔してるのはなんで・・。

『多分、俺たちには言ってないが、あそこの連中にもっと酷い事を見せられたんだろう。』

俺はお饅頭を一口食べ、お茶を飲んで一息いれ、『もしかすると、セナミノフ子爵はもう亡くなっているかもしれないな。』と言った。

アニエル少佐は顔を青くしている。

俺はクラーサさんが父親が殺されるところを見せられたんじゃないかと思っている。

『アニエル少佐。俺はこれから提督に今回の件の顛末を聞いてみる。クラーサさんの事お願いできるか。』

アニエル少佐は『了解しました。』と頷いてくれた。

俺は残りのお饅頭を食べ、もう1つあった、お饅頭にかぶりついた。

アニエル少佐が『あっ。』と言って、右手が少し持ち上がったが、直ぐに肩を落としていた。

あれ。このお饅頭、アニエル少佐の分だったのか?リビングでも2つ位食べてたような気がしたが、悪いことしたな。

俺はお茶を飲みながら、『すまん。アニエル少佐の分だったか?』と聞いた。

アニエル少佐は『違います!』と言って立ち上がり、お饅頭が乗っていたお皿と俺がまだ飲んてるお茶の湯飲みをひったくって、出て行ってしまった。

なぜに怒ってるの?俺まだお饅頭が1/3位残ってるんですが・・。


俺は残っていたお饅頭を口に放り込み、鞄から情報端末を引っ張り出した。

通信機能を起動して、登録してある一覧から提督の番号を選択した。


提督は通信が繋がると直ぐに出てくれた。

『クサナギ大佐か。どうした。』

『いえ。報告します。少し前に惑星シュナジーコに到着しました。それともう1つ、救出したクラーサ少尉ですが、精神的に病んでしまっているようです。』

『・・そうか。』

『提督は原因を何かご存じですか。』

『うむ。気持ちのいい話ではないが、宇宙港の指令室で子爵が映った映像データが見つかってな。どうやら子爵は結構な量の麻薬を摂取させられたようで、本人はまだ生きているがあれはもう救いようがない。それで映像に映っていたのは子爵が鉈を振舞わして自分の妻と長男と次女を殺しむさぼり食っている物だった。』

『うっ、うえ。』俺は想像しただけで、さっき食べたお饅頭が出てきそうになった。

『幸い長女は既に嫁に出ており、次男は屋敷の使用人にこっそり避難させられ無事だったが、屋敷は子爵が鉈で妻と子供達を滅多打ちにして引きずりまわしたせいでそのままは使えないだろう。』

『てっ提督。もう勘弁して下さい。さっき食べた物が出そうです。』

『なんだ、映像も見てないのにもうダメか。儂は映像を見てからだったぞ。』

『それでクラーサ少尉ですが、一度精神科医に見てもらった方が良いと思うのですが、軍医に来てもらう事は可能でしょうか。一般のお医者様に見せるのは違う気がするのですよ。』

『そうだな。派遣しよう。ただ、何時までそこに滞在するんだ。』

『1週間か10日位だと思います。あ。すいません。治療が長引くと家の船に来る可能性もあるんですよね。それだと、トァカミさんの例の技術があるんで守秘義務もお願いします。』

『行き違いになると面倒なので、メールで良いので細目に連絡をたのむ。』

『了解しました。』


通信を切った俺は、リビングに戻ったのだが、そこからが大変だった。

一様、子供達とクラーサ少尉が眠った後、大人たちを集めて提督から聞いた話を共有して置いた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る