第20話
2-15
●惑星セナミノフと駐留軍
その後はすんなりとセナミノフ星系惑星セナミノフのコロニー型宇宙港に到着したが、ここの駐留軍は皆柄が悪い。
俺はアニエル少佐を連れて、ここの指揮官に挨拶に出たのだが、明らかに俺達の方が階級が上なのに、皆タバコをふかしニヤニヤ笑ってこちらを眺めている。
しかも、制服も着崩していて格好悪い。もうちょっと格好よく着崩ずせよ。ここ本当に軍の施設か?ゴロツキの溜まり場じゃねえか。
さっさと挨拶して帰ろう。
『アニエル少佐、気を抜くなよ。ここはやばい気がする。』
俺は小声で少佐に注意した。
横目に映るアニエル少佐も頷いていたようなので聞こえたようだ
駐留軍の指令室に付いた俺たちはドアをノックし『入ります。』と声を掛けて中に入った。
『何だお前たちは。』
案の定、ここの司令官、肥えた中佐だが、女性士官のタイトなスカートに手を突っ込み尻を撫でまわしているところだった。
『駐機場借りるのに挨拶に来たんだが、お楽しみの最中だったか? 邪魔ならまた出直すが。』
『なんだ、いい女連れてるじゃないか。その女を置いていけば返してやるぞ。』
アニエル少佐がスゲー嫌な顔してる。
俺は司令官の机に半分尻を載せると、『借りるぞ。』と言って、置いてあった情報端末を摘まみ上げた。
素早く登録してある番号を探し出し通信を入れる。
『ザウバーだ。何の用だ。』
『近衛のクサナギ特務大佐です。ご無沙汰してます提督。今、セナミノフ星系惑星セナミノフのコロニー型宇宙港に来ているんですが、ここの司令官の中佐がアニエル少佐を置いて行けば帰っていいと言ってるんですが、人事的にOKですかね。』
アニエル少佐が涙目で頭をフルフルしている。
『君か。人事?そんな訳ないだろう。その中佐だせ。』
『こう言ってますが、中佐。』
俺は中佐の方に持っていた情報端末を向けた。
司令官の肥えた中佐が顔を真っ赤にして手で情報端末を吹っ飛ばし『おい。誰かこいつを始末しろ、女は逃がすな。』と叫んでる。
あ~ぁ、俺、知~らない。提督に筒抜けなのに。
ドスドスと音が聞こえたと思ったら、ドアが吹っ飛びそうな勢いで開き、2人の背が2m近い、ガタイのいい兵士が部屋に入ってきた。
1人が俺の方に、もう1人はアニエル少佐の方に行ったな。
俺は向かってきた兵士が突進力そのままに殴り掛かって来たところを手首を取って小手返しでぶん投げた。
投げた方向に応接用のソファーとローテーブルがあって、上半身はソファーであまりダメージがなかったみたいだけど、足はローテーブルの天板をぶち破って爪先が変な方向向いてるんで折れたのだろう。
なんか、嫌な思い出が蘇ってくるぁ。
俺の親父が武道マニアでさ。俺も小さい時から合気道をやらされてたんだよ。
出来ないと親父に殴られて、ほんとに嫌だった。
当時は平和な日本で、なんでこんな事しないといけないのか、ほんと分からなくて泣きながら稽古したよ。
まぁ。高校に入ったら、もう運動するのも嫌になって、アニメ研究部に入ったんだけど、アニメの研究そっちのけで、部にあったパソコンでゲームプログラム打ち込んでたけどな。
しかし、あの嫌な経験がこんな所で役に立つとは思ってもみなかったよ。
◆----------
中佐の叫び声で、ドアから2人の兵士が入ってきた。
1人は大佐の方に、もう1人は私の方に来たわ。
凄く体が大きいし、腕が丸太のようだ。逃げなくちゃ。
逃げようと背中を向けたところを服を掴まれ、後ろから羽交い絞めにされてしまった。
『放しなさい。』
私は力一杯相手の腕を押しやるが、ビクともしない。
すると大佐の方でバッキィャーンと物凄い音がした。
『へ?』私の口から間抜けな声が出てしまった。
見ると、さっき部屋に入ってきた大柄の兵士が応接セットの上で倒れていた。
私を捕まえている、もう1人の兵士も驚いているのだろう全然動かない。
この隙にと思い、藻掻いたが一向に捕まえられている腕は動かないし外れない。
大佐が此方に颯爽とやってくる。怒っているのだろう、目付きがいつもと違う。
私を捕まえている兵士は、私から片手を放し大佐に殴りかかった。
大佐は、殴ってきた兵士の手を手の甲でなでると同時に私に体を寄せ私の腰に手を回した。
大佐の手は兵士の手首の関節当たりに手の甲が当たっているが、掴んでいる訳でもない。
私は自分の力がフッっと抜け、膝がカクンと落ちるのを感じると、簡単に兵士の腕から抜け出せた。
ナニコレ・・・。
私は大佐にグイと引き寄せられ、尻もちを着きそうになったけど、大佐が私の腰から手を放し、肩から肘、手の甲、指の先まで、指をスーっと滑らせると、それに引っ張られるように私も立ち上がれ、しまいに宙に浮かされた。それを片手で、と言うか指2本やるなんて。
私は何もしてない。操られているように体が動いた。大佐は何者なのかしら。超能力者?。
兵士の方も掴んでも居ない大佐の片手に振り回され、最後は投げ飛ばされていた。
相手を掴みもせず、投げ飛ばすってなんなのだろう。魔法使い?大佐はまだ130歳にはなってない・・(こほん)。
兵士は司令官の机に頭をかなり強打したのか、白目を剥いて気絶しているし、司令官席にいた太った中佐は巻き込まれて、多分、兵士の踵が頭に当たったんだろう、倒れてビクンビクンしていた。
大佐は宙に浮いた私を優しく胸に抱き留めて『アニエル少佐、大丈夫か。』と聞かれた。
私はなんだか恥ずかしくて大佐の顔を見れず下を向いたまま『はい。』と答えた。
◆----------
なんか、アニエル少佐が顔を赤くして俯いている。
何だこれ?あの兵士に変なところでも触られたか?
もう一発殴って置いた方が良かったか?
まぁ。良いか。もう気絶してるし。
俺は部屋の隅で縮こまってこちらを見ていた尻を触られていた女性士官に『君、こいつ等を拘束してくれ。命令だ。』これでどんな態度をとるか。
『わっ。分かりました。』
女性士官は一旦部屋を出て、ロープを持って帰ってきた。
こいつ等を縛って拘束してくれるようだ。多分、こいつらの仲間ってわけではないのだろう。
俺は、中佐に飛ばされた情報端末を拾いに行くと、まだ、提督と繋がったままだった。
提督の端末の映ってない場所からがやがやと声が聞こえる。
『提督。終わりましたが、この後、もう次の寄港地の惑星シュナジーコに向かって良いでしょうか。』
提督は情報端末のカメラの向こう側を見ていたが、俺の声を聴いて
『ちょっと待て。今、惑星スサノアの駐留軍を動かしてそちらに向かわせている。1時間で到着させる。』
『提督。こちらで制圧出来たのは指令室だけですよ。今ならしれっと脱出出来るかもしれませんが、あと1時間も待ってたら、私ら逃げられなくなりますよ。』
『しかし・・。えーい。分かった。だた、惑星セナミノフのコロニー型宇宙港からの航宙船は出立はさせるな。撃墜しても構わん。』
『了解しました。あー!気を付けはしますが、間違って関係ない民間船撃墜してしまった場合どうしましょう。』
『こちらから、前もって周辺の惑星の宇宙港に通達を出す。それと、惑星セナミノフ星系に向かっている船には各出立港から連絡し戻るよう通達する。それでも惑星セナミノフのコロニー型宇宙港に入ってくる奴は撃墜しても構わん。』
『了解しました。』
提督との通信を切ろうとしたところに気絶している中佐たちをロープで拘束していた女性士官が声を上げた。
『お願いです。助けてください。私のパパを助けてください。』
俺は『???。よくわからないが、どう言うことだ。』
女性士官は涙を流しながら『私のパパは惑星スサノアを納めているセナミノフ子爵なの。私は奴らに捕まってしまい、人質にされていました。』
『私はクラーサ・エファ・ダ・セナミノフって言います。パパは、パパは屋敷に監禁されていると思います。』
俺は『分かった。ただ、俺は今はいけない。俺にも船に大事な人が居るからな。提督どうします。』と提督に丸投げしてしまった。てへっ。
提督は『くそ!向かわせる強襲揚陸艦の数も増やさねばならぬか。』
俺はもう他になにもないか確認してって、中佐の拘束がなぜに亀甲?二度見知っちゃったよ。
『あの。君。なぜにこの縛り方?』
『この中佐が他の女性たちにこの縛り方をして楽しんでいたのを見させられてたのでこうしたの・・。』
なんちゅう物見せてんだこの野郎は。
『・・・。その女性たちはどうしたんだん。まだここに居るのか。』
女性士官は悲しそうに『1週間前、スラスターを取り外した航宙船に詰められて、恒星に流されました。』
こいつらは、船内カメラを通して女性たちが泣き叫ぶのを見て大笑いしていたそうだ。
俺はブチ切れ寸前で『提督、こいつら殺しちゃって良いですか。』と言うと。
提督は『奇遇だな。俺もそこに居たらブチ殺している。だが、すまん。本当にすまん。そいつらは必ず死刑にしてやる。今は我慢してくれ。』
俺は『提督。では、これで失礼いたします。』と言って、通信を切った。
通信を切った情報端末を腹いせに縛られている中佐に全力で投げてぶつけ、左腕のスタンガン機能を立ち上げ最大出力で、こいつの尾骶骨少し上位の背骨に打ち込んでやった。打ち込んだところから煙が出てるけど、これでこいつのナニが起き無くなれば儲けものだ。
俺たちはこっそり司令官室のある指令棟を出ると足早に戦闘艦ウラスに戻り、管制官に緊急発進することを告げ発進した。
10分行った所で停止し、惑星セナミノフのコロニー型宇宙港から出立する航宙船を監視していたが、まったくもって船は出てこなかった。
何もないまま1時間が過ぎ、近隣惑星の戦闘艦が到着した。
巡洋艦級戦闘艦7隻、駆逐艦級戦闘艦12隻、戦闘艦付属機合計:戦闘艇33機
強襲揚陸艦が4隻、楊陸艦内格納装備合計:パワーアーマー16機、宙水陸共用揚陸艇24機
結構な大部隊だ。
俺たちは、この部隊の旗艦で指揮を執る大佐に引継ぎを行い、惑星シュナジーコのコロニー型宇宙港へ向けて出立した。
◆----------
結局、あの後、女性士官であるクラーサ少尉を一緒に連れて来てしまった。
引き渡しを行える雰囲気でもなかったしな。
俺達はやっとこさ、シュナジーコ星系惑星シュナジーコのコロニー型宇宙港へ到着し、駐留軍に挨拶に行った。
そこには本来地上に居る、惑星シュナジーコ駐留軍司令官 カレド・クラナム大佐が居た。
今回の作戦で惑星シュナジーコの駐留軍からも戦闘艦を出したそうで、本来ここに居る中佐がその艦と共に惑星セナミノフに行っているそうだ。
彼、カレド・クラナム大佐はカムミムさんが高等学校に通っている女学生だった頃にここに着任したそうで、当時はまだ中佐で地上に報告に行った時にたまに顔を合わせる位であまり話をしたことはなかったそうだ。
その後、大学に行ってしまわれ、会う事も無くなったそうだが、大学を卒業されその帰省の時に偶然宇宙港で会ったんだそうな。
『挨拶をしようと近寄ったら、カムミムお嬢様が突然くしゃみをされて、俺が何かしてしまったのかと思って驚いたよ。』
『ww。クラナム司令官はカムミムさんの事をお嬢様って呼ばれるんですね。』
『そりゃそうだろ。ここの領主の娘さんだぞ。』
『www。そうなんですが、どうにもカムミムさんの事を見てると、隣の家に家族で住んでるお姉さんみたいに見えちゃうんですよね。』
『そりゃぁ失礼だろ。』
『wwww。でも、ここで噂してるんで、今頃、くしゃみして転んでいるかもしれませんよ。』
『ぶっ。ハハハハハ。』
『クラナム司令官だって、笑ってるじゃないですか。www。』
『いや。想像したらな。ありそうだと思ってしまって。ハハハハハ。』
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