第19話
2-14
●救難信号と怪しい商人
サトゥクさんとのお話も終わり、席を立ちお店の入り口に向かう途中、なぜか何もない所でカムミムさんが転びそうになって、偶然隣にいた俺が腕を出して助ける事になった。
俺が『大丈夫ですか。』と言うと、カムミムさんは恥ずかしいのか少し顔を赤く染めながら小さな声で『はい。有難う御座います。』とお礼を言ってくれた。
でも、なんかカムミムさんの胸への腕の当たりが「ぽにゅん」じゃなくて「がしっ」て感じで、ちょっと寂しい。
いやいや。これがエルフ。俺が思い描いたエルフなんだ。と考えていたら思わず『エルフだ。』と呟いてしまった。
その時は、カムミムさんも何のことか分からず首をかしげていたが、帰宅途中に佐井田さんが教えたのだろう、子爵邸についた時にはカムミムさんがプンプン怒っていた。
それが、トァカミさんに伝わり、今、子爵邸のリビングで、俺はトァカミさんにお説教をされている。
『いいかい。雄介君。エルフだって人それぞれなんだ。』と言いながら、情報端末で検索したグラビアアイドル?的な写真を見せてくれた。
デカ、胸デカ、いや知ってるよ、エルフでも胸が大きい人がいるのは、病院でね。
でも、この人胸デカすぎ、ちょっと引く。
そこで佐井田さんが紙束を筒状にしたもので俺の頭をスパーンとしてくる。
え。俺がいけないの?トァカミさんが見せてくれたグラビアアイドル的な写真を見てただけなのに・・。解せぬ・・。
『カムミムだって、胸は小さいが、行動はかわいいし、性格だっていい。』
はい。同意します。
『胸が無くても、優しいし、気遣いもできる。』
いや、同意しますけど・・。カムミムさんが・・。
『胸がなくったて、仕事も出来るぞ。ちょっと転ぶことは多いが。』
いや、カムミムさんが涙目になってるから・・。
いつの間にかリビングに来ていたトァカミさんのお母さんのサーシアさんにトァカミさんが頭をスパーンとされて、『ちょっと来なさい。』と言い耳を掴まれて連行されて行ったんだけど。
え。俺、どうしたらいいの? 取り残されたんだけど。
部屋に戻っていいの? 解放されたってこと? いや、動こうとしたら佐井田さんがギロリと見てくるんですけど・・。
アニエル少佐の方を見たら、手で口を隠して笑ってるし、あ、俺が見たのに気付いてすまし顔になってる。でも口の端と肩がピクピク動いてるからね。
◆----------
2週間後、俺達は戦闘艦ウラスに乗ってカムミムさんの実家、シュナジーコ星系惑星シュナジーコを目指し出立した。
あれから、拠点の設計や建築の依頼、その資金調達のためにパブラス金属を採掘、元々有った施設の復帰作業、その資材運搬等忙しく過ごした。
惑星エイメーヤの研究棟に関しては、とりあえずクドラ子爵邸内の研究棟(転送システムの拠点)が完成してからという事になった。
そして、やっとクドラメーヤ星系を出発する事ができた。
最初の寄港地はスサノア星系惑星スサノアのコロニー型宇宙港だ。
そこから、セナミノフ星系惑星セナミノフのコロニー型宇宙港に向かい、その後シュナジーコ星系惑星シュナジーコに向かう。
クドラメーヤ星系からセナミノフ星系へも直接行けなくはないんだけど、途中に小惑星帯があってワープ航法が制限されて余計に時間が掛かってしまうので、スサノア星系に行ってから、セナミノフ星系へ出るのが通常のルートだそうだ。
スサノア星系惑星スサノアのコロニー型宇宙港までは何事もなく到着し、とりあえず駐留軍に挨拶しに出かけ、コロニー型宇宙港内の責任者に挨拶をしてきた。
何といっても、軍の駐機場借りてるからね。お金取られないし。
まぁ、地方あるあるの民間と同じ施設を使ってるから、ゲートがあるだけですぐ隣なんだけどね。
と言う訳で、今日の俺は軍の制服を着ている。着慣れないから似合っているかはしらん・・。
まだ、時間があったのでお土産でも見て行こうかとゲートを出て、一番最初にあったお店は武器屋だった。
ラウンジのこの辺は軍の施設があるからか人がいないし、この武器屋も軍の人位しか来ないんじゃないだろうか。
俺は店には入らず、店先のガラス窓越しにショーケースに展示されている武器を眺めてみた。
レーザー小銃にレーザー拳銃各種。ふむふむ。でもこれ軍だと支給品があるし買う人いるのかな。
あれ? 奥の方に剣とかハルバードみたいな物が置いてある。剣型レーザー銃とかじゃないよね。エ○ラルダスさんじゃないんだから・・。
それに何だこれ。リボルバー式の実態弾拳銃?。火薬って真空の宇宙で発火するんだっけ? 空気のある宇宙港みたいな所で撃っても、壁材がほぼ金属だから、跳弾で自分が死にそうだよね。
そう言えば、俺にも銃が支給されてたんだった。
アニエル少佐に説明されたっきり、保管庫に入れっぱなしだよ。
射撃の練習ってしておいた方が良いのかな?でもどこで練習したら良いんだろう?
実態弾と違って反動が無いから、そこまで難しくは無いと思うんだけど・・。
俺が顎に手を当てて考え込んでいると、アニエル少佐が『どうされたのですか?』と声を掛けてくる。俺は頭を振って、『俺も銃の練習をした方が良いのか考えて、何処で練習出来るんだろうと考えてたところ。』と回答した。
『それでしたら、各軍の施設に射撃訓練場が併設されてますよ。空いていれば貸して頂けると思います。』
『そっか。じゃぁ次のセナミノフ星系惑星セナミノフのコロニー型宇宙港に着いたら聞いてみようか。』
その後、お土産屋さんでお菓子と小さな女の子の人形が付いたストラップを2つ買い戦闘艦ウラスに戻った。
次の日、俺たちはセナミノフ星系惑星セナミノフのコロニー型宇宙港に向けて出港した。
ワープゾーンまで移動し、ワープ航法に入って1時間半、俺はコックピットのメインパイロット席に着いて、情報端末でquantum言語の勉強をしていた。
普段サブパイロット席に居るアニエル少佐は休息中だ。とりあえずワープ中は1時間交代でコックピットにどちらかが居るようにしている。
なんか、突然、機体がビービー鳴りだして、コックピット居た俺は情報端末をシートの脇の物入に突っ込み、計器を確認して見たが機体に異常があるわけでは無いようだ。
すると、直ぐにアニエル少佐がコックピットに走りこんできて、サブパイロット席に座り何かを操作すると『救難信号を受信しました。』と言ってきた。
「救難信号を受信した場合、民間船は直ぐに軍に連絡をしなければならない。」と航宙船資格試験の講習では教わっていたので、通信機能を起動し掛けて、俺がその軍だった事を思い出した。
俺は直ぐに艦内放送で、救難信号を受信した事とコックピットに来てシートベルトを着用する様に連絡した。
皆がコックピットにシート座りシートベルトをしたのを確認し、俺達は緊急ワープアウトを行った。緊急ワープアウトって初めてやったけど結構振動が来るのね。
俺は機体を反転させ、来た方向に向けて全速力で向かった。あー。リミッターが掛かった状態の全速力な。ただ戦闘艦だけあって早い早い。
10分たった頃、広域レーダーに戦闘をしているだろう航宙艦が映りだした。
どうやら、民間船を海賊が襲っているようだ。
民間船は1機、海賊船は5機。多いな。よくこの時間逃げ延びたな。
念のため、俺は広域通信を使って、戦闘を止めるように警告した。
『なんだあいつは』『軍の戦闘艦だ。』
戦闘艦の広域通信って海賊船の通信が丸聞こえなのね・・。
『ガリア、オルテゴ、マッシュル。ブラックストームアタックだ。あの戦闘艦を沈めろ。』
いや、ブラックストームアタックって・・。しかも、ガリア、オルテゴ、マッシュルって・・。これ著作権大丈夫なやつ?
なんか、黒い海賊船が3隻直線状に並んで突っ込んでくるんでが・・。
この船、レーダー改造してて、量子スキャン情報をレーダー情報に載せてるから丸見えなんですが・・。
俺は自動姿勢制御を切り、上に逃げる振りをして機首を上げる。
よし、相手も機首を上げた。ここで逆噴射で下降。
いや、戦闘艦の慣性制御装置流石だは、衝撃が少ない。
『な。敵が消えた。』『下だ。下に居る。』
ジャスト。俺は機首に付いたレーザー砲を発射した。旋回砲塔のレーザー砲をアニエル少佐に任せていたが、タイミング逃したな。
俺の発射したレーザーは3機の真ん中に居た海賊船を貫いた。
爆発した機体に最後尾の海賊船が突っ込みそうになったが、ぎりぎり回避しやがった。良い腕してるな。
俺は機体をムーンサルトの要領で捻りながら縦回転させ、最後尾だった海賊船の船尾をレーザー砲で打ち抜き、アニエル少佐も旋回砲塔を回して、先頭だった海賊船を打ち抜いた。
『うそだろ。ブラックストームアタックを破るなんて・・。しかも一瞬で3機とも・・。化け物か。』
いや、俺化け物じゃないから。マチ○ダさーんて叫ばないし。
『てっ、撤退だ。逃げろ。』
残りの2機が違う方向に逃げようとするが、俺とアニエル少佐の射撃で四散した。
ふふ。軍用艦は違うのだよ。射程が通常の3倍長いのだよ。3倍・・。
ちなみに、戦闘艦ウラスは赤くない。
俺は自動姿勢制御を戻し、海賊に襲われていた商船に近づいて航行出来るか聞いた。
『大丈夫か。航行できるか?』
『は、はい。だだだ大丈夫です。ここっ、航行できます。ああ有難う御座いました。』
商船からの回答はなんか慌てている。
『ここ、これで、失礼します。あああ有難う御座いました。』
そう言って、商船は逃げるように全速力で去って行った。
俺達は、首を傾げながら、セナミノフ星系惑星セナミノフのコロニー型宇宙港への旅を再開した。
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