第12話

2-7

●クドラメーヤ星系とダ・クドラ子爵


そんなこんなで、俺たちは今クドラメーヤ星系惑星クドラのコロニー型宇宙港へ着いた。

俺は地上への降下申請と武器の封印が終わるまで、コロニー型宇宙港がどんな物なのか見たくて、港の中をほっつき歩いていた。

なんだか多くの船が停泊しているが、お祭りでは無いようだ。

皆どことなく雰囲気が暗い。


その後、お土産やさんらしき常設の店舗を冷やかして船に帰った。

しかし、お土産屋のおばちゃんだけがハイテンションで他の人たちは皆雰囲気が暗かったのが、この港の印象になった。


申請と封印が完了し、ジーザの操船する船で地上の宇宙港に向かった。


地上の宇宙港は帝都の空港と同じく民間船はあまり下りてこないので、今は人もまばらである。

定期便のシャトルが着くとまた違うのだろう。


ジーザさんは駐機場への航宙船保管申請を行いに行っており、またちょっと時間が空いてしまった。

俺はまたぶらぶらと宇宙港の中を物色していると雑貨屋のようなお店があった。

入ってみると、年配の女性が「いらっしゃい」と声を掛けてくるが、他に客はいないだよ。

どんな物が置いてあるのか商品を見ていると、ドーナツ型のパンを焼く型があったんだよね。

即買いしました。いえ、買ってもらいました。お金持ってないので・・。


屋敷に付いて、直ぐ挨拶するのかと思ったら、トァカミさんのお父様であるキィトマ・ダ・クドラ子爵は仕事中で少し待ってほしいと執事に応接室に通された。

そこでは、トァカミさんのお母様であるサーシアさんが出迎えてくれた。

それに、ジードさんは一緒に来たので居るんだけど、ジードさんの奥さんとザイドさんの奥さんもいた。


でも、俺、今、すっごくケーキ作りたい病が出ていて、お母様にことわって厨房を貸してもらったんだよ。

メイドさんに連れられて厨房に着くと、さっそくメイドさんに空き瓶は無いか聞いて用意してもらった。

今日は紅茶のシフォンケーキだ、濃いミルクティーを作って、そのミルクティーを混ぜた生地を用意して、ドーナツ型のパンを焼く型に薄くバターを塗って薄く粉を振り、カスタムモードで温めて置いた自動調理器に投入。

その間に、必死に生クリーム作ったよ。腕パンパンで持ってる泡だて器がプルプルしてるし・・。


しばらくして、自動調理器がピーピーなるので見ると焼きあがっていた。

自動調理器から取り出した型を逆さにし、型の真ん中の穴を瓶にさした。

これで生地が冷えてきても重力で潰れないですむ。


重力って言えば、子供のころの俺って、反物質で空を飛ぶのが夢だったんだよな。

でも、欧州の研究所で特殊な容器を作って、反水素(反物質)を入れて実験してみたら、重力に引かれて下降してきたんだって。

なので、反物質では空を飛べない事が分かっちゃったんだ。

悲しい。反物質で空を飛んでみたかったのに。

でも、重力って何者なんだろう・・。


こんなことを考えていると生地が冷えてきたので、型から出す。

このシフォンケーキ用の型だったら、周りの生地を細いナイフではがして真ん中の穴部分の出っ張りを引っ張れば外枠が外れて簡単なんだけど、これパン用の型だから真ん中の部分が外れないんだよね。

無い物は仕方ない、ナイフ入れて剝がしていくしかないか。


何とか剥がれた。

しかし、これ貴族の方にそのまま出してしまって良いのだろうか、毒見とかするのかな。


念のため、メイドさんに聞いておくか。

『すいません。ケーキが出来上がったのですが、これって貴族の方に出すのに毒見とかされるんですか?』

なんか、メイドさんを見たらびっくり顔なんですが、なんで・・。

『はっ。はい。』

『では、少し切り分けますね。』

『す、少し待ってください。』と言ってメイドさんは厨房を出て行ってしまった。

待っていると執事さんを伴ってメイドさんが帰ってきた。

『旦那様方に出されるのでしたら、私が味見をさせて頂きます。』

『分かりました。じゃあ16分割かな。』型がパン用だから少し大きいし大丈夫かな。

俺は16等分に切り分けて、皿に盛り付け生クリームを添えた。


執事さんとメイドさんに1皿ずつ押し出すと、メイドさんが困惑して執事さんと皿を交互に見ている。

執事さんがメイドさんに頷くと、メイドさんはにっこり笑顔でフォークを握った。


執事さんとメイドさんが切り分けたケーキに生クリームを付けて口に入れると、執事さんは驚愕とばかりに目を見開き、メイドさんは感動でプルプルしていた。

その後、執事さんとメイドさんは驚異の速さでケーキを食べ終えた。

俺は執事さんに『このケーキは紅茶と合いますんで一緒に出して頂けるとありがたいです。』と言って、切り分けたケーキの皿を預けた。

執事さんはメイドさんに指示をだし、俺を応接室まで連れて行ってくれた。


応接室に戻ると仕事中だったクドラ子爵と長男のザイドさんも既に応接室に来ていた。

俺は『席を外し遅くなりまして申し訳ございません』と挨拶をし席に着いた。


メイドさんが皿に乗ったケーキと紅茶を入れてくれて各人のテーブルに配ってくれた。

執事さんが子爵にケーキを俺が作ったことを報告してくれている。


ここでもケーキは瞬時に食べつくされ、残されていた2切れのケーキもクドラ子爵と長男のザイドさんがお代わりをして食べきってしまった。


食べ終わった後、トァカミさんが俺たちをクドラ子爵とザイドさんに改めて紹介してくれた。


クドラ子爵は『息子が申し訳ないことをした。』と謝罪し、この屋敷に部屋を与えるのでそこに住めば良いと言ってくれた。

俺は有難く部屋を使わせて頂く事を伝え、故郷を探すために宇宙を探索することを伝えた。

そして、陛下から近衛隊に入る条件で探索用の戦闘艦を頂けることも報告した。


俺とクドラ子爵の話が終わると、トァカミさんが話を切り出した。

『父上。今日ここに来る前に上の宇宙港に寄った時、全体の雰囲気が暗かったんですが、何か有ったのですか。』

すると、ザイドさんが子爵に了承を得る目線を贈ると、子爵が頷いたので説明を始めた。

『実はな、惑星エイメーヤのパプラス金属鉱床が掘りつくされて、廃坑になったのだ。』

『なるほど、それでですか。お父上達が昨日からお忙しそうなのもその所為ですか。』

『そうだ。』

俺は『あの、お話し中、申し訳ございません。その星なのですが、今後も人は住まわれるのですか。』

『いや。あそこはコロニー型宇宙港も無いし、地上の宇宙港もそれほど広くないので人は住まない。』

『でしたら、その星をトァカミさんに使わせて頂けないでしょうか。トァカミさんは今研究の実験が出来る環境を探しておられまして、危険が伴うので出来るだけ人がいない環境の場所を探しておられたのです。』

『なるほど。』

『それと、もう大規模な鉱床は無いにせよ。商的に見合わない小さな鉱床はあると思うんです。それを我々で掘り出せたら、それをトァカミさんの研究の費用に充てたいのですが宜しいでしょうか。』

『まぁ。良いが、君はパテシエだけでなく。鉱山技師でもあるのか。』

『いえ。誰も居ないのでしたら、山を崩してしまっても良いかなと思っただけです。』

『まぁ。良い。好きなように使いなさい。』

『有難う御座います。』

『しかし、被害者の君がなぜトァカミの肩を持つのだ。』

『今回、不幸な事故で我々は連れて来られてしまいましたが、トァカミさんの研究は非常に有用です。逆にこの研究を悪人が利用すると最悪の事が発生してしまいますが、そこは秘匿するしかないと思います。』


その後、トァカミさんの妹のシアーナが帰宅し、父と兄がケーキをお代わりして食べきってしまった事がバレ、『お父さんもお兄ちゃんも嫌い』と言って部屋に閉じこもってしまったとか、なかったとか・・。










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