第9話

2-4

●スサノア星系と航宙艦工廠


俺たちは戦闘は終わったが、スラスターの状態が悪く、その場に留まっていた。

ジェネレータのエネルギー供給は徐々に戻り始めている。


しかし、SOS信号を出してもう1時間近くたつのに誰も来ない。

それから1時間、もうスラスターの調子が悪くてもこのまま惑星スサノアに行こうかと話していると、軍の巡洋艦が2隻ノロノロとやってきた。

なんかやな感じがする。


すると、巡洋艦から広域共通通信が入った。

『誰かいるか。居たら返事をしろ~。』

するとトァカミさんが『こちら、クルーザー級「LadyB-305L」、船籍番号、「RJ5838」。救援有難う御座います。』

『おい。生存者がいるぞ。』『うそだろ。海賊に襲われたんじゃないのか?』

『こちら「RJ5838」。オーナーのトァカミ・カーシェ・ダ・クドラ。はい。海賊船に襲われましたが自力で撃退し、現在、スラスターのダメージにより停船しております。』

『フンッ。馬鹿な事を。撃退だと。こんな船で。』

『こちら「RJ5838」。オーナーのトァカミ。海賊船は3機、撃墜地点の座標を送信しますのでご確認ください。』

『バカも休み休み言えよ。その船で海賊船を3機も撃墜出来るはずねぇだろ。』

『艦長。撃墜地点座標受け取りました。スキャンします。』『・・・確認取れました。確かに航宙艦が撃墜された痕跡があります。』

『まぁ。いいや。こいつらも海賊のグルかもしれない。拿捕して基地に戻るぞ。』

『はっ。該当船を拿捕し、帰還します。』


やっぱり、面倒くさいことになったな。

もう戦闘で疲れちゃったし、皇帝陛下に助けてもらっちゃおうかな。

俺は、情報端末を引っ張り出して、帝室にメッセージを送った。



◆----------

わらわは各省庁の大臣と会議室で来年度の予算会議を行っていた。

珍しく、わらわの執事が『緊急ですので、失礼致します。』っと入室してきた。


情報端末を差し出し、小声で『草薙様からのメッセージです。』


この間の先祖の同胞か。面白いやつだったのう。

わらわの従妹の娘との婚姻をけり、故郷を探すと言って誤魔化しておったの。

彼奴と婚姻できれば一時的とはいえ帝室の血の問題が解決するのだが・・。

まぁ。また、遊びに来いと言ってあるのでチャンスはあるかの。


読んでみると、「スサノア星系のワープアウト時に3隻の海賊船と遭遇し、それを撃退した。しかし、戦闘によってスラスターがダメージを受け現場で停止し救援を待っていたが、戦闘開始と同時にSOS発信を開始し2時間後に帝国軍が到着。救援に来た帝国軍に事実を報告したにも関わらず、拿捕され曳航されている。」とのメッセージだった。


ふむ。海賊船3隻を撃退か、なかなか豪の者よの。

ふふっ。ちょうど予算会議に軍の提督が来ているので、こちらに呼んで聞いてみるかの。何事かと大臣たちがわらわを注視するなか、提督を見やり、扇子でこちらに来るように促した。


『彼奴は、帝室の将来を左右する大事な者なのだが、これはどうしたら良かろうの。』

情報端末を差し出すと、『拝見します』と受け取て、読み始め、冷や汗を持っていたハンカチで拭う。

『ここに居る者なら良いだろう。だが、極秘事項ゆえ他言は禁止する。まず1つは先日転送システムの研究をしている者が、事故でどこともつかない場所から4名のヒューマンを転送し、このグランドルへ連れてきてしまった。この技術自体、使う者次第ではとてつもなく危険な物となる。2つ、連れてきてしまった者のDNSがわらわ達帝室の者と系統が同じであった。3つ、わらわ達の古き祖先が使っていた言語をそのヒューマンが使っていた。故に彼らはわらわ達帝室のヒューマンと同族である。』

会議室がざわざわとするが、オホンと咳ばらいをし、それを止める。

『もう一つ、彼自身が帝室の娘と婚姻すれば一時的に帝室の血の問題が解決する。彼が故郷を見つけ多くの同胞が見つかれば帝室は永遠に血の問題が発生しなくなるだろう。』

わらわは会議に参加している大臣全員の顔を順番に確認し、『すまぬが彼が故郷を探す手伝いをしてくれるとありがたい。』と締めた。

そして『ただのぉ。彼奴は権威を欲しがらんからのぉ。むしろ遠ざけておる。どうしたものか・・。』とぼそりと呟いた。


『提督。スサノア星系駐留軍のトップに繋いで経緯を聞いてくれぬかの。この部屋のモニターに繋いでほしいのじゃが。』


提督は情報端末を操作すると、一瞬部屋のモニターが砂嵐状態になり、一人の男性が映し出された。


『提督、お久しぶりです。今日はどうなされま・・。』とその男が言うが、こちらの部屋の中にわらわを見つけたのだろう、急に席を立ち『これは陛下ご機嫌麗しゅう。』と言って、頭を下げた。

わらわは広げた扇子で口元を隠し『わらわは今機嫌が良くなくてのう。』と返すと、より深く頭を下げた。


提督に話をするように促すと提督が画面の男に話しかける。

『少将、君の管轄で民間船からのSOS信号を受信し、帝国軍の船が行動を行っていると思うが把握しているか。』

『はい。サトア第一星系側のワープアウトポイント付近で発信されたSOS信号を受信し救助に向かっております。』

『その船は事情があり、船内の検閲はするな。それとその船には帝室の関係者が同乗している。不逞は働くな。既に帝室には帝国軍によって拿捕されたと情報が入っている。もし既に船内を捜索してしまっていた場合、速やかに下船し、船内で見たものは第一級秘匿情報として扱え。』

『なっ・・。救助に行ったはずなのに・・。拿捕ですと・・。』

『今回の件、私と同時に帝室にも報告書を提出するように。提出期限は2日後、前倒しで提出することは構わない。報告書には詳細に顛末まで記載するようお願いする。』

少将は『了解いしました。』と敬礼をしながら返事した。


提督がわらわの方を見て他に伝える事はないか無言で確認してくる。

わらわも無言で頷き、何もないことを伝えると、提督は少将に『よろしく頼む。』と言い通信を切った。


わらわは提督に『ひとつ貸しじゃの。』と言うと苦笑いを浮かべながら冷や汗を垂らしていた。


◆----------

私はスサノア星系の駐留軍を任されているサルディン・クレバノだ。階級は少将となる。以前は伯爵家の4男であったが今は父も亡くなり、既に貴族籍からも抜けている。


その日17時半の定時に休憩を取った後、残業でデスクワークを再開してしばらくすると、デスク上の情報端末に通信が入った。

表示されている相手の名前を見ると提督の名前が表示されている。

私は急いで情報端末の通信機能をオンにして挨拶を行おうとしたのだが、隣に皇帝陛下が居ることに気が付いた。

陛下に挨拶の言葉を述べたが、そっけなく機嫌が悪いと言われてしまった。

私は何かしてしまっただろうか。

一気に冷や汗が噴き出してくる。


聞けば、15時半前後にSOS信号を発信した民間船の事だという。

たしか、信号の受信後すぐに巡洋艦2隻が現場に向かったはずだが・・。

そして、その巡洋艦が要救助船を拿捕したと言うのだ。

その要救助船には帝室の関係者が搭乗しており、陛下に直接連絡が行ったようだ。


そればかりか、巡洋艦はまだ現場に着いたばかりのようだ。

民間船でも2時間あればこちらまで到着する距離を、巡洋艦で2時間とはどうゆう事だ。

最大船速で飛ばせは遅くとも1時間弱で到着するはずだ。

だんだん、部下に対して怒りが湧いてきた。


提督との通信が終わった後、私は汗だくになっていた。

椅子にドサリと腰掛、情報端末の通信機能を再度起動した。


『サルディンだ。艦長・・。いや、艦内放送に繋げ。』

『はっ。少将閣下、艦内放送に接続しました。』

巡洋艦の通信士が緊張した声で返答を返した。

『サルディンだ。艦内に通達する。先ほど提督から連絡があり、緊急案件が発令された。30分以内に帰投せよ。40分後には緊急案件が発動する。30分以内に帰投出来な場合には任務放棄とみなし、佐官、尉官は降格処分とする。これは厳命である。また、現在確保中の救助船には重要人物が乗船されている。生存は既に確認されており提督にもその情報が報告されている。なお、提督からの命で船内の検疫はこれを禁止する。該当船内に立ち入った者は厳罰とする。以上だ。』

『しょっ、少将。30分以内の到着は不可能です。』

『何を言っている。救助に出航してから何時間立っていると思っている。あと30分で帰投出来ないなど、どこかで休憩でもしていたのか。早急に帰投せよ。以上。』


艦長が何か喚いていたが、私はブチッっと通信を切った。

これで怠慢な奴らを処分できる。少しは気分が晴れたな。


◆----------

俺たちはやっとスサノア星系惑星スサノアのコロニー型宇宙港に到着した。

なんか、帝国軍のスサノア星系駐留軍の少将に出迎えられて、歓迎されたんだけど・・。なんで?

あと3日後に駐留軍の事務所に来るように言われたんだけど・・。


それから、俺たちは隣接する航宙艦工廠に船を持ち込み、今、ドックに船を入れて各部の確認をしてもらっている。


ドックの中で情報端末を持って、あれこれ支持を出していたおっちゃんがやってきた。

なんかちっさ。手足が太くて横にはデカいけど・・。


『おう。あの船ほんとに修理すんのか。修理すんと6億G位かかるぞ。中古で別の船を買った方が良くないか。』

『ろ、6億G・・。』

『まずな、メインスラスターの右側、レーザー砲で撃たれて一部溶けてるぞ。これは交換するだろ。姿勢制御スラスターの方は、上下全部のスラスターが出力オーバーで根本部分が溶けてるから、全て交換。あと各スラスターの再燃焼室もだめだ。ジェネレーターは何とか大丈夫だが、出力側制御装置と配管な。今はまだ生きているけどよぉ。いつダメになるか分からんから交換だ。後は外板な。幾つか交換した方がいい箇所がある。多分レーザー砲が掠ったんだろう。』

『・・・・。』

『しかしよ。お前さんたちだろ最近この辺に出没していた海賊船とやりあってやっつけちまったの。この機体見ればバレバレだがな。wwww。』

ひとしきり、トァカミさんの背中を叩きながらデカい声で笑ったおっちゃんが『で、どうするよ』と聞いてきた。

トァカミさんは『すいません。一旦考えさせてください。』と言い肩を落とした。


やっぱ俺の所為だよなぁ。後で謝ろう。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る