第8話
2-3
●宇宙海賊と「死ぬかと思った」
俺たちは今。3機の未確認飛行物体に取り囲まれている。
3機に気が付いたトァカミさんはワープアウト時の機体チェックもせずに、フルスロットルで機体を走らせている。
3機とも民間船を改造して武器を増強した機体を使っているようだ。
そのうちの一隻は俺たちの船と同じ「LadyB-305」のようだ。
貨物拡張型ではない真正のお饅頭機だが、標準武器のパルスレザー2門の他に、武器拡張スロットにパルスレーザー2門と機体上部に2門の固定型レーザー砲を2門無理やり付けてある。ミサイルポッドに関しては外観からは分からないが、最低でも一機ついているだろう。
後の二隻は小型の貨物船を改造したのだろうか、トラックの運転席のようなコックピットを付けた、角張った四角い機体だ。
ようは1台の大型トラックの荷台の左右に、同じトラックの荷台だけをくっつけたような形だ。
そのうちの一隻はパルスレーザー2門と固定式レーザー砲を1門を荷台の上部中央に無理やり付けてある。もう一隻はパルスレーザー2門だけだが、アンテナらしきものが荷台の上に3つ付いている。1つはパラボラ式が中央に、後の2つはパラボラ式の左右に八木式アンテナが付いている。
速度的には相手の船の方が若干早いようだ。
トァカミさんは皆をコックピットに呼び寄せ、カムミムさんにSOS信号を発信する様に言い、皆に対しシートベルトで体を固定する様に言った。
佐井田さんと子供たちは長椅子タイプの補助シートに座り、佐井田さんが両脇の子供たちの頭を抱えるようにして座っている。
カムミムさんはオペレーターシートについて、俺は副操縦席に座っている。
このコックピットが一番慣性制御が効いているらしく、戦闘機動時にはここにいる方が安全なのだとか。
相手の船・・、もう海賊船でいいか。船籍ポンダーも出してないし。
海賊船は徐々に俺たちの船に接近し、射程に入っただろうパルスレーザーの砲撃が始まった。
トァカミさんは機体を振って避けているつもりだろうが結構当たっている。
バシ、ビシとパルスレーザーがシールドに当たる度にいやな音がする。
海賊の方もレーザー砲やミサイルを使うと獲物と言うか商品が台無しになってしまうのを知っているので、パルスレーザでシールドを削り、最後にメインスラスターを破壊して、その後移乗攻撃で乗員を殺し制圧、商品を奪って逃走と言うのが常套手段らしい。
徐々に距離が近づきパルスレーザーの当たる確率が高くなった。
トァカミさんが呟く『もうダメか・・。』
俺が『そんなこと言わないでください。俺がやります。』と言うと、トァカミさんは一瞬躊躇したが、その後は機体の操縦権を副操縦席に回してくれた。
ゲームでもそうだったのだが、この機体と言うかこの世界の機体は自動姿勢制御を切るとリミッターも切れるようで、シュミレーションでやってみると同じ現象が起きたんだ。
俺は皆に『無理するんで、舌を噛まないように口を開けないでください』と言い。
俺は早速、自動姿勢制御を切ってリミッターを切り、三角形の布陣で迫っていた敵機の上面に向かって全速力で上昇しある程度離れたら、一気に機体を旋回、敵機が向かってくる方向へ自動姿勢制御をオンにしながら迫り、180度機体を回転させ、腹側のミサイルを3発発射した。
その間、パルスレーザーをバカスカ食らったが、再度、自動姿勢制御をオフににして全速力で敵機の進行方向と反対側に駆け抜けた。
自動姿勢制御をオンにし結果を確認してみると、先頭を飛んでいたこの船と同型の海賊船に1発直撃したようで船が爆散していた。
あとの2発はそのまま敵をすり抜け、距離を開けて自爆発した。宇宙だとどこまでも飛んでっちゃうからね。
この後が大変だった。
海賊船がレーザー砲を使いだしたのだ。
自動姿勢制御をオフにして、なるべく射線に入らないようにクイックに機体をスライドさせ、回避しているのだが、何度がメインスラスターにかすった気がする。
自動姿勢制御をオンにして回避すると、どうしても回避方向に機首が向いてから移動する様になるから、相手に回避先が丸わかりになるんだよね。
ただ、俺がやってるみたいに回避すると慣性制御システムが追い付かなくて搭乗者に横Gがもろに掛かるんで乗ってる人は辛いよね。でも、命大事だし・・。
このまま、膠着状態を続けると、スラスターの負荷が大きくて不利になる。
俺はレーザー砲を積んだ海賊船にターゲットを絞り、進行方向はそのままで180度機体を回転させた。
そう逆走状態である。その状態でパルスレーザーとミサイル2発をレーザー砲を積んだ海賊船に発射し、また直ぐに180度機体を回転させ進行方向に機体を向けなおし、少しスピードを落として、海賊船との距離を縮め、自身の機体の船主を上に向け、逆噴射を掛けた。
戦闘に慣れている人ほど引っかかりやすいのだが、敵の機体の機首が向いている方向が進行方向だと勘違いし自身の機体も同じ方向に向けようとする。
すると、実際には逆噴射が掛かっている相手の機体は目視上は消えたように見える。
でも、宇宙でやると超キツイな。なんか「ぐえっ!」って聞こえたけど、女の人の声っぽかったらだまっとこ。
しかし、重力圏内限定だなこの技、木の葉落としは・・。
海賊船が俺たち船の頭上を抜けていく。
そこに、ミサイルを2発発射し2発とも命中。至近距離からミサイルを食らった海賊船は爆発四散した。
あと一隻だ。俺は自動姿勢制御をオンに戻し残りの海賊船を探した。
ミサイルの残弾はあと3発。残りの海賊船の奴らはこちらのミサイルの残弾数を分かっているだろうか。
こちらはもうスラスターの状態が限界に近い。
いた。浮遊している岩石の後ろにいる。
パラボラのアンテナだけを岩の後ろから出ている。
あれって、パッシブレーダーでこちらを見ているんだろうか。
考えなしに隠れて、「パラボラのアンテナが見えてました」だったら笑うな。
岩石を大きく迂回して接敵すると気づかれて、また岩石の後ろに移動されてしまうだろう。
真っすぐ向かい近づくと岩石で射線の死角が大きくなる。しかも岩石を抜けたところで後ろを取られる。
どう攻めるにしても、あのアンテナが邪魔だな。
俺は少しだが岩石との距離を縮め、アンテナに向かってミサイルを発射した。
しかし、岩石の張り出した部分に引っ掛かり爆発した。
機体の位置を少し修正し、もう一発発射したが、今度は海賊船がミサイルに気が付いたのか船を回転させアンテナを移動させたので、ミサイルはアンテナの横を通過し遠くで爆発した。
ミサイルの残弾が1発、ジェネレーターのエネルギーもシールドに振っていて、パルスレーザー用エネルギーもかつかつ状態だ。それにスラスターの状態が限界に近い。
俺はトァカミさんに、転送システムで小麦粉と要らない大き目の金属ネジを海賊船のジャネレータ内に送り込めないか相談した。
トァカミさんは、『やってみる』と席を立ち、カムミムさんを伴ってブリッジを出て行った。
なんか、2人ともふらふらしてたけど大丈夫だろうか。
トァカミさんは転送装置小と小指位のネジをホバー的な代車で運んでくると、早速、代車から下してセッティングを始めた。
遅れて、カムミムさんはサイドテーブル的な机に袋に入った小麦粉を載せて運んできた。
トァカミさんは量子同期スキャンで海賊船のジェネレーターの位置を入念に調べたが、大体の位置しか分からなかった。
カムミムさんはサイドテーブルの上に小麦粉を山にし、その頂点にネジを載せた。
俺はトァカミさんに『じゃぁ。321で送ってください。』と伝え、『3』『2』とカウントダウンしていったところで、カムミムさんが小麦粉にやられたのか「クシュン」とくしゃみをし、口を押えようと振り上げた腕の端がが机に当たり、服のボタンが外れ、『1』と同時にボタンが小麦粉に突っ込んだ。
カムミムさんが小麦粉の方を向いてくしゃみをしなかったのは偶然である。
転送された小麦粉とネジとボタンは、海賊船のジャネレーター内に入りこみ、一気に高温になったボタンのセルロース成分が爆発し、それが起爆剤となって小麦粉が粉塵爆発を起こした。ホントはネジを落下させて火花を飛ばして爆発させるつもりだったんだが結果オーライである。
海賊船はジェネレーターが爆発するだけでなく、船自体が大爆発を起こして木っ端微塵だ。
海賊船に乗ってたやつ、訳も分からず爆死ってちょっとかわいそうかも・・。
俺はその光景を唖然と見ていたが、皆の事が気になり振り向いてみると、トァカミさんとカムミムさんと佐井田さんは青い顔をしてへたり込んでおり、子供たちは、「わー!勝った~!」「悪い人をやっつけた~!」と燥いでいる。
ふふ。それならば俺も~っと船を動かし「勝利のインメルマンターンに見せかけて、捻りこみ~!ハー!ハッハッハー!」
子供達が「きゃー。ハハハ。」と楽しそうに笑う中、大人たちは限界だったようで3人そろってケロケロとしていた。
その後、ちょっと復活した佐井田さんに「余計なことをするな」と超痛い拳骨を貰ったのは言うまでもない。
はぁ。でも今回はほんと死ぬかと思った。
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