第2話

1-1

●クランドル総合大学(クランドル帝国)


俺は何処ともわからない部屋の中で絶叫を上げていた。

左腕の肘から先、前腕部がなくなっており、血が噴き出している。

痛い。ひたすら痛い。熱い。存在しない左腕がひたすら熱い。

俺は少しでも痛さが収まるように意味のない言葉を叫んだ。

少しでも熱さが緩和されるように転げまわった。


ただ、頭のどこかが冷静で、周りの状況が見えていた。

この部屋には何人もの人がいた。

パソコンのモニターのようなものが置いてある机の周りで固まっている。

そのすぐ傍に人間より一回り大きいなにかの機械が置いてある。

恐竜がいる。人サイズで服着てるけど。

あぁ。あの子供たちは何ともなかったのか。よかった。

なんか、メガネの青年が何か言ってる。

えっ。えっ。なんか恐竜が来た。

きょっ。恐竜に押さえつけられたー。ぎゃー!おっ。俺ってマズイから~。

え。食わないの。押さえつけただけ。よだれ。よだれ垂れて。おあずけ状態か?

犬耳の女の子が何かしてる。あれは電話か?なんか相当レトロ。しゃべる部分と聞く部分が分かれてる。

ん。そうか。種族によって、口と耳の位置が違うから統一出来ないのか。

今度は別の人が紐持ってきたよ。縛るの。ねぇ。なんかニコニコしてるけど縛るの。

きょっ。恐怖しかないんですが・・。亀甲だけは恥ずかしいから勘弁してね。

あっ。紐で止血してくれるのね。よかった。よくないけど・・。


今度はドアからストレッチャーと白衣の男たちが入ってきたよ。

医者だよな・・。なんかあの男性目がぎらぎらしててこわっ。

その男性がポケットからビニールのような物に包まれた判子を取り出したぞ。

ビニールから取り出した判子を俺の首筋にペタッと押し付けられ、「あれ?」と思ってから記憶がない・・。



◆----------

クランドル星系主星に当たる惑星クランドルにある名門クランドル総合大学の研究棟の一室「物質転送システム研究室」で、ここの責任者である私トァカミはシステムの誤動作で転送されてきた男性が絶叫をあげ倒れこむのにハッとして気が付いた。


見ると男性は左腕の前腕部がなく、血液が噴き出ていた。

私は矢継ぎ早に生徒たちに指示を出した。

『ゴージルァ君、彼を抑えて!傷が酷くなる。暴れるのを止めて!』

『ポメラ君、医務課に連絡!緊急で医者に来てもらえ!』

『サルファ君、紐で止血して!』


ゴージルァ君は彼はラプトル系の種族でヒューマンより力もあるし重量もある。患者を拘束するにはいいだろう。

下を向くとたまによだれが垂れてしまうのは、種族の特徴なので勘弁してもらいたい。

ポメラ君はアニマル系の犬人種族で彼女はたまにとんでもないミスをするが、基本的に真面目で優しい子である。

サルファ君は私と同じヒューマンでエルフであるが、彼はいつもニコニコ?ニヨニヨ?していて、何を考えているのかわからない時もある。

しかし、笑顔で対応されれば患者も落ち着くであろう。


少しすると、ドアから医療チームが入ってきた。

医務課からここまで結構離れているので、到着が早いような気がするが、まあ気のせいだろう。

私としても、患者には早く対応してもらい助命してもらいたい。

どこともわからない場所から、無理やり連れてきてしまい、挙句は腕を1っ本切断してしまった責任は私にある。

ただ、心の奥底ではこのシステムで生物を生きたまま転送出来たことに喜びを感じていた。


このシステムを簡単に説明すると示した座標の量子振動を計測し、対象物の分解時に発生するエネルギーを使用して計測データの量子同期転送を行い、転送先地点にデータ転送時にロスしたエネルギーを補填しつつ正確に復元する。

そう。一度分解しているのである。

今回、事故であり、偶然ではあるが完璧なコピーは命を凌駕することがわかってしまった。

しかし、このような生物実験は二度とやらないし、指示されても拒否することを誓おう。


今後のシステム改良で生きている生物の転送は行えないセーフティを構築する課題が出来てしまった。

ただ、今は生きているものと死んでいるものの判別をどのようにするか皆目見当がつかない状態であるのだが。


事故とはいえ、ここは誘拐障害事件の現場として調査も入るだろう、なるべく現状のままにしておくのが正解だろうな。


そのような事を考えているうちに、システムで転送されてきた男性はストレッチャーに乗せられ運び出されて行った。

いやに対応が早いし、対応した医師が嬉しそうだったが大丈夫であろうか。


その光景を私はあっけにとられ見ていたが、カムミムがまたもやコケて居るのを見つけ救出に向かった。

その時残っていた医療工学科の生徒が「いた~!」と涙目になっているカムミムに目を輝かせており、それに気が付いたカムミムも「いっ。痛くないです。」と涙目で訂正していた。


その後、研究室の生徒達に謝罪し、本日の動作試験は中止とし、帰宅する様に伝えた。


生徒たちが全員帰宅すると、私とカムミムは転送事故に巻き込んでしまった成人女性と幼児2人をどうするか頭を悩ませた。

結果、学長に報告しないと始まらないとの結論になったため、まずは電話で報告を行った。


学長は警察への連絡は学長がしてくれることとなり、学長が謝罪をするため一旦その女性と幼児を学長室に連れてきてほしいとの事だった。

しかし、どうやって我々の言葉がわからない彼女に伝えよう。

私はこういうのは苦手なのだよ。

カムミムにお願いしてみるか?女性同士分かり合える部分があるかもしれないしな。

『カムミム。すまないが、君から彼女に一緒に学長室に来てくれないか伝えてもらえないだろうか。』

『はい。少し時間が掛かるかも知れませんがやってみます。』


カムミムは紙束をもって彼女の隣に座り、絵を描き始めた。

ここが大学だということを絵で説明するようだ。


幼稚園があり、小学校があり、中学校があり、高校があり、大学か。

なかなか分かり易い。彼女も分かったのか頷いている。

カムミムにこんな才能があったとは。


何とか彼女に理解してもらい、学長のところへ出向いた。

幼児達2人は疲れて眠ってしまっており、彼女とカムミムで一人ずつ抱っこして連れてきた。

学長室にはすでに警察官が2人来ており、事故の調書を作成するとの事。

ただ、事件でないためか高圧的に話を聞いてくることはなかった。


もう、夜も遅くなってしまったため、事故の概略を聞かれた所でお開きになった。

明日の昼位に再度話を聞きに来るそうだ。


学長に彼女達をホテルに泊めるとの話をし、私は彼女と幼児達のためにホテルを取った。

夕食もまだとっていなかったので、ホテルのレストランで食事をし、ホテルの部屋まで案内した。

何かあった場合、彼女は言葉が通じないため、彼女たちの部屋の隣の部屋にカムミムも泊まることにした。

さすがに私は自宅に帰る。自宅とは言っても借りているマンションだが。

変な噂がたっても、うれしくないのでな。


次の日の朝、私はホテルに向かい、彼女達と朝食を取り、5人で買い物に行き、何着か着るものを購入した。

女性の買い物は時間が掛かると聞いていたが、そこまでではなかった。

彼女は頓着しない性格なのだろうか、それとも遠慮して居たのだろうか。


その後、大学の学長室に向かい、調書の続きを行った。

何せ言葉が通じない彼女達とのコミュニケーションはカムミムのお絵描きが頼りなので、結構な時間を要してしまっている。

当然、子供たちは飽きてしまい、カムミムと一緒にお絵描きをしている。

警察官からもう一人の被害者の調書も得たいとの事だったので、私たちは医務課に向かう事とした。


しかし、そこでまた事件に巻き込まれることになるとは・・。

後で聞いた話では、この顛末を聞いた学長は激怒していたらしい。

普段、温厚な学長だけに、これには私も驚いた。

私が後の教員会議で結構ビビったのは内緒だ。




















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