第10話

「まずい!リュウがくるぐえっ!」

 超高速で飛んできたリュウの頭突きがロイに突き刺さる。

 ロイの腹にどでかい穴が開いた。


「うわあああー!死にたくなうぎっ!」

 背後をあっさりと取られたナナのこめかみがリュウの両手で挟み込まれる。


 リュウが腕をぐるぐると回すことで、ナナの頭に万力の力が加わった。

「いぎぃーーー!?」

 頭蓋の砕ける音と、血しぶきが空に舞う。


 もしも真昼が同じことをされたなら、一秒ともたずに頭が爆散していただろうに、ナナの外見は人だが中身はまるで別物だということがよくわかる。


「ぶべっ!ふべっ!ぶべっ!ぼべっ!」


 ナナが死の締め付けをくらっている後ろで、ロイはリュウの大きな尻尾に途切れることのないビンタを受けていた。

 尻尾に叩かれて落ちていくところを、それよりも速く切り返した尻尾により打ち上げられる。反対にいけばまた打たれまた打たれを繰り返し、尻尾の届く範囲から逃れられない、無限ビンタの刑に処されていた。


 あるいは、全身の骨が砕け、丸くなったロイを尻尾で打ち続けている様は、見ようによってはボールで無邪気に、または無慈悲に遊んでいるようにも見えた。

 

―こわっ。

―巻き込まれたらたまったもんじゃありません。私たちは絶対あそこに近づかないようにしましょう。


 クロとベルが遠巻きに眺める中、飽きたと言わんばかりにリュウがロイとナナを地上に向かって、打ち落とし、投げつけた。


 音を置き去りにする速度で大地に突き刺さった二人。

 しかし、痛みに悶えている暇は二人にはなかった。


 リュウが口から微かに光る粒のようなものを、控えめなくしゃみのように吐き出した。


「かしゅ」


 煌めきながら落ちてくる粒に気づいたナナが絶叫した。


「撃ってきた!?」

「死にたくなければ死ぬ気で走れナナ!」


 二人は怪我した体だというのに、あっという間に遠くまで走り去った。


 しかし、舞い降りた光の粒が地面に触れた瞬間、凝縮された熱が解放され、白い太陽が地上に生まれた。

 太陽は身の毛もよだつような音を立てて、地上にあるもの全てをめくりあげ、天へと還していく。

 その破壊の大波は、逃げる二人のすぐ背後まで迫っていた。


「いやあああー!こんな所で死にたくなーい!」

「僕たちが悪かった!ごめ!ごめんなさいリュウー!」


 二人の叫びをリュウが鼻で笑った。

 その顔は、もう遅いと言っているようにも見えた。


「あんぎゃ」


 そして二人は、破壊の波の中へと呑み込まれていった。


「「ぎゃあああー!」」


 リュウは空まで伸びる眩しい光に目を細め、スッキリしたあくびをした。


「あんぎゃー」




「ほんとにすみませんでした」

「もうしません」

「あんぎゃ」


 土下座しているロイとナナの頭を、リュウが尻尾で軽く叩いた。

 その行動は許しているようにも、次はないという警告にも感じられ、ロイとナナを震え上がらせた。

 二人とも少し前まで虫の息の死にかけだっただけに、二度と同じことはすまいと心の中で誓った。


―やれやれ。三人ともほどほどにしないとお母さんが怖がって泣いちゃいますよ。

「あんぎゃ」


 ケンカが収まったのを見計らってやってきたベルのニュアンスに、ムカついて全力で暴れたことを気にして、リュウが少しだけバツの悪い顔をした。


―とはいえ、三人が好き勝手暴れてくれたおかげで、あれほど硬くて針山みたいだった大陸が粉々になって、平坦で柔らかな土地になってくれたみたいですね。


 ベルが地面に下りると体が土の中に少し沈んだ。

 ベルは小指程度の大きさしかないというのに、そう考えると先ほどまでのケンカがどれほど激しかったかよくわかる。


「うん。ベルでもそう感じるなら、父上にとっても過ごしやすいこと間違いないだろう」

「死にそうな目にあったかいがあったねロイ!」


 それぞれが喜んでいる中、空から綿毛に乗った種が風に飛ばされて大地に降り注いだ。


―ミドリから親父への送り物だとさ。自分の代わりにこの子達が父の支えになるんだとさ。


 土の上に下りた種は、戦いの残滓を吸収し急速に成長していく。

 黒い大地がたちまち植物に覆われていくのを見て、ナナが歓声を上げた。


「すごいすごい!これならきっとお父様も喜んでくれるよね!」

「ああ。僕たちが痛い目にあっただけあって、ほんと、すごく綺麗だ」


 空を隠していた雲が取り除かれた空から、眩しい太陽が降り注ぐ。

 陽の光を浴びて輝く植物が穏やかな風に吹かれ、全員の心を爽やかな気持ちへ変えていく。


「それじゃあ、そろそろお父様にもこの光景を見せてあげたいから、お腹からお父様を出してあげて、リュウ」

「あんぎゃ」


 ブリッという音と共に、真昼は排泄された。

 骨となって。


 リュウの消費したカロリーを補うために、完全に消化された真昼。

 全員が思わず無言となってうんこを見つめる、奇妙な空間がその場に生まれた。

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