第9話
ロイは自分よりも先を行くナナの背中を見て歯を食いしばった。
「くそっ。出遅れたのも痛いけど、広く滅茶苦茶にするのは、やっぱりナナの方が向いてる」
ナナの髪から流れ出る虹が全てを壊していく。
ナナは走りながら虹を振りまいていくだけで、大地のほとんどを粉々にすることができるだろう。
対してロイは自分の光エネルギーを走りながら周囲にばらまいていくことで、大地をすさまじい威力で砕いていくが、その力の範囲は一点集中型。
一か所ずつ叩いて潰していくロイと、広く一度に地ならししていくナナ。
まともにやっていけば、ロイの敗北は決定的だった。
「よし。妨害するか」
ロイは手中に光を凝縮させると、ナナに向かって投げつけた。
「ぎゃあああー!?」
ナナは大爆発を起こして吹き飛んだ。
「よし!」
「よし、じゃないわバカ―!何撃ってきてんのよ!」
立ち直ったナナがロイに激怒した。
「ちっ。もう起き上がってくるのか」
「舌打ちした!?人に攻撃するなんて、ズルも過ぎるわよ!」
「先にフライングズルしたのはそっちだろ。別にいいじゃないか」
「よくないわよ!このっ!」」
ナナがお返しに撃ちだした七色玉が見事ロイの顔面にクリーンヒットした。
ロイが悶絶してのたうち回る様を見てナナは爆笑した。
「っ~…!やったな!」
ロイが放った光の矢がナナの腹にぶち当たり、ナナは芸術的なスピンを披露しながら岩山に激突した。
「っ~…!そっちこそ!」
ナナが虹を使って反撃に出る。ロイも光を放つことで応じて、たちまちその場は光と虹が飛び交う戦場になった。
「だいたい、普段からナナはズルいんだよ!この前も僕が父上と一緒に作業をしてる時に、急に割り込んで邪魔してきただろ!」
「そういうロイだって、私とお父様が楽しくお話してた時に、家の事とか食事の事とかで割り込んできてお父様を連れて行ったじゃない!」
「僕のは必要なことなんだ!」
「私とお父様の時間だって必要なことだもん!」
「遊んでるだけだろ!」
「言い訳使ってるだけでしょ!」
「む~!」
「ぐぬぬぬ!」
引かない二人は同時に飛び上がった。
ロイは天をも貫く光の槍を作り出し、ナナの虹を纏う髪が空に広がっていく。
「父上は」
「お父様は」
二人が力を振りかぶって投げつけた。
「僕のものだー!」
「私のものだー!」
ぶつかり合った力同士が拮抗し、耐えきれなくなり弾け飛んだ。
その余波が地上に降り注ぎ、今までとは比べ物にならない規模で大地を粉々にしていく。
まるでこの世の終わりみたいな力のぶつかり合いに、自宅で眠っていたリュウもさすがに騒がしくて眠れなくなった。
「あんぎゃあんぎゃ」
空を飛んでぶつかり合っている二人に向かってリュウが抗議する。
しかし、
「死ねー!」
「お前が死ねー!」
殺意に満ち溢れているロイとナナには一切届いていない。
リュウがめんどくさっと思っていると、ロイとナナがやみくもに放った力がたまたま同時にリュウへと飛んできた。
「!?」
背後には真昼の作った家がある。
リュウは自身の透明な翼を広げ、その体で力の奔流を受けとめようとした。
避けるという考えはなかった。
絶妙な混ざり方をした光と虹が、轟音を立てて触れる物全てを消し飛ばしていった。
家は無事だった。
しかし、家をかばったリュウの美しかった乳白色の体は血に染まり、全身が焼け焦げ煙を上げている。
無傷だった箇所は、腕でかばっていた腹部だけ。
顔を上げたリュウは、誰が見てもわかるくらいにキレていた。
「あんぎゃ」
「おーい。なんか大きな音がしたけど、リュウ大丈夫?」
「あんぎゃあんぎゃ」
「えっ、そう?それじゃあ気にしないことにするけど、家族ゲンカはほどほどにね」
「あんぎゃ」
リュウは腹の中にいる真昼にそう答えると、自分の力を静かに解放させていく。
自身の体が震えだし、それは大気を揺らし、大地を揺らし、抑えのなくなった巨大な存在が世界をきしませていく。
リュウの怒りにロイとナナが気づいた時、リュウは空に向かって翼を羽ばたかせた。
「ぎゃああ!リュウがキレてる!」
「なにぃ!?」
「ごあああああー!!」
ナナとロイに向けて、リュウが殺意のこもった咆哮を上げた。
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