第8話

「それで、具体的にどうやってお母様の環境を変えていけば良いと思うロイ?」

「ああ。まず、空中に溜まっている父上が吸ったら死んでしまうような空気を、クロが羽でかき集めてミドリに吸わせて浄化させていってくれ。それで空気中の毒素は何とかなるはずだ」

―俺の羽はホウキじゃないんだが、まあ適材適所か。


 ミドリがそんなもんこっちに持ってくんなと抗議していたが、クロはその体を天を覆わんばかりに巨大化させて、分厚く空を覆っていた黒雲を羽ばたきでミドリの位置まで勝手に運んで行った。


「よし。後はベルが、海の中にいるアオに水質を父上が入っても死なないようにしてくれって伝えてきてほしい。

 多分、アオならこれぐらいの言葉でも上手くやってくれるはずだ」

―アオを探すのは大変なんですが、私の方が上手く見つけられるでしょうし、仕方ありませんね。

 そう伝えて、ベルは海の方角に向かって、無数に分裂した自分を引き連れて飛んで行った。


 そして、その場に残ったのは、ロイとナナだけになった。


「それじゃあ、残った私たちで、このあっちこっち谷か崖しかないようなガチガチ大地を粉々にして平らにしてくわよ」

「父上が死なないようにするには、徹底的にやるしかない。気合入れてくぞナナ」

「ねえねえ。それなら勝負しない?」

「なに?」


 ナナの提案にロイは怪訝な顔をした。


「どっちの方が大地を多く耕したかで勝ち負けを決めるのはどう?」

「ふーん。まあ、そっちの方が張り合いができていいかもしれないな」

「じゃあ、勝った方がお父様と添い寝一か月!よーいどん!」

「なんだと!?」


 ロイが驚いている間に、ナナは一足先に走り出した。


「くっ!そんな賭けオッケーしてないぞ!それと父上と一緒に寝るのを一か月も譲る気は断じてない!」


 ロイも一足遅れてナナの反対方向に走り出した。

 ロイは光となり、ナナは黒髪から流れ出る極彩色の色に包まれ、それぞれが破壊をまき散らしながら進んでいく。

 何もかも吹き飛ばしていくロイと、全ての形を失わせていくナナ。

 空でその様子を見ていたクロが、呆れたように呟いた。


―二人とも散らかせばいいだけなんだから楽だよな。俺なんて、空の汚いゴミを翼で掃き掃除してるだけだぜ。

―私だって本当はこんなことをしたくありませんが、硬い大地を砕くにはあの二人の方が適任ですし、何事も適材適所というやつですよ。

―まあ、仕方ないか。おらミドリ!もっと雲頑張って食えよ!じゃないと、いつまでたっても、空気が浄化されないだろ!


 クロが翼でかき集めた黒雲を、ミドリに向かって投げつける。

 例え兄姉が相手であろうと、一切言うことなんて聞かないミドリは、真昼のためということでしぶしぶ黒雲を木の中に吸い込んで無害な空気として排出していた。

 

―…調子乗んな。

―けけけっ。普段生意気なだけに、いい気味だぜ!おらっ!年長者には敬意をもって接しろよな!

―…父のためじゃなきゃ、お前ら全員殺してた。


 文句はあれど手伝うことは止めない。

 反抗的な末っ子も真昼をダシにすれば逆らえないことに、クロは意地の悪い笑い上げながらミドリをこき使っていた。


―まったく…。皆遊んでもいいですけど、真面目にやってくださいよ。こっちだって、タダで死んでるわけじゃないんですからね。


 激しく渦巻いている海を見下ろし、ベルが無数の自分を海に向かって身投げさせていく。

 海に飛び込んだベル達はすぐに息絶えていくが、その際に真昼を殺しうる有害な成分を一つずつ道連れにして死んでいく。

 それにより無害になった海域を、海の中にいる真昼の子供のアオが撹拌して少しずつ、海の成分を無毒に変えていく。


―ふむ。海が良い感じに青くなってきましたね。ありがとうございますアオ。

 さて。大地の方は大変でしょうけど、ロイとナナはどこまで終わらせることができましたかね?


 そう思ったベルが、上空から陸の方へ目を向けると、ちょうど光と極彩色がぶつかり合って、大爆発を起こした。


―…なんかあれ、ケンカになってませんか?


 ベルが見守る中、光と虹が行き交い爆発は激しさを増していき、どこかで母の悲鳴が聞こえた気がした。

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