第2話

 光と闇のパワーで吹き飛ばされた俺は、首だけになって虚空をさまよっていた。

 わー。あんなに真っ暗だった空間に白と青いもやができて、黄金色の粒と混じりあってこんがりと焼けた塊になっていってるぞ。

 なんだかパンみたいだな。

 お腹すいてきたかも。

 なんて思ったけど、よくよく考えてみれば首から下がないのに、空腹も何もあったもんじゃないわ。

 まったくうっかりだった。

 はっはっはー。


 さて、頭以外のパーツはどこにいったのかと探してみたら、ちょっと離れた場所に手足と胴体がそれぞれバラバラになって浮かんでいた。

 もうちょっとこっち来てくんないかなと、必死こいて舌を伸ばしてたら、次第に体のパーツがもやと黄金色の粒に包まれて、パンみたいなものの具にされてしまった。

 あー……、どうしよう。

 頼んだら返してくれないかな?

 おーい!と光と闇に語りかけていた要領でニュアンスを飛ばしてみた。


―誰?×5

 すると体の五つのパーツを取り込んだパンみたいなものから、眠たそうなニュアンスが返ってきた。


―俺は真昼っていうんだよ。

―真昼って何?

―真昼はただの人間だよ。

―人間って何?


 おーっと。どうやらこの子達も光と闇と同じパターンだな。


―えっと、人間っていうのはねー……。


 何々と聞いてくるこの子達の疑問に、一つ一つ長い時間をかけて丁寧に答えていった。

 そうしたら、やっぱり愛着がわいて可愛くなってくる。

 なにしろ、俺の体が練りこまれてできた子達なんだから、それはもはや俺の子と読んでも過言ではなかろうか?


 俺の周りにできた五つ子ちゃん達は、もやと黄金粒子を取り込んで、自我と体の大きさをどんどん成長させていった。

 その成長に合わせて五人?とも俺のことを父のように慕ってくれて、俺はその愛らしさにデレデレになった。


 あと、体はしばらくしたらまた生えてきた。


 そんなこんなで皆が大きくなっていくのを楽しく眺めながら過ごしていたある日のこと。


―ちょっと左手!なにこっそりパパのこと引力で引っ張りこもうとしてんのよ!

―そういう左足だって、周りの流星父さんにぶつけて近づけようとしてるじゃないか!

―まったく…。皆ダディを自分の惑星に永住させたいからって、強引な方法をとりすぎだよ。僕はダディがどこにいても気にならないからね!

―んなこと伝えてる胴体も、体でかくしすぎだ!それじゃあいつかお父さんがお前のバカでかい重力に引かれて落ちるだろ!

―………そんなことないよ右足。

―……やめなよ。……そんな強引なことしても、父様が困るだけ……。


 最も小さな惑星である右手が俺のためを思って、勇気をふり絞って皆をたしなめてくれてる。

 宇宙空間で惑星となった我が子たちが、俺をめぐって激しい争奪戦を繰り広げていた。

 あれ?

 これって光と闇の時と同じパターンじゃない?

 なんでこうなるの?


 俺が首を傾げている間も、五つ子ちゃん達のニュアンス合戦はヒートアップしていく。


―そんなこと伝えてきてるけど、本当は右手だってパパを自分のものにしたい。重力で縛っちゃいたいって思ってるんじゃないの!?

―……!ち、違う!私そんなこと…、思ってない!

―おい左足。伝えて良いことと悪いことがあるぞ。

―おやおや、左足も右足もケンカかい?困ったね~。僕たちは同じ体を分け合った五つ子だというのに、そんな簡単な方法だったらあっさり僕が勝っちゃうじゃないか。

―図体がでかいからって、いい気になるなよ胴体。

―そっちこそ、僕に勝てると思ってるの左手?


 宇宙空間に星の怒りの波動が伝わってくる。

 俺の体はその波動に耐えられなくてえらいことになってるけど、これだけ皆の情緒と体?が成長してて、俺は嬉しい!

 しかも、もめてる理由が俺を自分の惑星で一生お世話したいなんて、子供の願望らしくていいじゃないか!

 俺も昔は母さんにも父さんにもべったりだったから気持ちはわかるぞ!

 けど、やっぱりいつかはそれぞれにかけがえのない存在ができていって、俺のことなんて気にもかけなくなっていくだろうし、こういうケンカを見れるのは今しかないんだ!

 ちゃんと堪能しておかないと!


 そんな様子をデレデレしながら見守っていると、左足が俺に気持ちすり寄ってきた。


―まあでも、争うまでもなくパパが来たいのは左足の星でしょ?

―えっ?まあ、それはそうだね。

―はっ?

―はっ?

―はっ?

―えっ……!?


 なんか右手以外からドスのきいたニュアンスが伝わってきた。


―そ、そんな!?じゃあ、ダディは僕のでっかい惑星には興味がないってこと!?

―そんなわけないじゃん!胴体の大きさにはすっごく興味津々だ!

―そっ、そう…?よかった………。

―キー!パパの浮気者ー!!

―じゃあ俺の星はどうかなお父さん!

―右足の星も青く輝いていて、すごく綺麗でいい!

―なんだよ!俺の星だってすごいんだぞ父さん!

―うんうん。左手がまだもやだった頃から見てたから、もちろんわかってるよ。まだ小さかった頃を思い出すと、こんな大きく立派になって……ぐすっ。父さん嬉しい!

―な、なんだよ…。そんなことで泣くなんて、父さんは泣き虫だな。

―君たちには泣き虫になっちゃうんだよ!

―……へへっ。


 左手が照れ笑いしている気がする。


―……あ、あのっ……。


 もちろん右手もすんごく可愛い!俺にとって唯一無二の星だよ!


―……!う、うんっ…!


 右手が嬉しそうにしている気がする。

 右手は控えめだけど、誰よりも甘えたがりな感じがするね。


―あーもう!パパは結局、誰が一番なの!?

―皆違って皆良い!だから皆一番!

―だー!もう!それじゃああたしたちの決着がつかないでしょ!


 左足が憤慨している。

 けれど、それ以外の四人はなんだか仕方ないなーという感じで笑っているように思える。


―まあ、父さんはやっぱり父さんだよ。諦めなよ左足。

―というか、俺たちが競い合ったところで、お父さんの気持ちが変わるわけないって。

―僕はそんなダディだからこそ、僕の星に落ちてほしかったけど、分け隔てないのがダディだから、そのままでいてくれるだけでいいさ。

―ちょっと!皆さっさと良い子ちゃんになって抜け駆けしてんじゃないわよ!あたし!あたしはどうなのパパ!?

―もちろん大好き!

―あたし以外は!?

―もちろん皆大好き!

―それじゃあもめてたあたしたちがバカみたいじゃない!

―……父様。

―うん?どうしたの右手?

―……私も父様のこと好き。

―うんうん!俺も右手のこと大好き!

―……えへへっ。


 皆納得いったのか、和やかな雰囲気が流れ出した。

 そうしたら、その雰囲気をぶち壊すように、遥か彼方から天体を分割して覆い隠すほど大きな光と闇が現れた。


 ―――――――!!!


 二人?から放たれた超高密度な歓喜のニュアンスに、五つ子たちは恐れおののき、俺の頭はその思念に耐えきれずに粉末状に爆散した。


――真昼やっと見つけた!というかこの子達なんなの!?

――………。

――光と闇じゃん、久しぶりー。


 俺は慣れてたから光と闇の思念にチャンネルを合わせて返事ができたけど、五つ子たちはよくわからない言語で怒鳴り散らされたように感じたのかもしれない。


―父さんがやられた!?こいつらをやっつけるぞ!

―ダディに何してくれてんじゃてめえ!!


 左手と胴体がすごい剣幕で、なんと光と闇を攻撃しはじめた。

 うえええっ!?

 左手と胴体から謎のエネルギー波が放たれる。

 そのエネルギーは光と闇の中へ、何事もなく消えていった。

 君たちそんなことできたの?

 そう伝えたかったけど、頭がまだ戻ってないせいで、五つ子たちにはニュアンスを上手く伝えられなかった。


 その点、形を持たない光と闇からは困惑したニュアンスが伝わってくる。


――この子達、何なの真昼?

――………。

――俺の新しい子供たち!順番に右手右足胴体と左手左足の五つ子ちゃん。可愛いでしょ!

――なぜだかすごく意味のない攻撃をこっちに向かってしてるみたいだけど。

――………。

――光と闇のニュアンスが大きすぎて受けとめ慣れしてないせいで、皆怖がっちゃったみたい。

――だって私たち、真昼が突然いなくなってすごく心配してたんだもん!

――そりゃあ、あんな爆発起こったら俺なんて小っちゃくて軽いからどこまでも飛んでいっちゃうって。

――………。


 闇から会えて嬉しいというニュアンスが伝わってくる。


――うんうん。俺も闇に会えてすっごく嬉しい!

――………。

――もう!二人して和んでないでこの子達どうにかしてよ!全然意味ないけど、さっきからすごいなんかしてくるんだけど!


 見えはしないけど、光を通して五つ子たちから宇宙空間を揺るがすような攻撃をされているニュアンスが伝わってくる。


――こんなすごいこともできるようになったなんてっ…!ううっ…。パパは誇らしいよ!

――感激してる場合じゃないでしょ!

――………。


 闇からも少し呆れた感じが伝わってきた。


――とはいっても、光と闇には返事できるけど、形ある皆には頭が直らないと上手くニュアンスを送れないんだよ。

――じゃあどうするの?

――直るまでもうちょっとかかるから、それまで皆と遊んであげてて。この五つ子たちは、いうなれば俺と光と闇の子供みたいなものだから優しくしてあげて。

――子供………!?

――………!?


 光と闇が衝撃を受けてる。


――どうしたの光と闇?

――子供……真昼との……。

――………。


 なにやら光と闇のやる気が上がっている。


――仕方ないなー真昼は。子供!私と真昼の子供!その母親である私が優しく面倒を見てあげる!

――………!


 私をぬかすなと闇が抗議していた。


――それじゃあよろしくね。

――はーい。

――………。


 それから光と闇の初めての子守光と闇のパワーで吹き飛ばされた俺は、首だけになって虚空をさまよっていた。

 わー。あんなに真っ暗だった空間に白と青いもやができて、黄金色の粒と混じりあってこんがりと焼けた塊になっていってるぞ。

 なんだかパンみたいだな。

 お腹すいてきたかも。

 なんて思ったけど、よくよく考えてみれば首から下がないのに、空腹も何もあったもんじゃないわ。

 まったくうっかりだった。

 はっはっはー。


 さて、頭以外のパーツはどこにいったのかと探してみたら、ちょっと離れた場所に手足と胴体がそれぞれバラバラになって浮かんでいた。

 もうちょっとこっち来てくんないかなと、必死こいて舌を伸ばしてたら、次第に体のパーツがもやと黄金色の粒に包まれて、パンみたいなものの具にされてしまった。

 あー……、どうしよう。

 頼んだら返してくれないかな?

 おーい!と光と闇に語りかけていた要領でニュアンスを飛ばしてみた。


―誰?×5

 すると体の五つのパーツを取り込んだパンみたいなものから、眠たそうなニュアンスが返ってきた。

―俺は真昼っていうんだよ。

―真昼って何?

―真昼はただの人間だよ。

―人間って何?

 おーっと。どうやらこの子達も光と闇と同じパターンだな。

―えっと、人間っていうのはねー……。


 何々と聞いてくるこの子達の疑問に、一つ一つ長い時間をかけて丁寧に答えていった。

 そうしたら、やっぱり愛着がわいて可愛くなってくる。

 なにしろ、俺の体が練りこまれてできた子達なんだから、それはもはや俺の子と読んでも過言ではなかろうか?

 俺の周りにできた五つ子ちゃん達は、もやと黄金粒子を取り込んで、自我と体の大きさをどんどん成長させていった。

 その成長に合わせて五人?とも俺のことを父のように慕ってくれて、俺はその愛らしさにデレデレになった。


 あと、体はしばらくしたらまた生えてきた。


 そんなこんなで皆が大きくなっていくのを楽しく眺めながら過ごしていたある日のこと。


―ちょっと左手!なにこっそりパパのこと引力で引っ張りこもうとしてんのよ!

―そういう左足だって、周りの流星父さんにぶつけて近づけようとしてるじゃないか!

―まったく…。皆ダディを自分の惑星に永住させたいからって、強引な方法をとりすぎだよ。僕はダディがどこにいても気にならないからね!

―んなこと伝えてる胴体も、体でかくしすぎだ!それじゃあいつかお父さんがお前のバカでかい重力に引かれて落ちるだろ!

―………そんなことないよ右足。

―……やめなよ。……そんな強引なことしても、父様が困るだけ……。


 最も小さな惑星である右手が俺のためを思って、勇気をふり絞って皆をたしなめてくれてる。

 宇宙空間で惑星となった我が子たちが、俺をめぐって激しい争奪戦を繰り広げていた。

 あれ?

 これって光と闇の時と同じパターンじゃない?

 なんでこうなるの?

 俺が首を傾げている間も、五つ子ちゃん達のニュアンス合戦はヒートアップしていく。


―そんなこと伝えてきてるけど、本当は右手だってパパを自分のものにしたい。重力で縛っちゃいたいって思ってるんじゃないの!?

―……!ち、違う!私そんなこと…、思ってない!

―おい左足。伝えて良いことと悪いことがあるぞ。

―おやおや、左足も右足もケンカかい?困ったね~。僕たちは同じ体を分け合った五つ子だというのに、そんなダディを争って奪い合うなんて簡単な方法をとったら、あっさり僕が勝っちゃうじゃないか。

―図体がでかいからって、いい気になるなよ胴体。

―そっちこそ、僕に勝てると思ってるの左手?


 宇宙空間に星の怒りの波動が伝わってくる。

 俺の体はその波動に耐えられなくてえらいことになってるけど、これだけ皆の情緒と体?が成長してて、俺は嬉しい!

 しかも、もめてる理由が俺を自分の惑星で一生お世話したいなんて、子供の願望らしくていいじゃないか!

 俺も昔は母さんにも父さんにもべったりだったから気持ちはわかるぞ!

 けど、やっぱりいつかはそれぞれにかけがえのない存在ができていって、俺のことなんて気にもかけなくなっていくだろうし、こういうケンカを見れるのは今しかないんだ!

 ちゃんと堪能しておかないと!


 そんな様子をデレデレしながら見守っていると、左足が俺に気持ちすり寄ってきた。

―まあでも、争うまでもなくパパが来たいのは左足の星でしょ?

―えっ?まあ、それはそうだね。

―はっ?

―はっ?

―はっ?

―えっ……!?


 なんか右手以外からドスのきいたニュアンスが伝わってきた。


―そ、そんな!?じゃあ、ダディは僕のでっかい惑星には興味がないってこと!?

―そんなわけないじゃん!胴体の大きさにはすっごく興味津々だ!

―そっ、そう…?よかった………。

―キー!パパの浮気者ー!!

―じゃあ俺の星はどうかなお父さん!

―右足の星も青く輝いていて、すごく綺麗でいい!

―なんだよ!俺の星だってすごいんだぞ父さん!

―うんうん。左手がまだもやだった頃から見てたから、もちろんわかってるよ。まだ小さかった頃を思い出すと、こんな大きく立派になって……ぐすっ。父さん嬉しい!

―な、なんだよ…。そんなことで泣くなんて、父さんは泣き虫だな。

―君たちには泣き虫になっちゃうんだよ!

―……へへっ。


 左手が照れ笑いしている気がする。


―……あ、あのっ……。

―もちろん右手もすんごく可愛い!俺にとって唯一無二の星だよ!

―……!う、うんっ…!


 右手が嬉しそうにしている気がする。

 右手は控えめだけど、誰よりも甘えたがりな感じがするね。


―あーもう!パパは結局、誰が一番なの!?

―皆違って皆良い!だから皆一番!

―だー!もう!それじゃああたしたちの決着がつかないでしょ!


 左足が憤慨している。

 けれど、それ以外の四人はなんだか仕方ないなーという感じで笑っているように思える。


―まあ、父さんはやっぱり父さんだよ。諦めなよ左足。

―というか、俺たちが競い合ったところで、お父さんの気持ちが変わるわけないって。

―僕はそんなダディだからこそ、僕の星に落ちてほしかったけど、分け隔てないのがダディだから、そのままでいてくれるだけでいいさ。

―ちょっと!皆さっさと良い子ちゃんになって抜け駆けしてんじゃないわよ!あたし!あたしはどうなのパパ!?

―もちろん大好き!

―あたし以外は!?

―もちろん皆大好き!

―それじゃあもめてたあたしたちがバカみたいじゃない!


―……父様。

―うん?どうしたの右手?

―……私も父様のこと好き。

―うんうん!俺も右手のこと大好き!

―……えへへっ。

 皆納得いったのか、和やかな雰囲気が流れ出した。


 そうしたら、その雰囲気をぶち壊すように、遥か彼方から天体を分割して覆い隠すほど大きな光と闇が現れた。


 ―――――――!!!


 二人?から放たれた超高密度な歓喜のニュアンスに、五つ子たちは恐れおののき、俺の頭はその思念に耐えきれずに粉末状に爆散した。


――真昼やっと見つけた!というかこの子達なんなの!?

――………。

――光と闇じゃん、久しぶりー。


 俺は慣れてたから光と闇の思念にチャンネルを合わせて返事ができたけど、五つ子たちはよくわからない言語で怒鳴り散らされたように感じたのかもしれない。


―父さんがやられた!?こいつらをやっつけるぞ!

―ダディに何してくれてんじゃてめえ!!


 左手と胴体がすごい剣幕で、なんと光と闇を攻撃しはじめた。

 うえええっ!?

 左手と胴体から謎のエネルギー波が放たれる。

 そのエネルギーは光と闇の中へ、何事もなく消えていった。

 君たちそんなことできたの?

 そう伝えたかったけど、頭がまだ戻ってないせいで、五つ子たちにはニュアンスを上手く伝えられなかった。

 その点、形を持たない光と闇からは困惑したニュアンスが伝わってくる。


――この子達、何なの真昼?

――………。

――俺の新しい子供たち!順番に右手右足胴体と左手左足の五つ子ちゃん。可愛いでしょ!

――なぜだかすごく意味のない攻撃をこっちに向かってしてるみたいだけど。

――………。

――光と闇のニュアンスが大きすぎて受けとめ慣れしてないせいで、皆怖がっちゃったみたい。

――だって私たち、真昼が突然いなくなってすごく心配してたんだもん!

――そりゃあ、あんな爆発起こったら俺なんて小っちゃくて軽いからどこまでも飛んでいっちゃうって。

――………。


 闇から会えて嬉しいというニュアンスが伝わってくる。


――うんうん。俺も闇に会えてすっごく嬉しい!

――………。


――もう!二人して和んでないでこの子達どうにかしてよ!全然意味ないけど、さっきからすごいなんかしてくるんだけど!


 見えはしないけど、光を通して五つ子たちから宇宙空間を揺るがすような攻撃をされているニュアンスが伝わってくる。


――こんなすごいこともできるようになったなんてっ…!ううっ…。パパは誇らしいよ!

――感激してる場合じゃないでしょ!

――………。

 闇からも少し呆れた感じが伝わってきた。


――とはいっても、光と闇には返事できるけど、形ある皆には頭が直らないと上手くニュアンスを送れないんだよ。

――じゃあどうするの?

――直るまでもうちょっとかかるから、それまで皆と遊んであげてて。この五つ子たちは、いうなれば俺と光と闇の子供みたいなものだから優しくしてあげて。

――子供………!?

――………!?


 光と闇が衝撃を受けてる。


――どうしたの光と闇?

――子供……真昼との……。

――………。

 なにやら光と闇のやる気が上がっている。


――仕方ないなー真昼は。子供!私と真昼の子供!その母親である私が優しく面倒を見てあげる!

――………!

 私をぬかすなと闇が抗議していた。

――それじゃあよろしくね。

――はーい。

――………。

 それから光と闇の初めての子守りが始まった。


 光と闇は、五つ子たちの攻撃を児戯のようにさばいていく。

 その態度が、天上に並ぶもの無しと思っていた子供たちのプライドをへし折り、圧倒的な力の差で絶望させているように思える。

 あのー。ちょっとやりすぎじゃないですかねー、光と闇さん……?

 そんな俺の思考は、光と闇が張り切りすぎているようで届いていなかった。


―ダメだこいつら……。存在が違いすぎる!

―怖い……!

 右足と右手から絶望が伝わってくる。

 光と闇の張り切りはものすごく逆効果になってた。


――なんか、皆怖がってるみたいだよ。

――なんでっ!?

――………!?

――なんでって…、そりゃあ五つ子たちもお手玉みたいにもてあそばれてたら、結構怖いからじゃない?

――ど、どうしよう闇!手加減ってどうすればいいの!?

――………?

 闇がそんなこと聞かれてもわからないと伝えている。


―こうなったら…、右手、父さんを連れて逃げろ。

―……えっ!?

 えっ!?

 左手のニュアンスに、右手と俺が愕然とする。


―僕たちじゃ悔しいけどこいつらに勝てない。だったら、ダディだけでも安全な場所に!

―でっ、でも…!皆を置いてなんていけないよ…!

―バカ!あたしは自分がどうにかなるより、パパがあんなわけのわからないやつらにとられて、二度と会えなくなるほうが絶対嫌!

―左足……。

―私たちは絶対に消滅なんてしない。だってパパの子供なのよ!

 左足がふいに笑った気がした。

―悔しいけど、今回だけは右手にパパを譲ってあげる。だから、絶対に守り通すのよ!

―う、うん…!わかった…!

―俺たちが何とか食い止めるから、その間にどこか遠くへ逃げるんだ!君の小ささを活かして隠れていれば、絶対に見つからないから!

―右足……!絶対に消えないでね…!

―大丈夫。君がどこに隠れていても、俺は星明りでちゃんと君とお父さんを見守っているから。

―うん……!

―さあ、ここは俺たちに任せて先にいくんだ!


 そして俺は右手の星の核の中に仕舞われてしまった。


――ちょっ!?

――………!?

 光と闇の焦ったニュアンスが伝わってくる。

 もうちょっとで頭が直りそうだったんだけど、間に合わなさそう。


―ここは通さないぞ!くらえ!僕らの究極奥義!スターシャドウクアルテット!

――うわっ、ちくっとした!

――………。

 どうやら、胴体たちが放った銀河が震えるほどの奥義は、光と闇を少しだけ足止めできたみたいだった。

 その隙に右手がすごいスピードでその場から離れていく。


――真昼ー!

――………!


 閉じていく視界の中で、光と闇のニュアンスが届いた。

 皆仲良くするんだよー。

 最後にそんなニュアンスを送ったけど、伝わってくれてるといいな。





 私は皆を置いて逃げた。

 できるだけ遠くに、あの怖い存在に見つからないよう、父様をとられないように。

 涙が止まらない。

 それは怖くて泣いてるわけでも、皆を心配して流す涙でもない。

 私は喜んで泣いている。

 私は浅ましい。


―本当は右手だってパパを自分のものにしたい。重力で縛っちゃいたいって思ってるんじゃないの!?


 左足の伝えてきたことを思い出す。

 その通りだった。

 本当は父様は私だけのものにしたかった。

 ずっと重力の縄で縛っていたかった。

 私の中にいてほしい。どこにもいってほしくない。

 だって、私は父様を愛しているから。

 執着している。誰にも、兄姉弟達にさえ、本当は父様を渡したくない。

 そんな夢が叶ってしまった。

 そのせいで、私は自分でも見ないふりをしていた醜い愛情に気づいてしまった。

 でも、父様にはこんな卑しい私を知られたくない。


 私の中から、微かに父様の思念が伝わってくる。

 けれど、私はあの人たちに見つかるからという言い訳を盾にして、ずっと父様を閉じ込めている。

 こんな状況がずっと続けばいいのにという浅ましさと、父様と皆を欺いている罪悪感で歪な涙が止まらない。


―ごめんなさい。

 でも、私、今、一番幸せなの…。


 その涙は、やがて私の地表全てを覆い、大きな水たまりになった。

 こんな醜い気持ちも、涙でずっと隠れてくれていればいいのに。


 その涙の中で、やがて何かが生まれる気配がしている。


 私は地球。


 遥か未来でそう呼ばれる存在だ。

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