第33話 シーナの過去2
――
服がブカブカのシーナは身体が縮んだことに気付かず、亡くなった王に対してショックを受けている状態。
「さあ、連行なさい」
カレアは声高く笑う。
――
――[早送り]――――[ストップ]
ウオリキ山脈の麓。
大洞窟の巣穴。
中竜種、2匹の黒竜がスキル「スリープ」で眠らされている。
キリーヤは竜の巣に忍び込み、卵を奪い「隠蔽の箱」に入れる。
――[早送り]――[ストップ]
王城の地下。
牢獄。
檻の中では幼体のシーナが粗末な寝台で横になり眠りについてる。
檻外には腕を組み、椅子に座る副騎士団長グラーツ。
透明化のスキルを解くキリーヤ。
グラーツが気配に気付き、
「キリーヤか?」
「処刑が決まったんですね」
「3日後だ」
「大臣数名、ガルベール公爵、真龍神教。間違いなく手を組んでいます……」
「権力者が絡めばいくらでも捏造、冤罪がまかり通るからな。オレに出来ることは処刑までの間、不遜な者から守ってやることしかできん」
キリーヤはグラーツに耳打ちをする。
「……な!……何てことを、このバカが」
「これしか、方法が」
警報が鳴り響く。
「やり過ぎだ。……が、でかした」
グラーツは牢獄を出ていく。
キリーヤは眠っている小さくなったシーナを眺める。
警報の音から目覚めるシーナ。
「シーナ……」
「なして、ここにおる」
「助けに来ました」
「……別にええ。ワッチは疲れた。生にも執着しとらんしの」
「シーナは生きなければなりません」
「王が亡くなって、全てに絶望したわ。
この国がどうなろうと知らん。腐敗して崩れさればええ」
「自暴自棄になってはいけません」
再び警報が鳴り響く。
「この騒ぎはなんじゃ?」
「黒竜がこの城を襲ってきます」
「は?」
「竜を倒せるのはシーナしかいません」
「何で城を襲ってくるんじゃ?」
「卵です」
「……龍の目隠しかい。おびき寄せたんか?」
「王室もシーナしか頼ることしかできません。この隙に逃げるもよし、恩賞を盾にするもよしです。
これしか方法が浮かびませんでした」
「ワッチはこの身体でランクも下がっておるんじゃぞ」
「Bランクから竜を討伐してきたシーナなら可能です。私も協力します」
「……お前さん、教団を裏切るんか?」
「私を育て導いてくれた真龍神教を裏切れません。これはシーナを救助する為だけにとった行動です」
「………」
足音が近づき、中年男と近衛兵が中に入ってくる。
キリーヤは「透明」スキルで姿を消す。
中年男が横柄にシーナに話かける。
「おい、仕事だ。
対の黒竜だ。城を囲んでおる」
「………」
「おい、聞こえているのか!竜が襲ってきておる!」
「……そうかい、頑張れや」
「国命に逆らうつもりか!?」
「ワッチの忠誠心は、アレキサンドラ・F・レイブル陛下にだけ捧げておるんじゃがの」
「暗殺して何が捧げるだ。いいから立たんか!」
「暗殺は大臣のお前さんが手引きしたんか?」
「な、何を!」
「知っておるぞ。ガルベール公爵とは懇意にしておるじゃろ?」
動揺する大臣。
「宰相就任でも約束されたんかのう?」
「こ、こ、この亜人が! も、妄言も大概にせんか!」
「教団自称の「神聖魔術師、神の御使い聖者」のカレア様がおるじゃろが。黒竜じゃろが銀龍じゃろが軽くなぎ倒してくれるじゃろう?」
「カレア様は、行方が不明だ」
「は、大言吐いとったが、飾りにしかならん女子じゃ」
「いいから動け。動かなければ今すぐここで殺す」
「かまわんぞ。どうせ処刑される身、国やお前さんらがどうなろうが知ったことじゃないわ」
「こ、この!」
近衛兵の剣を手に取る大臣。
「待て!」
10歳くらいの男の子が入ってくる。
「ワシネ大臣よ、下がれ」
「アレキシード王子。いけません!」
「行け!」
迫力と眼力におののき大臣は退く。
男の子は幼体となったシーナと対面。
「……其方は、真にシーナなのか?」
シーナに見惚れるアレキシード王子。
「すまなかった。余が至らないばかりにシーナを……。そして父上も……」
「お前さんは年少で制限されとる身じゃ、非力なんはしょうがない。限界もある。
ワッチこそ離れていたといえ、お主の父を守れんかった」
「シーナは悪くない。王室にはこびる反国王派一派を把握できなかった余が悪い」
建物全体が揺れ、近衛兵がアレキシードを庇う。
「アレキシード様!ここも危険です!」
「シーナ、余からの頼みだ。国を救ってくれないか?」
「………」
「冤罪なのは承知している。余の父の名に賭けてシーナを自由にすることを約束する」
「……お前さん、次期国王になるつもりはあるんか?」
「現下の余には才も知も力も皆無。だが王位を継ぐ意志はある。
その時は、父上が重鎮のシーナを余の配下、いや……余の妃に……」
「馬鹿なことを言うな」
「余は其方を、昔から、」
「ワッチはもう権力闘争や王政問題には関わりとうない。それに人族とは交わらんと決めておる」
苦渋のアレキシード。
「分かった。それは無しにしても、現状をシーナの力を、王族、民の為に使って欲しい」
「…………」
――[早送り]―[ストップ]
城上。
黒竜が山の方へ羽ばたき去って行く。
息切れする副騎士団長のグラーツ。
「危機一髪だったな」
「うまく卵を持って退いてくれたの」
「追っ払っただけ上出来だ。キリーヤの「氷雷」がなかったらまずかったな。
何度も誘ってるが騎士団に来ないか?」
「いえ、私は……」
「堅物過ぎだ。お前は教団からの自立を覚えんとな」
「………」
「シーナ、これからどうする?」
「このまま去ろう思うておる。いろいろ思うところがあるが、今は身を隠すんがええじゃろ」
「そうか。……キリーヤ、お前はシーナの命の恩人だ。これからの行動だが」
「……私は、教団に戻らなければなりません。これから教団の闇を探りたいと思います」
「いいのか、それで?」
「……はい。シーナの冤罪はまだ解けてません」
「そうか……」
騎士団員が来る。
「副団長!」
「オレは被害状況を確認してくる」
グラーツはその場を去る。
お互い沈黙の2人。
「……キリーヤ」
「はい」
「今回は助ったわ」
「力になれて何よりです」
「しかし、こんな無茶はもうやめておくれ」
「……シーナの為なら、です」
長く見つめ合う2人。
「教団から出るつもりはないんか?」
「……それは、あり得ません」
「……」
「……」
「そうか。戻るか……」
「……はい」
「教団は闇が深いでの。気い付けて、の」
「…………」
――[記憶回想]終了。
回想時間10秒でゴトーの脳内に全て入り込む。
苦しむキリーヤを抱き、嗚咽のシーナ。
――[鑑定]
◇
【【ステータス・ボード】】
【名前】キリーヤ
【性別】男
【年齢】48
【種族】人族 →魔族
【ジョブ】教会人
【LV】83
【HP】2/467
【MP】2598/8350
・
・
・
【状態】 異常
疼痛 激痛
魔体老化促進中
補足
寿命5分22秒
◇
――寿命が5分・・・。
「シーナ、今だけは私の、シーナで、いてくれ、ないか……」
抱きつくシーナは涙を流し続ける。
――[透視]
キリーヤの衣嚢に、20年前に教会で持っていた箱。
箱の中身を透視すると指輪。
ゴトーは衣嚢から箱を手に取り、中から指輪を取り出す。
指輪を見て嗚咽するシーナ。
「なに、後生大事に持っとるんじゃい……」
キリーヤに指輪を持たせてシーナの指に嵌める。
「あと、5分弱の命だ。傍に居てやれ」
ゴトーはシューティング・スターの5人の方へと向かう。
「今は2人きりにさせてやろう」
★★
安らかな表情のキリーヤ。
シーナはキリ―ヤの髪の毛を撫でている。
ゴトーはシーナの背に近づく。
「まさかワッチの為に悪魔に身を費やしたとはのう……」
「間違った形ではあるが彼にはそれしか選ぶ道、方法しかなかったのだろう」
「寿命を削ってまでかい、理解できんわ……」
「キリーヤは教団と愛する者の間で絶えず心の中が揺れ動き、幼体から戻す為、生涯を遂げたいた為に不老を願い込んだ」
「……不老いう甘言に騙されおって。あの馬鹿カレアが。純粋なキリーヤを惑わしおって……」
「偶然が重なり結果論だがここで再会。結果的に成就しない願いをここで叶えられた。それが短く虚像でもな」
シーナは愛しむような表情でキリーヤの遺体を撫でる。
「黒竜を倒したあの時、離さなければよかったわ。引き止め、奪い、手を離さなければよかったわ。ワッチは大馬鹿者じゃ……」
「キリーヤは愛する女の傍で最期を迎えた。その安らかな死に顔を見れば容易はつく。悔いはなかったはずだ」
「……そうなんかのう?」
「間違いない」
「……そうか」
薬指の指輪を見る。
「キリーヤの願いを叶えてくれて、ありがとうな、ゴトーよ」
「ああ」
シーナはキリーヤの頬にキスをして指輪を摩る。
「キリーヤよ。空から見守ってくれい。ワッチもいずれ行くでのう。その時は夫婦になろうぞい」
膝に乗せたキリーヤの頭を静かに優しく地面へと。
涙を拭き、指輪を右手で撫で立ち上がる。
「ワッチはもう平気じゃ。こう見えても神経は図太く、立ち直りは早い方でのう」
「・・・墓を作って来る。その間、キリーヤの傍に居てくれ」
「悪いのう。……ゴトー、有難うな……」
「気にするな」
「ええ相棒を持ったわ」
「一応確認だが、マイハニー、ラブラブと言ったのは演技だ。本気にされても困る」
「するかいっ!!」
――
33 シーナの過去2 終わり
34 龍の卵
――
――
次回
卵が孵り、お約束展開が!
――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます