第32話 シーナの過去1

――

過去時 シーナ・アルフレッタ 年齢48歳  

亜人補正で見た目20代


人族 キリーヤ 年齢33歳

――


記憶回想、ビジョン中。


20年前。

真龍神教教団。

拝礼堂。祭壇上の龍のシンボルに祈るキリーヤ。


祈りを終え後ろを振り向くとシーナ (大人バージョン)が壁に寄り添っている。


「シーナ」


「出発じゃぞい。まったくお前さんは信心深いの。カレアの祈っとる姿など見たこともないぞ」


「義姉は私などとは違い遥かに高みの聖職者。真龍神教団の鑑です。私はシーナにもこの真龍神教の教義を説きたいのですが」


「ワッチは神龍教のゲンダラフ神は信じるが、教団の真龍神は懐疑的での。この場は神の名を利用した金の亡者の狂信狂にしか見えん」


「それは一時的なもの。教団を維持、大きくするためです」


「平民から金を騙し取るのも、教団が引き取った孤児たちを過酷な労働に強いるのも教義なんか? 教義を体現するにこの周りにある過剰な装飾品は無用に見えるんはワッチだけか?」


「………」


「お前さん、教団の実態に薄々気付いておるじゃろう?」


「私は教団に尽す為にこの世に生まれてきました。教祖様の言葉に導かれ、義姉に救済されました。真龍神教は私の生涯、全てです」


「別にお前さんの敬仰心を否定はせんわ。騙されようが利用されようが、ワッチには関係ない話じゃ」


「………」


「ほれ、行くぞい」


「シーナ、お話があります」


真剣な表情のキリーヤは胸元から小さい箱を取り出す。

手に持つ箱にシーナはため息。


「お前さんがワッチを好いとるのは知っておった。いつかは来る思うておったが。……残念じゃがそれは受け取れん」


「一目見た時から貴女に心奪われました。竜を屠す姿に感動し、憧れ、いとしみ、畏敬の念を抱くようになりました」


「ワッチは崇高でも敬れる女子おなごでもないわ」


「シーナの行動理念は素晴らしいに尽きます。無償で困っている住人を魔物や竜から守る守護神です」


「神言われたんは初めてじゃわ。この場所で趣旨換えはええんか?」


動揺するキリーヤ。


「亜人と人族とは相容れん」


「実例はいくらでもあります」


「人族至上主義の教義に反するんじゃろ。ここは」


「教会人でも、過去には、」


「そういうしがらみが無しとしてもダメじゃ。ワッチはのう、短命の人族とは夫婦めおとにはならんと生涯決めておる」


「………」


「愛した者が先に逝くでの。独り置いてかれる身にならんかい。お前さんとは夫婦にはなれんが、友人として付き合うことも、支える事もできる。それじゃダメか?」


「………」


――[早送り]―――――――――[ストップ]


冒険の旅を続ける王国勇者一行。

魔物魔獣、盗賊野盗を討伐する光景。


――[早送り]―――――――――[ストップ]


2年後。(18年前)


酒場。

シーナとキリーヤは食事を終える。

同席には大ジョッキの酒を呑む純虎獣人。

人の身体に虎の顔の男。


「明日は凱旋かい。いらん行事じゃの……」


キリーヤは残念そうに、

「この街で、勇者パーティは終了なのですね……」


「無駄な日々もやっと終わりじゃ」


「無駄ではありません。この2年、魔物魔獣の討伐では多くの街や村、民の命を救いました」


「……そうじゃの」


「2人は王宮に戻るんですね」


「国王派のワッチらはただ派遣されただけじゃしな。パーティが解散したらアレキサンドラ王の元へ戻るだけじゃ」


「寂しくなります……」


店の中に騎士団員と複数の憲兵が入ってくる。

騎士団員の手には鞘から抜かれた大剣。


純虎獣人の男が騎士団員に問う。


「何事だ?」


「勇者センライ・パーティ。グラーツ副騎士団長殿!冒険の旅、お疲れ様です!」


「迎えに来たわけではなさそうだな。その物騒な物はなんだ?」


「カサノバ様がただいま参ります」


「国家憲兵隊長が?」


憲兵隊員を引き連れた中年の男が酒場に入ってくる。

テーブルのシーナを見つけると顔をしかめながら近づいてくる。


虎獣人のグラーツは国家憲兵隊長のカサノバに問う。


「大事だな、用はなんだ?」


「シーナ・アルフレッタの拘束だ」


「拘束?」


「罪人シーナ・アルフレッタ。

アレキサンドラ・F・レイブル国王陛下。宰相ジャナンデ・ロイフ。他3名の大臣暗殺の容疑で拘束する」


シーナは一瞬で青ざめ、

「暗殺?……王は亡くなった言うんか!?」


「白々しい」


「おい、それは事実か!?」


「早朝未明にお亡くなりになられた」


「……バカな」


「シーナ・アルフレッタには暗殺犯黒幕として容疑が掛けられている。長年王国派と偽り、反国王派の筆頭としての証拠も証人も揃っている」


「王が……」


「カサノバ殿。アレキサンドラ国王が亡くなられたのは間違いないのか?」


「多くの者が看取られた。おい、その者を捕らえろ!」


キリーヤはシーナの前に立ちふさがる。


「待ってください!シーナはそんな事をする人ではありません」


「それはこれからの聴取で明らかになろう」


「何かの間違いです!」


「どけい!一緒に連行されたいか?」


酒場の中に髪が立てロールの派手な服装の30代の女性が入ってくる。


「卑しく穢れた亜人が、王国の懐に潜って国王暗殺を謀っていたとはね」


「カレア義姉さんまで! シーナは国王の重鎮、暗殺などするはずはないでしょう!」


「他人の裏の顔なんて分かるわけないでしょう? 毒を盛った実行犯はそこの亜人から教唆されたと白状したわよ」


「その実行犯と会わせてください。「真実の鑑」を受けてもらいます」


「自白して自害したわ」


「洗脳操作か冤罪としか考えられない。信じてくれ!どれだけシーナがこの国の為に尽力したか。

シーナが居なかったらこの王国は瓦解、帝国の進撃も止められなかった。国の英雄が国を裏切り、国王暗殺なんて企むわけがない」


「英雄視されてそこの亜人は何か勘違いしたのかしらね? 国王暗殺など一族郎党どころか全亜人を絶滅させるほどの大罪ね」


愕然としているシーナ。


「王が……王が……」


「この重罪人を捕らえろ!」


憲兵はシーナの手を後ろに回し腕に装具を取り付けようとする。


「待ちなさい。竜をも倒すSランク。処刑されるまで油断禁物よ」


カレアは短い詠唱を唱えると、指先から光の刃を発動。


「シーナに手を出すな!」


両手を広げシーナを庇う。


「へー、あなた、私に指図するの?」


ビクッと怯えるキリーヤ。


「可哀想に、汚らわしい亜人に腑抜けにされてしまって。処刑前に殺しはしないわ。魔法を発動させないように四肢を少しね」


「手を掛ける事は許さない!」


「我が義弟は優しいいい子ねー。さすが従順な真龍神教の信徒。でも私に対しての反抗心はいただけない」


「……シーナは国のドラゴン・スレイヤーだ」


「駄竜くらい、私が居れば問題ないわ」


カレアは憲兵に目くばせ、憲兵はキリーヤを羽交い絞めする。


――「[パラライズ]」

電撃を浴び、気絶するキリーヤ。


カレアは再びシーナに対して向き合う。


「よせ」


様子を伺っていた虎獣人が立ち上がる。


「それは私刑か?

重罪人といえ容疑者を傷つける行為、虐待、迫害は禁止され人権侵害に該当する。

亜人獣人と言うなよ。それらの差別的扱いも含まれている。ここは帝国や他国のような私刑がまかり通る野蛮な国ではない。王国の定法に基づいてもらおう。

シーナはオレが保護させてもらう」


カレアは表情をしかめ、


「たかが副騎士団長。サムース侯爵の養子にどれだけの力や権限があるというの?」


「真龍神教の権威を貶めるぐらいあると思うが。実態を抉られてもいいのか?」


「………」


「今からオレはシーナ・アルフレッタの重罪後見人に自薦する。詮議や拘束時の警邏。無罪又は処刑までの間、24時間始終随伴する」


「重責ね。何かあったらどうするの?」


「規定に法って責任をとろう」


「……分かったわ」


カレアは憲兵に、

「外に居る神官を呼んできなさい」


「定法に基づくのなら問題ないのよね。

危険視されている容疑者には呪術を履行する憲がある。年齢を引き下げる術」


「LVを低迷させる……幼体呪術か」


「一時的なもので、無実が証明されたなら元に戻すことができる。これなら法に抵触しない」


カレアは中に入って来た2人の神官に、

「容疑者に呪術を」


カレアと2人の神官は杖を掲げる。


呪文を詠唱。

――[―--―ーー――-]


カレアの杖、2人の神官の杖が光る。

三対の光は合体して光の帯はシーナへと。


シーナは身体が縮んでいく。


「これ以上は小さくならないか」


神官の1人が天命石を用意してシーナに触れさす。


「レベル52です」


「呪いを掛けてもランクB。しぶといわね。薄汚い亜人の血なのかしらね」


服がブカブカのシーナは身体が縮んだことに気付かず、亡くなった王に対してショックを受けている状態。


「さあ、連行なさい」


カレアは声高く笑う。


――

32 シーナの過去1 終わり

33 シーナの過去2

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