第31話 魔人キリ―ヤ
――
「しかし、こんな強化、見たことないですよ。本当に、まさか転移人……?」
「・・・・・」 「……」(汗)
――
「ねえ、羅完拳ってギフトだよね」
「ゴブリン・キングでさえ一発で仕留めるという。
さすがゴトーさん、頼りになるぜ!」
「圧倒的強者なの」
「もう愛人でもいい!(♡)」
「リーダー、これなら慌てて逃げなくてもいいよね!」
「そ、そうだな」
「あたしたち、逃げるのは得意なんだよ」
「大きな荷物は諦めないといけないけどな」
「ええ判断じゃ。その若さで生き残っとるパーティだけはあるの。正直5人相手ならワッチも逃げ必須じゃが、今はゴトーがおるでの」
「それにしても刃が通らない肉体強化、これは攻撃力も凄まじいんだろうな」
「もうバレそうじゃから言うとくが、ゴトーはゴブリン・エンペラーも倒してての」
驚愕する5人。
「キングをワンパン。エンペラーは5パンくらいかのう」
「羅完拳クラス?」
「エンペラーってクラスSの魔物よ、さすがに……」
「信じる信じないは任せるわ」
「雰囲気も貫禄もあるよな」
「安心感なの」
「信じる(♡)」
<ヒソヒソ>
「やっぱりか……」
「転移人、勇者さま……」
薬の治療で拳が治ったチョキは鬼の形相で睨みつけてくる。
他の男たちとこちらを伺いながらヒソヒソと相談を始める。
「こっちをまた襲う算段してない?」
「まだ諦めてない?」
「負ける要素はないんじゃが無理することはないわな。去った方が無難かもじゃ」
「あの、シーナさん。もしかしたらあれ「隠蔽の箱」じゃないですか?」
「なんじゃと!?」
魔術師の傍には黒い箱。
「禁制品の麻薬草でも入ってるのかしら?」
「真龍神教独占の禁忌の箱……」
「別名「龍の目隠し」なの」
「おいおい、龍の卵と言わないだろうな。
それか龍の仔とかか?いや、さすがにそんな無茶なことは……」
「マッドネスのパーティは、真龍神教と繋がっていると噂もあります。あそこって昔から仔龍を狙ってるとか、ありますよね」
「そんな話も聞こえてくるのう……」
「龍の卵って別に珍しくないよねー」
「ワイバーンや青竜などの下位、中位種はな」
「このカスピス山脈には古龍の銀、紺、紅の龍3大上位種の紅龍が、
棲息しているはず。魔族も避けると言われ、魔王の次に強いとか……」
「伝説級なの」
「ゴトーさん、わたしコワーイ(♡)」
「伝説の紅龍って龍種の中で一番残虐で攻撃的ですよ、ね?」
「そう伝えられておるの」
「ドラゴン・スレイヤーのシーナさんなら?」
「ワッチが10人おろうが上位種は無理じゃわ」
「卵や仔龍だったら、え? 紅龍を倒した?」
「さすがに親龍は倒せんじゃろ。倒さずとも何らかの魔法でうまく眠らせることはできるかもじゃ。しかしそんな魔法はよほどの高位魔術」
「マッドネスの魔術師、そこまでの使い手とは思えませんね」
「他は闇魔法じゃが、あの仮面の男が気になるのう……」
「あっ、来た!」
魔術師の男が仮面の男を引き連れ近づいてくる。
ブキミな存在感の仮面の男。
魔術師の男はゴトーを指さし指示を出す。
「あの男を例のアレで殺れ」
「ゴトー、なんか嫌な予感がするのじゃ」
「ああ。危険度を上げる。皆は下がっていろ」
「気いつけい」
皆は後ろへ下がり、ゴトーは仮面の男と対峙。
呪文を詠唱する仮面の男の周りには禍々しい黒いオーラ。
「—₋₋₋∺—∺⊶-₀₀₉zzk²²⁴⁴⁴ⅵ₆₆₀₋—⁻₋₋₋」
ゴトーの手前に黒い炎が浮かび上がる。
「闇の怨炎じゃと……」
「闇? 闇属性って、上位種の魔族しか扱えないんじゃないですか?」
「魔族なのか!?」
「ゴトー、マズい! 逃げるのじゃ!」
黒い炎がゴトーに迫り、全体を包み込む。
<ゴオオオオオオオオオオオオ!>
「シーナさん!さすがに、これは……」
「お、おう……」
魔術師の男は得意げに語りだす。
「闇怨炎。消滅した者の魂までも焼き尽くすと言われる闇の魔法」
「おい!こいつは何者じゃ!?」
「フッフッフッフ。魔人」
「……闇落ちか」
「闇落ちって、人間から魔族になるという、禁忌ですか」
「人の身が耐えられるわけがない。とてつもない魔力を得られるが代償が寿命。身体中蝕まれ、精神が破壊される、闇落ち……」
「さすがのゴトーさんも……」
「ゴトーさーん!」
「アナター、逃げてー!」
黒い業火、闇怨炎の球体に包まれるゴトー。
<ゴオオオォォォォ・・・・・・……>
黒い炎が収まる。
無傷のまま全裸で立ち尽くしているゴトー。
「ファイヤー・グリズリーの毛皮が消し炭で全裸に!」
「ゴトーさんが立っている!」
「え? 勃ってる!?」
<パコーン>
「ビックなの」
「こらエル、見るんじゃありません!」
目を抑えるシュバルツ。
――
(注)
モザイク推奨
――
目を瞑っていたゴトーは目を開き、全裸で冷静に分析をする。
――これほど凄まじいとは・・・。魔法耐性を最大にしなかったら塵も残らなかったな・・・。異世界あなどるべし、か・・・。
――[鑑定]
【【ステータス・ボード】】
【名前】キリーヤ
【性別】男
【年齢】53
【種族】人族→魔人
【ジョブ】教会人
【LV】83
【HP】18/2467
【MP】2598/8350
【攻撃力】58
【防御力】458
【魔力】919
【魔法属性】
『闇』LV9
『火』LV8
『雷』『水』『風』『氷』『土』『無』LV6
【スキル】76
「浮遊」
<next page>
【特殊スキル】3
「闇怨炎」
<next page>
【ジョブ履歴】
教会人
→教団魔術師
→勇者一行(魔術師)
→教会人
→マッドネス・パーティ一行(仮)
【称号】
なし
【状態】異常
闇洗脳 闇傀儡 痛覚麻痺(魔体老化停止)
補足
寿命18日
◇
――人から魔族へと変化。
洗脳、傀儡で操られているということか。
LVが83ということはSSクラス。
闇魔法補正でLVや魔力を底上げしたと推測。
魔術師の男は信じられないという表情。
「バカな!黒闇の怨炎を受けて無傷だと!?」
「シーナさん、どうしてあれを喰らって無事なんですか?」
「……ゴトーは、凄く……丈夫なんじゃ」
「丈夫で耐えれるレベル?」
「仮面の男は魔族なんでしょうか?」
「ゴトーよ、ちょいと鑑定を使ってくれんか」
「名は、キリーヤ」
「な! 何じゃと!」
青ざめるシーナ。
「なんてことじゃ……」
「レベルは83。魔人だ」
「あのバカタレが、闇落ちしたんか……」
「洗脳で操られ自意識は喪失。自らの意志での攻撃ではない」
「キリーヤって真龍神教の人? 勇者一行の時のシーナさんと一緒に」
「……仲間じゃった奴じゃ」
「その人って、シーナさんに呪いを掛けた人なんですか?」
「キリーヤはそんなことせん。掛けられたんはコヤツのクソ義理姉、教団聖女からじゃ」
ゴトーはオロオロと慌てる魔術師に、
「人道に反する外道よ。お前の仕業か?」
「ヒイィ!!」
慌てて逃げようとする魔術師と、
遠くから眺める旗色の悪くなったマッドネス4人。
――[分身の術] <ブンッ>
5人のゴトーが分裂で現れる。
それぞれのゴトーが瞬間移動でマッドネスの男たちの後へ廻り、
同時に手刀で首を攻撃。
昏倒し地面へと前のめりに倒れる5人。
分裂から1人に戻るゴトー。
「一瞬で!あれは伝説の転移人「ハットリ・ハンゾウ」のギフト「分身の術」だ!」
「鑑定も使えるようだし、やはり……」
「転移人……」
「ん? 転移人?」
「これはもう確定事項なの」
シーナは茫然と立ちすくむ意志のない仮面の男、キリーヤに近づく。
「キリーヤよ……」
無反応。
「……ゴトーよ、正気に戻すことはできんか?」
「可能だ」
「頼む」
「闇洗脳を解けば痛覚麻痺も解除。老体化も進行し、身体中に激痛が伴なうことになる。寿命も大幅に短縮されるだろう」
「……悪魔に身を費やした罰じゃ。解いてくれ」
――[闇洗脳解除]
解除すると同時にキリ―ヤは激痛を伴い、肉体は蝕み壮絶な痛みが襲う。
仮面は外れ、火傷の跡のように顔面は爛れた状態。
シーナは縋るようにゴトーを見て、
「ど、どうにかできんか?」
「肉体への闇の浸蝕、俺の聖魔法でも治療は不可能らしい」
「……せめて痛みをどうにかしてくれ」
「麻痺を行うと、また意識が途絶えるがいいのか?」
「……それでええ。たの、」
「シーナ……」
激痛に耐えながら、掠れた声で必死にシーナを呼ぶキリーヤ。
シーナは抱きかかえる。
「このバカタレが! なして悪魔に身を費やした……。お前さんそんな奴じゃなかろうが。教団の中で唯一まともな奴じゃったろうが」
「シーナを……」
「お前さんもう人の体を成しておらんじゃろ……」
「私は、不老、に……」
「不老じゃと!? 悪魔の甘言に踊らされおって。人の身が耐えられるわけなかろうが。お前さん神の信徒じゃろが。悪魔に身を売るなど矛盾しとるじゃろ。……いや、これは、カレア(義理姉)の仕業か?」
「……私が教団と魔族との懸け橋となり……龍の卵を得る事に成功したら……義姉さんはシーナの呪いを、解呪させると約束してくれた」
「アヤツがワッチの為に約束を守るわけなかろうが」
「……姉さんから、シーナと一緒になるには、これしかないと」
「このバカタレが!教団やカレアにいいように含められよって!」
「それに、不老になると、シーナと……」
「まさか、ワッチと一緒になる為に悪魔に身を?」
「これで、長命種の貴女の元へと、添い遂げることが、叶います。……言いましたよね。長命種の貴女と添い遂げるには、人の寿命では短すぎると」
「あの時の、言葉を……」
シーナは涙を流し、キリーヤを抱きしめる。
冷静に2人を眺め思案するゴトー。
――イベントとしては劇的なドラマ。
キリーヤと幼女との関連性。
このドラマチックイベントは見逃せない。
悪いが・・・。
ギフトを発動。
――[記憶回想][ビジョン]
ゴトーの脳内に、キリーヤの過去の回想が流れ込む。
――
31 魔人キリ―ヤ 終わり
32 シーナの過去1
――
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