第29話 レシピの伝授

ゴトーは次々と肉を炒め、6人の皿に入れる。


「スキヤキ、凄い料理ですね」

「タマゴに付けなくても十分いけるな」

「朝からこんな贅沢していいのかしら」

「究極のメニューなの」

「おいしー」


ゴトーは炒めた肉を繰り返し食べさせ、絶賛、満足する6人。


木のボトルからコップに林檎ジュースを注ぐ。


「これは蜂蜜と砂糖水を合わせた、ハニー・ジュースだ」


「飲み物まで。至れり尽くせりだな」

「おー、甘く濃厚だな。贅沢な味だな」

「ハチミツの甘さが染みわたるー」

「飲料水ナンバーワンなの」

「うまーい」


「これまでが関西風の食べ方だ。残りは関東風すき焼きにする。具材は少ないがそこは我慢してくれ」


「かんさいふー? かんとんふー?」


フライパンに肉と葉野菜、茸を投入して割り下を並々と注ぎ煮込む。


<グツグツグツ>


「頃合いだ。好きに取って喰え」


フォークを肉を刺し、口に入れ食す6人。


「うめー」

「炒めるじゃなく、煮る、か」

「葉物苦手だけど、味が染みてこれならいけるわ」

「食の革命なの」

「おいしー」


「今回は比較的いい部位の肉を使ったが、割り下さえあればどこの部位でもそれなりの味になるというのがミソだ」


「……具材はともかく、砂糖がね」


「絶望的に手に入らないからな……」


「〆にウドンと溶き卵を入れるのがお約束だ。肉の脂身がしみ出したスープがいい仕事をする」


「何故ここにウドンがないんだ……」


「米の雑炊でも可だ」


「お米かー」


「見たことないよな」


「今回は溶き卵だけで半熟で食べてもらう」


残った割り下、肉を煮つめ、余った溶き卵を投入。

弱火にして板の蓋をする。

卵が固まる。

残りの卵をグルグル状にして入れ蓋をする。

火を止めて30秒余熱で蒸らす。


「半熟トロトロ肉卵だ」


<<<<<<ゴクリ>>>>>>


半熟の状態でそれぞれの小皿に取り分ける。


「絶妙としか……」

「生でもない、固まってもない、これが卵の実力か!」

「トロトロと肉が絡まるわ!」

「食の伝道師なの」

「さいこー」


「すき焼きと比べればインパクトに欠けるが、最後の一品だ」


竈の火にかけた金属の大きな鍋。

上の木の蓋を取ると湯気の蒸気。

中にはお湯が張られ、7つの木の茶碗が置かれている。


「茶碗蒸しだ。出汁には「花シイタケ」を使った」


「え!? 魔木から獲ったんですか?」

「あの木って擬態してるし見つけるのが大変だぞ」

「キノコの出汁?」


「花シイタケを風魔法で乾燥させ、一夜水に漬けて戻した出汁だ」


「え? じゃあ、スキヤキに入ってたのは花シイタケ、だったんですか?」


「そうだ」


「高級茸……」


「銀杏の木も発見。サイコロ状にしたイノシシの胸肉と銀杏入りだ」


「蒸した料理。馬鈴薯以外こんな料理法、見たことも聞いたこともないわ」


「これも砂糖が入っとるのか?」


「ああ。砂糖がなくとも美味だが、好みは人それぞれだろう。味は別物だがプリンと似た食感だ」


「なんと!」


テーブルに人数分の茶碗蒸しを置く。


「口の中で蕩けるな」

「やさしい味。別物の卵みたい」

「同じ卵料理でも違うんだな」

「タマゴ事変なの」

「うまーい」


「シーナさん、どの料理も王宮料理クラスじゃないですか?」


「……多分、王宮でもこんなんない思うわ」


「どの料理も安価で作れて庶民の味だ。卵さえ用意できれば簡単に茶碗蒸しは作れる。知りたければ教えてやろう」


「え?」


「ゴトーさん(♡) あたしと一緒に朝の目覚めからの、ちゃわんむしを作れという意志表示……」


「ゴ、ゴトーさん、こんなの高級店の料理に出てくるレベルですよ」


「砂糖もこれでよかったら持っていくといい。粗悪品で悪いが」


「いやいや、この量、金貨何枚分ですか!?」


「問題ない。いくらでも作れるからな。鍋やフライパンの礼だ」


「この「ちゃわんむし」の作り方でも、金貨何枚とかの価値が……」


「こんなの平民が作ったら目を付けられるわよ」


「そうだよな。下手したらレシピの為に殺されるな」


「ゴトーよ、コイツらの言う通りじゃ。製法や知識を一介の冒険者や平民に渡すんはかなり危険な行為じゃ」


「では仲間内だけで食べればいい。厚焼き玉子も作り方を教えよう」


シュバルツはシーナを見る。


「……ゴトーが教える言うならええんじゃないんか? じゃが目立たんようにな」


「は、はい……」


「やったー!」


「卵と砂糖があればこれが毎日食べられるのか!」


「卵はともかく、砂糖は足りなくなるわね」


ゴトーはシーナを見て頷く。


「あー、まだ先になる思うが、ホトライト領地から安い砂糖が出回るかもしれん」


「え!? ホントですか!」


「ゴトーが作っておるだろう。まだ決定ではないが、それまで砂糖のことは内密に頼むわ」


「砂糖の知識があるなんて、ゴトーさんはソントレー国の人なんですね」


「お、おう。そこら辺、辺り出身かのう……」


満足するシューティング・スターの5人。


「いやー、腹12分目だ」

「もうお腹いっぱい!」

「こんな贅沢な朝ご飯なんて、野営中どころか街でももうないんじゃない?」


テーブル上の大皿の余った肉を見て、

「このオレが全部食い尽くせなかったとは……」


「さすがにこれは量を誤ったのう」


「いや、誤ってはいない」


「ん?」


シーナは肉の塊を見て、

「まさか……」


「このパーティの胃袋は掴んだ。秘密も守ってくれるだろう」


「いや、じゃが、」


「[空間収納]」


「お、おい!」


空間に歪。

そこからブラック・タイガー、ケルベロスが出てくる。


「わっ!」

「魔獣!」


シュバルツ、ガルツは剣を取り警戒態勢。


「トラキチ。ケルロー。この5人は問題ない」


『『『オーン』』』 『ニャーン』


エルメダはケルベロスの元へ赴く。


「エル!」


「大丈夫なの」


エルメダが頭を撫でると甘えだすケルベロス。


『『『ク~ン』』』


震えながらブラックタイガーに臨むサミン。


「ゴトーさんのお嫁さんになるには、これは試練……」


ブラックタイガーはサミンに飛び込み顔面を舐め出す。

涙目のサミン。


シュバルツとガルツは茫然とする。


「使役?」

「テイム? 魔獣が?あり得ないだろう」


シュバルツはシーナを見る。


「まあ、そこはほれ、ゴトーじゃからのう……」


「「………」」


★★

エルメダはケルベロス。

サミンは涙目でブラック・タイガーの背に乗り追いかけっこ。


●REC

ゴトーはスマホで撮影中。


「もう何でも有りよね。昨日の夜から驚きっぱなし」


「本当に魔族じゃないんですよね」


「それは違う。そこはワッチが保証するで」


「別に人外でも魔族でも良くしてくれるならいいんじゃない? ほら、昔話でも人の従魔の話はあるし、魔族でも好意的な悪魔は居るとかあるし」


「作り話や噂話の類だけどな」


「美味しいご飯を食べさせてくれる人に悪人はいないわ!」


「それは断言できないが、ゴトーさんなら信用に足るな。何の悪意も感じられないし、何よりエルがオレたち以外に心を開かせている」


「人生一のごちそうをしてくれて、砂糖を譲ってくれて、レシピも教えてくれる。これって昔の転移人の勇者みたいじゃない?」


「帝国に醤油、味噌、ウドン料理を作って村人に伝授した話か」


「ゴトーさん、伝説の転移人みた……い、ん?……んん?」


「え……?」


シュバルツとチーコはシーナを見る。


目を反らすシーナ。


「「………」」  「………」(汗)


シュバルツとチーコはヒソヒソとする。


「これって追及してもいいことなの?」

「いや、流れ的には、隠してるようだし……」

「確定?」

「うーん……」

「知らなかったふりする?」

「そうだな……」

<チラッ>


「………」(汗)


サミンが小走りでやってくる。

「6人パーティが、南から来るってゴトーさんが! 距離は200」


「南? 山脈から?」


「難易度8の山脈。格上のパーティか……」


パーティは臨戦態勢を組む。


森奥から高価な装備を纏った怪しいパーティが野営地の広場へと入ってくる。


「あれは極悪非道の「マッドネス」のパーティ?」


「さ、最悪です……」


――

29 レシピの伝授 終わり

30 AランクPT 「マッドネス」

――

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