第27話 深夜の作業
深夜。
野営地。
焚火の傍。
狼獣人(半獣人)リーダーの剣士シュバルツ 、
狼人族(半獣人)タンクのガルツ 、
猫人族(半獣人)魔術師のチーコが、
地面や木に寄り添いながら寝入っている。
その傍のシーナは寝袋に入って眠り、
「フンガガガガー! スピー スピー」
<ビクン!>
「ギリギリギリギリー!」
兎人族(半獣人)狩人のサミン 、
狼人族(半獣人)狩人のエルメダが、夜番の見張りをしている。
「ゴトーさん、あたしに気があるよね、ね?ね?」
「………」
「あたしのために卵料理を、愛ね」 <キリッ>
「………」
「あ!ゴトーさんが戻ってき、!」<ビクッ!>
「!」<ビクッ!>
熊の毛皮、股間に葉っぱのゴトーは、
魔虎のブラック・ヘル・タイガーの背に乗り野営地へと戻ってくる。
横を歩くのは三匹の頭を持つ魔獣ケルベロス。
『グルルルル―』『『『ガルルルルー』』』
サミンとエルメダはゴトーと目が合う。
「・・・・・」「「………」」
ゴトーはブラック・タイガーから降り、2匹の魔獣と共に2人の元へと。
「俺がテイムした魔獣、害はない。名はケルロー。トラキチだ」
『『『オ~ン』』』 『ナ~』
魔獣を目の当たりにして、目尻に涙を浮かべる2人。
ケルベロスはエルメダ胸に甘える。
『『『オウーン♪』』』 「……」
ブラック・タイガーはサミンに接触、顔を舐める。
<ペロペロペロ> 「……」
硬直し、涙目。ガクガクブルブルと震える2人。
「[空間収納]。入れ」
空間に漆黒の球体。
漆黒の空間へと入る魔獣2匹。
身体の震えが収まらない2人。
「怯えさせてすまなかったな。許してくれ」
<<コクンコクンコクン>>
「これはチョコレート、甘味だ」
2人に手渡す。
「口に入れて飴のように舐めろ」
2人は恐る恐る口に入れ、舐める。
「「!!!」」
甘さに驚き、顔を綻ばせる2人。
「あまーい」
「美味なの」
ゴトーはその言葉と表情に満足して、竈へと歩き出す。
「砂糖?」
「チョコレートという名なの」
「砂糖よりおいしい!」
「いい人なの」
「エルちゃんに彼は渡さない!」<キッ!>
「彼は獣人に興味津々なの」
「え? ホント? あたしにもチャンスが?」
「サミンにはムリなの」
「えーー」
2人はゴトーの行動を眺める。
「[空間収納]」
漆黒の空間から次々と食材、直径10メートルはある丸太が出てくる。
丸太に向かい両手を向け、
<シュバッ! シュリン! バッサッ!>
魔法で丸太の皮を削ぎ取り、縦、横へと切り裂いていく。
次々と「板」や細い「棒」状の木材になり、
それらが空間に浮きながら、横に綺麗に積まれていく。
作業工程を茫然と眺めるエルメダ、サミン。
「ウインドーカッター? ウォーター・ソウ? なんで木が浮いてるの?」
「わからないの、謎魔法なの」
「謎かー」
★★
「フンガッ!」 <ビクン!>
「葉っぱ付けんかい! ムニャムニャ……スピー スピー」
サミンは見張り交代のため、眠っているガルツを起こす。
「ゴトーさんが帰ってきたよ」
「――おう。あの人なら無事そうだよな」
「謎魔法よ」
「注目なの」
「?」
タンクのオオカミ獣人、ガルツの見張り。
周りを警戒しながらゴトーの動向を見守る。
ゴトーは板を手にテーブルを組み立てている。
3メートルはある長方形のテーブルを完成させる。
「なんで、釘がないのにくっ付くんだ?」
テーブル上に根菜を置き、水魔法で洗浄。
皮をむきナイフで刻見込む。
まな板の上で粉々に刻み終わると、ゴトーはガルツの元へと。
「鍋とフライパンをあるだけ貸してくれないか」
「あ、ああ」
ガルツは大鍋と小鍋2つ、フライパンを手渡す。
「悪いな」
「いや、全然……」
チョコレートを渡す。
「疲れた時は甘い物だ」
「……ど、どうも」
テーブルに戻ると大鍋に刻んだ根菜を入れて、水を足して竈の上に置き火をつける。
その後、小鍋に水を入れてキノコを放り込む。
横に積んでいる板と棒を手に取り椅子の作成に掛かる。
次に必要と思われる板や棒がフワフワと浮かび、ゴトーの元へと飛んでくる。
脇目を振らず板や棒を手にして物凄い勢いで椅子を組み立て出来上がっていく。
1時間後。
7脚の椅子が完成。
茫然のガルツ。
無限収納の空間から粘土らしき塊を取り出す。
それに水を加えこねくり回す。
小さい筒状に形を整え、中身を掻き出し空洞にして樽状に。
仕上げに下方に空気穴を開ける。
――あれは、七輪? 確か昔の帝国から伝わってきた。
今になってチキュウの転移人が作ったと暴露されてる……。
右手をかざすと七輪は宙に浮き、左の手の平からオレンジ色の球体。
七輪は高温の火球に包まれる。
20分後。
魔法の浮遊、火球、乾燥によって七輪が完成する。
茫然のガルツ。
★★
「ええかげんにせんと、角付けさせるぞい!……スピー スピー」
「おい、チーコ、時間だ」
「あー、うん……。問題ない?」
「……」
「何かあった?」
「……ゴトーさんに鍋を貸した」
「そう。よかった、無事に帰って来たのね」
「……」
「どうしたの?」
「……寝るわ」
「?」
チエコの見張り。
ゴトーの傍に野営地には存在しないテーブルと椅子7脚。
高級感が漂い、貴族地区の店で売ってる物とは変わらない出来栄え。
「……なんで?」
ゴトーがチーコの元へと。
「すまないが、調味料の醤油を貸してくれないか?」
「あ、はい」
「それと味醂はあるか?」
「……みりん? それは何でしょう?」
「酒だ。米の酒があればいいが」
「ごめんなさい。お米のお酒は高価で、お酒どころか米さえも見たことありません。それと冒険中はパーティのルールでお酒はなく、果汁酒さえご法度なんです」
「無理を言ったようだ。すまなかった」
「いえ」
チエコは醤油を渡す。
「これを食べるといい」
チョコレートを渡す。
「あ、有難うございます」
「少し出掛けてくる」
「え?」
テーブルに醤油を置き、森の中へ歩きだし暗闇の中へと消える。
「え?え?えー?」
茫然のチエコ。
2時間後。
魔獣のブラック・タイガーの背に跨ってゴトーが戻ってくる。
「ヒャッ!!」
ゴトーと目が合う。
「……」 「・・・・・」
ゴトーはその場でブラック・タイガーを降りて空間収納を発動。
魔獣は空間の中に入って消え、ゴトーはチーコの元へと。
「ただいま」
「お、お、お帰りなさい……。え、えっと、ま、ま、魔……」
「気にしなくていい」
「………」
「チョコレイト美味しかった、です。あんな甘味、初めてです」
「そうか。ところでカカオ豆という物をは知っているか?」
「……サントレー国産のですか?」
「詳しいのか?」
「そこまで詳しくありません。薬や薬草の本を読んでの知識です。カカオは王族や貴族のような高貴な身分の人に賜れる特別の薬とか」
「薬の認識か。歴史上からみても疲労回復、滋養強壮、精力促進。生活習慣病の予防効果や美肌効果など期待されてたそうだ」
「美肌効果! 凄いですね」
「だが劇的に効くような効果は確認はされていない。現代の一般的な認識では薬というより嗜好品だ」
「嗜好品、ですか」
「カカオ豆に砂糖や牛乳など加えたものがチョコレートの原型だ」
「……え!? 貰ったチョコレイトって、カカオ? 砂糖を加えた?」
「そうだ」
「……すごく、お高い物では?」
「俺の国ではそこまで高くはない。板チョコ1枚、銅貨1枚(100円)といったところだ」
「……へ?」
「今のも50個入って、銅貨5枚で買える」
「……は?」
「高価そうな嗜好品といえば、」
空間収納から、直径1メートルはある蜂の巣を取り出す。
「うわっ! それって「マーダー・キラービー」の!
これって完全武装じゃないと……」
ゴトーの姿は熊の毛皮に股間に葉っぱ。
「……大丈夫でしたか?」
「キラービーは壊滅させた。
酒の代替品を探してたが、代わりにこれを見つけたまで」
「……蜂蜜は、お酒やカカオ豆より値が張ると思いますよ」
「売値はどれぐらいか分かるか?」
「……手の平に収まる小さい壺で金貨3枚(30万円)と聞いたことがあります」
「想像以上の高価な値段だな」
「キラービーはクラスBですが、見えない速さで何百と襲ってくる厄介な魔虫です。労力的にも効率も悪く、大隊を揃えて5人以上の魔術師を従えての討伐です。
……何匹くらい退治したんですか?」
「232匹だ」
言葉を失うチエコ。
「その場に倒れていた冒険者の遺体から、剣や防具を頂いてきたがこれは倫理的に反する行為なのか?」
「いえ、街中以外での遺体の所有物は見つけた者になります。売るも使用も問題はありません」
チョコを2個手渡す。
「参考になった。特別にもうひとつだ。ひとつは次の交代の男に与えてくれ」
ゴトーはテーブルの椅子に座り、皿、コップ、茶碗、お椀、菜箸、ヘラ、スプーン、フォークを魔法やナイフで凄い勢いで削り仕上げていく。
「………」
出来上がったコップの上に、ハチミツの巣が宙に浮き、ゆっくりと蜜が滴り落ちる。
「謎魔法……?」
★★
「なして内側から角が割れるんじゃい! 剣刃でさえ通さん硬さじゃぞ!……スピー スピー……」
チエコはシュバルツが起こす。
「時間か……」
「謎魔法」
「……ん?」
「チョコレイト」
「?」
リーダーの剣士、シュバルツの見張り。
周りを警戒しながらゴトーの動向を見守る。
ゴトーは金属の鎧(冒険者の遺体から剥ぎ取った)を無限収納から取り出しクリーンで浄化。
テーブルに金属を置き、手を添えると魔法で金属は変形。壺型や桶の形へと変貌していく。
茫然のシュバルツ。
それを終えると、竈に掛けていた大鍋を取り出す。
蓋を開け、中身を掬った手には謎の粉。
口に含み味見をするが、納得しない様子で首を横に振る。
鍋の中に手を捧げ魔法らしきものを発動。
何度かそれを繰り返し味見するが納得のいかない表情。
少しずつ空が白みを帯び明るくなってくる。
空間収納から大量の卵を取り出しテーブルに乗せる。
慣れた手つきで片手で卵を割り、中身をお椀に入れ、水、謎の粉、醤油を数滴たらして菜箸で掻き混ぜる。
テーブルの上の七輪にフライパンを置き火をつける。
熱し煙が出たところで猪脂を塗り、掻き混ぜた卵を投入。
フライパンを手に持ち、焼けた卵をハンドルをトントンと叩き、菜箸で奥に巻く。
空いたフライパン面に猪脂を塗り、再び卵を投入。それを数回繰り返す。
出来上がった厚みのある卵焼きをまな板に乗せて、一口サイズに切り大皿に乗せる。
一口味見をして、「70点」。
小鍋を手に持ち、箸で茸を小皿に取り分ける。
別の作業をしながら、
「[リバイバル]」
するとテーブル上の卵や菜箸が意志があるかのように宙に浮き、お椀の中に割れた卵、菜箸がシャカシャカとそれをかき混ぜる。
熱したフライパンに卵が流れ、ゴトーが行った厚焼き玉子の完成までの一連の動作を自動的に何度も再現されていく。
次々と厚焼き玉子が大皿に積んでいく。
「…………」
――
27 深夜の作業 終わり
28 スキヤキ
――
――
次回
絶賛
――
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