第26話 モモタロー


――

「今の流行りは、モモタローだよ!」

「ん? モモタロー?」

――


「いま、それ?」

「空気読め」


「モモタロー、それはなんじゃ?」


「帝国からいろいろな娯楽本が王国に流れてきてるんです。転移人が語ったと言われるチキュウの物語なんですが、知ってますか?」


「いや、知らん」


「チキュウって、桃から人が生まれるんだよ」


「なんじゃと……」


シーナはゴトーをチラッと見る。


「・・・・・」


「どんな物語じゃ?」


「題名は「モモタロー 魔物島へ行く」です。

序章が子供のいないお爺さんとお婆さんの朝チュンから始まります。

子供に恵まれず、毎夜ハッスルする老夫婦が、」


「そ、それ、大丈夫な話なんか?」


シーナは無口で無表情な幼女エルメダを見る。


「過激な描写は戦闘シーンくらいだよね」


「保護者と一緒ならいいんんじゃないか?」


「まあ魔物との戦闘は耐性があるじゃろうからええんじゃが……。

それで、モッモ(桃)から生まれるとはどういうことじゃ?」


「ある日、お爺さんが山へスライム狩りに出かけます。専業主婦のお婆さんは川に洗濯をしに行くんです。

すると上流から両手を広げてもあり余るくらいの大きな桃が流れてきて、今日の夜のデザートにするために家にお持ち返りしたんです」


「ほう。そりゃ、モッモを見逃す手はないからの、で?」


「お爺さんが家に帰って来て、さっそく桃を食べようと、鉈を振り下ろして真っ二つにしたんです」


「お、おい。鉈て、中に赤子がおるんじゃろ」


「はい。挿絵にもありますがお爺さんは勢いよく鉈で割ります」


「ど、どうなるんじゃ!?」


「中には真剣白羽取りする赤子の男の子がいました。生まれながらに危険を察知して何らかのスキルを発動したようです」


「……」 「・・・・・」


「いや、チキュウ人はスキルや魔法を持って生まれてこんらしいぞい」


「え? そうなんですか?」


「最新の確かな情報なんじゃが……」


「じゃあ、生まれながらの本能で白羽取りを?」


「それだと、モモタローはチキュウ星での転移人じゃないということか」


「……ん?」


「このテラウスに別の世界から転移人がやってくるなら、チキュウでもどこかの世界から転移人がやってくるんじゃないかとの推測があるんです。

この物語からそう考察されてるのが、モモタロー転移人説です。ですが神の加護や恩威がなければ、転移人ではないということに」


「でも、鉈をキャッチするんだよ。なんらかの力は秘めてるんじゃない?」

「LVを上げていくタイプじゃないか?」

「それだとあたしらと変わらないじゃん」


「恩威とか加護とか説明不足だし、そこ辺りの描写は不足なんだよな」

「神さまも出てこないしねー」

「ゲンダラフ神龍と同じとは限らないわ。チキュウでは別の神様とか、別の加護とか、」


<ワイワイ ガヤガヤ>

パーティで討論が始まる。


<ヒソヒソ>

「ゴトーよ」

「何だ」


「まさか、ゴトーはモッモ(桃)から生まれたいうことはないんか?」


「ないな」


「この2日間チキュウの話を聞いとってじゃが、モッモから生まれるはない思うんじゃが」


「桃太郎はただのフィクションだ」


「じゃよな。……じゃが大きなモッモはあるんじゃな」


「品種改良を重ねても大きな桃にはならない」


「……それは残念じゃ」


「シーナさん、これ以上のお話は顛末や結末のネタバレになるんで……」


「お、おう。……ワッチも機会があったら、手に取ってみるかの」


「ぜひそうしてください!いまレイブル国のベストセラー1位で、今後続きが発行されるそうです。

「モモタロー 大迷宮を争覇」 

「モモタロー 伝説の浮島へ行く」

「モモタロー ハーレムを築く」

「モモタロー 魔大陸編」。続巻に期待です!」


「……」 「・・・・・」


「早く発売されないかなー」


<ヒソヒソ>

「モモタローの娯楽本、そんなに冒険するんか?」


「魔物島、1巻で完結だ」


「気になるんは「浮島」「魔大陸」この辺じゃ。帝国からの文献で2代前の転移人から、そこら辺の単語が記述されておる。

大迷宮はテオタビの街にあるのじゃが、昔から浮遊島、魔大陸など噂には挙がるが実在の確認はないのじゃ」


「ということは、それらは実在する可能性。史実と虚構が混じり合わい、所々改ざんして物語性を高めシリーズ化としているという訳か」


「娯楽本もバカにできんのう……」



「来月には、ウラシマタローの新作が発売されるんだよ」


「……ウラシマ、タロー?」


シーナはゴトーをチラッと見る。


「・・・・・」


「どういう物語なんだろう? 楽しみだなー」

「苗字があるから貴族だよな」

「え? じゃあモモタローって、モモ・タローで、

あ、お爺さんとお婆さんに拾われた平民かー」


「何らかの関連性があるのよ。同じタローだし」

「もしかしたら、血縁関係が?」

「兄弟とか?」

「共闘とかしたら胸熱ものだな。どこかに伏線ってあったか?」


<ワイワイ ガヤガヤ>


<ヒソヒソ>

「のう、これもチキュウの話なんか?」

「そうだ」


この会話に反応するチエコ。


「え? ゴトーさん、知ってるんですか!?」


「・・・ああ」


「ゴトーさん、帝国の人なのか?」

「ウラシマタローは、どういうお話なんでしょうか?」

「さわりだけでも聞きたい!」


5人はゴトーを囲い期待の眼差し。


「・・・キーワードは、亀だ」


「亀!」


「ポイントは、竜宮城の乙姫様」


「竜の城!お姫様!」

「チキュウには竜の城が!」

「すごーい!」

「タローが竜に挑む話? いや竜と共闘して魔族と戦う話とみた」

「モモタローは、ウラタロに絡んでくるんですか?」


妄想が止まらない5人。


「ワッチもちょっとだけ気になるわ。どういう展開になるのじゃ?」


瞳を輝かせゴトーの話に期待する6人。


「浦島太郎という若者は海辺に住む漁師だ。ある日、砂浜を歩いていると、村の子供たちが大きな亀をイジメていた場面に遭遇する」


「亀って「ビック・タートル」? Bクラスの魔物よ」

「「スネーク・タートル」ならAクラスだぞ」

「チキュウの子供つよーい」


「「こら!亀をイジメるな!」 

太郎と子供らの戦闘が始まり、見事いじめっ子を太郎は追い返し亀を助けました」


「そこは心情的に殺ってほしかったな」

「魔亀の魔獣を助けたの?」


「「ありがとう、助かりました、漁師の人」

亀は感謝の意を太郎に伝えて、海へと帰って行きました。

・・・それから数日後、太郎は海に船を出し漁をしていると、」


6人の期待に満ちた眼差し。


「これ以上はネタバレ厳禁だ。続きは発売まで楽しみにしておくことだ」


「えーーー!」

「漁をしていると、やはり亀が現れるんだよな、展開的に」

「逆襲? 子供らへの?」

「恩返しじゃないのか?」

「竜と亀との関連性も気になるわね」

「亀が……」


「あ、エルちゃんが口を開いた」

「亀がどうしたの?」


「喋ったの」

「……あ! ホントだ。礼を言ってる!」

「チキュウの亀は言葉が通じる!」

「上位種の魔物でも喋らないぞ!」

「チキュウ、すごーい」


<ワイワイ ガヤガヤ>

深読みと妄想に花を咲かせる5人。


「ゴトーよ」

「喋らない」

「じゃよな。フィクションじゃよな」


ゴトーは頷く。


しばらくして論争が終わり、


「いや、すみませんでした。物語の話になると皆、熱くなって」


「娯楽が少ないからのう。仲ええことはええことじゃ。一晩を過ごすパーティが気持ちええ奴らでよかったわ」


「普段、野営地は利用しないんですが、麓とはいえ夜に魔獣も活発化するのでやむなくです」


「魔獣だけじゃなく、若い女子らが居ればちょっかい出してくる輩も多かろう」


「大抵は返り討ちです」


「懸賞金が掛かってる盗賊なら逆にラッキーですよ」


「苦労しとるようじゃの」


「獣人は下にみられますからね」


ゴトーはその言葉に反応を示す。


「そこまで酷いのか?」


「領地によっては横暴な権力者が幅を利かせるでの」


「俺の国では獣人はいないが、それでも平民に対して差別する人間は一定数はいる。大抵は己以外認めない技量も度量もない視野の狭い人間だ」


「どこも変わらないんですね」


「今だけに限らん昔からの固定観念じゃからの。獣人や平民いうだけで底辺に追い込まれ、無能な権力者が幅を利かせておる。その者の資質や能力を活かさんことには領地や国の発展は望めんし目指せんわ。

それこそ落ちぶれた今の帝国のニの舞になるだけじゃ」


「そんな権力者の領地には誰も移住しないし、居つかないよね」


「でも、今の王様になってだいぶ良くなったよ」


「まだまだ領地によって温度差は激しいけどな」


「お前さんらは才能を生かしてなかなかの出世じゃの。剣士にタンク。弓師、魔術師、バランスが取れたパーティ、万全型じゃ」


「自分でも理想的だと思ってます。もう少し連携やLVを上げないと、Aクラスの魔獣、魔物などはまだまだ狩る自信はないですね」


「シーナさんは基本1人で行動すよね」


「たまに組むこともあっての。今回のカスピスの捜索は「グラディウス」のパーティに入れてもろうたんじゃ」


「ボクたちより格上のBランク上位の、え!?ということは……?」


「ワッチだけ生き残ったわ」


「例のゴブリン・キングですか」


「ワッチが至らんばかりに、アヤツらには悪いことをしたのう……」


「シーナさんが責任を負うことはありません。冒険者の事故や死は自己責任が原則ですから。相手が悪かったのもありますし」


「ゴトーと出会んかったら、魔量切れで2匹目のキングで詰んでたかもしれん」


「2匹のキング。上位種に進化する個体、脅威ですね」


「魔王復活。これから増殖、各地で増えるかもしれんの……」


★★


「そろそろ、見張りを立てて寝るか」

「お肉、ごちそうさまでした」

「おー! 腹いっぱいだ!」

「感謝なの」

「ゴトーさん(♡) おいしかったピョン♪」


「!」


語尾に反応し、サミンを睨む。


「ピ、ピョン……」


「明日の朝は卵、肉料理をごちそうしよう」


「ピョ?」


「卵なんてどこにあるんじゃ?」


「ここに来る途中コカトリスの集団の巣を感知、大量の卵を確認済だ。そこまで遠くない場所、今から取って来よう」


「さすがにそれは無理じゃないか?」

「これから? コカトリスはの集団は凶暴で危険過ぎます!」

「突っつかれて殺されるだけよ」

「ゴトーさん! あたしの為に危険を冒さないで!」


「問題ない」


ゴトーは歩いて森の中に向かう。


「いいんですか? 行かせてしまって」


「止めた方が……」


「ゴトーなら平気じゃと思うわ。あまり気にせんでええぞ」


――

26 モモタロー 終わり

27 深夜の作業 

――


――

次回

ゴトーさんの常識外の行動に、

シューティングスターの面々が翻弄。

――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る