第25話 シーナの偉業

野営の夜。

ゴトーとシーナ。

シューティング・スターの5人は焚火を囲い夕食。


骨付き肉にかぶりつく半獣人、狼人族のシュバルツとガルツ。


「ワイルドホーン・ボアってこんなに美味なんだな」

「獣より魔獣の方が美味いからな」

「討伐しても大商人や貴族の腹の中にしかいかない貴重な肉だ」

「この塊ひとつで銀貨2枚 (2万円)はするんだろうな」


両手に肉を持つ狩人の兎人族のサミン。


「あたし、もう銀貨6枚分食べてる!今度倒してあたしたちも食べようよ!」

「バカ、金になるのに食えるかよ」

「1匹くらいいいでしょうに」

「Bクラスだけど大きさの個体によってはBプラスとも言われてるぞ」

「うん、それはキツイかも」


「しかし、この骨付き肉の形状ってどうなってるんだ?」

「初めて見るよな」


ゴトーは肉を焼きながら、

「マンガ肉だ」


「……まんが?」


黙々と肉を焼くゴトー。


「どこの部位だ? 骨、肉にこんな風に付くか?」


「付かないよな……」


「ゴトーさん(♡)、シーナさん、美味しいお肉ありがとう!」


無邪気なサミンにゴトーは無言で頷く。


シーナは小さい声で、

「おい、マンガ肉ってなんじゃ?」


「姿絵や挿絵にストーリ性を持たせた娯楽本、マンガ肉は昭和の時代ではよく見かけた日本漫画の表現方法、要は文化のひとつだ」


「……これが文化なんか? なんか肉に骨をチマチマ刺して面倒そうじゃったが」


「昭和世代の男の子には夢の肉。この機会に再現しようと思ってな」


「しょうわ、が分からんが、これが夢の肉……」


シーナは肉にかぶりつく。


「別に味は変らん思うのじゃが」


「食というものは味だけではない。見た目のディテールも重要だ」


「んー、そんな変わらんと思うんじゃが……」


猫人族のチエコと無口な狼人族のエルメダが、お椀を手に持ってくる。


「干し肉と森クラゲの粗末な野営スープですが」


「おう、悪いのう」


「いただこう」


2人は受け取りスープを飲む。


「醤油味か」


「はい。安く手に入りやすく、野営での必需調味料です」


「温かい物は助かる。心が落ち着く味だ」


「塩胡椒もいいですけど、スープは醤油か味噌です。転移人様様です」


「……」 「・・・・・」


「お前さんら、転移人の存在知っとる口か」


「今まで帝国の文化とされていたモノが、本当は転移人発祥とか。一般的にはまだまだ知られていませんが、冒険者の間では常識ですね。

転移人が真の魔王討伐する勇者一行だって……あ、ごめんなさい」


チエコは謝る。


「ワッチの王国勇者パーティのことか? 別に謝らんでええ。ワッチらの傀儡勇者など教団の滑稽な宣伝活動ちゅうことは承知じゃ」


「そんなことありません。帝国からの侵略の牽制や、数々の魔物退治の貢献。「勇者センライの物語」、付き添うシーナさんの魔術師としての活躍は華々しいものでした。偉業と言っても過言ではありません」


「……夢を壊して悪いが、そこまで大層なものではなかったぞい。魔王不在じゃったし」


「本物偽物関係ありません。お国の為に命を張ったのは事実です。勇者パーティには国中が感謝していいました」


「神輿を立て騒いどるのは、反国王派の貴族と真龍神教教団なんじゃがな。前国王は魔王復活以外の勇者パーティには否定的じゃったが、当時は教団の勢いや発言力が強くての。

国王が教団側だけでパーティ組ませるんは、力を助長させるいうことで、宮廷勤めのワッチやセンライ、グラーツが選ばれただけじゃった」


「そんな事情が……」


「ワッチにとっては忘れたい過去じゃな」


「すみません、思い出したくないことを……」


「かまわん」


「あたし聞きたいことがあります」


サミンが手を上げる。


「なんじゃ?」


「もし、シーナさんの時代に魔王が居たとしたら、勇者センライパーティでは魔王は倒せてたんですか?」


「ちょ、ちょっと」

「おい、空気読め」


「全盛期のワッチら傀儡パーティでは倒すことはできんかった。魔王四天王でさえ足元にも及ばんかったわ」


「当時、国で一番強かったんですよね。そこまで実力の差があったんですか?」


「そんなもんじゃ。世界を救ってくれた歴代の転移人には頭が上がらんわ」


「魔王を倒した転移人って凄いんだねー」


「魔王討伐もだけど、他に数々の文化の発展に貢献してきたんですよね。許されないのは帝国は転移人の存在をなかったことにして、何もかも手柄を自分の国にしたことです。ゲンダラフ神の裁きが下ればいいのに」


「ねー。神龍様も帝国より、こっちの国に転移人を降臨させてくれればいいのに」


「……」 「・・・・・」


「神が転移人をとか、実情も知っとるんか?」


「「チキュウ人」を転移、召喚するんですよね」


「……」 「・・・・・」


「ワッチの知らぬ間に情報が加速しとるの。ちょっと前までは貴族以上しか知らん極秘事項なのじゃが」


「ここ最近、特に内乱とかで帝国は荒れてますからね。国の重要な書物とかいろいろ流出してるようです」


「そのようじゃの。ワッチは世間には疎いでの。人との付き合いも最低限、政治もできるだけ関わらんようにしとる。今となってはお前さんらの方が世情に詳しそうじゃ。最新情報はどんなのがあるのじゃ?」


「はい!」


サミンが手を上げる。


「今の流行りは、モモタローだよ!」


「ん? モモタロー?」


――

25 シーナの偉業 終わり

26 モモタロー

――


――

次回

日本発祥の昔話桃太郎

歴代転移人監修(改変有り)

――

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