第21話 カボチャパンツ
森の道。
クマの毛皮を羽織うゴトーが、
「アレは何だ?」
道の端に鉄仮面、全身鎧を装着した亡骸が横たわる。
「戦士の鎧じゃの」
鎧には傷や爪の後が生々しく、仮面と上半身部分が割れ、人骨が隙間から覗く。
「デス・グリズリーの傷痕みたいじゃな。Aクラスのクッマじゃ」
「これはこの世界の防具か? 全身完全武装だな」
「重装備は戦争以外、冒険者ではあんまり見かけんがの。一部の騎士団が装着するのじゃが、動きが鈍くなるでそこまで定着しておらん」
シーナはコンコンとボディを叩く。
「ええ素材を使っておる」
ゴトーは鎧の股間の間にある棒状を指し、
「これは? まるで陰茎を収めるような仕組みだが」
「珍しいのう。己のモノまで守る完全装備とは」
形状はチューブ型で脇には丸い形が2つある。
「これは貞操帯ではないのか」
「昔の奴隷戦闘用の鎧か、ブツに集る虫よけかもしれんの。ん?この太さなら」
シーナはゴトーの股間、チューブの太さ、中の空洞を確認。
「ゴトーのブツとジャストフィットなのじゃ」
「・・・・・」
「うん? あー、これはすまんすまん。さすがにコレは汚れがひどく不潔じゃの」
ゴトーは頷く。
「このままじゃ衛生的にダメじゃし、[クリーン]」
「・・・・・」
浄化で鎧の下半身部分の汚れを落とす。
鎧全体、貞操部分の汚れが綺麗に落とされる。
「新品同然とはいかん、中古じゃが」
「・・・・・」(汗)
「ほれ、付けてみ、旧式じゃが立派な防具じゃぞ」
無表情のゴトー。
「どうしたん?」
「ちょっと待ってくれ」
「なんじゃい?」
「俺がこれを装着して2人で歩いていたとしよう」
「……うむ」
「旅人や他の冒険者とすれ違うこともあるだろう」
「あるのう」
「上半身部分は破損、下半身のみの装着。
他人からどう思われる? 奴隷で幼児愛好者と思われないか?」
「古い型じゃが冒険者ならこれが防具と知っとるわ」
「コレは俺の矜持に反する」
「ゴトーは他人の目を気にしない言うとうとったろう」
「俺はどう他人にどう見られようが評価などは気にしない。地球では俺は生き残る為に何でも利用してきた。それはこの世界でも同じことだ」
「じゃ、ええではないか」
「しかし貞操帯に類似する物は許容できない。最低限、布物でなければ俺のブツは覆い隠せないと思ってくれ」
「………」 「・・・・・」
「分かった分かった。無理強いはせんわ。実用的じゃが確かに不格好で見栄えもよくはないからの。隣を歩くワッチも誤解を受けそうで恥ずかしい気持ちもあるわ」
安堵するドゴトー。
★★
夕方。
ゴトーはクマの毛皮を羽織い、魔獣のトラキチ (ブラック・ヘル・タイガー)の背に跨り、
シーナも魔獣ケルロー (ケルベロス)の背に乗り森道を移動。
「前方182メートル、5人を感知」
「野営地じゃ、なんとか暗くなる前に辿り着いたのじゃ。
こんなん見られたら魔族の仲間てワッチらも討伐対象になるで、魔獣から降りるぞい」
2人は魔獣から降りる。
「人族と魔獣との共存は無理か?」
「魔族以外、ゴトーくらいしかこんなんできんわ」
「・・・そうか」
「最初はビビったが、乗り心地もええし楽もできたわ。よう慣れはせんかったが」
シーナにすり寄り甘えるケルベロス。
『『『ク~~ン』』』<ペロペロペロペロ>
「――ッ!
なしてワッチまで使役してるみたいになっとるんじゃ?」
「俺が認めた相手には好意を抱き、攻撃をすることはない。
「[空間収納]。トラキチ、ケルロー、収納に入れ」
『『『オーーン』』』 『にゃ~ん』
2匹の魔獣は黒い空間へと入っていく。
「中はどうなっとるんじゃろうな?」
「確かめてみるか?」
「ええわ、コワイわ」
2人は野営地の方向へと歩き出す。
「ワッチは認識阻害で姿を消すで、できるだけ接触は避けてくれ。傍で援助はするが、奇怪な行動はすなよ」
「了解だ」
「じゃが毛皮だけで、下半身フルチンはいただけないの……」
「問題ない」
「あるわっ!」
シーナはブツブツ言いながら、
「これは、迷ったんじゃが」
収納袋からドロワーズのパンツ (かぼちゃパンツ)を取り出す。
「これはワッチのパンティじゃ」
表面にはデフォルメした可愛いタヌキのアップリケ。
(≦•ω•≧)
「・・・・・」
「クリーン (洗浄)はしておる。魔法耐性の付与付きで、少しは防御の足しにもなるぞい」
無表情のゴトー。
「なんじゃい、ワッチの古パンじゃ不満があるんか?」
「そういう問題ではない」
「あー、すまんすまん。ゴトーはネッコの方が好みじゃったか」
収納袋からもう1枚のパンティを取り出す。
表にはデフォメルしたネコ。
(^•ω•^)
「ほれ、履かんかい」
「・・・この布は俺には小さ過ぎるようだが」
「これは特殊なクッモ(蜘蛛)の糸でな。伸縮自在で圧迫はせんようなっとる。欲情しても「コンニチワ」せんから安心だぞい」
「・・・・・」
「ネッコ好きなら文句はなかろうがい。そんなにワッチの御下がりがイヤ言うんかい?」
「いや、気持ちは有り難いが・・・」
シーナはブツブツ言いながら収納からもう1枚パンティを取り出す。
デフォメルした「ゾウ」さんのイラスト。
⊂^j^⊃
「これはとっておきの新品じゃ」
「・・・・・」(汗)
「背に腹はかえれんじゃろうが。どれがええんじゃい?」
「どれかと問われれば、ネコちゃん一択だ。ゾウさんはさすがにない」
シーナはネコのパンティを差し出す。
「ほれ」
「ちょっと待ってくれ」
「なんじゃい?」
「俺がこれを履いて野営地を歩いたとしよう」
「……うむ」
「冒険者たちは猫の幼児パンツを装着した男の姿を目撃する」
「……そうじゃの」
「子供パンツを履いた幼児愛好者の変質者と思われないか?」
「ゴトーは他人の目を気にせん言うとったじゃろが」
「俺は他人にどう見られよう、評価されようが気には掛けない」
「じゃ、ええではないか」
「しかし変態を起因させる幼パンは俺の信条に反する。矜持は死しても曲げるつもりはない」
「要は羞恥心や、己の自尊心言うことか?」
「そうだ」
「めんどい男じゃのう」
「幼女のパンツだけは許容できない」
「角や鎧の時もそう言ってたじゃろい」
★★
森を抜けた先には大きな広場。
近場には渓流、カスピス秘境の入り口に位置する野営地に到着する。野原には夜営の準備をしている若い男性2人に、女の子1人と女性2人の冒険者パーティが滞在。
「ここは害虫除けや弱い魔獣なら結界が張って越えられん。油断はできんがまあまあ安全な地帯じゃ」
パーティはクマの毛皮の男に注目。葉っぱで大事な所を隠しているが奇異な目、女子からは目を背けられる。
「股間に葉っぱとはリスクをとったのう」
「年頃のレディの前だからな、幼子もいるなら紳士の嗜みは当然のこと」
「ワッチはレディにも幼子にも含まれんのかい……」
「それにこの葉は腫れないし、かぶれない」
「じゃったら随時付けとかんかい!終始見せらるワッチの事も考えろや!」
「別に見せつけているわけではないが、配慮しよう」
「まったく……」
皮の鎧に剣を携えた若い男がシーナを見つめている。
「どうやら若僧1人、ワッチの姿を捉えておるの」
「LVが高いということか」
「カスピス秘境は上級者の冒険者が集うからのう。LVはBランク上位かAランク、今のワッチよりは上いうことじゃな」
「接触するのか?」
「……若者らはすぐ死ぬでの。あまり懇意にはなりたくないんじゃが」
「スルーの方向か?」
「ゴブリン・キングやエンペラーのこともあるからの。注意喚起くらいはせんとな。
変装以外あまり本来の姿は晒したくはないが、アヤツらなら大丈夫じゃろ」
「問題はないんだな」
「ないのう。ゴトーは焚き木を拾って竈で火を焚いてくれんか?」
「了解だ」
ゴトーはその場を離れて野営地の常設した竈の所へと行く。
シーナは見つめ続ける若い男の前に近づき、認識阻害を解く。
――
21 カボチャパンツ 終わり
22 テラウスの冒険者
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――
次回
シーナさんは、この王国での有名人と判明。
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