第20話 従魔契約
シーナは乾燥させた「ファイヤー・グリズリー」の毛皮に風魔法「鎌鼬」で2つの切れ目を入れる。
「おし、即席じゃがこれでよかろう。ほれ、切れ目に腕を通さんかい」
赤茶けた毛皮を受け取り、切れ目に袖を通し羽織るゴトー。
前はモロにはだけ股間が丸見え状態。
「Aクラスの炎耐性の魔獣。よほどじゃなければコレは燃えん毛皮じゃ」
「前が無防備なんだが」
「いまさら気にするんかい。ええんじゃ、後ろから尻を見て歩くワッチの身にもならんかい。角付けさせるぞい!」
「・・・・・」
「クッマの頭はフードじゃ。夜に冷えりゃ被ればよかろう」
後ろ首に垂れ下がった熊の頭。
――これは、「ユナ」さんの着ぐるみの、リアル版・・・。
――
(注)
熊の物語の主人公の名前
――
「街に着いたら古着屋があるで、それまでこれで我慢せい」
「古着屋? 洋服屋はないのか?」
「服屋? 街の各所には大なり小なり仕立て屋はあるぞ」
「既製品の衣服は大量生産したショップはないのか?」
「王都ではあるんかのう? 金ならあるし仕立て屋で好みの服をオーダーメイドでもすればよかろう」
★★
移動中、2人の前に三つの頭部の犬が立ちはだかる。
「3つ首イッヌじゃ」
――「[鑑定]」
◇
【名前】なし
【性別】雄
【年齢】186日
【種族】魔獣 ケルべロス(幼体)
【ジョブ】なし
【LV】53
【HP】171/171
【MP】0/0
【攻撃力】315
【防御力】157
【魔力】0
【魔法属性】なし
【スキル】なし
【ギフト】なし
【称号】
冥府の子犬
【状態】
正常
◇
『『『グルルルゥゥ』』』
――まるで4号機GOD○ーデス(パチスロ)に出現するケルベロスだな。
「Bクラス程度の魔獣なら「威嚇」で追い返せるじゃろ」
「「殺気」のスキルを発動しようと思う」
「ほう、ええかもじゃな。じゃがこっちを見んなよ。LVの高いゴトーに睨まれたら、萎縮してワッチがオシッコ漏らしてしまうからの」
「了解だ」
ケルべロスの口元からヨダレが垂れ、唸り凶暴な牙を覗かせる。
睨むゴトー。
<ビクッ>
睨まれたケルべロスは戦闘意欲を失い、地面に伏して腹を見せる。
『クゥーン』 『クォーン』 『オーーン』
服従の態度を示すケルベロス。
「なんじゃこれ? 理性のない魔獣じゃぞ、こんなん見たことないわ」
「まだ威嚇スキルの段階だったんだが」
「……のう、チキュウでもゴトーの前では獣はこんなんだったんか?」
「そういえば、密林でトラッキーと対峙した時もこうだったな」
「……けっこう大概じゃのう」
ゴトーは仰向けのケルベロスの腹を撫で、肉球をプ二プ二。
喉元を摩ると喜び甘えた声を出す。
『クーーン』 『ワオワオ』 『ワオーン』
「これは使役できるのか?」
「魔獣を主従できるわけなかろう」
「・・・おー、よしよしよし。お前らはケルベロスの「ケルロー」だ」
キャリーバッグから「犬チュ~ル」を取り出し、封を切り与える。
『『『オーン』』』 <<<パクパクパク>>>
「……魔獣は決して懐かんのじゃが、どうなっとるんじゃ?」
「どうやら使役に成功したようだ」
「……は?」
「対象に好意を抱き、名を与えると従魔契約するらしい」
「………」
「もう少しモフモフが好みだが、これはこれでオオカミのように凛々しくて有りだな。問題ないか?」
「問題有り有りじゃわ! なに使役してくれてるんじゃ! 離れんくなるぞい。一緒に街へ入ったら魔獣は討伐されるぞ!」
「そうなのか?」
「従魔契約って、魔族にしかできんことじゃぞ……」
「俺の属性に闇魔法があるからな」
絶句するシーナ。
「異世界物語でのテイマーはお約束だ」
「使役も希少なギフトじゃが普通は獣までじゃぞ。闇魔て、神の加護や恩威いうても限度があるじゃろ……」
「これは一緒に冒険しろという啓示なのかもしれない」
「神がそんな啓示するかい!
契約があるなら解除もあるじゃろ?」
「・・・・・」
「頼むからしてくれんか」
苦渋の表情のゴトー。
甘えるケルベロスに向かい、
「[使役、解除]・・・」
ケルベロスは我に返る。
『『『キャイン、キャイン』』』
慌ててゴトーの元から走り去る。
「さらばだ、ケルロー・・・・・」
踵を返してゴトーの元にケルベロスが戻ってくる。
『クーーン』 『クゥーン』 『オーーン』
ゴトーはシーナを見る。
「不用意に名を言わんでくれんか」
「どうしてもダメか?」
「ダメじゃ」
<ガサ>
茂みから一匹の白黒の柄のトラが現れる。
「うおっ、魔虎! ブラック・ヘル・タイガーじゃ!」
『ガルルルルー』
襲い掛かってくる魔虎を睨むゴトー。
「伏せ!」
『!』
ゴトーの手前で四つん這いになり頭を垂れるヘル・タイガー。
「よし、お前は今日から、トラキチだ」
『にゃーん』
「………」
頭を撫でるゴトー。
「……お、おい、むやみやたらと使役せんでくれんか」
「出会う冒険者や人里では空間収納に入ってもらう。これで問題解決だ」
「いや、収納に生き物は入らんぞ」
「説明欄には有機物も生命体も問題はないと載っていた」
「……は?」
「そういうものじゃないのか?」
「ものじゃないわい!入るわけなかろうが!死骸ならともかく、収納は生き物は弾かれるわ」
「[空間収納]」
空間に漆黒の球体。
「入れ」
漆黒の空間にケルベロスは入る。
「閉鎖」
球体が消える。
「………」
「[空間収納]」
空間に漆黒の球体。
「出ろ」
ケルベロスは球体から出てくる。
『『『オーーン』』』
ゴトーはシーナに向かって頷く。
絶句のシーナ。
ケルベロスに「犬ちゅ~る」。
ブラック・ヘル・タイガーには「猫ちゅ~る」を与える。
『『『オ~ン』』』 『にゃお~ん』
「あり得ん光景じゃわ。ワッチは一体なにを見せられておるんじゃ……。まさか魔物も使役できる言わんじゃろうな? そんなんお伽噺話の中だけの話じゃぞ。
いや……なんかゴトーなら……」
――
20 従魔契約 終わり
21 カボチャパンツ
――
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