第18話 甜菜

白く太ったジャガイモのような根をシーナに見せる。


「これが何か分かるか?」


「んー……。ちょっと待っておれ。「図鑑」で確認するのじゃ」


シーナはギフトの図鑑で確認する。


「「テンサイ」じゃな。食用には不向き、アク(灰汁)が強く土臭く向かんやつじゃ。人も獣も見向きもせんわ。飢餓の時代は喰ってた話があるくらいじゃの」


「俺の国でも甜菜、別名サトウダイコンという。製糖すれば砂糖の原料となる」


「……は? 砂糖?」


「根を搾ってその汁を煮詰めると砂糖になる」


「……これが、砂糖になるじゃと?」


「知識だけで実際には試みたことはないが、試行錯誤すればそこそこな物が出来上がるだろう」


「おいおい!こんなん国中ゴロゴロ生えておるぞい。元手が掛からんく、いくらでも砂糖を生み出せるちゅうわけかい?」


「大量生産するのならそれなりの設備が必要だがな」


「……信じられんわ。いや、確かに昔から転移人は様々なジャンルに革命を起こしておる。石油といい砂糖といい、この国、いや、世界が変わるぞい」


「別に俺は地球の知識を広める為にここに居るわけではない」


「……そ、そうか。じゃが、これらの製法だけでいくらでも金が入ってくるぞい。これほどの功労、うまく取り入れれば準男爵くらい爵位されるかもしれんの」


「地位や名誉、称賛などに俺は興味はない。金も最低限、冒険を続けていくだけで十分だ」


「ゴトーは欲がないのう。まあこの手の知識はよほどうまく事を進めんとじゃ。上級貴族がしゃしゃり出て、利権がどうのと危険に巻き込まれるでの」


「製法が知りたければ教えるが」


「……は?」


「製法のレシピをだ。広める広めないはお前に任せよう」


「……こんなん扱いに困るだけじゃわ。権力のないワッチらが作っても争い事に巻き込まれるだけじゃ」


「どこの世界も変わらないな。利権関係の争いは個人から企業、国単位で行われる事象だ。地球でも塩や胡椒が希少だった時代、それだけで戦争に発展したものだ」


「ここでも同じじゃわ。権のない平民じゃ製法欲しさに狙われ、最悪殺されるでのう」


「ではこの話はなかったことにしよう」


「ちょっと勿体ない思うがのう……」


悩み長考するシーナ。


「いやちょい待ってくれ。さすがに砂糖は無視できんわ。こりゃ甘味の革命なのじゃ。ワッチの懇意にしておる貧乏領地で砂糖を扱わせるのはどうじゃ?一大産業にすりゃ雇用や領地も潤うんじゃが。

もちろんゴトーはなんもせんでもええし、この世界にいる間、売り上げの一部はゴトーの手元にいくようにするわ」


「・・・分かった。お前の好きにすればいい。だがこれを託すには信用に足る人物が必要だが?」


「それはワッチが保障しよう」


「いいだろう。俺は製法の伝授以外、一切ノータッチでいかせてもらう」


「分っとる」


「なら、シュークリームやケーキのレシピもつけ、お前が店でも出すか?」


「は?」


「ケーキ屋さんだ」


「……ケーキ、屋、さん?」


「ケーキやシュークリームを売る店。繁盛間違いなしだろう。経営に携わるも自由。店長特権で味見し放題だな」


「なんと夢のような、お仕事なんじゃ……」


「地球でも小さな子供の憧れの職業、お花屋さんと並ぶ人気職のひとつだ」


「レシピをワッチに託すんか?」


「打算はある。この世界にいる間、俺に作った物を提供してもらう。それが条件だ」


「破格じゃのう。しかし、これも砂糖と同じで危険な代物になりそうなのじゃが」


「それも領主とやらに頼れば問題はクリアできるだろう。

これから先、甘味に飢える俺としても助かる。卑劣な輩が現れるなら、相手の排除や最悪殲滅させる事もやぶさかではない」


「それはちょっと物騒なんじゃが……」


「やり方は色々ある。証拠を残さず闇に乗じる手は長けている」


「あまり事を大きくせんでくれんか? 確かに貧乏下級貴族でそれより上の貴族に睨まれれば色々面倒なんじゃが、いざとなりゃ一応ワッチにも後ろ盾はある。そうそう不利になることはなかろう」


「そうか」


「じゃがその前にプリン、ケーキやシュークリームの試食をせんとな!ワッチはグルメで味には厳しいぞい。売る売らんはワッチが決めさせてもらうぞ。作ってくれるか、ゴトーよ!」


目をキラキラさせヨダレが垂れてるシーナ。


「問題ない。食の文化的衝撃を体現させてやろう」


「よっしゃー!」


子供のように踊って喜ぶシーナ。


「プリン♪ ケーキ♪ シュークリームなのじゃー♪ のじゃー♪」


――年齢は上だが、こう見るとまだまだ子供。甘味に対して幼女返りになる体質か?


「とりあえず甜菜を収納しておこう。自作で作れば無駄な金の必要はない」


「それはええ考えじゃ!」


ゴトーは手帳に今後の行動、目的を記す。


―ゴトーメモ―

モフモフ獣と出会う。撫でる愛でる(最優先)>プリン ケーキ>米入手>日本酒入手(もしくは醸造)ウィスキーは製造は保留>魔王討伐


――少し寄り道になるが、今後の行動方針は決まったな。


――

18 甜菜 終わり

19 ゴトーとシーナのステータス

――


――

18.5話 パフェ


「俺は休日には食べ放題のケーキ店、屋台クレープやパフェ巡りをするほどの甘党だ。お気に入りはSNSやショートでそれらの画像や動画を発信する」


「………? よう分からん話じゃが……」


「撮影には照明、角度など俺なりの拘り、流儀がある。イイネを100を超えたことも多々ある」


「いいね?……それは多い方なんか?」


「インフルエンサーと比べるなら少ない方だな」


「……ゴトーは、いんふるえんさーとやらと闘っておるんか?」


「競っているわけではないが、強いて言うなら承認欲求か」


「………」


スマホの画像を見せる。


「これは「デラックス・ストロベリーパフェ」だ」


たっぷりのクリーム、脇にはイチゴ。

クッキーやポッキーのトッピング。


「こ、これは!?」


「見た目通りだ。

中段には冷たいバニラアイス、底にはフルーツが詰まっている」


「果物……。聞くんも失礼なんじゃが、これは、美味なんか?」


「スイーツ好きにはたまらない、超絶至福の味だ」


「超絶、至福……」


2枚目の画像。


「これは「ロイヤルキング・チョコレートバナナパフェ」だ」


「王、じゃと?……チョッコにバナーナじゃと!」


「このクリームはチョコ味バージョン。

中段にはチョコクリームアイス。

バナナとチョコの濃厚さが絶妙なバランスを取り合っている」


「おいおい、この連携は夢のようじゃないか……」


ヨダレが垂れまくるシーナ。


3枚目の画像。

20種ものパフェ。


「これは某有名店のショーウィンドウ。パフェのサンプルだ」


「おいおい、何個あるんじゃい? ゴトーはこれを全部喰らったんか?」


「ああ。3日で看破、食べ尽した。

店員から陰口で「パフェ大好きおじさん」と綽名を付けられたのには、さすがにショックだった」


ショーウィンドウの一番右端は特大パフェ。


「こ、このどデカイんは……」


「超デラックスGODパフェだ」


「神じゃと!! チキュウにはパッフェの神がおるんか!?」


「神ではない、人の英知が創り上げし物。

全ての要素や成果の完成形がこのパフェだ」


「おーー!」


「要はこの店の19種の要素が詰まったパフェの集大生。

ノーマルから、チョコ、抹茶味。

フルーツはイチゴ、バナナ、メロン、シャインマスカット、キウイ、

マンゴー、パイナップル、モモ、ブルーベリー。

パフェのラスボスとして相応しい。


しかし、気付いた時は遅かった。

これを食せば19種のパフェは不要だったと・・・。

おかげで血糖値は上昇。さらに糖尿病予備軍となった・・・」


「ゴトーよ!」

「何だ」


「これもワッチに作ってくれんか?チキュウのパッフェを食べたいのじゃ!」


「俺は「パフェ・スイーツコンテスト」での特別審査賞を授与された男。材料を揃えてくれるなら俺のオリジナルパフェを作ってやろう」


「おーー! さすがゴトーじゃ!」

――

18.5話 パフェ 終わり

――

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