第13話 地球の動画
泣き止むシーナ。
「ほんとに、エッ、なんともないんじゃな、グスッ」
「カメラの原理は難しくはない。この世界でも材料さえ揃えればモノは作れる。魔石も魔道具も不要だ」
「そ、そうか。……取り乱した姿を見せてしもうたな」
「かまわない」
「もっと「ガゾウ」いうものを見たいのじゃ」
「動画も見せよう」
地球の街の道路が映しだされる。
――
リードの付いた犬のドーベルマンが前方を駆け走る。
――
「お、おい! この薄い箱の中でイッヌが動いてるのじゃが……」
スマホの裏を見る。
「どこにもイッヌがいないぞ?」
「動く画像、動画だ」
「……ドウガ」
――
街並み。
高い建物。ガラス張りの店。
スーツ姿、私服で歩いている者。
――
「なんじゃこの奇怪な光景は?」
「街だ。ドックフードの買い出し、犬の散歩兼ウォーキングをしている」
「奇天烈じゃのう。これがチキュウなんか?
この地面は石畳みにしては綺麗じゃの。これらの建物も石の建物なんか?」
「コンクリートだ。石灰石 、粘土、珪石、石膏でセメントを作り、水、砂、砂利で配合し混ぜ合わせた物だ」
「こんなにツルッツルになるんか。ガラスも惜しみなく使うておるし、この中には貴族がおるんか?」
「俺の国には貴族は存在しない」
「はあ!?……じゃあ誰が統治しとるんじゃ?」
「封建社会の君主制とは真逆と思っていい」
「……なんかもう、よう分からんくなってきたわ。魔王はおらんわ、神はおらんわ。政治はよう分からんわじゃ」
「文化の違いだ。気にしなくてもいい」
「そ、そうなんかのう……」
動画を再開する。
――
歩道を歩く人々。
大通りでは自動車が走行。
――
「ゴトーが着ていた正装の恰好の者もおるのう」
「スーツだな。仕事着みたいなものだ」
「この動く鉄の箱は? 中に人がおるぞ。拷問箱なんか?」
「ここと例えるなら馬車に近いな。馬がなくとも走る。多くの人間はこれに乗って移動をする」
「ほう。王都には人を乗せ魔石で動く「魔道箱輪車」があるぞい。王族や上級貴族しか乗れんがの」
「人を乗せ、空を飛ぶ鉄の塊もある」
「……いくらなんでも冗談が過ぎるぞい」
「それらのエネルギーが黒い水、石油だ。シリンダーを造れば動力となり、石油で鉄の塊も動く。魔石も馬のエサもいらない」
「……ゴトーの話は、突拍子もなく信じ難いわ。
のう、この世界でもそれらは作れるんか?」
「この世界の文明度や技術力がどれぐらいなのかは知らないが、その反応や話を聞く限り相当な時間を要するだろう。それこそ100年単位だ」
「……そうか」
別の動画を見せる。
「ここは俺の家の中だ」
――
洋風の部屋に暖炉。
液晶テレビ。オーディオ。机。棚。パソコン。
――
「ほえー、見当もつかんモンばかりじゃ。
立派な暖炉じゃの。おい、シッカの頭が壁から生えてるぞい!」
「それは俺が狩ったものだ」
「剥製みたいなもんか。この敷物はクッマ。ゴトーは狩りもするんじゃな」
「狩猟は趣味だな」
「食い扶持を稼ぐためじゃなく道楽なんか? 稼ぎが良かったんじゃろうな。ゴトーはチキュウではある程度の裕福層じゃったろう?」
室内で白いウサギが飛び回っている。
「おっ、これは白ウッサ。肥えてて美味そうじゃ、晩飯だったんか?」
「食すために飼ってるわけではない」
「そ、そうか。これも、ペットなんじゃな……」
様々な動物が画面を歩き回っている。
「どでかいの」
「ラブラドールレトリバーだ」
「このモサモサもイッヌか?」
「アフガンハウンドだ」
「なんじゃこの、小っさいのは?」
「ヨークシャーテリアだ」
「めんこいのう」
数々の犬、猫動画。
「このモサモサ毛むくじゃらはなんじゃ?愛嬌よすぎじゃろ」
「名は「ロッキー」だ。この猫は「ニャン丸」。こっちは「カツオブシ」だ」
大きな虎が画面の端から現れ、犬猫の周りをノシノシと歩く。
「トッラも、おるんかい!」
「トラッキーだ」
「獰猛そうに見えるがの」
「しつけているからな」
次々と現れる犬、猫。
「おいおい、ペットは何匹おるんじゃ?」
――
首から下のゴトーが犬缶、猫缶、肉を与えている場面。
――
「これはまさかゴトーか?」
「そうだ」
「獣どもは自分でエサを捕らんのか?」
「ペットだからな。自立はしていない」
「ん? じゃあ、ゴトーがこの世界に来てこのペットらはどうしておるんじゃ?」
「使用人が飼育をしている」
「じゃあゴトーがおらんでもコヤツらは安泰じゃの。しかし獣の種類にも驚きじゃが動く絵、これは夢のような魔法の箱じゃな。……作れんか?」
「さすがにこのスマホの製造はこの世界では無理だろうな」
「そうか……」
★★
深夜。
ゴトーとシーナは焚火を前に眠っている。
<パタパタパター>
羽がはためく音。
「ここに居たー!」
慌てふためく妖精が飛んでくる。
「大変だ!!」
「ど、どうした? 妖精よ」
「うわっ! どうしてまだマッパなんだよ!」
「お前のせいじゃろうが! で、慌ててどうした?」
「ゴブリン・エンペラーだ!」
「何!?」
――
13 地球の動画 終わり
14 ゴブリン・エンペラーとの闘い
――
――
次回
上位種エンペラーとの闘い
――
――
13.5話 アニマル・フロンティア
就寝前。
タブレットの映像。
「ここは俺の屋敷の敷地の一部だ」
犬猫が広い庭を駆け巡っている。
「おー、ノビノビ動き回ってるのう」
「この世界には動物園はあるのか?」
「動物の、園? ないのう」
「地球には、地球上から集結した動物たちのフロンティアがある」
「そうなんか?」
タブレットを起動。
「これはある理由でBANされた○ouTubeチャンネルのひとつ。
「十三ランド」の総集編だ」
「じゅうじょ、ランド?」
「当時チャンネル登録者数101人。71本の動画。そのうちある1本の動画がバズり、再生数が600万を超えた。ただのペットの紹介、ふれあいや戯れる動画だったが、」
映像にトラが現れる。
「お、トッラの「トラッキー」じゃな。
こっちは、ヒョウか」
「ヒョウジロウだ」
「ん? ゴトーの顔が白くぼやけておるぞ」
「モザイクだ」
「……もざいく?」
「世界に発信する関係上、顔は晒せないからな」
「魔法じゃないんか?」
「魔法は存在しない」
「……よう分からんが、んー、なんかこのモヤモヤ、卑猥ぽい、いうか……」
「その認識で合ってるな」
「?」
場面変換。
ヒョウが脇腹、太腿に喰らいつき、抗うゴトー。
「あーー! ゴトーがヒョウジローに咬まれておる!」
「ハプニングだ。野生に戻ったらしい」
必死に抵抗するゴトー。
「もざいくで表情は分からんが、痛くないんか?」
「痛かった」
「ゴトーが手も足も出んとは……」
「地球での人間は非力だ。人が野生に戻った獣に抗う術はない」
「ゴトーでも御せんこともあるとはの……」
全身血だらけのゴトー。
それでも抵抗していると、トラッキーがヒョウジロウに襲い掛かる。
「あ! トラッキーがヒョウジローに咬みついた!」
トラとヒョウとの闘いが始まる。
「トラッキーが助けに来なかったら、俺は噛み殺され今はここに居なかったろう」
「そりゃ、命の恩人(恩虎)じゃの……」
場面変換。
檻に収容されてるヒョウジロウ。
「このヒョウはどうなるんじゃ?」
「生まれ故郷、サハラ砂漠のサバンナに帰した」
「そうか……」
「この映像をチャンネルで流したところ、バズりにバズりまくった。600万人がこの動画を観て、高評価、低評価もあり、コメント欄が荒れに荒れまくった。
そして過激ということで、チャンネルはBAN。
まあ、ニコニコやデジタルタトゥーで永遠に残ってはいるがな」
「………?」
「600万って、どうやってこれを見せるんじゃ?」
「インターネットだ。地球ではどこの場所でも、スマホやタブレットがあれば世界中このチャンネルを観ることができる」
「………?」
ゴトーは上半身を見せる。
「ここが咬まれた所だ(脇腹)(太腿)。
この腹と背中の傷は、獅子の「ライオンマル」から受けた傷。
腕はドーベルマンの「ドベ子」からの傷だ」
「思ってたんと違ったわ、壮絶な闘いでの傷じゃなかったんか……。いや、壮絶じゃが……」
「地球では、俺の顔も正体も明かされてはいないが、
ネット上では、「○ツゴロウ」「○島トモ子」に続く「3代目」の異名を持ち合わせている」
「………?」
――
13.5話 アニマル・フロンティア 終わり
――
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