第12話 シーナ 文明の利器に驚く
夜。森の中。
スキル「防御障壁」で野営。
障壁効果で角オオカミ、双頭オオカミが透明な壁に拒まれ、ガリガリと引っ掻き唸っている。
ゴトーとシーナは簡易竈を囲い、ジャイアント・スネークの丸焼きを食べ終わる。
「味はともかく腹がふくれたわ、満足なのじゃー」
シーナは手に付いた油を水魔法で洗い流す。
「街まではどのぐらいの距離があるんだ?」
「明日中に秘境を抜け、麓の野営地で一泊。それから半日歩いて冒険者の街「テオタビ」じゃな。
ほんとはワッチの拠点の「ホトライト」領地に行きたいんじゃが10日以上は掛かるでの。魔量も少ないて宿で休養をとらんとやってられんわ」
「この身体に疲労はないが宿や食事、ベットは魅力的だな」
「どれ、ワッチにもっと聞きたいことはないんか?」
「ゴブリン・キングの強さはLV60台のAクラスと言ってたな」
「そうじゃ。並みの冒険者1人ではきついが数で圧倒し、武器や肉体強化の付加。障壁、魔法攻撃。それで勝てんとAランクは名乗れんのう」
「お前はMP(魔量)に余裕があればキングを倒せるんだな?」
「ワッチは魔術の申し子での。体調万全で回復薬をがぶ飲みすりゃ2匹まではいけるじゃろ」
「枯渇したら回復までどのぐらい掛かるんだ?」
「魔力や魔量の量、個人差があるでの。ワッチが満タンにするのには2、3日の休養が必要じゃの」
――MPの消費、消耗。要検証だな。
「魔王の力はどのぐらいの実力なのか、歴代勇者の強さ。数値化で教えてくれ」
「ゴブリン・キングはLV60台Aクラス。魔王はLV90台のSSSクラス。この差は子供と大人ぐらいの差があると言っても過言じゃないじゃろ。
魔王戦での先代勇者の最終LVは90台。魔王には数度望み4、5回目で討伐じゃったかな?
ちなみに20年前のワッチは80台のSSランクじゃったが、転移人の賢者1人にも勝てんかったじゃろうな」
――なんにしても、これからの実戦やスキル、ギフト等の詳細な確認が重要か・・・。
「魔石の用途は?」
「魔石は魔道具を動かすモノじゃ。チキュウにもあるじゃろ」
「地球には魔石も魔道具もない」
「は?……文明は発達しとるんじゃろ?」
「この世界の魔石がエネルギーに値するなら、地球には電気やガソリンというエネルギーがある」
「えねるぎー?」
「ここには燃える黒い水。それを活用するシリンダー。蒸気機関の類はないのか?」
「しりんだ、じょうききかん、聞いたことはないのう。燃える水、黒い水は国境線付近の大地や帝国の地に溢れておるぞ。
使い道は暖をとるぐらいじゃな。臭いし火が勢いよく燃え移るで使うやつはあまりおらん」
「この世界の文明が発展、未熟なのは黒い水の活用がないからか」
「昔の戦争で焼き討で使ってたがの。なんか有用な使い道はあるんか?」
「原油のままではな。精製精油が必要だ。この世界を発展させたいのなら、まず黒い水から始めることだ。制するなら富も名声も思うがままだ」
「アレが金になる? 信じがたいのう」
「地球では黒い水を巡って資源の奪い合い、国同士争い戦争にまで発展する。国や経済の勢力図を大きく変え、利権絡みの争いの種になる」
「そんな大層なモノなんか? 政治だの利権だのそんなんまっぴらごめんじゃな。関わりたくはないわ」
バッグから、500mペットボトルを取り出す。
「水の入れ物? 硝子?」
「この入れ物は、黒い水から出来ている」
「?」
シーナに手渡す。
「硝子ではない? フニャフニャしとるぞい」
「黒い水を蒸留、分解することによってポリエチレン・ポリプロピレンなど、さまざまな材料が製造できる」
「これが黒い水から?」
「そうだ」
「……いや、まったく理解に及ばんのじゃが」
「燃える黒い石はあるのか?」
「煤石じゃな、火焚きで使うぞい。これも「えねるぎー」の元なんか?」
「地球では石炭という」
「石炭、石油、えねるぎー。
魔石の代替え、か。
そういや帝国での資料でそんな言葉があったかもじゃ。意味不明じゃったし、いまだに発展せんのは上手く扱えておらんようじゃな」
「間違いなく転移人の知識だろう」
「やっぱそうなんじゃのう。
ワッチが生まれる前、実は昔から帝国が発祥として闇で流出してる物が数々あっての。物だけじゃない食や料理や薬の知識。農法や製法。風車などはその代表格での。
戦争が停戦した25年前からも、この国や他国に新た物が続々と流出してきおった。
帝国からの亡命者や流民からこれらの物品、伝わってきた知識のほとんどが、転移人が編み出したモノ、創りだしたモノと暴露されてての。
要はチキュウの転移人の知識、それらを帝国が独占しておったということじゃ」
「神は500年前地球から転移人を呼びよせたと言っていた。先代が70年前。それらの地球の知識は1950年代以前ということになるのか」
「ここ数年も加速的に、物品が大量に流れてきているそうじゃ」
「転移人はいろいろと爪痕を残しているようだな。どんなものがあるか実に興味深い」
「ゴトーの話もかなり興趣が尽きないの。知識欲がそそられるわ。もっとチキュウのことを話してくれんか?」
「・・・・・」
「イヤなら無理にとは言わんがの……」
ゴトーはキャリーバッグからスマホを取り出す。
「お、昼の「すまほ」いうやつか」
電源ボタンを押すと画面が光る。
「お?」
「この世界では電波が無く従来の用途には使えないが、他の機能のカメラ撮影に、ダウンロードした動画、音楽が聴ける」
「何言うてるんかよう分からんが、音楽だけは知っとるぞ」
音楽を再生すると曲が流れる。
――
<~~♪>
――
「うおっ!楽曲が! 人の声がその箱から! ん?なんか違和感ある声なのじゃ」
動画をシーナに見せる。
「な、なんじゃこれは! この小さい箱ん中で、メッチャ動いてるんじゃが。これ、人なんか? 人に見えるが、絵? 姿絵……?」
――
<♪――――♪―♪>
――
動画と音楽が終わる。
「この
みっくみっくってなんじゃ。なんぞ意味不明な言葉ばかりなのじゃ」
「これが電子の歌姫、○音ミクさんだ」
「はつね、みっく……。 おい、これは何なのじゃ?」
「CGとアニメだ」
「しーじー、あにめ……?」
「あ! 絵が動いておるのじゃ! チキュウの魔道具で作った動く姿絵みたいなもんか?」
「大方その認識で合っているな」
「その小さな箱がのう。
「みっくみっくに、してやんよ」、なんか、耳に残るのう……」
マジマジとスマホを見る。
「もう1曲見せよう。「○風オールバック」ミクのバージョンだ」
――
<―♪――♬――――♪~>
――
動画と音楽が終わる。
「チキュウでは、ネギで笛を吹けるんか?」
「誇張してるだけだ、吹けはしない」
「音楽が流れるのもじゃが、動く絵の理屈が分からんわ。チキュウの魔道具すごいのう……」
動画を終了すると、画面には実物のネコの待ちうけ。
「おい! ネッコがこの中におるぞい!……これは「図鑑」?」
「図鑑?」
「ワッチのギフトで似たようなのがあるんじゃ。じゃがこれはまるでそこに現存するような、投影じゃ……」
「投影、これもその認識で当てはまる」
「本物と見間違うのじゃ。いやこれどう見ても本物じゃろう?」
「ただの画像で、この猫は俺のペットだ」
「ぺっと?」
「飼っている」
「愛玩動物を飼う? ゴトーはチキュウでは貴族だったんか?」
「俺はただの庶民だ。地球では低所得者でもペットを飼っている者は数多い」
他の猫の画像を次々とスライドして見せる。
「メッチャおるのう。しかしこれほど鮮明とは驚きじゃ。まさかネッコを生きたままこの四角い入れ物に入ってる言わんじゃろうな。それじゃとちとコワイんじゃが」
「このスマホは、そこにある事象を記録するもの」
シーナにスマホを向けシャッターボタンを押す。 <カシャ>
写したものを見せる。画面内にはシーナの姿。
「……へ?」
「カメラという記録する媒体。データの保存、加工もできる」
「ぎゃああああああ!!! ワッチがその箱の中に!!!」
「!」
「コワイコワイコワイ! お主は魔女かなにかかい!」
「落ち着け」
「イヤじゃイヤじゃ!ワッチを出してくれい!閉じ込めんでくれい!うわああああああああああ!」
――
12 シーナ 文明の利器に驚く 終わり
13 地球の動画
――
――
次回
ゴトー邸を披露します。
――
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