第10話 吸血鬼
森の中。
全裸、腰に葉っぱのゴトーが、シーナから国の情勢の説明を聞きながら歩いている。
「この世界(テラウス星)には大きな国が3つ存在しておる。
大陸の西側がこの国「レイブル王国」。
東側が「ソンガリーア帝国」。
海を隔てた向こう側には交易が盛んな「ソントレー国」がある。
昔からこの大陸の王国と帝国は戦争を繰り返し現在も続いておるのじゃが、25年前に一時停戦状態となった。国境線では紛争や小競り合いがたまにあるみたいじゃがの。
停戦後帝国の内部は内乱や反乱で、独裁国家としては貧窮し現状は悲惨そのもので、亡命者や流民がこの国にもどんどん流れてきておる」
ゴトーはメモ帳に説明を書き記す。
「それぞれ各地に人族、亜人族、獣族がおって、種族間での争いはあるが、戦争を起こす人族同士ほど激しくはない。大昔は土地の奪い合いで酷かったらしいが。
で、ワッチは亜人族のヴァンパイア。けっこう亜人の中でも数が少なくレアなのじゃ。チャームポイントはこの牙なのじゃ!」
「・・・そうか」
「そうじゃ!」
「・・・・・」
「なんじゃい、反応が薄いのう。さびしいのじゃ……」
ふて腐れるシーナを見る。
――吸血鬼か。希少で珍しいが、モフラーとしては気になるのは獣人の存在・・・。
しかしここまでの情報、まるで歩くウイッキー。
神が認めた博識で情報通、これ以上のないアドバイザー。
金髪幼女に「ワッチ」という一人称。「のじゃ」言語は異世界生活を進めていく上でのポイントは高い。
問題は吸血衝動で俺に牙を剥くかだな。比喩的表現ではなく、物理的に・・・。
「お前は吸血鬼なんだな」
パアッと明るくなるシーナ。
「そうじゃ! レア種族なのじゃ、驚きじゃろ!」
「吸血鬼は血液を摂取しないと衝動を抑えられないのか?」
「摂取? 現存する吸血鬼は昔から人族らとの交配で血が薄まって、純血種ほど血は必要とはせんぞ。なんじゃい、ワッチがゴトーの血を求める思うとったんか?」
「身に迫る危険はできるだけ排除し遠ざける。それが俺の信条だからな」
「心配すな。ワッチの好みは同族の雄で、欲する血は若い娘子じゃ。言うておくが血も恋愛対象もゴトーはワッチの範囲外じゃぞ」
「俺も実年齢が高くても幼体には1ミリも興味は示さない。ボンキュッボンのグラマラスな女性でなければ反応することはない」
「何の反応じゃい……」
「吸血行為では眷属を作り出すのか?」
「大昔はそんなこともあったらしいが、直接摂取しても隷属にはならんぞい」
「日光は平気なのか?」
「……日光?」
「吸血鬼の弱点は銀の十字架、聖水、ニンニク。日光にさらされれば灰になると言われている」
「なんじゃそりゃ? 別に弱みもないし灰になるとは初めて聞くぞ」
「心臓に銀の杭を打たれれば死ぬ」
「杭に打たれりゃ誰でも死ぬじゃろが」
「再生力や不死性が高いと聞く」
「そこまで凄くはないのじゃが確かに亜族、獣族は人族と比べて優れた特性を持つ者もおる。特出しておるのは「覚醒」した一部の者だけじゃが」
――キングを倒せるこの幼女は水準が高いということになるのか・・・。
「のうのう、チキュウの吸血鬼の特殊能力はどんなものがあるんじゃ?」
「地球に吸血鬼はいない。伝承はあるがそれは人間が作り上げた架空な存在だ」
「チキュウには吸血鬼はおらん!?」
「亜人種も妖精、獣人、他も存在などしない」
「おいおい、それはまた信じられんのう……ん? おい、「ぺっこら」がおるじゃろうが」
「バーチャル ○ouTuberだからな。種族にはカウントされない。俺個人、同志のリスナーたちはカウントをしているんだが」
「………?」
「それと人間には魔法、スキル、特殊能力の類もない。今の俺は神からの恩威で魔力を授かってるだけ。現状と比べれば地球での生活は力も各能力もなく弱く脆い存在だ」
「……なにもかも衝撃的な事実なのじゃ。今のゴトーの強さは神からの恩威ゆえなんか……」
「そういうことだ。
冒険者ギルドはこの世界に存在するのか?」
「あるぞ」
「そこに行けば現在の魔王の情報を仕入れることができるんだな」
「ワッチらパーティはしばらく秘境に籠っとったからな。最新情報があるならギルドや情報屋から聞けるじゃろ」
――異世界と言ったら冒険者ギルドは鉄板。ギルド嬢はかなりの確率でケモ耳尻尾の獣人とみていいだろう。
「受付嬢の種族は?」
「……人族じゃが、質問の意図が分からんぞ」
「獣人が受付嬢ではないのか?」
「……おらんこともなかろうが、普通は人族じゃ」
「そうか・・・」
「全体的に、獣族はそこまで多くはないんじゃが」
「そうか・・・」
「冒険者になる為の試験や資格は?」
「試験はないが、資格を得る為には一度大きな街の教会で「天命石」に検さんとな。LVが提示され30を超えておったらギルドで手続きの流れじゃ」
「俺のステータスが晒らされるわけか」
「天命石では名やスキル、ギフトまでは分からん。LVと種族までじゃ。それでもLVが教会やギルド側に知られるわけじゃがな。高ランクじゃと貴族に目を付けられ専属冒険者、兵士のスカウトが寄ってくることもある。
ゴトーの立場からすると、やめた方がええじゃろうな」
「冒険者になるメリット、デメリットは?」
「冒険者カードさえ持っておれば各領地の入税料免除。特定の宿、武器防具屋の割引、他にも特典も多いし登録は必須じゃ。
しかし有事の際の戦争や魔物のスタンピードなどは招集や強制徴用されるがの。金があれば徴用も避けられ、ワッチは金を支払っておる。
ゴトーはさすがに悪目立ちするで、登録はせん方向でいくんか?」
「俺はどこの組織にも属すつもりはない」
「それがええ。ワッチも別の意味で目立たんよう街では髪や眼の色を「擬装」スキルで変え、状況に応じて認識阻害もかけるでの」
「その姿では危険か?」
「これでもワッチは知名度が有るからの。大抵な奴らなら牽制してくれるが、この名を利用しようとしたり、顔を知らん人攫いやら幼児愛好者が集ってくるで、煩わしく変装してるだけじゃ」
「容姿がいいというのも困りものだな」
「お、ゴトーもワッチを可憐思うんか?」
「ああ、地球でなら子役で覇権を獲れるレベル。かなりの人気を博すことになるだろう」
「……人気?」
「俺が地球に帰還したら、これからの冒険で撮るであろう動画を○ouTubeにアップする」
「………?」
「動画には必然的にお前が多く映る。そのため著作権の許可を貰いたい」
「いや、何言っとるか全然意味分からんのじゃが。
ちょいちょい「ゆーちゅぶ」言う言葉が出てくるの」
「亜人、金髪赤眼幼女は映える」
「ばえる……?」
「俺は複数の○ouTubeチャンネルを持っている」
「ちゃんねる?」
「どれも登録数1000は越えてないがな」
「……?」
「一番多くて、「コドクなグルメ」というチャンネルだ」
「コドクの、グルメ?」
「「の」ではない。「な」だ!」
<ビクッ!>
「「コドクな」だ。これを間違えるとコメント欄が荒れてしまう」
「お、おう……」
「このチャンネルの、!」
ステータス・データ画面に、
自動的にスキル「敵探知」の文字が現れる。
シーナも険しい表情になり、
「なんか、大物が来るのう……」
――[探知]
◇
『探知』
〔右斜め方向41メートル ゴブリン・キング 近接〕
【名前】なし
【性別】雄
【年齢】3
【種族】魔物 ゴブリン・キング(成体)
【ジョブ】なし
【LV】62
【HP】624/624
【MP】0/0
【攻撃力】598
【防御力】472
【魔力】0
【魔法属性】なし
【スキル】なし
【ギフト】なし
【称号】なし
【状態】正常
◇
「ゴブリン・キングだ」
「は?」
「こちらに向かってくる」
「何匹おるんじゃ。やはり魔王は復活しとるようじゃの……」
――
10 吸血鬼 終わり
11 LV上限突破
――
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