第9話 シーナの回想 

3刻前(1刻2時間)

カスピス西地帯、岩山の麓。

岩盤地帯には巨大なゴブリン・ジェネラル。ゴブリン・ロード。百体以上のゴブリン種の死骸が転がり、所々に金属の鎧の遺体が横たわっている。


雷鳴が鳴り響き、閃光が辺りを包む。

3メートル強の巨体、頭に角が2本の醜悪な顔面のゴブリン・キングに高威力の電撃魔法が襲う。


左腕を骨折、脚に負傷を負ったシーナ。

その後ろに皮鎧を纏った斥候の若い男性レーデル。


雷魔法を受け、四つん這いでもがき喚くゴブリン・キング。


「や、やったんじゃないのか!」


「浅い、アレを喰らっても事切れんかい……」


シーナは諦めたように地面に座り込む。


「魔量も薬も尽きたわ」


「あの強烈な雷魔法でも効かないのか……。

シーナ、ドラゴン・スレイヤーだろう!奥の手は!?」


「もうないわ。余剰あるならも少し闘えるんじゃが、いかんせん前哨戦のゴブリン共が多過ぎたわ」


『ウオ゛ォォ―――ゥ!!!』


ゴブリン・キングが膝と手をつきながら雄叫びを上げる。

絶叫の声に鼓膜が悲鳴を上げる。


「こんなの倒せるわけがない……」


「連携が余計じゃったわ、キングとロードが和協するとは、そんな頭はないはずなんじゃが……」


「上位種、まさか魔王復活の前触れ?」


「湧いてくる数も異常、そうなんかもしれんのう」


「なんにせよ終わった……。上位種の足からは逃がれらない」


「短い人生じゃったわ」


「シーナはオレの3倍は生きただだろう! オレはまだ20だ」


「人族と長命種の年月の進み方は、違うようにみえて感覚はそれほどかけ離れていない言うておるじゃろうが」


「なあ! でもあと少しで倒せるんじゃないか!?」


ダメージを負っているゴブリン・キングの姿。


「それでも、半分、3分の1ぐらいは気力余力が残ってそうじゃが」


「3分の1……」


レーデルは迷いながらポケットを弄る。


「まだ残ってるんか? まあ飲んだところで期待はできんが」


「これは、俺用の取っておきだ」


緑色の液体、赤色の液体の小瓶を差し出す。


「ええのか?」


「出し惜しみしてる場合じゃない、こっちも危ういんだ!

命以外なんでもくれてやる! 過剰摂取でも少しは取り戻せるだろう」


「前払いもなしに、守銭奴のお前さんがのう。

飲み過ぎてもう効かんが、良くて4、50か。まあ有り難くいただくわ」


赤色の瓶の蓋を開け飲む。


「腹がタプタプじゃ」


ステータスを確認。

【【ステータス・ボード】】

【名前】シーナ・アルフレッタ

【性別】女

【年齢】68

【種族】亜人 (ヴァンパイア)

【ジョブ】魔術師


【LV】55

【HP】082/552

【MP】109/652


【攻撃力】98

【防御力】257(物理強化 魔法耐性ローブ+325)

【魔力】652

   ・

   ・ 


「ほう、上級な代物じゃな。金貨2枚はしたじゃろ?」


「どうだ!?」


「最後にどでかいのを。それでも倒せるかは請け合いはできん」


「………」


「まださっき撃った「迅雷」が堪えておるの。炎と雷の混合プラス雷剣か……。3コンボは得意じゃないがけっこう削れるんじゃないんか? 

まあ牽制にはなるじゃろ、レーデルよ、時間は稼ぐでその間にお前さん、逃げ、あれ……?」


振り向くとレーデルは、森の中へ全力疾走していく。


「気持ちは分からんでもないが、そりゃないじゃろ。最後の決め台詞くらい聞けや……」


キングは立ち上がり、怒りを撒き散らす雄叫び、咆哮。


「こんなガリガリの身体より、あっちのが喰いでがあるぞい」


ゴブリン・キングはシーナに狙いを定め、ゆっくりと近づいてくる。


「まあ、そうなるわな……」


収納袋から大剣を取り出す。

天に掲げ、亜人語の呪文を唱える。

「[‐zー«jー‣⁅»⁻-<‣/₋∸‐ÿÿ⧺ⅷ-⁰⁸²⁻¹⁰⁹/-₄₀y-ℱ⋯«;⁻⁻]」


剣の先端から青い炎が帯状に出現。

[‐zー«jー‣⁅»‣‣ー・⊡⊡-∓ℋ・…»»‣、Ⅎ*zL]

炎は徐々に渦巻き状に変形。


雷を纏った閃光鋭く尖った業火が四方八方に別れ、迫るキングの胴体の腹を中心に、腕、脚、顔面、喉元を切り裂く。


赤黒い血、贓物が辺りに飛び散り、巨体は黒く焼け焦げ、前のめりに傾き転倒。

[»;∔\‣] [ℳ⁻αð∹p]


サンダー剣がゆっくりと宙に浮き、キング目掛けて勢いよく刃先が脳天を突き刺す。

息絶えゴブリン・キングは絶命する。


シーナは完全に力尽き脱力。大の字に横たわる。


「やったわ……」


緑の瓶の回復薬を飲む。

左腕の骨折、脚の負傷が癒えていく。


「これも最高級なええ薬じゃな。逃げたんはいただけんが、この薬も負い目があって渡したんじゃろな」


――

【【ステータス・ボード】】

【LV】56

【HP】041/582

【MP】004/662

――


「2年LVが上がらんかったんが、ひとつ上がっとるわ。

魔量の残りが4。この秘境から抜けるんは、前途多難かもじゃの」


立ち上がり、ゴブリン・キングを眺める。


「角も魔石も……いただく気力がないの……」



グラディウス・パーティの4人の遺体を地面に埋め、その上に4つの石を置く。


「短い付き合いじゃったが、サレイ、一緒に呑む酒は美味だったぞい。

トング、けっきょく賭け事では、勝ち逃げされてしまったのう。

人懐っこいラーシャ。パッシャンの街で屋台巡りできんかった……。

エルフのラレモーラ、お前さんとはソリが合わんかったが、時間が過ぎれば分かりあえたんかのう……」


シーナは目を閉じ、膝をつき祈る。


「サレイ、トング、ラーシャ、ラレモーレの霊魂たちよ。

天宙の「神の白い部屋へ」と登り、約束の地へと出立せよ……」


★★


「そうして少ない魔量を「炎槍」や「氷柱」でやり過ごし、彷徨うてるところでお主に出会ったんよ」


――エルフか・・・惜しいな・・・。


「出会ったんが良識あるゴトーでえかったわ。オマケに転移人とはの」


「お前を置き去りにして逃げ出した奴は、この森を抜け出せるほどの度量はあるのか?」


「元は商人の息子いうて、頭も回るし優秀な斥候じゃった。ジェネラルやキング・クラスにさえ出会わなければ、逃げ切って無事街にまで辿り着けるじゃろ。アヤツは要領だけはいいでな」


「生死を賭けた仲間を置いて逃げる行為は、納得がいかないな」


「別に庇うわけじゃないが戦闘職じゃなし、無属性に偏った非力な奴じゃからな。

裏切り行為なら憤慨するが、逃げ去るくらいなら許容範囲。薬のおかげで生き延びたし、街で再会したんなら酒を奢って笑い話しを語ってやるわ」


「そんなものか・・・」


「グラディウスの斥候はホントは別の奴じゃが怪我を負って療養中でな。ワッチと同じ一時参加で4、5回くらい組んでおったのか。金にがめつかったが仕事は一流。捜索、索敵、目利きが優れておってパーティからも重宝され信頼も得ておった。

大量のゴブリン共も一番に感知し、逃げを選択していたんじゃが、ワッチや古参のメンバーは10、20の魔物など敵じゃないと果敢に攻め込んだのが運の尽きじゃったわ。


で、どうじゃ? 復活した残り少ない魔量もさっきの結界防御で心許ないし、助けるおもうて護衛してくれんか?

ギルドを通さない依頼になるんじゃが、報酬は危険度に応じた3日分の正規な額、金貨3枚ほど出そう思うとる」


――依頼か・・・。

この幼女から情報を引き出せるなら無料でもいいのだが、確かに金は今後の行動には必須となるだろう。


「ダメなんか?」


「金貨3枚、貨幣価値や相場を教えてくれ」


「金貨で3枚、銀貨なら30枚分。そうじゃのう、30日ちょっとランクが上の宿で、朝飯付きといったところかの」


「依頼を受けよう」


「おー、そうか。それとゴトーはこの世界に不慣れのようじゃから何でも聞くがよい、何でも教えてやるぞい」


腰に手をやるドヤ顔のシーナ。


「こう見えてもワッチは人族とは違い長命種の年上じゃからのう。

「松かさより年かさ」なのじゃ」


「情報はこちらから願い乞おうと思っていた。街への道も助かる。世話になる」


「何と言ってもこの世界や人生を知り尽くした大先輩じゃからの。

「カッメ (亀)の甲より年の劫じゃ」」


★★


森中を歩く2人。

先頭は藪、草木をかき分け下半身前に葉っぱを付けたゴトー。

その後方を歩くシーナ。


後ろからは必然的にプリプリとしたゴトーの尻が目に映る。


――上着を貸して、羽織らせた方がええんかのう?

んー、さすがにワッチの一張羅に股間が擦り合うのには抵抗が……。

ここは我慢して尻を拝むしかないのう……。


背中、腕、脚の何ヵ所もの古傷。

――コヤツから漂う雰囲気、隙を出さん姿勢、相当やるぞい。傷など闘いや拷問の後にしか見えんわ。チキュウではケンジュウを持った歴戦の戦士いうところか。


慎重に前方を突き進む無表情の横顔。

――まあまあの男前じゃのう、ちと不愛想じゃが。雄としては惹かれ魅力的かもしれんが、関係や子種が欲しいかと言われれば……。ワッチは同族しか興味がないからの。


ゴトーが停止して突然こちらを振り向く。


「ど、どうしたん? 魔物が出たんか!?」


ゴトーは真剣な表情で前に付けている葉っぱを手で剝ぎ取る。


「お?」


真顔で股間のブツを手に添える。


――コ、コヤツ、可憐でキュートなワッチに欲情したんか!?


――そりゃ元の大人の姿なら、1回くらい相手してやれんこともないんじゃが……。

確かに呪いで幼子になりご無沙汰じゃが、この幼体になってからは性欲が湧かんのじゃ……。


――どうしてもと言うならギリなんとか……いやダメじゃダメじゃ。絵面が性犯罪のそれじゃ……。


「ゴ、ゴトーよ、さすがに青空プレイはマズイわ」


シーナの元へ徐々に近づいてくる。


「それ以前にほれ、この通り見た目、幼児体型じゃし、倫理的にも、な?」


通常の2倍に膨れたブツを手に添え、真顔で迫るゴトー。


――完全に欲情しとる! い、いや、まさか可憐でキュートで愛らしいワッチに恋をしてしまったんか!? (////)


「ゴ、ゴトーよ、慌てるでない! ヤルとしてもこう順番とか、雰囲気が大事じゃぞい。ジェントルマンたる者、食事に誘って、酒場で女子おなごを口説いて酔わせにゃ」


目前に迫りくるゴトーの股間。


「それならワッチもムードに押し負け、一夜のお遊びとしてワンチャン可能性もあるかもしれんし、」


ゴトーは赤く腫れたブツを見せ、


「葉脈がチクチクして腫れて痛いんだが」


「我慢せいっ!!!」


――

9 シーナの回想 終わり

10 吸血鬼

――

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