第8話 妖精
「○ラゾーマ」を唱えると、勢いよく炎が手の平から噴き出る。
密閉した周囲の樹木、周りの草木に火が燃え移る。
「やめやめーい! 森が焼け焦げる!」
勢いよく枝や葉に燃え盛り、火の粉が飛んでくる。
「熱っ! 早う消さんかい!あちっ!」
――[水、ウォーター]
手の平から水がダラダラと流れ出す。
「全然足りんわ! でっかいイメージせんかい!」
消防車を思い浮かべる。
――「[消防車 ポンプ ホース 放水]」
激流の水が手の平から噴出。
燃え上がる樹木、辺り一面の炎を消し止める。
「おいおいおい、炎も水もかなりの威力じゃぞい……」
――魔法は心像、空想、見聞によって反映するということか。
「なんか、お主、コワイわ……」
――しかし「○ラゾーマ」でこの威力・・・。
「○ラバースト」や「○ラガイアー」ならどのぐらいの火力が?
「いや、すまんかった。これはワッチにも急かした責任があるわ」
「問題ない。助言は助かる」
広範囲に草木が焼け焦がれた跡。
鎮火の後で煙がくすぶっている。
「派手にやってしもうたな。これはさすがにマズイかもしれんぞ」
「ああ。あやうく大惨事になるところだった」
「惨事もじゃが、マズいんは森の妖精じゃ。アヤツはテリトリーの中の木や枝1本折っただけで怒りまくるいう噂でのう」
「妖精?」
「ここの領地やカスピス秘境が縄張りらしい。急いでこの場から逃げんと。ほれ、見つからんうち早う立ち去るぞい」
<パタパタパター>
羽がはためく音。
「ゴラァー!どこのどいつだー!アタイの森を焼いたクソヤローは!!」
手の平サイズ、美形の妖精少年が空から舞ってくる。
――フェアリー、だと・・・!?
羽根をパタつかせフワフワと宙に浮く妖精が、怒り心頭でシーナに詰め寄る。
「お前か! このクソヴァンパイアーが!」
「ワ、ワッチじゃない、が、すまん」
こめかみに青筋が浮く妖精はゴトーを睨む。
「このトウヘンボクか! アタイの森の大切な木々を!」
ゴトーは頷くと、ワナワナと怒り震える妖精。
「この被害は許せるかっ!」
「お、おい、妖精よ、ちょい落ち着かんか!」
妖精は両手を上げ、小さい声で精霊言語の呪文を唱える。
辺り一面、頭上に黒い雷雲。
「い、いかん、妖精族の雷は!ゴトー逃げい!」
雷鳴が鳴り響く。
シーナは亜人語で「結界防御」の詠唱。
周りに青白い光が出現しそれに包まれる。
ゴトーの頭上に黒い雷雲。
雷光。轟音とともに強烈な稲妻が頭に直撃。
落雷が大地を揺るがす。
結界防御の中のシーナは驚愕し、
「なんちゅう強烈な雷じゃ!これではゴトーは……」
辺り一面に土埃が立ち込め、それが徐々に晴れる。
<プスプスプスプス>
頭髪からは煙が立ち込めスーツと衣服が焼け焦げ、
全裸のまま人王立ちのゴトー。
「アレを喰らって、無事とな……」
シーナは結界防御を解き、全裸のゴトーの元へと駆け寄る。
「ゴトー! 生きとるか!?」
「・・・少し痛むが、問題ない」
妖精は立ち尽くすゴトーに、
「えーー!?どうして死なない? なんなんだコイツ?」
「人族が妖精の雷によう耐えれたのう、信じられんわ……」
ゴトーは頭をポンポンと叩くと煙が収まる。
「いや、すまんかった。魔量が足りんてワッチの分しか結界は広めんかったわ……」
「問題ない」
鍛えられた肉体美。体中に傷が多数。
「体中に傷が!」
「これは古傷だ」
「古傷? 戦士の体みたいじゃわ」
ゴトーは全裸で屈伸、手足を伸ばす。
――身体に異常は・・・ないな。
「スキルの「自動防御」か。服にまで防御は掛からんかったらしいの」
「えー? なんでなんで? コイツなんで平気なんだよー?」
「災難だったのう」
「何事も実地経験だ。己の力量、限界を知らなければこの先この世界で生き抜いてはいけないだろう」
「前向きじゃのう、ゴトーは」
「おい!無視すんな! なんなんだオマエらは!」
シーナに問い詰める妖精。
「妖精よ、コヤツは転移人じゃ」
「……転移人?」
「そうじゃ」
「また転移人か! コイツら碌なことしないな!前にも森を焼きやがって!」
「ん? それは70年前の勇者のことなんか?」
「そうだ! 黒い魔族と闘ってた。あの時は広い範囲で森を焼かれたんだぞ!」
「黒い魔族……ネクロマンサーかのう?」
「ネクロマンサーとは死霊使いのことか?」
「魔王軍10柱の1人じゃ」
――ここで、魔王の隷属の情報か。
「ネクロは呪いで森でも街でも侵食させるいう、」
「おい!無視するな! あの時は元に戻すまで何十年も掛かったんだぞ!」
「その被害はワッチら関係ないぞい。それにその勇者のおかげで呪いの森にされんで良かった思わな。焼かれた言うても復興できたんじゃろ? 呪われたんならそれもできんかった思うぞ。
まあ、ワッチらや勇者に感謝せな」
「………」
「じゃあ、そろそろこの場所からお暇するでな」
「おい! お前らがやった、これはどうしてくれる!?」
焼け焦げた樹木。
「なにがワッチらや勇者に、だ! オマエら70年前と関係ないだろう?」
<チッ>
「あ! 今、舌打ちしたな!」
「妖精よ、見て分からんか?」
「……なにがだ?」
「死霊使いが現れたんじゃ……」
「嘘つけーーー!」
ギャーギャー喚き散らす妖精。
「埒、開かんのう」
「この嘘つきヴァンパイアめ!」
「ゴトーよ。森に被害を与えたんじゃ。この場を収めるために悪いがちょこっと謝ってくれんか」
「ああ、この被害の詫びは当然だ」
全裸で妖精に迫り、頭を下げる。
「悪気はなかった」
全裸のゴトーに怯えおののく。
「のう、許してくれんか?
魔法に慣れんくて燃やすつもりはなかったんじゃ。悪気はないぞい」
「クッ…!」
「ほれ、飴ちゃんやるで機嫌直せや」
「いるか、ボケー! いいか、もうやるなよ、燃やすなよ! 絶対燃やすなよ!」
「それはフリか?」
「フリなわけあるかボケー!死ねーー! ブキミだからもういいわ!さっさとこの地から去れいっ!クソボケどもー!!!」
妖精は上空へと急上昇、あっという間に姿が見えなくなる。
「大事にならんくてよかったわ。しかしアレをまともに喰らって無事とはホントに人族なんか?」
「人族だ」
「ゴトーなら何が襲って来ても、平気なような気がするのう……」
「・・・・・」
全裸で陰部を露出したままのゴトーに、
「おい、替えの服はないんか?」
ゴトーは自前のキャリーバッグのファスナーを開ける。
――
『弾丸』
『銃専用ミニ工具』
『サバイバルナイフ』
『バタフライナイフ』
『水筒』(○カチューの絵柄)
『ペットボトル』水500ml
『ライト』
『単眼鏡』
『煙草』1カートン
『ライター』
『ポケットテッシュ』
『ウエットティッシュ』
『消毒アルコール』
『ノートPC』
『タブレット』
『スマホ』仕事用
『充電モバイルバッテリー』
『スマホ用 手回し充電器 ラジオ付き』
『ソーラー・モバイルバッテリー』
『携帯ゲーム機』
『ゲームソフト』(複数)
『チョコレート』(お徳用ひと袋)
『犬ちゅ~る』
『猫ちゅ~る』
『○ま クマ 熊 ベアー』大判小説5冊
――
中の私物には布物はなし。
「服も覆う物もないな。だが問題はない」
「問題アリアリじゃろうが、レディの前でフルチンは」
「・・・レディ?」
ゴトーは辺りを見回す。
「どこにも見当たらないが」
「コヤツは……。女児の前ならなおさらに質が悪いわ。役人に捕えられる事案じゃろが。葉っぱかなんかで隠さんかい」
ゴトーは長い蔦と大きな葉っぱを合せて腰に巻く。
「滑稽じゃが、それでええじゃろ」
ゴトーは全裸( 葉っぱ付き)で今後の行動方針を考える。
――あの神からは予想を上回る人外な力、若さを貰った。地球での全盛期どころではないな。
ステータスのスキルギフトは後に確認。
あとはこの秘境からの脱出か・・・。
「のう、ゴトーよ」
「何だ」
「さっきの結界防御でワッチの魔量がまた空っぽ近くになったのじゃ。余力無しではこの森はちょっと辛くての。街まで護衛を頼まれてくれんか」
「・・・・・」
「ワッチらパーティはこのカスピス秘境を探索しておったんじゃが、魔物や「ゴブリン・キング」にやられて殲滅しての」
――魔物、ゴブリンか。実に興味深い話だ。
「俺はこの世界の初心者。モンスターの実情を把握する為、今後の方針や対策の為に、その話の全容を聞かせてもらえれば助かる」
「……ええじゃろ」
――新たな獣人の話が出てくることを期待。
ウェルカム、モフモフ&ケモ耳尻尾。
「ワッチらはカスピス秘境に棲息する「10
「グラディウス」いう冒険者パーティとしばらくの間探索を行っておったんじゃ」
――異世界ワード全開だな。これは期待。
「そこへ魔物の集団が大挙し押し寄せてきてな。下級ゴブリンなどは普段ならものともせんのじゃが大量のモブゴブリン、レッサーゴブリンに囲まれ、それを指揮するジェネラル・ゴブリンも迫ってきおった。
それでも皆で始末をしたんじゃが最後にロード・ゴブリン、ゴブリン・キングが現れおっての……」
――
8 妖精
9 シーナの回想
――
――
次回
ゴトーがテラウスに降り立つ前の、
シーナVSゴブリン・キングとの闘い。
――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます