第5話 交渉

後藤はゴンダラフに銃口を向ける。


「私には銃による攻撃は無効と理解しているはずです。

玉の無駄遣い、そんな物騒な物はお収めてください。

ですが、神である私に躊躇なく殺意を向ける姿勢、驚嘆に値します。さすがの、」


「御託はいい、早く地球へ戻してもらおう」


「……死が恐くないんですか?」


「答える必要はない。この世界がどうなろうと俺には関係も関心もない」


「自らの理念で行動するのは理解しますが、魔王討伐を果たさなければ貴方は消滅するんですよ」


「俺に関与も介入もするな。言ったはずだ、戻せと」


「生より、死を選択しますか……。頑固というか、これが貴方の信念なのですね。残念ですがこれは覆そうにもありませんね。できるだけ強制執行は避けたいのですが……」


「強制執行?」


「分かりました、それでは私から提案をいたします。

先ほど述べた魔王討伐後の褒美の件ですが、先行という形で提示いたしましょう。

そして貴方のルールに従うということでどうですか? 

要請ではなく仕事の依頼という形では?」


「・・・・・」


「依頼には対価が発生します。これは魔王討伐の褒美の中のひとつなのですが、討伐後地球での「肉体の若さ」の提供。これを報酬とすることでいかがでしょうか?

何十年も身体を酷使して限界を感じていたはず。老体に鞭を打ち裏世界で暗躍していても老いには打ち勝つことができません。それ故仔猫を救っても事故は避けられなかった。


魔王討伐を受諾することでテラウス限定で「若さ」「身体強化」「魔力」の恩威恩寵を授ける手はずなっております。

そして無事討伐を完遂したのなら、その若さを維持したまま地球に帰還させることを約束いたしましょう。

なかなかの取り引きと思いますが。クリア後の地球での若返り、第2の人生は」


「話にならないな。自然の摂理や常識はどうなる」


「そんなもの、天宙の神の白い部屋に来た時点、再構築した体、神との対話。

貴方の中の常識が破綻しているのではないですか?」


「・・・・・」


後藤は懐から煙草を取り出し口に咥える。


「どうぞ、ゆっくりと熟考してください」


「今も俺の思考を読んでいるのか?」


「思考を読み込むなど無粋なことはいたしません。そこは重視しますよ」


「・・・・・」


ライターで火を点け、肺に煙を送り込み紫煙を吐く。


――根拠のない非現実的な異世界。

創作物にある異世界転移冒険物。

目的はオーソドックスな魔王討伐。


――どの程度のステータスかは不明だが、身体能力の向上、魔力、少なくとも異世界スタートとしては悪くはない条件。

そして「若さ」という魅力的な報酬・・・。


「質問だが」


「はい、どうぞ」


「どういう世界観だ?」


「後藤さんが読む物語にあるような中世の文明。種族も様々。剣や魔法が飛び交う幻想世界です。

しかし楽な攻略は期待しないでください。魔王討伐以前に魔獣魔物が跋扈する過酷な世界。強敵や権力に翻弄され、長く困難な旅となることでしょう。苦境、苦難もあるでしょうが、己の実力で乗り越えてもらいます」


「死亡したらどうなる?」


「地球にも戻れず人生終了となります。ゲームのようなセーブや某作品のようなリスタートはありません」


――リスクは相応というわけか・・・。


「チート能力はあるのか?」


「重要どころを抑えてきますね。スキルも様々、チート能力は祝福ギフトですね。先代勇者はスキルが250。ギフトは32個所有していました。後藤さんは体力値も能力値も高く、それ以上の数を所有することでしょう。

そういえばLVに驚いて、他のステータス、スキル、ギフトの確認をしていませんでしたね」


ゴンダラフは確認の為、杖を向ける。


「それ以上、俺を視るのはよしてもらおう」


「これは確認ですから」


銃口を向ける。


「これ以上の攻撃は勘弁ですよ……。

まあ、後藤さんはLVがカンスト状態ですから、歴代以上は確実とは思いますが」


「俺が今ここで確認することはできるのか?」


「ステータスの活用は討伐を受け、テラウスに降り立ってからになります。


他の注意事項ですが、神が認めた転移人の勇者でもこの世界の人々までが受け入れるとは限りません。

この世界、国同士で争いを続けているなか、各国にはそれぞれ自国の勇者が存在します。国の威厳、尊厳からお互い他国の勇者を容認しません。特に転移人は異端と扱われる存在となります。

国の傀儡のお抱え勇者。教団が祀り上げた勇者。偽の勇者が横行し、歴代転移人は訳も分からず国から迫害され、時には利用され、命を狙われ、相当の苦難を強いられてきました。慎重に行動することをお勧めいたします。


イレギュラーで日がズレてしまいましたが仲間となる「賢者」と「聖者」も6日後に召喚されます。2人と共闘することによって、魔王攻略も捗るというものです。

その他にもこの世界で信頼する仲間を見つけるもよし、万全を期し冒険を、魔王討伐に臨んでください」


「・・・・・」


「これはオマケ情報です。この降り立つ大陸では「真龍神教」という教団が実在します。その団体は私たち「神龍教」と一切繋がりも関連性はありません。

教祖と崇められている人物は人類を支配する妄想に囚われ、自らの欲望や欲心を満たす為に神の名を騙り、神を利用した売名行為を行っております。現在は衰退し昔ほど活発ではないようですが、非常に危険な存在。一応心に留めておいてください」


「世界観は概ね理解した」


――ラノベ2000冊、ウェブ小説3000作品を読破した俺に異世界での死角はないな。


――見返りが肉体の若さ。現状劣った身体にこれ以上のない魅力的な報酬。荒唐無稽な異世界転移だが・・・。


「この世界の魔王討伐に依頼を完了。

地球に戻ったら身体の若返り。

事故前。

本当にそれは可能なのか?」


「可能です。前賢者も時を変え帰還した前例もあります」


「最後の質問だ。この世界に「ケモ耳」「モフモフ尻尾」の獣人は存在するのか?」


「存在します」


「依頼を引き受けよう」


「受けてくれますか! 魔王討伐を!」


「その言葉が偽りでなければな」


「偽りはありません。では報酬は「若返り」でいいんですね?」


「それでいい」


「有難うございます! やはり気持ちよく了承してくれるのは嬉しいものです。理不尽な現状にごねられ、へそを曲げられても強制ですから。

私も過去のデータを拝見していますが、歴代方たちの時は大変でした。これも時代ですね、異世界転移に免疫がある人と、ない人とは、」


「その話は長くなるのか?」


「貴方は全ての情報を引き出し精査するような人間と思っていましたが。思わぬところで今後の攻略のヒントが出ないとも限りませんよ?」


「オレはRPGでの攻略サイトは見ない派だ。自分の足で歩き、耳で聞き、行動をする。無駄話はいい、要点だけ伝えろ」


「分かりました。ここで6日間過ごし、残りの賢者と聖者を待つ事もできますが、どうなされますか?」


「今すぐ出発だ」


「後藤さんならそう決断すると思っていました。異世界物を愛読しているのなら問題なく事を進めるでしょう。


慣例として「始まりの試練」から冒険が出立いたします。ゲームで例えるならチュートリアルにあたりますね。

ただいまテラウスに降り立つのなら難易度7の「カスピス秘境」、「金髪幼女」の「亜人」との出会いから始まります」


「亜人・・・?」


「この出会いは、ゲンダラフ神龍様が選定済みで、かなり博識で優秀な人物のようです。

初めての慣れない土地、地球とは異なる世界。そこで神からの配慮として導き手となりうる人物を設定、出会うようにさせているのです。


当初の予定では勇者、賢者、聖者と3人で難易度3の「驚異の森」から、その亜人の方との出会いで始まるのですが、6日の前倒しのせいで場所がズレてしまいました。

現在その亜人は難易度の高いカスピス秘境奥地に居るようなので、必然的にそこからのスタートとなるようです」


「亜人ではなく、「モフモフ獣人コース」はないのか?」


「残念ながらありません」


「・・・・・」


「その亜人は貴方が転移人と知りません。巻き込む形になりますが、仲間に加え情報を引き出すもよし、接触が不要なら避けるもありです」


「了解した」


「テラウスへ降り立つ時点での年齢は、何歳を希望ですか?」


「・・・全盛期、ピークは28歳だ」


「了承しました。始まりの試練は「カスピス秘境」の中奥。

後藤さんの心の準備が整い次第、テラウスへと導きたいと思います」


「いつでもいい」


「それでは後藤十三さん、目を瞑ってください」


ゴンダラフを睨む後藤。


「あの、睨まないで、目を……」


「俺は敵からは目を背けるつもりはない」


「……敵じゃないですよ、私、神ですよ」


「神であろうが何者であろうが、俺は隙を見せることはない」


「目を閉じないと転移時、頭痛や脳の麻痺、意識の停滞を引き起こすのですが」


目を開けたままの状態を維持。


「プロフェショナル過ぎでしょう、後藤さん……。

分かりました分かりました。目を開けたままの行為、後悔しないでくださいよ。

では、神託と依頼を携わります」


ゴンダラフは目を瞑り、杖を上下左右に振り杖先を頭に当てる。


「地球からの召喚者、勇者なる者に選定されし者よ。

9代目神龍ゲンダラフ様代行、10代目神龍予定ゴンダラフから神託を行い、

後藤十三に魔王討伐を依頼いたします。創造主からの恩寵―…」


「…・・・・--―――――


★★


「―――--・・・・…


「―おい、おーい、どうしたん?」


「!」


不安げに見つめる金髪幼女に咄嗟に銃口を向ける。


「うおっ!! なにするんじゃい!? お主はワッチの敵なんか!?あ゛あっ!」


――そうか、ここは異世界。


「やるなら相手なるぞい! お゛ぅー!」


怒りの形相、手の平を向ける金髪幼女シーナ。


――異世界生活「モフモフ尻尾」生活の始まり、か・・・。


――

5 交渉 終わり

6 ステータス

――

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