第3話 召喚

街の大通り。

スーツ姿でキャリーバッグを背負う老齢の男性。

車が往来する大通りに路地裏から子猫が飛び出し、乗用車が迫る。


男は俊敏な動作で道路へと飛び込み、子猫の首を捕らえ対向車線へと転がり込む。

パニックになった子猫は手を引っ掻き、男の手から逃れ反対側の歩道へと走り去る。


子猫の後ろ姿に安堵していると、真横から大型トラックが迫る。


「!」 衝突。

衝撃から視界が暗転。

暗転から一転、眩いばかりの光が包み込み白い空間へと。

その中心に立つ頭に龍の冠、杖を持った白色のローブの青年。


「わっ!ビックリした!」


突如現れた老齢の男に青年は驚く。


「あれ?……今日、「召喚」の日?」


「・・・・・」


「この場に現れたということは、まぎれもなく「転移人」ですね」


杖を男に向け、左手を空中にかざし指をスライドする。


「名は後藤十三ごとうじゅうぞう

転移人の地球人、ですね。

トラックに轢かれた?

な! 何ですか!? このLVのカンストの状態は!? 

これもうスーパー・○イヤ人でしょう?」


「・・・・・」


「これはもう、歴代最高クラスでは……。

あ、失礼しました。私このたび召喚の担当になりました「10代目神龍」予定の「ゴンダラフ」と申す者です。まだ仮で代理ですが、れっきとした神です。

えっと、少々お待ちになってくださいね」


「・・・・・」


青年は懐から平たく透明な物体を取りだし、画面をスクロールさせる。


「―お疲れ様です、「ゲンダラフ神龍」様。

―あのですね、召喚で勇者のお方がお見えになりましたようで……。

―どうやら事故で早まって転移された模様で、

―……ええ、はい多分。……はい、召喚は昔から安定しませんからね。

―過去の歴代召喚者の映像、データは拝見しております。

―マニュアルを確認。適切な処置をして「テラウス星」に送り込めばいいんですね。

大丈夫です、分かっております。はい……はい……失礼いたします」


「・・・・・」


「すみません、もう少しだけお待ちになってくださいね」


ゴンダラフは目の前の空間を手でスワイプさせる。


「えーと、転移人、召喚マニュアル……と。

召喚者の誤召喚。自殺未遂での誤召喚。同じ遺伝子の過失での召喚。

この項目ではなく、事故関連は……。


4代前に、馬脚に蹴られ重傷、意識不明の状態のまま想定日より10日ほど繰り上がり、霊体だけの誤召喚。

フムフム、今回のこの一例と酷似していますね。


後藤十三さんはトラック事故により、予定の6日ほど繰り上げで召喚されたということですね。一応、想定内ではありますね」


ゴンダラフは1人で納得し、背を正し満面の笑みで男に向かい、


「地球から召喚されしm、」

<ズキューン!>

「モアッ!」


「後藤」は懐から銃を抜き、青年の肩を撃つ。


「あ゛ーー、痛てててて……」


「ここは? お前は何者だ?」


「急に撃つとは、吃驚です……」


「質問に答えろ」


「落ち着いてください、いま事情を説明いたしますから。取りあえず口上を」


「・・・・・」


ゴンダラフは小声でブツブツと、

「いや、さすがにいきなりはないでしょう、ありえないって、[%gℛⓦ]」


言語不明の言葉を唱えると、

肩の傷が癒え、弾痕跡のローブが修復、付着した血痕が消え去る。


「・・・・・」


ゴンダラフは背を正し、


「地球から召喚されし者よ、心して耳を傾けてください。

ここは宇宙の中心「神の白い部屋」。

そして私は、10代目龍神予定のゴンダラフ神。敬っ、」

<ズキューン! >

「デキュバ!」


眉間を目掛け発射。

急所の命中にゴンダラフはその場にずうずくまる。


「痛てぇぇぇ……うそうそ、ええーー!」


「俺に信仰する神はいない」


「ストップストップ! それ痛いですから! 今から状況説明いたしますから!」


「どうしてお前は死なない」


「私が神で、不老だからです! 

話を進めますのでとりあえず落ち着いてお聞きください! 

撃たないでくださいよ、絶対、撃たないでくださいよ!」


「それはフリか?」


「フリなわけないでしょう!

私が神でなければ死んでますよ!!」


「・・・・・」


必死な形相で叫び、先ほどと同じ言語を唱え傷を癒す。

大きなため息を吐き、真剣な表情で言葉を発する。


「9代目神龍ゲンダラフ様が不在で、現神の代理として今回の召喚担当者になりましたゴンダラフです。


突然の転移召喚、貴方の疑念や懸念は心得ております。順を追って説明いたします。話の途中、理不尽と思われるかもしれませんが、貴方の不利には働かないとお約束をいたします。「」。はい重要!」


警戒のゴンダラフ。


「・・・・・」


「貴方の現状、記憶を辿らせてもらいますね」


ゴンダラフは額に手を当て杖を振る。


「現在の状況は……。

地球での後藤十三さんはトラック事故により頭部と数十か所の全身骨折。脳挫傷、外傷性くも膜下出血。脾臓、すい臓損傷などの内臓破裂。即死クラスですね。これでもまだ生きているとは驚嘆する生命力です。

現場は騒然。まもなく救急車で病院に運ばれ処置を施されるようですが、この重態では心肺停止は時間の問題、直に亡くなると予想されますね、」


<ズキューン! ズキューン!>

「ギャッ! グエッ!」


床を転げ回り悶絶するゴンダラフ。

「お゛お゛おうううぅぅー」


「事故に遭ったのは覚えている。

だが、この場の俺の存在は? 意味不明だ。説明しろ」


ゴンダラフの眉間と心臓の位置に銃痕。

傷口から血をダラダラと流しながら起き上がり、


「だから説明すると言ってるでしょうが! 

話進みませんでしょう、これから本題に入るんですよ!

いちいち私を撃たないと話ができないんですか、貴方は!!」


「・・・・・」


――

3 召喚 終わり

4 魔王討伐

――

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