第24話 「アルケイド迷宮」

 アルケイド迷宮。

 かつてここはアントソルジャーと呼ばれる、蟻の魔物の住処だった。

 アントソルジャーは好戦的な魔物で、近隣の森に棲む魔物や獣王国の民を襲って食料としていた。

 獣王国は定期的にアントソルジャーを狩っていたが、その数に際限がなく、ほとほと困り果てていた。

 そこで地上に出てこられないよう、

 巣穴を塞ぎ、念には念を入れ結界まで施した。

 おかげで被害はなくなり、獣王国の平和は保たれた――かと思われた。

 

 しかしある日、結界を破り地上に出てきた魔物がいた。

 そいつはアントソルジャーではなく、嚙んだ生物を石化させる能力を持つ、バジリスクだった。

 獣王国が巣穴を調査したところ、中にいたアントソルジャーは全滅しており、多種多様の魔物が跋扈していた。

 とある学者はこの事態に関し、巣穴を塞いだことで中の魔力濃度が濃くなり、強い魔物が生まれたのではないか、と考察した。

 それ以降、入り口は解放し、魔物が溢れ返ることがないよう、定期的に魔物討伐が行われるようになった。


 これが現在のアルケイド迷宮の実態である。

 そんな迷宮に、今日私たちは潜ることになった。

 目標はガーゴイルと云われる石の魔物を狩ること。

 最近数が増えすぎている為、ギルドの依頼が出されていたのだ。

 

 今日までに装備から食料、隊列や作戦に至るまで、しっかり準備を整えてきた。

 あとは迷宮に潜るのみとなっている。

 

 

 私たちは迷宮の入り口前で、装備の最終チェックをしている。

 ちなみに装備に関してだが、個人の戦闘スタイルに反映されているため、あまり統一感はない。


 エドガーとウルディはスピードを殺さないために、レザーアーマーを着用。

 武器はエドガーが両手直剣のブロードソード。

 ウルディも両手直剣ではあるが、幅の広いグラディウスを装備した。

 

 ゴーリーはスピードよりパワーを重視するため、攻撃されてもある程度防いでくれる、プレートメイルと呼ばれる鉄の鎧を着ている。

 武器はグレートアクスという大斧だ。

 

 メイプルは防具が“楓の外套”というオレンジ色のマントで、武器は短弓ショートボウである。

 マントの方は、なんでも魔導具らしい。

 魔力を通すと体が軽くなり、足が速くなったり、ジャンプ力が上がるらしい。

 

 そしてマントの下は、いつも通り露出度の高い服を着ている。

 一度、なんでそんな恰好してるのか訊いたことがあるが、「猫人族ケットシーは暑がりニャのニャ~」と言っていた。

 しかし他の猫人族ケットシーは薄手の格好をしているものの、あそこまで谷間をさらけ出していなかった。

 実に謎である。

 


「さて、迷宮に入る前に、これを渡しておく」


 迷宮に入る直前、

 エドガーが銀色に光る指輪を、全員に配った。

 よく見ると、中央に小さな宝石のようなものがついている。


「これは“導きの指輪”と呼ばれる魔導具だ。

 好きな色を思い浮かべながら、指輪に魔力を通してみてくれ」


 言われた通りやってみる。

 すると中央の宝石が赤い色に輝き出した。

 他の人も同様に、宝石が光っている。


「とまあ、こんな感じで魔力を通すと宝石に色がつく。

 そして詠唱を唱えると、こうなる」


『我が黒き星よ。赤き星の居場所を指し示したまえ』


 エドガーがそう唱えると、指輪の黒い輝きが一筋の線となり、私の指輪へと向けられた。


「このように。特定の指輪の場所を教えてくれる魔導具だ。

 万が一、迷宮内ではぐれたりしたらこれで見つけられるというわけだな。

 今のうちに全員の色を把握しておいてくれ」


 シンプルな効果だが、こと迷宮に関しては役立ちそうな道具だった。

 各々の指輪の色は以下の通りだ。


 エドガー  【黒色】

 ウルディ  【青色】

 メイプル  【オレンジ色】

 ゴーリー  【黄色】

 リーフィン 【緑色】

 ルーナ   【赤色】


 全員が把握したのを確認してから、ウルディが補足した。


 「ただし、もしはぐれたとしても、そこからできるだけ動くな。

 勝手に動いて、魔物の集団と出くわしたりしたら、本当に死ぬからな。

 そこは肝に銘じておけ」


 威圧するような口調に、メイプルがごくりと喉を鳴らした。

 自分がやられる様を想像したのかもしれない。

 だが、一人寂しく、誰の助けも得られずに死んだりしたら最悪だ。


 わずかにテンションが下がる『ツインナイト』一向。

 その空気をぶち壊したのはエドガーだ。


「ウルの言うことは最もだが、

 まあ、考えすぎないようにな!

 死なないで帰ってこれたら御の字だ!

 楽しむくらいの余裕を持って挑んでいこう!」


 そう言ってウルディの肩を叩き、ニカッと笑った。

 ウルディが額を抑える。


「隊長がそんなゆるくてどうすんだ全く……」


「まあヤバかったら俺たちがサポートすればいい。

 それで問題ないだろ?」


 エドガーの言葉に、ウルディはため息をつく。


「変に緊張して固くなるよりはマシか……」


 「そういうこと! さ、みんな気軽に行こうか!」


 エドガーの号令で、私たちはアルケイド迷宮へと足を踏み入れた。

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