第2話 突如訪れたイベント(トラブル?)


 今日の日程の授業がすべて終わり、教室を出た達仁と彰は、同じように帰宅しようとしてい生徒達の人混みの中で会話をしていた。


「タツはまた図書館に寄って帰るのか?」


「一応そのつもりだ。そろそろ高校の範囲の勉強の総復習に入ろうかと思ってな」


「いや僕達高校一年生……」


 周辺で部活がだるいだとか放課後どこに行こうなどの、とても高校生らしい会話が聞こえる中でもいつもの調子を崩さない達仁に彰は呆れの視線を向ける。

 彰かしてみれば達仁の方がずっと変な奴に見えるのであろう。理想の高校生を体現する達仁は今更だろというような目を向けて彰に言葉を返す。


「ずっと一緒に居るんだから今更そんな目を向けんじゃねぇよ。それで、彰は部活なんだろ?」


「そうだな。今日はシャトルランをしなきゃならないから憂鬱なんだよな~」


「お前十分過ぎる程に体力あるだろ」


「タツにだけは言われたくねぇよ!」


 それは一理ある。……というか何で人が進まないんだ?


 廊下の人混みのせいで立ち止まりながら話をしていた2人だが、一向に人が進まないことに気がついた。


「…………進まないな……」


「あーそりゃきっと公開告白してるからだと思うぞ」


「は?」


 ……………………なんだって?


 高校生にもなってそんなキザな告白をする奴が居るのかと驚きに目を見開いた達仁。

 彰に向かって「本当か?」というような旨の視線を向けて、返ってきた目は「本当だ」と言っているようなものだった。


「朝から噂にはなってたんだぞ。2年のサッカー部のイケメン野郎が葉桜瑞月に告白するって、自分の教室から大声で叫んでたこと」


「そいつキャラ濃すぎるだろ……。というかマジで気づかなかったな……、それ何時ぐらい?」


「1限目の授業が始まる5分前」


 勇者過ぎるだろう……。なんでこう……俺からしたら理解ができないことを陽キャはやってのけるんだ……。


「そのイケメン野郎はそのクラスの隣で授業をしようとしていた生徒指導の教師にしょっぴかれたらしいぞ。ざまぁねぇな。クックックック」


 さっきからこいつイケメン野郎とか言ってるがお前も十分イケメンだろ。

 男が羨むような理想的なボディに葉桜と同じとまでは言わないがそれでも人の視線を惹き付ける整った顔立ち。運動能力はたぶんこの学校でトップ3に入るレベルだろうし、成績も良いときた。俺から見たら残念なイケメンだが、他から見たら常識のある爽やかなイケメン。

 たぶんそのサッカー部よりもモテてるぞお前。

 口に出しては言わんけど。

 あとその気味の悪い笑みを今すぐやめろ。


「てことで~面白そうだから見に行こ~!」


「あっ、ちょっと待て」


 生徒が多くいるからかなり小さい声でそう言った彰はそのまま人混みを分けて告白が行われているであろう玄関の方まで進んでいった。

 少し面白いかもと思った達仁も彰の通った道筋を同じように進み、彰を追いかけるのであった。


 ◇


 告白の場所は正面玄関を出たすぐ、生徒が校門から入り玄関に向かうときに必ず通る道のど真ん中で行われていた。その場には主役のサッカー部の先輩Aと、この学校の女神こと葉桜瑞月がいて、その2人を少し離れた位置から見守る野次馬100名近く。校舎の方から遠目で見ている生徒もいるようで、恐らくこの告白劇を見ている人は150人はいるだろう。


「お~~やってるやってる~」


 とても楽しそうな様子で2人を見る彰。その目には野次馬根性が限界突破したような光があり、その目を見た達仁は呆れの目を一切隠さずに、最早他の有象無象と変わらない野次馬と化した幼馴染みを見つめていた。


「何だよその目」


「別に。野次馬と化した幼馴染みを呆れた目で見つめてなんかいない」


「呆れてるじゃん」


「呆れてない」


「えぇ……」


 達仁の視線に気が付いた彰は何故その様な視線をするのかと尋ねるが、明らかに呆れた様子に雰囲気を困惑一色にする。


「そんなに呆れることか?タツは僕の事をどれだけ聖人だと思ってるんだよ」


「呆れてない」


「もういいよ……」


 変わらない達仁の言葉に何を言っても無駄だと理解した彰は再度主役二人に視線を移す。

 そして今、絶賛サッカー部Aが愛の言葉を並べている途中だった。

 その様子に、彰の事を呆れた眼差しで見ていた達仁もそちらに視線を移す。

 視線の先には真剣な表情で愛の言葉を受け止める女神のような容姿をした少女。相変わらずの無表情ではあるが、その表情の中には相手の言葉を真剣に受け止めようとする感情が混じっていて、その様子が更に彼女の存在を引き立てていた。


「~な所が僕の心に響き、キミを好きになったんだ。良ければ、僕とお付き合いをしていただけないかい?」


 何気に重要な部分を聞き逃してしまったことに少し残念に思う達仁。

 達仁にとっては、あくまで面白そうだから見にきただけで一番笑える部分を聞き逃してしまって既に興味を無くしてしまう。

 だが、あの葉桜瑞月がどんな返答をするのか気になったので一応最後まで聞いておく。


「ごめんなさい、、私、今は誰ともお付き合いをするつもりがなくて……だから貴方とはお付き合いはできません」


 済まなそうな雰囲気と口調で葉桜瑞月はそういった気が無いことを伝えると、サッカー部Aは残念そうな雰囲気を醸し出すも思いの外、大人しく引き下がった。


「………そうか……。ありがとう、僕の告白を受け止めてくれて……。ほら、此処にいたら気まずいだろう。僕のことはいいから、早くお帰り……」


「は、はい。失礼します、、」


 …………思ったよりもいいやつ?


 いや、紳士だな。実際にあの先輩を見たことはないが、想像していたよりもずっと良い人だった……。

 心なしか隣で見ている奴も、見る目が180度変わって尊敬の眼差しを向けている気がするんだが……。


 2人が想像していた先輩とは印象が全然違っており、度肝を抜かれた二人だった。

 この2人は無礼にも、噂話(顔)だけで気に食わないような反応をしていたが、遠目からやり取りを見ているだけでもジェントルマンな態度をするサッカー部Aにはとても驚いていた。


 瑞月はサッカー部Aに挨拶をした後姿勢よく立ち去っていった。尚、告白相手が立ち去ると同時にガチ泣きをし始める姿に2人は胸を打たれるのであった。

 

 ◇


 サッカー部のイケメン先輩の告白劇は瑞月がその場から立ち去り、泣き崩れ、周囲にいた野次馬に慰められることで結末となった。

 尚、彰はイケメン先輩が泣き崩れると同時に先輩のもとへ駆け寄り、我先にとイケメン先輩を励ましていた。

 正直、さっきまでイケメン野郎と呼称していた幼馴染みが「先輩は男の中の男です!よっ、イケメン先輩!」と励ますという態度の反転にイライラしてしまった。

 長くなりそうだったのでそのまま先に帰るとメッセージを送った達仁は、予定どおり図書館に行って勉強していた。

 あまり気分が乗らなかったので2時間ぐらい勉強してから帰ろうと考えていたのだが、思ったよりも集中してしまい3時間の間机にかじりついてしまった。


「はー、やっちまった~。こんなに勉強する予定じゃなかったのに……」


 まだ9月の初旬とはいえ、既に辺りは真っ暗。未だに夏の残滓が残っておりキリギリスの鳴き声が外から漏れている中で、夜ご飯どうしようかな、と頭を抱えて悩む達仁はさぞ滑稽に見えただろう。


「まぁ……食べなくてもいいか…。はぁ、取り敢えず帰ろう…」


 溜め息をつくほどに考えた結果、なにも食べなくても死なねぇか、という結論に至り、そのまま図書館を出て駅までの道を歩く。

 若干曇り空の今日は梅雨でもない癖して蒸し暑く、とても嫌な天気だった。道を歩いていると生暖かい風が肌を擦り、ほんの少しの不快感を達仁に感じさせる。


「嫌な気候だな……。は~、頭が重い…」


 今日はため息が多いな。気候的に、あの時と酷似しているからか…?

 気分が悪い…。早く帰ろう。


 早く帰るために足を少し早めた達仁は、蛍光灯に照らされる街並みを進む。 

 会社帰りのサラリーマンや塾帰りの学生などがちらほらいるこの道は騒がしくも楽しい雰囲気があり、通っていて心を無心にしてくれる道であった。

 綺麗に整備された道路には車が多く通り、周辺にある居酒屋やレストランなどの飲食店では楽しそうな音楽や笑い声が聞こえてきて、とても落ち着くのである。

 達仁にとってうるさいのはあまり好きではないが、こういう耳朶じだに浅く触れる楽しそうな音や声は好きな部類のものになっていた。

 さっきの達仁を包んでいた重々しい雰囲気は鳴りを潜め、心を落ち着かせていた。


 そんな街並みを数分進むと、心が凪いだ状態になり達仁の雰囲気は最早安心感のようなものが漂った感触がする。


 しかし、突如として落ち着きを伴った空間を破ったのは複数人の怒号と悲鳴であった。





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