第4話 目覚め

……………………ハッ…

―急激に意識が覚醒する―

あたりを見渡すと月明かりが差し込んでいる。

あの後、部屋に戻った俺は、ヘレナに強制的に寝かしつけられたんだったんだ……

それで、こんな真夜中に目が覚めたのだろう。

二度寝するには目が冴えすぎて、失敗することは想像につく。


「夜風にでもあたるか……」


初夏に差し掛かるといえども、夜はやはり冷える。

いそいそと長袖を着込んだ俺は、庭に出て夜空を見上げる……。

庭は静寂に包まれおり、私を咎めるものはいない。


―俺もイシュタルも死んでしまったんだな―


死を実感したからこそ分かる……

イシュタルは死んだと。


この身体はいわば亡霊のようなものだ……なぜ生きているかも分からないし、何のために、俺の意識はこの身体に宿っているのかが分からない……


葵はどうなったのだろうか……

俺は何をなすべきなのか……


そんな時、ふとクリスタの顔が浮かぶ。


―俺はやり直しの機会をもらったのではないか―


そんな荒唐無稽な仮説が脳裏を駆け巡る。

……馬鹿な話だ……そんな都合のいい話があるわけがない

百人中百人が何を莫迦ばかなことを言っているんだと思うだろう。


けど…………

俺はこうしてここに生きている。

後悔ばかりの人生だった……。何度もやり直したいと思っていた……

殴られてばかりのクソみたいな人生だったけど………


「今世こそはっ…………」


とめどなく涙が溢れてくる。泣かないと決めていたはずなのに、涙が止まらない


「じゆうにいぎてやるっ…………」


―そう心に誓った―



……………………。

いつの間にか涙は枯れていた。

前世の自分と決別できた………と思う。


それに俺には新しい目標ができた。

前世では道半ばに終わってしまったが、今度こそは………

今度こそは誰からも縛られず自由に生きてやる………


そのためには、力、権力、金どれもが足りない。

それに早急にお金を集めなければならない………


何故ならばそう遠くないうちにクリスタは死ぬからだ。


これは疑惑でなく確信に近い。

魔力量が増えるにつれ、体調が悪くなり、やがて死ぬ……

クリスタとイシュタルの病状はほぼ一緒だ。

それにクリスタはイシュタルより魔力が多い………

あと一年、もつかもたないかだろう………


父に土下座して、かかりつけ医を呼んでもらうか………?

いや、俺は本館には入れない………

仮に侵入したとしてもつまみ出されるのが関の山だ。


門で父の馬車を待ち構えるか………?

門番の存在を考えるとそれも無理だろう………

俺が倒れた時でさえ、まともな医者を派遣してくれなかったことをかんがみるに、父の情を期待するというのは土台無理な話というものだ。


「やはり民間の医者を探すしかないな………」


この世界で健康保険などどいうものは存在しない。よって良い医者に見せるためには高額の治療費が必要だ。何とかしてお金を稼ぐ手段を考えねばならない……


…………ひょっとして魔法で稼げたりしないかな…………?




















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