第3話 桜井新の過去
主人公の前世「桜井新」の話です。好評であれば、前世の追加のエピソードも練っているので、ぜひ応援コメントお願いします。ちなみ後から出てくる「従祖母」は、
母方のいとこだそうです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
五歳の頃、両親が交通事故で亡くなった。
幼い頃の俺は、それがどういうことか分からなくて……
でも周りの大人が悲しそうな顔をしていたことを覚えている……
―そこからは激動の日々だった―
2歳の妹の
◇
「何やってんだ!このグズが!」
どうやらアイロンの仕上がりが気に入らなかったらしい。
「……申し訳ございません……」
「いったいッ 誰がッ お前みたいなッ グズをッ 養ってッ あげてるとッ 思ってるんだいッ」
あれから
俺にできることといえば、体を丸め、従祖母が殴り疲れるまで耐えることだ。
「はぁ……はぁ……あの女に……似て……気色の悪いガキだね……」
そう吐き捨て、従祖母は部屋を出ていった。今日も両親の遺産でブランド物を買いに行くのだろう……
さっきのアイロンだって、いつも通りの出来である。難癖を付け、殴ること自体が目的なのである。昔、母さんに金の無心をして、手ひどく断られたことを未だに根に持ってるらしい。その恨みを顔が似ている俺にぶつけているのだろう……
「お兄ちゃん大丈夫……?」
葵はこんな環境でも心優しい子に育ってくれたようだ……
「大丈夫だ……それより話しているところを従祖母に見られるほうがまずい」
幸い、従祖母の矛先は俺に向いている。
しかし、いつあいつの気が変わるかが分からない……
距離を取っておくに越したことはないだろう……
「でもっ……お兄ちゃんばっかり……」
「大丈夫、僕はお兄ちゃんだからね」
◇
あれから12年が経った。
俺は高校三年生になり、コツコツとしていた新聞配達のおかげで、家を出ても暮らしていける資金が貯まった。俺たちの事情を汲み取り、雇ってくれた比後さんには頭が上がらない。
「あとは
あの日以来、葵とは殆ど話していない。
葵が高校を卒業できるくらいの資金はある……が、葵は従祖母にいじめられていない。俺についてくるとなれば高校を転校しないといけないし、将来のお金の不安が付きまとう……それに殆ど話してこなかった俺に、はたしてついてきてくれるのだろうか……
「新くんは帰らないの?」
どうやら考えこんでいたうちに、ホームルームは終わっていたらしい。
「あぁ……今帰ろうと思っていたんだ」
容姿端麗、学業、スポーツともに優秀で、生徒会長まで務めている彼女は、まさに高嶺の花というやつだ。人望もあり友達が多い彼女が、こうやって俺に話しかけてくれるのは、いつも寝ていて浮いている俺を気遣ってのことだろう。完璧超人とは彼女のためにある言葉なのではないかと思ってしまう。
「よ、よか『……っと、もうこんな時間か。買い物に行かないと。じゃあね、佐々木さん。また明日』
「う、うん……またね~」
急がないとタイムセールが終わってしまう。これを逃すと殴られるのは確定だ。
「ま、間に合った……」
新聞配達で鍛えられた体力のおかげで、何とかお目当ての食材を買えた。これで殴られることはないだろう……いくら殴られ慣れているとはいえ、殴られないに越したことはない。
いつものようにそっと家の鍵を開ける。何故ならそっと開けないと殴られるからだ。
「………っ……て…………」
猛烈に嫌な予感がする……
玄関を見ると、従祖母に最近できた彼氏の靴がある……
「……めてっ………」
間違いないっ……葵の声だ
急いで階段を駆け上がる。一歩一歩が遅く感じる……
声がするのは……物置部屋からだ……っ
「葵!」
そこには予想通り、従祖母の彼氏がいた。ただしその姿は葵に覆いかぶさっている。その瞬間、今まで感じたことがないような怒りが湧き上がった……
「そこを……どけぇぇぇぇええ」
俺は無我夢中で突進していた。勢いだけの
何故ならば奴は……
「…………ってえな、このクソガキがっ……」
奴は……見てわかるように、体重100キロごえの巨漢だ。
普段なら絶対喧嘩を売らないような相手である。
しかし、やってしまったものは仕方ない……
「葵!逃げろっ………」
着衣の乱れはあるが、幸い、まだコトには至っていないようだ……
なんとしてでもこいつを食い止めないとッ……
「なめんなっ……クソガキがッ」
その瞬間、天地がひっくり返ったかのような衝撃をうけた。
目に火花が散り、意識がとびかける……
遅れて俺は殴られたのだと理解した。
そして壁にたたきつけられる……
「あっ…………」
それは誰からこぼれた声であったのだろうか……
朦朧とする意識の中、頭上から緩やかに茶器が落ちてくるのが見える……
あれはたしか、従祖母が見栄を張るために買ったが、手入れがめんどくさく、タンスの上でほこりをかぶっていたものだ……
そこで俺はぶつかったのが壁でなく、タンスであったことに気付く。
あぁ……俺は死ぬのだろう……
……葵は無事逃げれただろうか……
「あ……おい……」
そうして俺の意識は闇に沈んでいった……
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