第15話「聖女の情報」

「聖女にやられた?」

「うん。確かにそう言っていたよ。周りからも聖女さまに裏切られたって……」


 聖女がこれを? なんのために?


「ねぇ、タクト。嘘だよね? 聖女さまがこんな事をするはずないよね?」

「そんなの俺が聞きたい。……まさか聖女が魔王側に付いた?」

「ええ!?」


 今までに英雄が魔王側に付いた事は俺の経験上ない。

 でも、この世界は今までの世界と同じにはできないのも確かだ。


「なんで聖女さまが魔王の味方をするの! だって、魔王を倒すために聖女さまが選ばれたんだよ!」

「やりようは無くはない。世界の半分をやるとか、大切な人を人質にされて無理矢理やらされてるとか、洗脳の類のスキルを持っているとか」

「でも! それでも町の人みんな苦しんでるんだよ! どんな理由があっても、こんなこと絶対ダメだよ!」

「待て。少し考えている」


 もし聖女が寝返ったとすれば、事は最悪だ。

 しかし、本当にそんな事あり得るのか?

 とにかく結論を出すのはまだ早計に過ぎる。

 さっき言った通り、聖女がやったとしても本意ではなく、魔法で操られてるかもしれないし、人質を取られているのかもしれない。

 ならそれを解決できれば仲間にできるだろうし、他にも様々な可能性があるだろう。

 そもそも、エステルが持って帰ってきたこの情報が正しいとも限らない。


 まとめると、今の情報では、聖女に不安要素あり。

 これくらいに留めておいた方がいいだろう。


 今までによく失敗したじゃないか。一番最初に手に入った情報に踊らされて無駄に遠回りさせられたのことは。


「……情報が少ない。エステル。他にも色々聞いてこれるか?」

「え? うんっ! 任せて!」

「悪いけど、俺は……」

「タクトは街の中に入らないんだよね。もし私が木になっちゃってもタクトが助けられるように!」


 驚いた。

 慌てて街の中に突っ込んで、聖女の情報に混乱していたくせに、状況をちゃんと分かってくれている。




÷-÷



 エステルは情報収集に。俺は離れたところに休める場所を用意した。

 日が大分傾いてきた頃、エステルが門から出てきたのを迎える。


「どうだった?」

「うん。話によると街の人が木になり始めたのは5日前くらいのことみたい」

「5日か。かなり最近だな」


 一週間も経っていない。

 そのタイミングに出会さなくてよかった。

 しかし、〝木になり始めた〟という表現が気になる。

 全員が一気になったわけじゃないのか?


「聖女にやられたって話だったけど、徐々に木になる呪いだったのか?」

「それがね、少し前から奇病が流行り出したんだって。

 今までにない病でお医者さんもお手上げで、薬もなくて困っているところに聖女さまが訪れてくれて、お薬をくれたらしいの。

 そのお薬でそ蔓延していた病は瞬く間に治ったんだけど……」

「病は治ったが、木になったって事か」

「そうみたい」


 思っていたのとだいぶ違った。

 しかし、要領を得ないな。

 病が治ったなら本当に木になった原因が聖女から貰った薬なのかも分からないじゃないか。


「他に気になる事はあったか?」

「えっと」


 それからエステルは思い出すように集めてきた情報を話してくれた。

 その薬は無料で配られ、病に侵されていない人にも与えられたようだ。


 それが本当であれば、なんて慈悲深い聖女なのだろう。

 世界の存亡を賭けた戦時中に、戦場ですら、見たところ最前線すらない街に、更に言えば兵士ですら無い人々に貴重であろう薬を無償で配ったのだから。


 どうも胡散臭い。

 だが、病が流行って深刻な状況だったとすれば、街の人はそんな都合の良過ぎる話でもすがる他なかったのかもしれない。


 その聖女の情報だが。


「凄い美人で、胸が大きかったって」


 随分と男目線の情報だった。

 コピアの町との情報と合わせると、百年以上生きていて、美人で巨乳。

 つまり、長寿種族の女性。

 真っ先にエルフをイメージした。


「ちょっと! 今嬉しそうな顔した!」

「してねーよ」

「……タクトは胸は大きい方が好き?」


 そんな事を聞くものだから、自然とエステルの胸元に目線が流れていき、そのまま自然と目線を逸らした。


「別に興味ない」

「…………………………………………嘘つき」


 すかさず俺の中指がエステルのおでこを弾く。


「あイタっ!」

「くだらないところでユニークスキルを使うな」

「しょうがないじゃない! 勝手に聞こえちゃうんだから! タクトがエッチなのがいけないんでしょ! タクトのむっつひぃ!?」


 俺が再びデコピンを構えると、エステルは両手でこでこをガードして一歩下がった。

 まったく。厄介でならない。


「でもまぁ、今回ばかりはそのユニークスキルに助けられたな。何の情報もなしに聖女に会うことにならなくて助かった」

「本当? 私役に立った!?」

「まぁな」

「んふふふ」


 気持ち悪い笑いを浮かべるエステル。

 承認欲求が高いのもあるけど、今まで悪い方向にしか使われなかったユニークスキルが有用に使われて嬉しいのだろう。


「あ、そうそう! あとこんなのも見つけたの」


 ポッケからなにやら取り出すと、それは何らかの種のように見えた。


「なんだそれ」

「なんと、これがそのお薬だそうです!」


 どうですか、お手柄でしょう!

 と、褒め待ち体勢にはいるエステルにちょっとイラッとしたが、確かにお手柄なので文句は言わない。


「これが薬?」

「そう! ね、これも役に立つよね? ね?」


 そう言って、ポッケから何粒もの種を取り出す。

 アーモンド程度の大きさ。

 まるで拾ってきたドングリを親に見せるかのように。


 そして、

 エステルはそれらをおもむろに口元に持っていくと、一粒口に含んだ。


 

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