第22話

「いまは3割は離婚するって言うし、姉ももう離婚して別の人と再婚してる」

「むしろバツのほうがかっこいいって思う」

彼女は旦那の悪口を言いながら、そう言った。

初恋の彼女と会った結果は、予想外で、まず秋村はがっかりした。

まず彼女は、独身ではなく、結婚して子どももいた。

そこで秋村はがっかりしたのだが、ではなぜ既婚とはいえ、男女1対1ですぐに会ってくれて、これからも2人で会ってくれそうなのか?

邪推かもしれないが、彼女は姉に影響されやすい印象だったから、離婚と新しい乗り換え先を探しているのかもしれなかった。

そして過去に親身に相談に乗ってくれた中年女性の言葉が思い出された。


「秋山くんが本当にその女性を愛しているならば、いま復縁を無理強いすることは相手のことを考えていない行動です。人生は長いです。私は、本当に思っていた女性が、子連れで離婚してから、再婚して結ばれた男性を知っています。秋山くんが思っている彼女も、10年も20年も経ってから、また独り身になったりするかもしれません。そして彼女が必要としているときに、再度アプローチして一緒になれるなら、それは本当にその女性を愛しているということでしょう。そうでないのなら、秋山くんのその感情は愛ではなく執着ではないでしょうか。」

この考え方は、秋村にとって本当に馬鹿馬鹿しくて滑稽に思えた。

まさに女の生殖戦略に利する考え方で、男の生殖戦略とは反していた。

いざ再婚してみると私はもう子どもは欲しくない、今の子どもをしっかり育てたいとか言い出すのだろう。


その初恋の同級生は、賢い女性だったから、秋村にはまさにその女の生殖戦略を実行しているように思えた。

秋村は高校生のときに、ほかの同級生と付き合っているところを見せつけられて打ちのめされ、中年になってから今度は生殖戦略に利用されようとしていることに二度打ちのめされる気持ちになった。


その翌日、秋村は地方の実家へ帰った。実家で高校のときの日記を眺めて過去の思い出をなぞった。

「ええ、そんなのダメだよう」

高校のときの彼女はそのようなことを言いそうな印象だった。

しかし今の彼女が本当の彼女なのだろう。

いま秋村は彼女に女性として魅力を感じなかった。その「強い自立した女性」の価値観が秋村は合わなかった。


日記を眺めて、高校のときの秋村に、もう一人好きな女性がいたことを思い出した。

その女性も高校生のときに同級生と付き合っていて、それを見て秋村は打ちのめされていたのだった。

その女性はどちらかといえば「東アジア旧来の男性に依存する女性」だったが、その同級生と結婚していまは子どもが二人もいるようだった。


俺が高校のときに戻れるなら、教えてあげるのに、と秋村は思う。

生物の至上命題は生存と生殖であって、10代半ばでその生殖のテーマに直面するのは当たり前であって恥ずかしいことじゃない。

10代の男子が知らない盲点なのは、男の生殖戦略と女の生殖戦略は違うことだ。

女は若さが大きな価値で、常に売り手市場で、選べる立場だ。

男は容姿などで若いときからモテるタイプと、若いときはモテないが大人になってから経済力や社会的地位で勝負できるタイプに分かれる。後者と非モテの境界は曖昧だ。

さらに学校のような狭いコミュニティで恋愛をするのは、高度なテクニックが必要で、10代半ばでそのフィールドでやっていけるのはまさに前者の若いときからモテる奴らだ。

だから後者の若いとき非モテの秋山のような男は、10代のときは卑屈にならずに、経済力や社会的ステータスを身につける努力に全振りして、大人になってから勝負すればいいだけなのだ。

それでも非モテの10代でまだ社会的ステータスがないのに女が欲しければ、そもそも男の生殖戦略の常道は、まず格下を捕まえてキープしてから、格上を狙うことであって、最初から「初恋の相手」を狙って打ちのめされるなんて、愚かなプレイスタイルだ。

女は「量より質」だが男は「質より量」。


同級生の男で、それをしっかり理解しているような男もいた。

彼は高校のときは彼女はいなかったが、地道に勉強して医学部へ行き、医者になってから結婚していた。

秋村が、さらに彼が賢いと思ったのは、彼は医学部を受験するにあたって、必要以上の勉強はしていなかった。あくまで医学部へ行くことが目的であって、下手なプライドで難易度の高い大学へ行くことにこだわっていなかった。

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